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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
ーガルネス編ー(傍観)
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5-28-14 異世界転移は、嵐の予感しかしない。⑭

 私の強者センサーは自惚れするほど優秀だ。そんな私の強者センサーが正しく機能していなかった。


 ペトラネラ・ザド・ベルフェエル? 家名持ちっ!? ちゅ、中級種じゃないの?


 手を握り合ったまま、もとい握手を交わしたまま挨拶を、もとい私にお言葉をくださるっているお方は、な、な、なんと中級種の悪蛇族(モーヴェパイソン)ではなく下卿の怪女族(ラミア)様だった。

 しかも、八千万年以上も生きる、生ける闇とも生ける死とも称えられる祥種だった。


 気品と教養に溢れたそのお姿は私が知り得る限りで最も艶やかで美しく恐ろしい。


 体の中に一滴も血が残っていない錯覚。引き過ぎて今にも気を失ってしまいそうだ。


「アンタならペトラで良いよ。……どうしたんだい?」

「……」

 ペトラで良いよ。ペトラで良いよ。ペトラで良いよ。下卿で祥種で絶対的強者様を、ペトラで良いよ…………で、出来るかぁ―――、呼び捨てなんて出来る訳ないだろう。まして愛称でなんて……。


「今さら魔兎なんて獲って喰いやしないよ。安心おし。ほら手を放しておくれ、久方ぶりに愛でも囁いてくれるって言うならこのままでも構いやしないが、どうするんだい?」

「……」

 え、あ、え? えっと、あ? 強者の命令は絶対。肯定、返事。死にたくない。……あ、愛だ。愛を囁かなければ死。殺される。

「あ、あ」

 おぉぉぉぉぉぉぬおぉぉぉぉぉ―――――、エリーゼにすら何も出来なかった私が、ど、ど、どどどどどうやったら囁けるって言うんだよ。教えてエリーゼ、あぁぁこの際、母さんでも婆ちゃんでも良いから教えてくれぇぇぇぇぇ。

「あ、あ。って、アンタ大丈夫かい?」

「あ」

 や、やばい。ど、何処から食べようか品定めされてる。


 私を構成するあらゆるものが限界を迎えてしまったようだ。



・・・・・・・


・・・・



 気が付けば、私は無意識下で飽くなき生への執着を披露し生きる権利を勝ち取っていた。


「アンタがそこまで言うなら、分かったよ。ただ急な話だからね。いきなりってのは流石に無理な話だよ。六日間程待っておくれ」

 待つ? は?

「安心おしよ。この歳まで生きたんだ。今更逃げやしないよ。こっちに来てからずぅ―――――と何もしてなかったからね。整える時間が欲しいだけさ」


 ラミア祥種様にウィンクされ、身震いする私。


「聞いてたね!」

「はい、女将さん」

「はい、ペトラ様」

「ちょっくら森で磨いて来るから、後は任せたよ」

「「はい、お任せください」」


「というわけだよ、六日間だけ待ってておくれ。……手を……名残惜しい気持ちは分からないでもないよ。でも、ホラッ、手をお放しっ」

 こ、これって、六日後に私が食べられるってことだよな……。

「ホラッ」

「あ、はい……」


 ラミア祥種のペトラネラ・ザド・ベルフェエル様は鼻歌混じりもの凄い勢いで俺達の前から姿を消した。


 そんなに楽しみなの……。私なんか食べても美味しくないですよ……。

 ハァ~、何てえげつない。食べ物に群がる弱者を捕食する。カゲユイマの男が可愛く見える。あああぁぁぁ―――どうしよう。あああぁぁぁ。

「「おめでとうごいます」」

 な、何がっ。

「こちらに来たばかりなんですよね。す、凄いです。尊敬しちゃいます」

「もし私があんなこと言われたら、キャァ~~~恥ずかしい。もうお嫁にいけなぁ~い」

「行くしかないの間違いでしょう。もう」

「そうでした」


 蛇魔族(アングイス)の女二人が、六日後に食べられることになった私へ祝いの言葉を送って来る。


 却下したばかりの脱走を本気で計画する時が来てしまったようだ。

 泣きたい。……外は透明なたぶん蛇。内は下卿で祥種の蛇。目の前にも上級種の蛇。強者による四面楚歌、完全に八方塞がりじゃないか。誰でも良いから、……助けて。


・・・

・・


「これどうする? 女将さんが準備したお弁当だから分からないのよね。これのお代は今度でいいわ。温かい内に食べた方が美味しいし、持ってっていいわよ」

「棟梁には、明日から暫く私達が作るから宜しくって伝えておいて貰えるかしら」

「……はい」



 重い足取りで作業場へと戻った私は、棟梁に弁当を渡し、ペトラネラ・ザド・ベルフェエル様が明日から暫く御不在である旨、ペトラネラ・ザド・ベルフェエル様の御不在中はアングイスの女性二人が昼食を作る旨を伝えた。


 悩んでも結論は出なそうだ。私は悩むのを止め、今出来ることを熟すことにした。



 今しか食べられない花を咀嚼しながら思考する。


 本当にうめぇー。


 花は確かに美味しい。だが、ショックなことが立て続けに起きたからだろう。どうにも食が進まない。


「少し休むか」


 腰掛石に腰掛け花の群生地を眺め、食欲不振に頭を抱える。


 ……今しか食べられないというのに。ご馳走なのに。と、悩んでいると、不意に胃も頭もスッキリ、体が軽くなり、今なら何でも出来そうな何とも言えない高揚感に襲われた。


 よしっ! いっちょやってやりまかっ! 男を見せてやりましょう。 フーン!!

 

ありがとうございました。

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