5-40 炉端焼き専門店海の幸が集う漁師の家。
炉端焼き専門店海の幸が集う漁師の家。
店の一階は、テーブルに設置された炉端を椅子に座り囲むスタイルで、テーブルは全部で十卓、一卓八人掛けで少し窮屈な造りになっていた。
店の二階は、床板に設置された炉端を座布団に座り囲むスタイルで、炉端は八ヵ所、一つの炉端を六人でゆったりと囲む造りになっていた。
店主の御厚意で店の二階は俺達の貸し切り。気を遣う必要がなくなったのは大きい。
皆、ハフハフと美味しそうに頬張っている。
ボリバリバリボリ
鳴ってはいけない不可解な音が目立つが気にしない。
美味しければ何だってありだ。
大樹オオケガニ、大樹オオアマエビ、大樹オオイワガキ、大樹チョウジョサザエ、大樹オオムラサキアワビ、大樹オオヒメハマグリ、なんかの魚の干物。
磯の、醤油の、焦げる香りがたまりません。炭火で網焼きにしただけなのに、もうぉ~、たまりません。
バリバリバリボリボリボリバリ
案内役のリュシルと俺は、ロザリークロード様と先代バハムートと炉端を囲んでいる。
リシュルは俺の左隣りの座布団に、ロザリークロード様は俺の正面の座布団に、先代バハムート様はロザリークロード様の右隣りの座布団に、マルアスピーは違和感なく自然な流れで俺の右隣りの座布団に、アルさんも違和感なく自然な流れでロザリークロード様の左隣りの座布団に座っている。
座布団の上で胡坐座り(俺だけ)。ジワジワと炭火の熱が伝わって来る炉端とグツグツジュージューパチパチコンガリと煮え焼け弾け金網の上で踊る新鮮な海産物に興奮(主に幼女二人が)。
新鮮な草や野菜や果物にしか興味のないエリウスにはきつかろうと、一つしかない階段の警備をお願いした。正直なところ、壁と座布団との間隔が狭くて真後ろに立たれると気になって気になってしょうがなかったからだ。
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自分でも知らなかった事実。俺は焼いた貝類が好きだったみたいだ。何か長い名前があるみたいだが要約すると、カキ、サザエ、アワビ、ハマグリ、ウニ、ホタテだ。ウニは貝ではないらしいが小さなことは気にしない。それらを中心に楽しんでいた。
ほぼ全ての食材を美味しそうに殻ごと丸齧りしている二人の幼女。目の前で繰り広げられる光景に心持ドン引きしながらも食事と会話が進む。
「幻の食材を求めて妹バハムートさんとダンジョン(コルトでは迷宮)に潜ったら先代バハムートさんだけ六芒星の転位法陣の罠に引っ掛かって気が付いたらプリフェスト下界(精霊界)のクリュフト山の山頂に立っていた。で、夢かもしれないと思って覚めるまでもう一眠りした。目が覚めるとヘリフムス・フォン・センペル様の居宮城のクゥーゲンアラグルント宮殿の岩牢獄の中に居た。事情を説明したらメア(亜)下界に帰界できるよう協力してくれて、衣食住の面倒まで見てくれた。って、ところまでは理解しました」
「全て話した通りである」
両手に焼きガニを持ち殻ごと丸齧りしながら受け答えする幼女。
「地属性の精霊気塗れで、我を忘れた状態で、コルト下界のガルネス神王国のホノクレマに利用されてた経緯が分からないんですが」
「視覚と聴覚と嗅覚の記憶が断片的に残ってはいるがそれだけだな。私とて我を忘れていた時のことまでは流石に責任が持てん。管理者よ、申し訳ない」
「我が眷属ロイク。我が親族の系譜に連なる者が世話になる。宜しく頼むぞ。うん、美味い」
両手に焼きガニを持ち殻ごと丸齧りしながら胸を張る偉そうな幼女。
バリバリボリボリと呑気にカニなんか食べてて良いのだろうか。
半分とはいえ先代バハムートは神様だ。半分神様から自我を奪い思い通りに操れる手段をホノクレマは隠し持っているかもしれない。
……気にし過ぎかもしれないが、あの手の残念な輩は何でもありだからなぁ~。
ボリッ バリッ ボリッ バリッ
「化現するだけでこんなにも美味い物が喰えるとは驚きだ。我が眷属ロイク。我は暫くの間三食焼きガニを所望する」
「おぉ~邪神竜様、それはとても素晴らしいお考えです。私もご相伴に……」
「うむ、許す。焼きガニを共に追及しようぞ」
「ははぁ―――」
「ねぇロイク」
「はい、なんでしょう」
「公王に話を聞いた方が早いと思うのだけれど」
「ヘリフムス・フォン・センペル様から直接ってことですよね。……なるほど。確かにそうかもしれませんね」
いきなり会うとか無理そうだし、アポとかってどうやって取るれば良いんだ?
「ここに喚んで貰えるかしら」
「へ?」
「ロイク、善は急げよ。座布団が空いているのだから問題ないわ」
「席が空いてるからっていきなりはやばいんじゃないかと……」
「その手があったか。我が眷属ロイク。同席を許す。今直ぐここにプリフェストのセンペルを召喚するがよいぞ」
「あっ私も序にお礼が言いたいので召喚して貰えると有難いです。管理者よ私からもお願いする」
ありがとうございました。




