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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
ーガルネス編ー(傍観)
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5-28-8 異世界転移は、嵐の予感しかしない。⑧

 診療所の床には所狭しと莚が敷かれその上には多種多様な種族が衰弱し力なく横たわっていた。


 おかしい。だって、これって、

魔力(悪気)(まりょく)欠乏症(けつぼうしょう)

 にしか見えない。

「そうです。彼等は皆魔力欠乏症、それも極めて重度の欠乏症に陥ってる者達です」

 え? 重度?


 衰弱する彼等へと視線を動かす。

 ……どう見ても、

「彼等は」

「一般人。来たばかりの貴方には等級種と言った方が分かり易いでしょうか」

「だったら」

「だったらどうして彼等はこんなにも衰弱し今にも息絶えようとしているのか。彼等は卿種でもそれ以上の存在でもないのにどうして。等級種のはずの彼等がいったいどうして。答えは簡単なことです。ここが地獄でも天国でもメアでもないからです」

「彼等が。ここが地獄でも天国でもメアでもない証拠、ですか」

 カゲユイマの男の言葉を信じる信じないではない。子供でも魔力欠乏症くらい一目で分かる。

 彼等は間違いなく魔力欠乏症、そして間違いなく等級種だ。

 だとすると、この状況はいったいどういうことだ。

 私と同じ上級種が魔力欠乏症で衰弱?

 下級種中級種と比べ私達上級種の魔力は遥かに高い。だからといって、魔力欠乏症になった程度で衰弱して死ぬなんてことは考えられない。


「状況を理解出来ず混乱している。と、いったところでしょうか。もう一度言いますがここは地獄でも天国でもメアでもありません。そして、ここと同じ様な場所がこの集落にはあと四つあります。最初に言っておきますが皆一般人です」


 高い魔力を持つ強者のみが魔力欠乏症で命を落とす……。

 カゲユイマの男と視線を合わせない様に気を使い姿を視界に捉える。

「卿は平気なのですか?」

「卿ですか。懐かしいですねそう呼ばれるのは。ですがここでは私も一般人、おっと、まずは質問に答えましょう。幸いなことに以前と寸分違わず暮らせています」

 卿種のカゲユイマは平気で上級種や下級中級種が死ぬ?

「私の知識では、卿のように強者が魔力欠乏症で尊い命を散らすことはあっても私達のような上級種は一晩眠れば」

「回復しますね。ここがメアであればですが」


・・・

・・


 どうやら私は、環境への順応力適応力が高いらしい。

 意外だ。変化を極度に嫌う私が本当に?


 そして私は、選民意識が高い。

 当然だ。強者と弱者の見極めも出来ずに生きられる程世の中は甘くない。


「戦い。狩りは得意ですか?」

「いえ」

「手先は器用」

「じゃないです」


「無理だと思います」


「たぶん無理だと思います」


「無理です」



「無理」




「無理かと」

「そうですか。分かりました」


「どうもすみません。何のとりえもなくてすみません。生きててすみません」


・・・

・・


 そして私は大工の棟梁に預けられることになった。

 カゲユイマの男に案内されやって来たのは広々とした空き地にしか見えない作業場だった。


 作業場では、棟梁の下、私と境遇を同じくする二十三人の先輩が意識改革ついでに働かされていた。

 長い者で十五年、短い者でも三年。


 私は理解した。この集落に捕まった者は、ここで強制労働を強いられるのだと。

 力仕事の向かない何一つ役に立てそうにない私は遠からず、ここで死ぬのだと。


「フォルカーさん貴方には棟梁達のサポートやケアーを任せます」

 先輩方や棟梁のケアーを私にしろだと!? そ、それって、どう考えても重労働の方がましだ。私は兎だが兎なだけで兎でしかない。

 予想を遥かに上回る最悪の命令が強者よりくだされた。



 そして私の仕事が強制的に始まった。



 それは。


 肩もみ、首もみ、手もみ、腕もみ、足もみ。筋力の劣る私のマッサージは擽ったいだけだで気持ちが悪いと棟梁のお墨付を貰い。


 それは。


 水、工具、資材。力の劣る私の運搬は牛歩だと棟梁のお墨付を貰い。


 そして。


 食べ物の買い出し(物々交換や採集)、洗濯、掃除、先輩方のうっぷん晴らし。昼頃には最悪の事態とまではいかない程度に最悪な仕事が私の仕事に決定していた。


 最悪、足元に生えている瑞々しい草さえあれば良い。

 最悪、誰にも襲われずに眠れる場所があれば良い。

 最悪、魔力欠乏症にさえならなければ何とでもなる。

 弱者は強者に従ってさえいれば、強者のきまぐれに巻き込まれない限り生きていられる。美味しい草が食べられる。


 あれ? ……ここって本当は地獄であってるのでは?



 作業場から少し離れた井戸の横で先輩方と棟梁の衣類を洗濯している時だった。

「洗濯って腰に来るなぁ~」

 腰を叩きながら空を見上げると空がおかしなことになっていた。

 見慣れぬ青い空というだけでも十二分におかしな状況だというのに、この状況は更におかしい。

「そ、空が燃、燃えてるっ!!」

 どう考えてもヤバ過ぎる。

 青い空に少しずつ炎が広がり、空が世界が炎の赤色に染まり始めていた。


「に、逃げないとっ!」

 って、何処に? 井戸の中とかは!?

 井戸を覗き込み中を確認する。


 ……無理、溺死ルートだ。今から森に逃げ……ここで炎に包まれるよりハードにローストされそうだ。

 あああぁぁぁ―――火か水か。焼死か溺死か。死か死か。どっちも嫌だぁ―――――。ぬおぉ―――――痛くない方で痛くない方でお願いじまずぅ~~~。

 そうだ。洗濯物の中ならっ!!

 洗濯物の中に飛び込む。



「フォルカーさん、もう直ぐ陽が沈みます。今日の仕事はここまでです。……それまだ洗い終わってませんよね? 何をやっているのですか?」

「おいっ何やってる。てめぇー全然終わってねぇじゃねぇかっ!」


 洗濯そっちのけで洗濯物に頭を突っ込み震えていると、カゲユイマの男と棟梁に声を掛けられた。


「そ、空が燃えてるぅ―――!!!!!」

 というのに。どうしてそんなに冷静でいられるの?

 洗濯物から顔を出し空を指差し悲鳴混じりに叫ぶ。

「げっ、て、てめぇー俺のパンツで何してやがる」

「パンツ? パンツなんてどうでもいいです。そ、空が燃えて」

「あ? てめぇーふざけろよ。人のパンツ頭に被って、何が空が燃えてるだぁー、それでカッコ付けてるつもりかっ! こ、こ、この変態野郎」

「それも洗濯前ですよね?」

ありがとうございました。

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