6-29 白光の夜の真相を求めて⑧ 神頼みの後の神絡み②
chefアランギー様と俺はスタシオンエスティバルクリュの中空の離宮神宮殿に移動した。
「...... ~ ......腐っても神宮殿ですぞ、神であっても転位移動叶わず、他人から干渉や侵害を受けない権利は他人が他人を知る権利以上に尊び敬う、それが不文律であり理なのですぞぉ―――、はい」
「へぇ~、下界を好きな時に好きなだけ覗き見してるのに、神様同士はプライバシーが守られてるんですね」
「権利と義務、罪と罰、賞。下界の、取り分けコルトの理に私達神が侵害されるはずもなく」
「なんたって神様ですからね」
「その通りですぞぉ―――、はい」
まるで鏡のようにピカピカに磨かれた木の壁と床。天井は認識阻害されているのか良く分からない。
あ!? この木ってコルトでもメアでもプリフェストでもない何処か違う世界の木か。
【unknown】
創造神様からいただいた建物シリーズ。御見それ致しました。……フォルティーナから貰ったような気もするけど、たぶん気のせいだな。
「...... ~ ......ゲートは体としては別腹の設定ですなっ、パト、陛下は世界創造神様が御認めになられた家族ですのでまかり通ったまでのこと、神であっても難しいことなのですぞぉ―――、はい。因みですが、ここ神宮殿の応接室兼休憩室の出入りは神のみ自由です」
おっと、態々説明してくれていたのに聞いて無かったよ。
「そうなんですね。そう言えば、chefアランギー様の自宅も神宮殿にありましたよね?」
「ですので、ここに入ったのは初めてなのですぞぉ~、応接室の名を持つ部屋がここまで殺風景だったとはびっくり仰天ここは一つ銅製のフライパンで彩を演出するとしましょう」
≪パンパン
chefアランギー様のパルマセコの音が響くと、部屋の真ん中に綺麗に輝く美しいフライパンが現れた。
「うんうん。わびとさび……良い雰囲気になりましたなぁ―――、はい」
部屋の真ん中にフライパンが一つ。……すげぇーシュールだ。
・
・
・
「それにしても遅いですね」
「ここで待つようにと言われましたので待っていればそのうち来るとは思いますが、フォルティーナ様ですからなぁ~」
・・・
・・
・
フライパンしかない部屋でchefアランギー様の話を聞きながら小一時間程待っていると、木の壁に真っ白なドアが現れた。
入口?
「ドアの横に入口って書いてますが、これって何ですか?」
「ドアですな」
……見慣れてるんで、それは分かります。
「入った方が良いんですかね?」
「入口ですからな」
≪ガチャ
ドアノブを回すと掴んでいたはずのドアノブもドアもフライパンしかない部屋も消え、目の前にまた真っ白なドアが現れた。
「ドアですね」
「ドアですな」
「開けて良いんですよね?」
「ドアですからな」
≪ガチャ
ドアノブを回し潜り抜けた先は、エルドラドブランシュ宮殿三階の家族や俺専用のリビングルームと見間違う程にそっくりな部屋だった。
「え? えっと、ここって(家の)リビング?」
「来たかね。好きなところに座ると良いね」
高級ソファーから立ち上がり、俺達の方へと振り返り話し掛けて来たのは、フォルティーナだ。
「……フォルティーナ、ここって家のリビングですよね?」
「当然だね」
「……一時間以上も神宮殿で待たされたんですが」
「そうかね。そんなに経っていたかね。それはそうと話があるからまずは座ると良いね」
「……」
我慢だ。我慢しろ俺。こいつのレベルに落ちるな俺。
・・・
・・
・
自宅のリビングの俺専用の一人掛けソファーに腰掛け、フォルティーナの話を聞くこと三ラフン。
「レンタルしたワインバーンが一匹死んだから、状況次第で罰則規定に抵触するから、現場の調査をしてこいですか。……ふざけてませんよね?」
「ロイク、アタシは女神だね」
「そうですね」
「女神は嘘つかないね」
「……そういう時もたまにはあるんでしょうね」
「時にフォルティーナ様。どのようにして飛竜の生死を御知りになられたのですかな? レンタルということはですぞ、先日起きた失踪事件に巻き込まれたワイバーン、つまり何処かへ失踪中のはずですぞぉ―――、はい」
「アランギー、良いかね。アタシは最善を尽くす女神だね。貸したお金と物と相手は何があっても忘れないことにしてるね。このグラフを視るね」
≪パチン
フォルティーナのフィンガースナップの音が響くと、宙に棒グラフと折れ線グラフが現れた。
ハードレザー、七百三万六千NL。マッドチャップ、九百四十万三千NL。
「何ですかこれ?」
「これは金銭を貸し付けた日付でしょうか。また随分と沢山の者に貸し付けておられるようですなぁ~。ほうぉ~、一人で二億とは運の神殿もなかなかにあこ、あぁぁ―――、何事も程々にが肝心ですぞぉー」
≪パチン
「間違えたね。こっちだね」
フォルティーナのフィンガースナップの音が響くと、宙に展開していた二つのグラフが消え、ワイバーンのリアルな絵とステータスと貸付資料が現れた。
「それはクロージャに貸した百匹のワイバーンの情報だね。表を下にスクロールすると一匹だけ灰色になっていることが分かるね」
言われた通りに表をスクロールすると確かに一匹だけ薄い灰色に塗り潰されていた。
「なるほどなるほどなぁ~るほど」
「灰色は死亡で透明なのは生存ってことなんですか?」
「今朝気が付いた時にはお亡くなりになっていたね。過失によって死亡した場合はレンタル代金プラスレンタル代金の三倍の金額を請求することになってるね。そこでロイク、アタシは君の調査員としての腕を評価することにしたね」
何言ってんだこいつ。
「……へぇ~」
「アランギーは証人だね」
「……そのくらいのことでしたら幾らでもですぞぉ―――、はい」
「期日は一週間(十日)。それまでに必要な資料をまとめてアタシの前に持って来る。分かったかね。……さぁーお行きなさい」
「一つ」
≪パチン
若干イラッとしつつも、彼等と共に失踪したと思われるワイバーンの生死が分るこの状況に、ヒントが突破口があるかも知れないと考えた俺は、この表の仕組みをフォルティーナに確認しようと声を掛けた。が、声を掛けた瞬間、フィンガースナップの音がリビングに虚しく響き渡り、フォルティーナは何処かへ行ってしまった。
お行きなさい、って言っておいてそれはないでしょう……。
「行っちゃいましたね。結局のところ俺は何処に行けば良いんでしょうかね?」
「フォルティーナ様がクロージャにレンタルしたワイバーンが死んだところですなっ」
それは何処ですか?って話なんですよねぇ~。…………。
「執務室に戻ります」
この状況、どう考えても何も分からない。諦めて仕事部屋に戻ることにした。
「何事もコツコツが肝心ですぞぉ―――、コツコツと積み重ね豪快に薙ぎ払う♪ セッセッと積み重ね豪快に叩き潰す♪ いやはやいやはや爽快痛快この上ナシングですなぁ―――、それでは私も仕事の続きをば」
≪パンパン
chefアランギー様のパルマセコの音がリビングに虚しく響く。
「……」
俺の休憩時間がぁ………………。
貴重な時間をありがとうございます。