5-28-4 異世界転移は、嵐の予感しかしない。④
憑りつかれた様に鼻息を荒げ黙々と貪り咀嚼し続けるスージーとお腹を抱えテーブルに突っ伏し消化を優先し動くのを止めたミミリー。
二人を目の前に、小さなため息が零れる。
私は今、ピルスナーの大ジョッキを片手に、この状況をとてもとてもとても、とっても残念に思っている。
ランチを食べに来たのに……、三人でいるのに……、この状況はいったい……。
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シュバイネハクセがテーブルに運ばれて来ると同時に突然始まったミミリーとスージー二人のフードファイトは、ミミリーが三個と半分、スージーが七個という結果に終わった。
アーウンア”ーウンと唸り声を上げる二人と二人を心配しつつも思いっきり冷ややかな目で見つめる私を乗せた大熊車は、同じ百二十五番街に開店したばかりの仕立て屋へと向かっている。
あんなになるまで食べて、あれじゃ服なんて……あっ、マタニティ用なら寧ろあれでいいのかも。
スージーのお腹周りを確認し一人で納得していると大熊車が停車した。
「仕立て屋エーゴン。普通ね」
「はい。斬新過ぎて着て行く場所がない、着ているのを見られたら恥ずかしい、着ているのに必要な所が全く隠せていない、胸も全部何もかもが丸見えの下着に、下着が丸見えの服に、まるで鎧のような服に、体毛の厚い種族用の毛皮に、それと」
「ミミリーもうもうそれ以上は止めてくれぇー。それ以上聞いてしまうと私は私は、私の中の好奇心が行き場を失い爆発してしまいそうにぃ―――」
「だったらもう少し言いますね」
「爆発するぅ~」
いつも通りの二人を見ているとホッとする。心が和む。
って、え? う、嘘でしょうスージー。ミミリーの話ちゃんと聞いてたわよね? 今の何処に好奇心を持てちゃえるの? 欲しいとか思ってないわよね?
恥ずかしい服を着たスージーと街を歩く……。
ないない。絶対にありえないわ。下品な河馬車と猥褻な服と妊婦だなんて、お願いスージーそれだけは本気で止めてちょうだい。
「レオナお姉様、顔色が優れないようですが大丈夫ですか?」
斬新とか奇抜とかとは違う気がする。そんな生易しい言葉で片付けてしまってはいけない気がする。
私の中で警報が鳴り響く。お店に入る前から私の羞恥心が悲鳴をあげている。
最早痴女痴漢の領域、このお店はへ、へ変態の。
「レオナお姉様?」
「レオナ、どうしたんだ?」
私の顔を心配そうに覗き込むミミリーとスージー。
「変態」
あっ……。
「「変態?」」
……あぁ―――。
「ミミリーが変な服ばかり口にするものだから、いったいどんなお店なのかちょっと不安になっただけよ」
「なんだぁー、てっきりミミリーに向かって変態って」
「なんで私なんですか? スージーお姉様の方がここの服似合うと思います」
「ん? それって私が変態だっ」
「私はそこまで言ってませんが、自分で言うくらいですし、それで間違いないと思います」
「変態だって言いたいのかって言い切る前に横槍を入れた癖に。……こうしてやる」
グリグリグリグリグリグリ
「ヒェェェェイタタタタタイタィイタィイタィイタィイタィ、やめ、やめて、やめてェェェェ」
ミミリーは、スージーのこめかみグリグリ攻撃をくらい楽しそうに悲鳴を上げながらジタバタともがき苦しんでいた。
ホント仲が良いわよね、目を離すと直ぐこれなんだから。……こんなに楽しそうにしてるのに、気分が乗らないからって私の我儘を押し付けてはいけないわ。そうよ。入ってみたら意外に良い服があるかもしれないし。そうと決まれば。
「店先で馬鹿なことやってなくて良いから、さっさと入るわよ、ただでさえ恥ずかしいのに………………。ホラッ」
ありがとうございました。