6-21 メアと帰還者とコルト② 被害者と帰還者①
―――R4075年10月10日午前2時少し前
※1日の長さが異なる為日付は凡そ※
創生1316656489年
2月4日午前8時少し前―――
「おい、何が起こったのか説明しろ」
「きょ、教王陛下。わ、私にもいったい何が起こったのか分かりかねます」
「ふっ、ふっ、ふざけるなっ! いいいい今更戻ったところで、ななな何が出来る。わ、わ、わ豫はガルネスの世界創造神創生教の王。王だぞっ! い、今直ぐ今直ぐだっ! 庁(教王庁)の神官、宮(王宮殿)の魔術師共を搔き集めろ。ガルネスに戻る方法を。……豫の豫のガルネスに戻る方法を今直ぐ見つけ出せぇ―――っ!!!!」
「はっ! 教王陛下の仰せのままに」
「おい。ここってメアじゃないか?」
「悪気を感じるぞ」
「メアだぁ! 帰って来たんだ」
「俺達戻れたんだ」「私達戻れたのね」
「「「メアだ」「メアよ」」」
「今日が天啓の、天啓の日その時だったんだぁー」
「俺達は偉大なるメアに帰ってき。帰って来たんだ」
ガルネス大寺院の最下位に施されていた魔力陣を中心に半径約六十キロメートル圏内に居た流れ人(メア亜下界出身者)達の反応は大きく二つに分かれていた。
一つは、困惑し立場を忘れ凄い剣幕で怒鳴り散らす者。メア(亜)下界に戻る気などはなから無かった教王、権力の中枢にあって戻る気など随分と前に失っていた側近達。
一つは、歓喜に打ち震え泣き叫ぶ者。教王の戯言を信じ、天啓はいつの日か果たされる。いつか来るであろう天啓の時、偉大なるメアへの帰還を待ち続けていた者達。
複雑かもしれない状況にある少数派の反応はまちまち下世話回避の為にも割愛。
まとまりを欠いた流れ人達を、理解が全く追い付かず無言で見つめる者。教王や側近達以上に困惑し取り乱す者。闇が世界を支配する時間の空に浮かぶ陽のように輝く物を見上げ茫然と佇む者。
彼等は、巻き込まれてしまったコルト下界の存在、逆流れ人、被害者達だ。
そんな被害者達と同じような反応を示しているのは、流れ人達の子孫。彼等は被害者なのだろうか? それとも帰還者なのだろうか?
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流れ人の多くは、神都ガルネスに住んでいた。神王(教王陛下と同一人物)の、国の指示で郊外に造られた地下施設三ヵ所(東西南)に分散し避難していた。
教王や側近達は家族達と共に南の地下施設の最下位に避難していた。
ガルネス大寺院から五ラフンと離れていない南の地下施設から転位移動した教王と側近達とその家族と市民達の目と鼻の先には、当然、ドラゴラルシム竜王国の竜王クロージャ・ルードラゴ・ルーバーン、竜騎士隊の隊長ゴットフリート・ルーダン・ローリング、竜騎士隊三百人、ドラゴン二匹、フライングドラゴン三百匹、総勢三百ニ騎の精鋭と、ガルネス大寺院の最下位を調査していたアシュランス王国の研究員二十一人、護衛兵九十人、総勢百十一人の調査団メンバーが転位移動していた。
そして、竜騎士隊と調査団メンバーに混ざる様に、怪しい四人組ことオデスカル、ブギーガン改めカーネギアン、サルーカス改めマダーガス、リズヘイミー改めジュスティンヌと、心得隊の隊長ベジヒア・ポーンゾウシン、副隊長(副官)キルキシア・テル・プルブライ、総勢九十九人が転位移動していた。
「隊長!」
「はっ、クロージャ様」
「ここは何処だ?」
「分かりません」
「あの素っ裸の連中は何だ?」
「素っ裸のユマンのようです。……クロージャ様大変です。私達も素っ裸です」
「なんだとっ! 服は何処に行った。誰か服をもてっ」
「あ、……ありません!」
「なんだとっ!」
転位移動した者達は、被害者も帰還者も皆平等皆等しく全裸だった。
「「「「キャー」」」」
「「「「おお」」」」
直径約百二十キロメートル圏内のあちらこちらで、女性の悲鳴とたまに男性の悲鳴と違った意味で歓喜の声が木霊していた。
「あー……取り合えず、全軍恥部を隠せ」
「「「はっ」」」
竜騎士隊の兵士達は思い思いの方法で竜王の命令に対応する一応紳士達だった。
一方、女性の多い調査団と市民達が、落ち着きを取り戻すまでには、かなりの時間が必要だったのは言うまでもない。
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船上や浜辺から転位移動した、ゼルフォーラ王国、アシュランス王国、ララコバイア(海洋)王国、ターンビット王国、ジャスパット(東西朝)王国の解放軍の兵士達は、総勢約九万四千三百十六人。
船中の就寝環境を想像して欲しい。彼等も強烈な転位移動に巻き込まれていたのは言うまでもない。
貴重な時間をありがとうございました。