6-18 白光の夜の真相を求めて⑥ 神様集合、そして神頼み④
「もう良いかね? レンタル代とワイバーンの回収で忙しいね。アランギー」
「なんですかな」
「後は任せたね」
≪パチン
フォルティーナの乾いたフィンガースナップの音が執務室に響く。
フォルティーナは行ってしまった。
「ふむふむふむ、さて私も公務を開始するとしましょう。しっかしぃー不思議なこともあるものですなぁー、欠損した魔力陣にあのような使い方があったとは驚きですぞぉー、はい。いやはやいやはや」
「欠損? chef」
≪パンパン
chefアランギー様の軽快なパルマセコの音が執務室に響く。
「アラ、あ……」
chefアランギー様も行ってしまった。
欠損した魔力陣って言ってたよな? 壊れてたってこと? でも起動した訳だし……どういことだ?
「僕は思う。
生きる。生きているだけで幸せなのだと。
食べる。食べ物があるだけで幸せなのだと。
眠る。安心して眠れる場所があるだけで幸せなのだと。
家族。友。国。
言葉。歌。音楽。
文字。模様。本。
ホント、きりがないよ。
僕は思う。
これでいいのだろうか。と。
繰り返し。繰り返す。繰り返される。繰り返した。
あぁあぁ―――、これはまずいよ。
悩まずにはいられない」
イエレミーヤ様は悩み続けている。
色々と聞きたい事はあるが、そっとしておこう。悩みながらも来てくれたんだ。感謝しないとな。
あてにしてたchefアランギー様は行っちゃったし、どうしたものか……。
執務室に残っている神様達を一柱ずつ確認する。
何つぅーか、皆、自由過ぎ。まとまりねぇ~。
・・・
・・
・
アリスさんに貸して貰ったパマリ一族のことをまとめた書籍【パマリ全集】の四百七十二ページを開き類似した紋章を順に眺めていると。
「今は旦那様で宜しかったでしょうか?」
「ん? ウーメ様、どういう意味ですか?」
ウーメ様が目の前にやって来てお辞儀をしながら話し掛けて来た。
「今は陛下ですか?」
「突然過ぎて意味が全く分からないんですが」
「そうでしたか。私も仕事が残っていますので、これで失礼致します」
≪スーッ
??? ウーメ様……。
冬の女神プリュネ様も行ってしまった。
「私も仕事を探しに行って参ります」
≪スーッ
仕事を探しに? ターケ様……。
夏の女神バンブー様は慌てて何処かへ行ってしまった。
「明日の仕事が残っていますので、私もこのへんで失礼致します。それでは」
≪スーッ
明日の仕事って、ラーン様、今日のは?
春の女神オルキデ様は鼻歌交じりで何処かに行ってしまった。
「chefが私を呼んでいるような気がします。良い弟子の条件は一つだけだと言われています。本日も良い一日になりますように、それ」
「さっき、公務を始めるって言って行きましたよ」
「き、気のせいだと思います。そ、それでは失礼致します」
≪シュッ
……キーク様。
秋の女神クリザンテム様はお辞儀をしながら姿を消してしまった。
……来てくれただけ感謝だ。感謝。感謝の気持ちを忘れるな、ロイク。
神茶を啜ってから、パマリ全集に意識を戻す。
・・・・・
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・・・
・・
・
――― 一時間後。
「なぁユーコが良いと思うぞ」
「ユーコはあんたの名前ちゃいますか」
「そうだぞ。凄いだろう」
「うちの名前までユーコやとこんがらがりますえ」
「そうか? そうだな だったら、アッコが良い名前だと思うぞ」
あちらこちらから今回の件とは全く関係のない会話が結構大きな声で聞こえている。
邪魔だから帰って良いですよ。ありがとうございました。とは言い出せず。
気にしない、気にしたら負けだと言い聞かせ、騒がしい中作業を続けたが、進展は一切なし。
「ロイクさん。気分転換に甘い物を一口どうぞ。あ~ん」
「あ~ん」
「ろ、ロイク様アル様、あ、あ~んだなんて、は、はしたないです。今はし、仕事の時」
「マリレナさんもあ~ん」
「あ~ん、おいひぃーです、あっ……」
僅かに感じる塩味とモチモチした触感の中に甘味を抑えたチョコレート。一口サイズの大福か?
「アルさん、これは?」
「工房ロイスピーの大樹(の休息)期限定スィーツ【大樹のめぐみ Ver.大人味】です。ここに来る前、マルアスピーさんと廊下でバッタリ会いましていただいたんです」
「そうだったんですね」
「はい」
「マルアスピー様は多才ですよね。こんなにも美味しい餅菓子まで作ってしまわれるのですから」
「私もそう思います。精霊にしておくのが勿体ないくらいです。お菓子とかスィーツとかデザートとかおやつとかそろそろ司ってしまうかもしれませんね。フフフフフ」
「スィーツの女神様……甘くて美味しそうでマルアスピー様にピッタリだと思います」
「フフフフフ、そうですよね」
マルアスピーにピッタリ? 甘くて美味しそうが、か?
・・・
・・
・
「神とは何かを必ず司らなくてはいけないものなのでしょうか?」
「急にどうされたのですか?」
「先日、バジリアと里に戻った際、ラケルに偶然会いまして」
「ラケルさんですか?」
「御存じありませんでしたか。ラケルは、ラケル・カサノヴァはマクドナルド・ガリバーの双子の弟です」
「マクドナルドさんの弟さんでしたか。その方がどうかされたのですか?」
「その際...... ~」
マリレナさんがアルさんに何やら相談を始めたようだ。
二人に挟まれてる俺は場所的に邪魔だろうが気にしないことにする。静かに黙って作業を続けようと思う。
~~~回想~~~
「お、お前、かか、神とかって何だよ。……な、何神様やっちゃってるの」
「ラケル様。マリレナ様に対しその態度は不敬だとは思いませんか?」
「不敬か? まいいや、それよりも、マリレナお前って、前に見かけた時は精霊様だったよな。精霊様止めて神様始めたのか?」
「な、がれで……」
「流れでって、何となく雰囲気に流されたくらいで神様ってなれちゃえるものなのか? 良く見たら、風と植物ってまんまじゃん」
「え?」
「えってどうかしたのか?」
「風と植物」
「違うのか? だって、風と植物を司りし女神ってステータスにはあるぜ」
「み、視えるのですか?」
「これでも眼には自信があるからな。透視はできないが心眼でならかなりのところまで見える気がするレベルまで来てるぜ」
「神眼を神授されていたのですね。それならば納得です」
~~~回想終了~~~
「~ ......私は、高位樹人族を司りし女神だったはずなのですが……」
「そういえば、九級(下級神九級)の時は高位樹人族を司ってましたね。三級(神三級)を授与した時は、仮みたいでしたが風と植物だったし。八級(下級神八級)か七級(下級神七級)に昇格した時に変更になっていたのかもしれませんね」
「そうかもしれないです」
あっ! ついうっかり二人の会話に入ってしまった。
「司る理は増えることはあっても減ることは無いはずなのですが……」
「そうなんですか?」「そうなのですか?」
「司る理はその神そのものを表しています。司る理が減るということはその神がその神ではなくなってしまうということになります」
「アルさん、それだと増えても神様はその神様じゃなくなるってことになりませんか?」
素直になろう。とっても気になる内容だ。
諦めて、二人の会話に俺は飛び込んだ。
「フォルティーナ様とアランギー様は増えましたが、ロイクさんには変わったように見えましたか?」
うん~む……いつも通りか。唯我独尊手を緩めないchefアランギー様に、ダラダラグダグダ怠け者のフォルティーナ。
「あのぉー私も何も変わっていないと自分では思っているのですが、どうでしょうか?」
「おかわりないかと」
「変わった感じはしないですね」
「良かったです」
司っていた物が消えてしまったことを気にしてたのか。全く気が付かなかったよ。言ってくれれば良かったのに、って、相談されても俺じゃ役に立たないな。ハハハ
気になったことはそこじゃなかったんだけど、今日はいいや、やることがいっぱいあるし。
今度、何も司っていないエリウスとルージュとドルで実験もとい、に、協力して貰おう。っと。
・・・・・
・・・・
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・・
・
執務室には、一人掛けソファーに腰掛けブツブツと悩み続けるイエレミーヤ様。俺の背後に立つエリウス。三つあるテーブルの一つを占領しドームココドリーロのメニューに追加するどんぶりの内容を相談するクロコダイアン様と相談に乗るマクドナルド卿とバルタザール殿とオスカーさん。ポカポカと日の当たる木製の執務机の上に寝転がり昼寝を始めてしまったロザリークロード様とルージュ。毛足の長い金と赤の高級絨毯に直座りしながら悪狼神様の名付けで盛り上がるユーコ様と乗り気じゃない悪狼神様。来客用の五人掛けソファーに座る俺の右隣に座るアルさんと左隣に座るマリレナさんとテーブルを挟み正面の五人掛けソファーの中央に座り瞑想しているミィールさんと俺の膝の上で結構大きな声で歌を歌い続けているドル。
執務室を見回し溜息を零しそうになる。
何となくこうなるんじゃないかなと分かっていた。もしかしたらもしかするかもしれないと淡い期待があった。
所詮期待は期待でしかないって事か……。
貴重な時間をありがとうございました。
説明を大量に削り、会話を一部削り、それでもこの長さ。
本編に不要な会話ばかりでこの長さ。
次の話から、メア・イート編の本編?です。
本来の六章を飛ばしての七章ですが、
宜しくお願いします。