6-30 メアと帰還者とコルト⑨ 荒野の漂流者①
赤い岩肌が剥き出しになった殺風景で広大な荒野と数日前に発生した地震によって倍以上の高さ(標高約四万メートル)に成長した赤い岩峰が地平線の彼方まで続く急勾配な岩山。
ガルネスト海のガルネス湾に半径二キロメートルの輪形陣を展開し停船していた連合国家フィリー解放軍の乗船組約九万人は岩山の麓に輪形陣の配置と全く同じ配置で船も武器も服も水も無く素っ裸で立っていた。
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一の月アジアルが昇り(メア時間の十七時)、アジアルが沈み二の月ドゥマーグが昇り、ドゥマーグが沈み三の月リーメヅが昇り、リーメヅが沈み四の月ヂィンヅが昇り、ヂィンヅが沈み五の月ビャヂガが昇り、ビャヂガが沈み六の月ズジランが昇り、ズジランが沈む(メア時間の十七時)。
メアの一日はアジアルに始まりズジランに終わる。
アジアルの青白い光に照らされる(薄暗い)時間がメアでは最も明るい時間だ。
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素っ裸で荒野に放り出された九万人近い乗船組。
乗船組は主に、海軍(各国の)に所属する兵士や彼等を支える軍属と、大抵の場合は邪魔にしかならない王族や貴族と、多くの場合で足手まといにしかならいそれなりに身分の高い聖職者や研究者で、構成されていた。
王族や貴族、聖職者の集まり、軍属や研究者も混ざってはいるが流石は腐っても軍隊。
他国、部下、上官や仲間の視線を意識し混乱しながらも冷静にエゴイズムとプライドを満たす。気丈に振る舞う様には敬意をもって脱帽だ。
彼等は瞬く間に体制を整えて行動を開始した。
報告と記録の都合上、最も明るい星が昇り最も暗い星が沈むまでを一日。(コルト出身の存在にとっては最も明るい時間も薄暗いを通りこして暗闇に近い)
視界不良の中、見慣れぬ荒野を声を掛け合い探索した。
星が一つだけの空と空に繋がる山と、名を知る魚や貝や虫や海藻が干乾び転がる荒野。
死にかけ死にたての水棲生物を狩り回収した。
労せずして大量に入手した水棲生物と家畜と軍用動物は貴重で計画的な管理が必要だ。彼等は、魚や貝や海藻や獣や魔獣や石や岩で食料(保存食)や腰蓑(衣類)や武器を確保した。
魔術(コルトの無、地水火風、聖邪光闇属性)で、水を確保し調理し簡易の陣を敷き、食料や衣類や武器を加工し保存し、敵の有無も知らずに自衛した。
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原因不明の魔力欠乏症で倒れる者が続出する中。
「魔術師隊の長として謝罪します」
「魔力欠乏症で倒れる者が続出していると報告を受けてはいたが、まさか三席殿まで、もう大丈夫なのかね?」
「此度は本当に申し訳なく思っています。まさか、この歳になって魔力欠乏症を拗らせ幼子の様に寝込むとは……恥ずかしい限りです」
「私は魔力欠乏症以外に原因があるのではないかと考えている。魔術を使わぬ一般兵にまで魔力欠乏症で倒れる者が出始めた。魔術を使わぬ者は勿論のこと、ましてや魔術に長けた三席殿まで倒れた訳だ。魔力欠乏症に酷似した伝染病の類ではないかと睨んでいる」
「伝染病ですか……」
「そうだ。まぁ混乱は避けたい。もう暫くは様子を見るつもりでいるが、状況が悪化するようなら上申するつもりだ。さて、病み上がりの三席殿には申し訳ないが遅れている敷設を終わらせてくれ」
貴重な時間をありがとうございました。




