5-28-15 異世界転移は、嵐の予感しかしない。⑮
空が燃え世界が赤色に染まるまで花を食べ続けた私は勝者だ。お腹いっぱい花を食べた達成感に満たされていた。
審議小屋に戻り莚の上に寝転がり瞼を閉じる。
そういえば、昨日もだけど、真っ暗なのに良く見える。空気も水も美味しくて綺麗だしもしかしたらそれが影響してるのかもな。う~ん、美味しい草や花を腹いっぱい食べて力が漲ってるせいかもしれないか。どっちでも良いや。
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そして運命の日がやって来た。
―――4月6日(邪)15:00
加減を忘れたチョタケさんのノックと声に驚き飛び起き、朝食にはまだ咲いていた花を思う存分食べ、腰掛石に腰掛けウトウトしながら食休みをとり、陽が重なったので作業場へと移動した。
棟梁の下へ労働開始の挨拶に行くと。
「フォルカー、昼飯買って来い!」
「もうそんな時間か。おいフォルカー俺のも買って来いっ!」
「おっ、もう昼か。俺は二人前な」
「油、肉、多め。野菜はおめぇーが食っていいぞっ!」
「俺等はおすすめ特盛」×20
「だとよ。おらっさっさと行きやがれ!」
「……………………………と、棟梁」
「何だよその手は、さっさと行って来い」
「金」
「あ?」
「金目の物でも金でも良いらしいです」
「ん! おっといっけねぇー、渡すの忘れたぜ。あぁ? テェメー昨日はいったいどうしたんだ? まさかあの婆から盗んだと言わねぇよなっ!?」
「ペトラネラ・ザド・ベルフェエル様から出来ると思いますか?」
「無理だろうな」
「今日まとめて渡すことになってます」
今度って言ってたし、今日渡しても問題はないだろう。
「そっか。んじゃ裏の荷車から適当に持ってって良いから昼飯買って来い!」
裏?
どうやらこの目の前にいる男大工の棟梁には突発的に馬鹿か阿呆になる持病があるようだ。
建物一つ無い作業場のいったい何処に裏があるというのだろうか?
もし仮に裏があるというなら、何処が裏にあたるのか私を納得させるだけの説明を……。
強者に対しそんなことは口が裂けても言えないし言わないが、哀れに思うくらいは許されるはずだ。
作業場を見渡し、棟梁を温かい目で捉え、もう一つの疑問を口にする。
「棟梁、荷車は何処ですか?」
「……そういやぁー、地震で作業場が倒壊しちまって、あっ何処にあんだ?」
棟梁は汚れた指で鼻先を掻き目を泳がせる。
分かりやすっ!本当に大丈夫なのか、この人。
「私に聞かれても困るのですが……」
持病を抱えているとはいえ、あのカゲユイマの男にこの作業場の大工の棟梁を任されているくらいだ。本当に突発的なだけで良い仕事をするに違いない。
悔やまれる。持病さえなければ……本当に勿体ない。
「おいっ」
A「はい、棟梁!」
「……」
おっと返事をするところだった。呼ばれたのかと勘違いしてしまった。
「荷車知らねぇか?」
A「ここ何年も見てません」
「そっか。おぉおいっ!」
B「はいよ棟梁っ!」
「荷車知らねぇか?」
B「昨日、肉屋で見かけました」
「ちっ、その荷車じゃなねぇよっ! おいおいおいおい!」
C「棟梁呼びましたか?」
「てめぇー荷車知らねぇか?」
C「荷車? あぁ―――最後に使ってたのお前じゃなかったか?」
「ん!? なんすか先輩」
C「お前、あの荷車何処やった?」
「荷車っすか。……荷車っすよね。…………あれっ?……あっ、あの荷車なら、前に蛇の婆と交換したっす」
C「そっか。棟梁!」
「おう」
C「荷車は蛇の婆のとこみたいです」
「なんで婆のとこにあんだよっ!?」
C「交換したって言ってます」
「……ならしゃねぇかっ。荷車は婆のとこだ。分かったなら、さっさと昼飯買って来い!」
突発的とかじゃないこいつらは慢性的だ。子供にも分かるように言うしかないか。
「棟梁。昼飯を交換する金目の物か金は何処にありますか?」
「まだ居やがったのか、この変……さ、さっき言っただろ!荷車から適当に持ってけっ!」
「荷車は昼食と交換しもう作業場にはありません。荷車に積んでいた金目の物は何処にありますか?」
「……おいってめぇー等金目のもん出しやがれぇっ!」
まるで盗賊だな。今度から棟梁じゃなくて頭領と呼ぶこととしよう。慢性的なようだし気付くまい。
・・・
・・
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私の足元には、先輩方と棟梁が置いていったガラクタが散らばっている。
ペトラネラ・ザド・ベルフェエル様はこんなガラクタと昼食を交換してくれるのか?
木片に金属片に石ころに……。
作業中の頭領とその一味達を一通り眺めてからもう一度ガラクタへと視線を移す。
ガラクタのままだな。って、当然か。う~~~ん…………! おっ! そうだ、どうせ五日後には捕食される身だ。いっそのことこのガラクタを持ってってこいつらも道連れだ。あぁ~何だか気分が楽になってような気がする。
そうと決まれば、悪気【兎の穴】≫
目の前に縦五列横Ⅹ列の黒い穴が現れる。
何てこったぁ~、あぁ絶対神様ぁ~~~『一Ⅰ』の穴に食べかけの芋羊羹を入れた自分自身を褒めても宜しいでしょうか?
あぁ~美味しいぃ―――?
おかしいな……これ、藁の方が普通に美味しくない?
もしかして、この芋羊羹腐ってるっ!?
あぁ―――どうしよう……食べちゃったよ。
う~む。
そうだな。取り合えず、痛くなったら痛くなったで、その時考えよう。
空いてる穴にガラクタを放り投げ、屋台通りへと移動することにした。
ありがとうございました。