表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
ーガルネス編ー(傍観)
352/1227

5-28-12 異世界転移は、嵐の予感しかしない。⑫

「これ、凄いですね」

「私も初めてこれを見た時には感動しました。雪が解け温かくなると大地を埋め尽くすかのように一斉に開花するのですが、十日程で色鮮やかな花も消え緑の草原になってしまうのです」

 ここも雪が降るのか。一先ず雪は今はいいや。十日間だけ味わえるご馳走を堪能しなくては、罰があたるかもしれない。

 では早速。

「最高の昼食をあり」

「フォルカーさんは驚かれると思いますよ」

「がと、えっと何にでしょうか?」


「ここの雪は白く冷たく手に取り丸めることが出来ます」

「は? 白い? それって本当に雪なんですか?」

 黒くない雪。……青い空、陽が二つの空、赤い空、月の無い空、ここはなんでもありだな。

「はい」

「……」

 想像できない。

「今は雪が解けたばかりで温かい日が暫く続きます。あぁー昼食の前に少しだけ無謀な計画の話を愚痴らせてください」

 え?

「……い」

 らないです。とか言ったら花を食べる前に殺される。危ない危ない。誘惑を目の前にこの男がカゲユイマだということを忘れるところだった。

「ガランニュースを中心に七つの集落があると説明しましたが」

「あ、あの、どうされたのですか?」

 カゲユイマの男が私の方へ近付いて来る。


「折角なので、腰掛ようかと思いまして」

「あぁ……確かに腰掛けるのに良さげな石がありますね」


「ここに来た時は、その腰掛石に腰掛け景色を眺めながら一休みするのですが、爽快な気分と言いますか疲れが一気に吹っ飛び体が軽くなると言いますか、調子が良くなるのです」

 前には大地を埋め尽くす色鮮やかな花。後ろには広大な草地と噴水だけが立派な見すぼらしい集落。

 微妙だけど思い込みによる癒しの効果か何かがあるのかもしれないな。


「フォルカーさんもどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 早く花を食べに行きたいのですが……。ここは機嫌を取る為にも座って話を合わた方が良いだろう。

 それにしてもこの腰掛石、年季が入ってるなぁ~。


・・・

・・


「ここは放牧地のド真ん中で少し高くなっているのですが」

「花の群生地も放牧地なのですか?」

「群生地と言っても年に数回十日程だけ花に埋め尽くされるだけで基本的には白い雪か緑の草に覆われた広大な草原ですからね」

「確かに」

 年に数回十日って結局何日間食べられるんだ? 取り合えず良く分からないが合わせておけば問題ないだろう。


「集落側の放牧地には集落と周辺地域の安全を担う要塞を建築する予定になっていて」

「楽しみですね」


「あそこの青い花が集中して咲いている辺りには執政官の家、仲裁役の家、大きな家は森の獣達から集落を守る役目も果たせるよう二階建三階建てにしようなどと計画だけは立派なのです」

「楽しみですね」


「今のままではいったいいつ完成するのやら。地震の爪痕すらこの有様です。改修作業が終わったのは井戸と噴水広場と遊水だけ」

「あの噴水と遊水は素晴らしいです」

 ん? あってる?


「ありがとうございます。水回りだけは急がせたのですが。……トイレが」

「あぁ―――」



 誘惑を目の前におかしなことが私の体に起こっているようだ。


 腰掛石から尻が離れようとしない。

 食べに行きたいのに体が腰掛石から離れようとしてくれない。


「いやー美味しいですね。広く開けた見渡す限りの花と草。集落を見てしまうとちょっとブルーな気持ちになってしまいますが、何もかも忘れて開放的な空間で飯を食う。ホント美味しいなぁ。ところで、フォルカーさんは花を食べに来たのですよね?」

「……はい」


「初めてここから花を見た人は皆さん感動の余り動けなくなってしまうのですが、草草藁藁花だとあれだけ明け透けな食欲を……いやー、御見それ致しました。団子より花。フォルカーさん貴方は私が考えていた以上に信頼に値する人のようです」

「……はぁー」

「おっと失礼致しました。ゆっくり景色を楽しんでください。私は一人静かに昼食を済ませますので」

「……」




 結局、花を一口も食べることなく、腰掛石から腰掛ける石を遊水の平らな石へと移し、世界が赤くなるまで水の流れを見つめ。二日目の仕事が終わった。


 帰り際、棟梁から。

「明日から昼食の手配と見学を任せる」

「はい」

「陽が重なってからでいい。作業場に顔を出すように」

「え?」

「分かったか!」

「……はい」


 強制労働を強いられる立場にありながら、仕事もない居場所もない。……いやいや待て待てそうだよそうだよ。これは私の理想の生き方そのものじゃないか。


 明日の朝食は今日食べれなかった花にしよう。


 居場所はなくても花はある。足取り軽く牢屋へと戻り、莚の上に寝転がり草を咀嚼しながら、絶対神様に感謝の言葉を捧げた。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ