5-41 召喚からの宴会。真実はいつも後回し。
あれれ? なかなか姿を現さない。おかしいな……。
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「ねぇロイク」
「はいなんでしょう」
「いったい何が始まったのかしら?」
「えっとですね。俺にも良く分かりません」
「そう。分からないのであれば仕方がないわね」
「マルアスピーさん、ロイクさん。引の力が作用しているようです」
引の力? って、何?
「アルさん、引の力って何」
「我が眷属ロイク。引とは抵抗だ」
両手に焼いたカキを持ち殻ごと丸齧りしながら胸を張る偉そうな幼女。
「抵抗?」
神様も召喚できる神授スキル【転位召喚・極】に抗ってるってこと?
「管理者よ。引の力とは」
「旦那様よ。引の力とは」
先代バハムートとリュシルの声が重なった。二人は気にせず話を続ける。
「長けた存在による拒絶を意味する。召喚対象は召喚術に長け盈属性に精通しているということだ」
「月属性の盈属性を応用した力故、聖属性か同じ月属性の朔属性でしか強制しきれぬ」
二人同時に喋るの止めて。……えっと、ようするに、何だ?
「管理者よ。メアの盈属性とは月属性つまり空に浮かぶ大地と母より生れ落ち踏みしめる大地を意味する属性だ」
「旦那様よ。メアの聖属性とは、コルト下界の聖属性のこと、前にも話したこと故覚えておるとは思うが」
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先代バハムートとリュシルの同時進行での説明が続く。
≪「ロイク様? ロイクさん? 簡単に説明しますね」
アルさんからのレソンネだ。
≪「ようするに、ヘリフムス・フォン・センペル様は強制力の強い召喚を拒否しようとしてるってことですよね?」
≪「はい。召喚、転位、転送は二つの座標を行き来する大雑把な移動の理です。この世界コルトであれば自然魔素の地属性と、全ての界の理の属性、えっとですね、多次元界の理と言った方が分かり易いでしょうか。その多次元界の理の属性時属性と空属性、三つの属性を組み合わせることで事象に干渉しています」
≪「へぇ~そうだったんですね」
全く理解できてないけど、とりあえず返事しておこう。話しが進まなそうだし、ハハハ。
≪「時属性と空属性は、そうですね。コルトですと、……無属性の理として正常に処理されているようですので、欠損あっ、アングラ界のメア側から拒絶する場合は、無属性の理として強引に書き換えられ事象として成立しています盈属性を用いるしか手段がありません。ですので、盈属性の介入に盈属性で介入するか、聖属性で無効化することをおすすめします」
≪「盈属性って名称は知ってますが何なのか分かってないんで、聖属性で介入というか干渉を無効化することにします。ありがとうございます。参考になりました」
≪「いえ、お役に立てたようで何よりです」
発動中の神授スキル【転位召喚・極】に聖属性を追加で投入っと。
パッ!
「なっ! あ、あり、あり、ありえぬ。よ、よよ予を丸ごと召喚し留めるだとっ!! お、お、お前はいったい何者ぉぬぅ!? アチュピーちゃん?」
「アチュピーちゃん?」
「あん? 誰だお前は。って、ああああんおお前何をしれっとアチュピーちゃんの隣りに座っておる。って、アッチィー!!!!!」
「ふむ。騒ぐでない。事象に誤差が生じただけであろう。非は、我の許しを得た我の眷属ロイクの召喚を拒絶した主にあるのだ。喚くな」
「邪神竜様の仰る通りです」
「予が幼子に、ロイク!? 邪神竜様!? はて……何処かで聞いたことがあるようなないようなあるようでないようだと言い切りたいような予のこの胸の中の確かな気持ちはいったい何だ」
「公王様。聞きたいことがあるのだけれど」
「え、あっはいって、あん? よ、予をそのようなくだらなぬって、アッチィー!!!!! って、召喚しただとぉっ」
炉端の上から動けば良いのに……。
それにしてもマルアスピー、さすがです。マイウェイが止まらないその感じ、もうマイウェイ過ぎて気持ち良さすら覚えます。
面白いからもう少しだけ見ていよう。
「ええそうね。ガルネスのメアのキャスパリーグここはコルトなのだけれどメアのキャスパリーグがいるの」
「っおっふ。アチュピーちゃん!? 大事な大事な可愛い可愛いアチュピーちゃんにならおじちゃん何でも買ってあげるよ」
……う~ん。
「公王様が関わっているようなのだけれどいったいどういうことなのかしら。説明して貰えるかしら」
「最近ミッテタルグルントで流行りだしたエクゥーレイヤー、いやエクレアだったかな。シュークドストリーム、いやシュークリームだったような。まぁ名などどうでも良いか、大人気で入手困難な甘露らしいのだがアチュピーちゃんのためならおじちゃんガンバちゃうよ。あ”!! 予が異端の亜下界の者に加担しているだとっ! おぉっと、……アチュピーちゃん。おじちゃんいったい何の話か分からないよ」
「そっ。それなら良いわ、話は終わったわ」
「え? あっ! な、何か思い出したかも。おじちゃん何か思い出せるかもしれないから、アチュピーちゃんもっとおじちゃんに話し掛けて、ねっ、ねっ、おじちゃんもっとアチュピーちゃんとお話したいよぉ~」
「おい」
「あ”!! なんだ幼子。予は忙しいのだ。気安く話し掛けるでないわ」
「邪魔だ」
「あぁああ”あ”。予が邪魔だとぉ―――」
「主は阿呆なのか。主がそこにいてはカニが取れぬ」
「半神半精霊の精霊よ。先程から失礼な物言いですが、こちらの御方は邪を司りし神の竜、邪神竜様です。炉端の上に立ちはだかりいつまで見下しているつもりだ。食べれぬではないか」
「邪神竜……そういえばロイクだ邪神竜だと…………ま、まさか」
「理解したようだな。こちらの御方は...... 」
繰り返すのね……。
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「申し訳ございませんでした。邪神竜様とは露知らず...... ~ ......いやーしかしまたぁー、ヒュームの幼子の御姿で御人が悪いったらありゃしない。...... ~ ......ほう、半神半竜ですか、邪神竜様と同じ幼子の姿でこりゃまた酔狂なことをしますなぁー。まさか予と同格の存在だったとはのぉー。...... ~ ......友人に貴女と同じ半神半竜の者がおってのぉーいやはや世間とはまったくもって狭いものですなぁ~。予と友人との出会いはちと特殊でな...... ~ ......牢に異界の竜を運び込んだがどうしたら良いかと...... ~ ......帰界できるように手伝う約束をしたのだが。まさか大宴会の真っ最中に鮮血の穢れによる服従の召喚に巻き込まれてしまうとは...... ~ ......え!? その時巻き込まれてこの異下界に召喚され、先程まで我を忘れていた? バハムート殿っ!!!? バハムート殿だったのですかっ!!」
今更驚くのね。……さっきから先代バハムートだとか先代の竜魔王だとか普通に喋ってましたよ。
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「しかし美味いのぉ~。うーむ癖になる美味さじゃなっ!」
……狭い。実に狭い。
「ヘリフムス・フォン・センペル様。焼けた石じゃなかったゴーレムの姿で居られるよりはその姿の方がましなんですが……」
「なんだ。何が言いたい。はっきり申すが良い」
童の姿になってくれたのは良いのだが。どうしてマルアスピーと俺の狭い間に座るかなぁ~。
「邪魔なのだけれど」
「なっなんだとこのっぉおっとアチュピーちゃんおじちゃん静かにご飯食べるからここにちゅわらせて欲しいよ」
確認したいことがまだまだ沢山あるんで静かに食事されてもというかカニ食うのに集中し過ぎだろう。サッサとサクッと質問に答えてくださいよ。お願いします。本当に……。
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「うん美味い。この酒もあうぅ~~~。邪神竜様もバハムート殿もお一つどぞどぞ」
「うむ。貰おう」
「アッハッハッハッハ私はこの超ジョッキでぇーハッハッハ」
「ぬっ、我は樽のまま所望する」
「いやー流石は邪神竜様。お―――い。先程追加した米から造ったオサケを樽ごと持って来るがよい」
はい。喜んで。
一階から威勢の良い返事が届く。
「おぉー気が利くではないか。よし主も我の眷属にしてやろう。ぬっ、主は地属性の者であったか。……我の飲み仲間にしてやろう」
「ははぁ―――――有難き幸せにございます。飲み仲間として粉骨砕身の思いで臨ませていただきます」
「うむ」
「アハッハッハッハッハ邪神竜様ぁー、眷属と飲み仲間はどっちが偉いんですかねぇーアッハッハッハ」
ありがとうございました。




