5-28-6 異世界転移は、嵐の予感しかしない。⑥
―――水煙の大陸フィンベーラ
AR歴11985年息吹の春4月6日(邪)
正午=二つの陽が重なる刻(15:00)――――
棟梁「フォルカー、昼飯買って来い!」
A「もうそんな時間か。おいフォルカー俺のも買って来いっ!」
B「おっ、もう昼か。俺は二人前な」
C「油、肉、多め。野菜はおめぇーが食っていいぞっ!」
他×20「俺等はおすすめ特盛」
棟梁「だとよ。おらっさっさと行きやがれ!」
「……………………………と、棟梁」
「何だよその手は、さっさと行って来い」
「金」
「あ?」
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―――遡ること六日前
「ふぅ~スッキリした。さてと」
ガチャ
「朝飯は職場ですませふぇ!? ……え? …………はぁ―――っ!? も、もしかして私は死んだ……のか?」
目の前に広がる美味しそうな緑の草原。
「可もなく不可もなく適当に生きていたが、良かった。どうやら天国へは落ちずに済んだみたいだ」
青く澄んだ高い空には、地獄絵巻にあるプリフェスの東陽とトールキアの北陽が力強く輝いている。どっちが東陽でどっちが北陽かは分からないが隅々まで明るいことからも間違いなくここは地獄だ。
足元に生えた草を毟り取り咀嚼する。
う、うまいっ!! ほのかな渋味と口いっぱいに広がる上品な甘味。そ、それに何だこの瑞々しさはっ!!!!
ブチッ
モグモグモグモグ
ブチッ
モグモグ
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
モグモグモグモグ
「おい。そこのモーヴェバニー」
地獄の草の余りの美味しさに我を忘れ一心不乱に食べ続けていると、後方から数人の足音が聞こえ、そして声を掛けられた。
やばい! 食べることに夢中になり過ぎて警戒を怠ってしまった。殺られる!! って、あれ、もう死んでる訳だし、ここって地獄だよな。だったら大丈夫なはずだ。
振り返るとそこには石の斧で武装した一人の虎魔族と木の槍で武装した一人の悪虎族と木の棍棒で武装した二人の悪猪族が立っていた。
ミルトンは地獄に最も近いとかって聞いたことがあったけど本当にそうだったんだな。他種族の上位種と下位種が一緒にいるところ初めて見た。
「そこで何をしている」
四人の視線が私と私の右手と左手を怪しむ様に捉えている。
もしかして、あのティグリスはここの土地のこの美味しい草の所有者? やばい、どうしよう。
「身分を確認する」
身分?
・・・
・・
・
「確認します。名はオスカー、籍はバリーバニーランド区都アルナブ、帝民。起床後、トイレで用を済ませ、トイレを出たら、ここに立っていた。生えている草が余りにも美味しそうだった為、空腹に負け一本口に含んだ。想像通りの美味しさだった為、私達に声を掛けられるまで一心不乱になって食べ続けていた。間違いありませんか?」
「副隊長さん。名前を間違っています。私はオスカーではなくフォルカーです」
「オスカーではなくフォルカーと、他に訂正する箇所はありませんか?」
「はい」
「チョイカズ、チョタケ。この者の身柄を拘束しろ」
「「はっ」」
「え? ちょっ、ちょっと放してください。く、草を勝手に食べたことは謝ります。だから赦してください。お願いします。そ、そうだ話し合いましょう。わ、私、ついさっき地獄に来たばかりでこちらのルールを知らなかっただけなんですよ。だから、あっ、ごふ」
「「……」」
「……隊長。フォルカーさんはこちらへ来た際に頭を打つけたかしたと思われます」
「副長奇遇だな私もそう感じていた。食事だけではなく医者の手配もするように」
「はっ」
「隊長、どうしましょう」
「どうした、チョイカズ」
「この人……草に足を滑らせて転んだと思ったら気を失ってしまいました」
「身元確認の後で良かったと思うべきか。チョタケ背負ってやれ」
「はっ。チョイカズ、オラの棍棒持っててけろ」
「あぁ」
「なぁ副長」
「はっ」
「雑草って美味いのか?」
「分かりません」
「そうか。……一口食べて感想を聞かせてくれ」
「はっ。チョイカズ」
「はっ」
「雑草を食べた事はあるか?」
「ありません」
「そうか。では、一口食べて感想を聞かせてくれ」
「はっ、って、嫌です。な、何で雑草なんか食べなきゃいけないんですか」
「……チョタケ、フォルカーさんは私がおぶろう。代わりと言っては何だが足元の草を一口食べてみてくれ」
「は?」
「隊長が言うには美味しいらしい」
「ほ、本当だが?」
「騙されるなチョタケ。本当に雑草が美味しかったらとっくの昔に皆食べてるはずだろ」
「んだども、隊長がんめぇ~って言うぐらいだ……もしかしたら」
「ないないないないない。絶対ない、お前足元の草見て美味しそうとか思えるのか?」
「あ―――――。…………副長、申し訳ねぁ、オラには食えそうにねぁ」
ありがとうございました。