5-31 浜辺の傍観者④
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スカーレット防衛隊から大抜擢され遠征旅団の団長に就任した、リア・シルキューレ騎士爵(女性)(28)は大尉に昇格し名爵と同等の身分にある。
同じくスカーレット防衛隊から大抜擢され遠征旅団の副官に就任した、アヤ騎士爵(男性)(41)は少尉に昇格し士爵と同等の身分にある。姓はまだない。
多目的拡張テント内に設置された円卓へと移動した俺達は、もう少しで昼食ということもあり思い思いの飲み物を片手に好きな席に腰掛けることにした。
騎士リアと騎士アヤにも席に着くよう促したが、テントの入り口から直立不動のまま動こうとしてくれない。
緊張した面持ちの二人の後ろには、膝を折り首を垂れた兵士達。
このままでは、目的を果たせない。ベースキャンプに来たのは旅団司令部にガルネス神王国の現状を伝えること。
「このままでは埒が明かないね」
≪パチン
フォルティーナのフィンガースナップの音が響く。
「は?」
「あえ?」
響くと同時に、車座になって強制参加となった騎士二人の口から何か聞こえたが気にしない。
これでやっと目的が果たせる。
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「神フォルティーナ様、神アル様、神マリレナ様、大樹の精霊マルアスピー様、陛下、妃殿下の皆々様方。この度は」
「堅苦しい挨拶は要らないね。それにだね。アタシを二回呼ぶ必要はないね」
「はっ! 畏まりました。神フォルティーナ様」
二回? 神フォルティーナ様と一応呼ばれていたが。……あぁー! 神とフォルティーナが重複してるって言掛りか。
後で騎士リアにはお詫びの品でも贈ろう。
「リアといったかしら」
「はい。大樹の精霊マルアスピー様」
「初めに言っておきたいのだけれど」
マルアスピーまで?
「はっ! 何なりとお申し付けください」
「そう、良かったわ。良いかしら、大樹の聖域の精霊樹の精霊は大精霊のミト、私ではないわ。私はロイクの精霊、助手精霊よ」
「はっ! 畏まりました。助手精霊マルアスピー様」
フゥー良かった。おかしいのはフォルティーナだけだ。
「リア、うるさいね」
「はっ! 申し訳ございません。神フォルティーナ様」
……二品。贈ることにしよう。さてと、それではそろそろ目的を。
「挨拶は済みまし」
「同じ物で良いかね?」
「「はい。神フォルティーナ様」」
「ロイク。迷えるこの二人にも茶を出すね。アタシ達のみは公平ではないね」
「……そうですね」
相変わらずの自由さに振り回され話が進まない。だが、ここで焦ってはダメだ。こういう時だからこそ冷静に対応しなくてはいけない。
「神フォルティーナ様。きょ、きょ、恐悦至極に存じます」
「有難き幸せに存じ、存じ奉りますっ」
神茶しか持ってない俺に茶を出せって言ってるんだ。同じ物と言ってるんだ。フォルティーナが良いって許可出したんだから責任の所在はフォルティーナだ。
なら問題ないか。
神授スキル【マテリアルクリエイト】で茶碗を創造し騎士リアと騎士アヤの前に置く。
「なっ!? ??」
「う、器が急に!?」
「今お茶煎れるんでちょっと待ってください」
「「はっ? へ、陛下がお茶を?」」
何やら慌て出した二人を無視しタブレットを操作する。
「当たり前だね。茶はロイクしか創造神から貰ってないね。ホラッ、ロイク急ぐね。サッサと話を終わらせて帰るね。アタシは忙しいね。ゴクゴクゴクゴク。うん美味い。ロイク、もう一杯だね」
……わざとじゃない。わざとじゃない。たぶん陰で、嫌がらせとか煽りとかその手の類も司ってるだけなんだ。本人にその気はない。はずだ。
無事、三人に神茶を煎れた。
さて、それでは。
「ガルネ」
「この茶はだね......
~
......そんな感じで、味が無いね。つまりだね。飽きが来ない優れものということだね。さぁ、遠慮はいらないね飲むね」
騎士二人は、神茶をこよなく愛する女神を自称するフォルティーナの脱線混じりの注釈付きの嫌がらせを真摯な姿勢で受け止め、神茶を口にした。
・・・・・・・
・・・・
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「と言う訳です」
やっと。やっとここまで来た目的を果たせたよ。
「陛下。この件を知っているのは我々だけなのでしょうか? 竜王陛下や各国の軍の指揮官達は」
「「知」知らないね」
「フォルティーナ。今俺が話してるんでお願いですから少しだけで良いんで黙ってて貰えませんか?」
「何を言ってるね。さっきからずっと静かにしているアタシに対して何て言い草だね。信じられないね。良いかねそもそも」
「騎士リア。メア(亜)下界、悪魔種族については話していません。ガルネス神王国と旧ヴァルオリティア帝国と旧教によって生み出してしまった禁忌や呪印によって凶暴化した魔獣や人種族と獣人種族、動力源にされた樹人種族や妖精種族の件だけです」
フォルティーナを無視して話を進める。
「その流れ人、爾後の民……異世界メアの人達を私達の国が保護したということでしょうか?」
「騎士アヤ。彼等はエグルサーラで静かに暮らしていたところを私が見つけてしまった高位魔人族の末裔や当人という体です。それでも半分位はメアを望んだんで、向こうの王様と話をして、故郷に帰れるように手配しました。こっちに残るって人達の手紙や動く絵は定期的にって悪魔種族ハイウィザード族の話はガルネス神王国が片付いたら公にするつもりなんで今はここまでにしましょう」
「はっ!!」
「陛下。宜しいでしょうか」
物凄く話したそうなサンドラさんが見つめてくる。
「サンドラさん、どうぞ」
「ありがとうございます。私はこのままここに残り遠征軍の指揮をとりたいと思います」
遠征軍の指揮をとる。急にどうしたんだろう?
「終わりが見えてる戦いの指揮なんかとってどうするんですか?」
「ガルネスの王侯貴族は旧教に負けず劣らず愚者です。そして愚者の中にはメアの血を継ぐ者も多くいます」
「ですね」
「愚者は容易に錯覚します。自分達にはメアの血を継ぐ者達がいる、精鋭部隊や主力部隊などなくとも勝利できる。と」
「でしょうね。じゃなかったらとっくに降伏してると思います」
「そして愚者は己の命の為なら手段を選びません。ある状況下に置かれた時、ほぼ例外なく同様の行動をとります」
なんだろ。
「それって、負けそうになったら逃げるとかですか?」
負けそうっていうか初めから詰んでるんだけど……。
「旗色が悪くなった時点で逃走をはかる者が必ず出ます。水源に毒物や遺体を投げ入れ、食料や家財や女子供を略奪し、町に火を放ち、不要な住民達を盾とし逃走をはかる者達が集落の規模関係なく必ず出ます」
ありがとうございました。