0-4 栗鼠と梟と精霊
2019年6月13日 修正
・本文冒頭のサブタイトル等を削除しました。
――― マルアスピー村
アンカー男爵領領軍詰所 ―――
「下がっておれ」
「・・・」
「何をしておる。邪魔じゃどけ。巻き込まれて死にたいのか?」
「栗鼠が喋ってる?」
「何を戯けた事を栗鼠が喋る訳なかろうが。小僧。痛みで意識がまだ朦朧としておるのじゃな。どれ」
栗鼠は、右手の平を上にし親指?で俺を指差した。【ベネディクシヨン】≫
≪パァッ
頭の中で小さな白い光を感じた気がした。
「儂は、簡単な生命力回復と傷口治癒しか出来んが、ないよりましじゃろう。しかし、面白い坊主じゃな。儂の魔力をここまで綺麗に受け止める事ができるとは・・・」
≪ザザッ フゥーッ
栗鼠の隙を付き、後から現れた魔獣が飛び掛る。
「何じゃ、せっかちな犬ころよ」
「グルグルグルグル」
≪トトトトトトトト ピョーン ヒョイヒョイ
星明かりのみという厳しい条件下だ。だが、それ以上に早過ぎて動きを目で追う事ができない。魔獣達は攻撃の手を緩める事なく体長15cm程の栗鼠に襲いかかる。栗鼠は魔獣達の攻撃を軽々と交わしているようにも見える。定かではない。何故なら、栗鼠のパンチやキックが体長8m以上の魔獣に触れる瞬間僅かに発せられる光だけが、この状況を映し出していたからだ。
「ちょこまかと動き回りおって、えぇ~い面倒じゃ。犬ころ2匹まとめて始末してくれるわ『【ポルケー※△□】』・・・」
栗鼠は、魔獣の1匹に手を翳した。
≪グキ
乾いた軽い音が微かに聞こえた。
「あ”っ・・・こ・し・が・・・」
え?ここで腰ですか?というか、突っ込みどころが多過ぎてどう反応していいのか分からない。
「ウゴォグググググ」
「ガルガルル」
魔獣達は、栗鼠を挟む態勢で身構えている。
「あぁ~ こ・しがぁ~」
栗鼠は、腰をくの字にの姿勢で付き出す様に地面に倒れ込んむ。
「ガルルル」
魔獣達は、顎が外れる位に大きく口を開け、その口を栗鼠に向けた。やばい、あれが来る。しかも今回はあんな物が2発同時だ。
≪フワ サッ
「小僧、何をしておる」
咄嗟だった。
俺は栗鼠を左手で摘まみ上げていた。痛っ・・・くない。あれ?左の肩が治ってる。いや、今は、それどころじゃないか。取り合えずどうしよう。右手と左手で包み込む様に栗鼠を持ったまでは良いが、何も考えていなかった。
「小僧も的になってしまう ぅ じゃろうが。早く ぅ~ 儂を降ろして、離れておれ」
「それがぁ~。後ろに居ろと言ってくれたのは嬉しいのですが」
「う ぅ ぅ~ 何じゃ!」
「はい、俺の身体が大き過ぎて」
「あ ぁ ぁ ・・・ 儂は気持ち ぅ 小さ目じゃからの ぉ~ 」
「あと、ずっと挟み撃ちの状況でしたので、後ろがどっちなのか」
「儂の後ろは、儂の後ろ ぅ」
≪グキュ
「あぅ じゃ ぁ ぁ ・・・」
「はぁ~、次からは気を付けます」
「グルルル」
「ガルルル グ」
≪グギャァ――――ン
≪グ ピィ――――ン
魔獣2匹よる咆哮が栗鼠と俺に...
―――※栗鼠視点※―――
≪ゴゴゴゴゴゴゴゴ ビキビキビキィ―――
2つの咆哮が人間と儂を中心に衝突した。儂には何て事ない攻撃じゃが、人間には無理じゃ。消滅しかけておる。ギックリ腰がこんな時になどと、子供染みた言い訳も言ってられんわ。
『ベネディクシヨン ベネディクシヨン ベネディクシヨン ベネディクシヨン ベネディクシヨン ベネディクシヨン』
この人間の聖属性に対する受動性にかけてみるしかないか。儂は邪念の咆哮を受け止めながら、儂を手の平に包み込む様に持った人間に魔力を注ぎ続けた。
≪グラグラグラ ガガガ
一ヶ所に邪属性が集中し過ぎたようじゃ。地面が波打ちだしておるわ。しかし、この犬ころ犬にしてはなかんか大きな魔力を持っとる様じゃが何者なんじゃ?言葉も話せぬ下等な存在が、これ程大きな力を持つとは考えられん。
≪カッ
闇光か、まずいな今の儂では内向きの爆発を抑えきれん。
『ベネディクシヨン ベネディクシヨン ベネディクシヨン ベネディクシヨン ベネディクシヨン ベネディクシヨン』
この人間も・・・この状況では持ちそうにない。だが弱い癖して生意気にも儂を護ろうとしてくれたしのぉ~・・・。この人間1人くらいなら一緒に大樹まで飛べるじゃろうが・・・この状況を、放ってはおけんし・・・
≪カッ カカ ゴゴゴゴゴ
邪念の咆哮の衝突で生じた、邪属性の濃度が中心に高まり始めた。
こりゃ~。いかんな
≪ヒラヒラヒラヒラ
梟の羽が、儂と人間の周りに舞い出した。
「何をしているのかしらビエール。遅いゆえ様子を見に来てみれば、たかが犬2匹相手に」
「ぅ ぅ ギックリ腰じゃ」
「あらそっ。人間の男なんかに抱えられて・・・女好きが、男好きに変わったのかと思ったわ」
「ぬかせ。 ぁ ぅ 儂から女好き ぃ~ を取ってしもうたら、何も残らん ぅ わ」
≪ゴゴゴゴゴゴ
邪属性の濃度は益々高まり、その中央には高密度の球体が形成され始めていた。
・
・
・
「ここは、危険よ・・・『エッドミューチュル』≫」
≪ピキィ――ン
儂の頭上を旋回しながら、嘴の先から人間目掛け短い光の線を飛ばした。
「犬にしては大きな力を扱う様ね。信仰の村が消滅して怒られるの私達よね?・・・私が犬ごと飲み込むわ。ビエールそこをどきなさい」
「この ぉぅ 人間ごとはいかんぞ」
「その人間は、身体が崩壊する極限状態であったゆえ、私が飲み込んでおいた。そこにあるのは形だけゆえ、気にする必要はない」
「それを、はや ぁ ぁ ぁ~ く ぅ 言わんか ぁ」
「あの高密度の球体が吸収しきれず、周りに漂よい暴走しかけた余剰な力までは手が回りそうにない。私でも全てをのみ込むには時間がなさ過ぎる。私が球体と犬を飲み込む瞬間に合わせて、お主は私も一緒に聖域まで飛んでくれ」
「最小限に ぃ 頼むぞ ぉ~」
「では、飲み込むぞ!」
≪シュ―――ゥ ゴクン
≪シュルルル(パッ パッ 2つ同時)
魔獣と邪の高密度な球体は飲み込まれた。儂はタイミングを合わせ【転移】を発動させ大樹の森の聖域まで飛んだ。この日、信仰の村から幾つか建物が消滅したそうじゃ。大規模爆発から村が救われたのだ。大樹への信仰が揺らぐ事はなかろう。
―――※3人の会話のみ※―――
――― 謎の場所
「お前が、この人間を吸い込んだのじゃ。お前が責任を持って最後まで診るのが当然じゃろう」
「当然と言うのであれば、ビエールお主こそ、この男に鞍替えしたのだろう?最後まで診ると良いではないか」
「何を言うか、お前が精域まで入れたのじゃろう」
「私は、大樹の聖域の【並行空間】にこの人間を一次的に入れはしたが、精域にまで入れた覚えはない」
「現におるじゃろうが」
≪キー パタン
「貴方達、病人の前で騒がしいですよ。生きているんですから助けるのは当然でしょう」
「それは当然じゃ。精域におるのが問題じゃ」
「私を見るな。まるで私のせいのようではないか」
「お前が精域に入れたのじゃろうが」
「大樹の森の聖域の精霊樹の精域って、人間には入る事ができないはずなのだけれど。私が運ぶ様に言ったから入れたのかしらね?」
「お主がへまをしなければ、私が飲み込む事もなかったであろうが」
「ギックリ腰の辛さも分からん者がぬかせ」
≪パン パンッ
「はいはい、この辺りで終わりにしましょうねぇ~」
「ですが、マルアスピー様。噛歯類が、」
「噛歯類言うな。たかだか猛禽類の分際で」
「なっ?何と・・・私を下等な猛禽類と一緒に扱うとは、私は鳥族3聖獣の1人ぞ。お主覚悟はできているであろうな」
「それを言うなら、儂とて聖獣じゃ。お前よりも偉い1聖獣じゃわ」
「はい、はい。鼠でも鳥でも何でも良いではありませんか。細かい事を気にし過ぎですよ」
「マルアスピー様。細か事と仰いますが、大雑把過ぎませんか?鳥ってあんまりです」
「いやいや、鳥は鳥であろう。間違えようの無い現実じゃ。寧ろ鼠と栗鼠は・・・もうひと踏ん張り頑張っていただいて、せめて栗鼠と言っていただきたかったですな」
「お主、卑怯だぞ」
「なんじゃと、そもそも栗鼠でも無い儂が、せめて栗鼠でも良いと妥協しておるのに、なんと言う言い草じゃ」
「・・・・・・聖栗鼠獣も聖梟獣も部屋から出て行きなさい」
「お前のせいで怒られてしまったではないか。いつか焼き鳥にして喰ってやるわ」
「お主はいつも私のせいにして、喰ってやろうか・・・齧歯類は大好物ゆえな」
「・・・は・や・く、出て行きなさい・・・」
―――※視点少しだけマルアスピー※―――
やっと静かになったわね。
でも、不思議よね。この人間族はどうして精霊樹の精域に入れたのかしら?サビィ―が吐き出した時は、消滅しかけていてから慌てて、ベッドに寝かせる様に指示したけれど、考えてみたら精域って普通は精霊樹の太い幹に拒絶されて入れられないはずよね?それに、瀕死の状態で消えかけていたのに、私の魔力を注いだだけで、もうここまで自然治癒が進んでる。情報や能力を覗いてみたけれど普通の人間だったし。分からないわ・・・
「うぅ う」
あら、意識があちらから戻って来たみたいね。『【レソンネ】』≫
―――※ロイク視点※―――
ここは何処だろう?意識ははっきりしてるのに、五感が機能していない様だ。
『えっと、聞こえますか?』
ん?・・・
『大丈夫そうね。えぇ~私は大樹の森の聖域の精霊樹に宿りし精霊。精霊のマルアスピーです』
はぁ~?
『驚くからもしれませんが...』
うわぁっ。自分の事を精霊だって言ってるし。今日は痛い人に良く遭遇する日だ。俺呪われてるのか?
『私は本物の精霊です』
あぁ~ここは話を合わせて優しく接した方良いところか。
『全部、伝わってますからね』
あれ?漏れてる・・・?
『貴方と私の思考を直接繋いでいるのよ。理解できるわね?』
聞こえるとは違うと思ってたけど、思考を巡らす時に似た感覚の共有版って感じか。
『これは、レソンネって言って、本当は心と心が通い合った者同士じゃないと、感情や感覚や思考を共有する事ができないのだけど、私の魔力を身体に帯びてる今の貴方ならできるかもって思ったのよ』
はぁ~
『それで、貴方に1つ確認しておきたい事があるのよ』
その前に、ここは何処ですか?ここから出たいんですけど。
『安心して。身体は精霊樹の精域で預かってるわ。それで、確認になるのだけれど、貴方はどうやって聖域に入ったの?』
それ寧ろ俺が聞きたいです。気付いたらここに居たと言いますか入って居たと言いますか?
『私は貴方を助けたいの』
はぁ~それはありがとうございます。ここから出るにはどうしたら?
『貴方。本物の人間族よね?』
はい↑?
『人間よね?』
だと思います。両親は人間ですから・・・
『入れたのだから、出られると思うのよ。でも、繋がってるだけで私の方から貴方の精神が何処に居るかまでは分からないのよね』
そうなんですか
『いいかしら、今から質問する事に嘘偽り無く正確に答えるのよ』
構いませんが
『貴方は男?』
・
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・
・
・
・
・
『それでは、これが、最後の質問です。貴方は運命を信じますか?...
はい。って、変な宗教みたい。さっきから変な質問ばかりだなぁ?
...貴方自身を信じ切れますか?私を妻として認めますか?』
あ、まだ続いてたのか。はい。って、言ちゃったよ。・・・うん?あれ? 最後妻って聞こえた様な?
『質問はこれで終わりです。大変長らくありがとうございました。私は色々と準備がありますので、先に主世界へ戻っております。それでは、これより長らく宜しくお願い致します』
・
・
・
もしも~し ・・・
助けてくれるんじゃ・・・
あれ、もしかして、これって放置されたパターン?
おーい、誰か居ませんかぁ~。居たら返事してください。
俺は、思考。心の中で叫んでみた。
だが、しかし、残念ながら、予想通り・・・
何も起こらなかった。
さっきの女の人。俺の身体を預かってるって言ってけど・・・
ここ、
何処?
―――※3人の会話※―――
――― 謎の場所
「マルアスピー様。この人間目覚めませんね。どうしましょう?」
「そうねぇ~。もういつでもOKなのに」
「マルアスピー様。この人間の事なんじゃが。並行空間から何処か他の空間に迷い込んでしまっておるのではなかろうかと思うのじゃが」
「そうねぇ~。誓っておいてこんなに待たせる何て問題よねぇ~」
「私には心当たりは無いぞ。ちゃんと吐き出したゆえな」
「そうねぇ~。・・・サビィ―。もう1度飲み込んでみたらどうかしら?」
「飲み込んでみましょうか?」
「止めてくれ。事がややこしくなりそうじゃ」
「そうよねぇ~。もういつでもOKなのに・・・」
「・・・マルアスピー様。先程から何か変ですぞ。何か御心当たりでも?」
「そうねぇ~。無い事も無いんだけど・・・おかしな事になってしまってるみたいなのよ」
「おかしな事とはなんでしょうか?私のせいではありませんよ」
「ふむ、おかしな事にのぉ~・・・どういう事か説明していただけますかのぅ~」
「それがぁ~。私を妻にするって誓ってくれたのに、先に戻った私を10日間も放置して眠ってる何ておかし過ぎるわよ」
「妻ですか?妻ってあの妻の事ですかのぅ~?」
「お主、長らく生き過ぎて、夫と妻の事も忘れたか。妻とはつがいの片割れの事よ」
「そんな事くらい知っとるわい。マルアスピー様がこの人間と夫婦になると言っておるから聞いておるのじゃ」
「いやいやいや、人間族と精霊が一緒になるなどありえません!・・・・・・あっ、いえ。あっても良さそうです・・・私の知っている限りでは・・・前例があるゆえ」
「サビィ―。流石は私の付き人ね。貴方なら分かってくれると思っていたわ」
「マルアスピー様。【大精霊】の貴方様が、嫁ぐ事にとやかく言う気はございませんが。この人間は見た処20歳やそこら。マルアスピー様は、4000年もの長きに渡り大樹の聖域の精霊樹に宿りし尊いお方なのですぞ。先代様は宿りし期間が短く200年程で恋に生きると言い残し、放浪精霊の道をお選びになりましたが、貴方様の存在は意味が違うのですぞ」
「ビエール。それは・・・」
「ちと、口が滑ってしもぉ~たわい」
「ビエール。それは、私の事を、おばさんって言っているのかしら?私、耳がおかしくなったのかしらぁ~。それと、初耳よねぇ~。私の母って、精霊王様の御命令で、【世界精霊】として万物の監視をしてるって言ってなかったかしら?」
「えぇ~。それについては、ノーコメントでお願いしたいのじゃが・・・」
「ダメです。全て話なさい。サビィ―貴方もです。窓から逃げようなんて思わないことね」
「・・・はい。マルアスピー様」
「ビエール。良いわよ。話なさい」
「は、はいですじゃ・・・あのぉ~その前に良いのですか?」
「何がです?」
「この人間の事ですじゃ。御心当たりがあるのでは?」
「あぁ、オホン。そうでした。この話は後でゆっくり話ましょう。それで、どこまで話したかしら・・・」
「嫁にすると誓った、この人間が10日間も寝ておるというあたりですじゃ」
「そうでしたね。なかなか起きないので、待ちくたびれて何度か覗いていて気付いたのです」
「何にですかな?」
「この者には、精霊眼を持つ私にも解読できないスキルが幾つかある様なのです」
「ふむ。どれ、儂も覗いてみますかの・・・」
・
・
・
「至って普通の、その辺に幾らでもおる人間族に思えますが・・・」
「下の方に神授があるでしょう」
「はい・・・おや、儂にも読めませんのぉ~」
「おい、私にも分かる様に話てくれ。私は、その者のステータスしか見られるぬゆえ」
「こやつ、3つも神授されておるのじゃが、その内の1が読めんのじゃ」
「ほう。それは凄い事なのか?」
「良いか、精霊眼や聖獣眼でも解読不可能という事はじゃ。このスキルには、儂等以上の存在が影響しているという事じゃ」
「ほう。それでは神しかおらぬではないか。この人間は下界の者ではないのか?」
「そのはずじゃ・・・」
「それでね。読めないスキルも気になるけど、今は、もう1つ気になる事があるの」
「まだ何かこの人間にはあるのですかな?」
「神授の、読める2つ方なんだけど」
「はい。【鍛錬の心得】と【フリーパス】という一風変わった能力があるようですなぁ~」
「その【フリーパス】の方なんだけど」
「あぁぁ・・・なん・と・・・。移動制限解除とはまた・・・」
「これって、あれよね?」
「あれですな・・・」
「どうしたのだ。私にも」
「黙っておれ、この鳥!」
「また私に当たり散らすきかえ?」
「当たり前じゃ、お前の並行空間の中で、消滅しそうになっておった肉体から精神だけが離れ、迷子になっておる可能性があるのじゃ」
「ここに身体があるのだ。戻ってくれば良いだけではないか」
「ここにある身体だけがこの人間の固定位置ならば、最初から問題にしておらんわ」
「ビエール。サビィ―にはゆっくり説明する時間を作るから、どうすれば良いのか教えてあげてくれるからしら」
「かしこまりました」
「私が何かすればよいのか?」
「良いか。お前が飲み込んだ、この人間の形があったじゃろう。あれは、この人間の身体の一部を形にした物だと言っておったな」
「その通り、瀕死の状態で今にも消滅しそうだったゆえ、人間として生き残っていた部分を一次的に聖域の並行空間の中に飲み込んだ。この人間は眠ってはいるが死んではいないだろう。あの犬と一緒に飲み込んだ方は私が牢獄として使っている精霊樹の精域の並行空間。・・・つまりなんなのだ?」
「鳥、良く聞け。移動制限を受けないという能力を持ったこの人間が、精神だけの状態で並行空間におる訳じゃ。この大樹の森の聖域の精霊樹の精域つまり主世界と、同じ並行空間どちらの移動が楽で、どちらの方が精神として身体を見つけ安いと思うかの?」
「並行空間は無作為に作られる空間で固定ではないが、【転移】の様に、目印や誰かの身体を固定位置とし飛ぶ場合は、並行空間間の方が異なる次元間を飛ぶよりは楽だと思うぞ。自分の身体を固定位置にして飛ぶ、神業なら間違え様も無い自分を間違る者はおらんだろうからな」
「この人間は、儂と会ったあの建物の時と同じ状況にあると断言して良いじゃろう」
「ならば安心ではないか。精神だけの状態では、あの犬とてこの人間に手出しするのは不可能ゆえ」
「おい鳥、お前、迎えに行くのじゃ」
「私は・・・」
「サビィ―お願い」
「分かりました」
「今直ぐ」
「マルアスピー様の為です。今直ぐ、迎えに行ってきます」
「精域の並行空間じゃ。さっさと行け」
「帰って来たら覚えておくのだぞ。齧歯類。それでは」
≪ピッキーン
「やれやれ、迎えに行けと言うだけの事が、どうしてここまで面倒な話になるのじゃ?」
「ビエール。話は終わって無いわよねぇ~?」
「はて、まだ何かありましたかな?」
「精霊王様と私の母の話をして貰いましょうか・・・私、この話がとっても、面倒な話になると思うのよねぇ~」
「・・・」
―――※ロイク視点―――
――― 並行空間
意識だけがあるって考えた方が良さそうだ。五感が全て微妙だし。さっきの女の人は何だったのか、考えてみたが結局不明なままだ。
時間の感覚も何も無い状態だ。何処にどの位いるのかいたのかすら不明だ。
『グルルルル』
なんだ?
『グル ォ ルル ィ ルルル』
俺を襲った魔獣の鳴き声だよな?何てしつこさだこの状況になっても、まだ狙ってるのか?
『グ ォ ル ィ ルルル ォ ル ァルル ェ ル』
うん?何か言葉に聞こえなくも無いな?そう言えば、心を通わせると届くとかさっきの女の人が言ってたな・・・って、俺魔獣と通い合た覚え無いし。これどういう事だろう?
『 オイオマエ 』
あ、分かっちゃった・・・
『 グル コ グ コ ルグル カ ルル ラ ルル デル 』
ごめん、言ってる意味が分かりません。
『 オレ パ ン セ リュー 』
ご丁寧にどうも・・・
『 オ レ オ マ エ 』
ふむ。そういえば何となくだけど、この意思疎通をしていると落ち着く気がするけど・・・相手は俺を殺そうとした魔獣だぞ?戦いの結果分かり合えたとかある訳無いだろうし・・・
『 オ マ エ サ ガ セ デ ル 』
ん?俺を探すと出られるのか?
『 ソ ウ オ マ エ コ コ 』
落ち着くんだけど、これは、頭痛を伴う会話だなぁ。五感がはっきりしないのに頭痛はするって事は、意識的な、精神的な痛みは感じるって事なのか?
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・
・
「おーい!聞こえたら返事してください。声は出ないと思います。何か音を出してください」
うん?って・・・音も出せないよ・・・
「人間の名前聞いておけば良かったわ・・・おーい!聞こえたら返事してください。声は出せないと思います。何か音を出してください。」
だから、音も出せないって・・・
・
・
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「この空間も違うみたいね」
≪ピッキーン
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・
・
あっ。・・・
ありがとうございました。