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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
ーガルネス編ー(傍観)
342/1227

5-28-3 異世界転移は、嵐の予感しかしない。③

 私達を乗せた大熊車(おおぐましゃ)は、ファフルを東西に二分する中央東大通り、中央大牧草公園、中央西大通りを横切り、西地区の第二地区と第九地区を南北に二分するデモール通りを抜け、百二十五番街にあるレストランへと向かっている。


 大熊車には、ミミリーとスージーと私しか乗車していない。

 偉そうな貸与医務官と女官は後方を駆ける大型河馬車(かばしゃ)で、偉そうな貸与騎士は取り囲む様に隊列を組み随行している。

 話を聞かれなければ、姉妹の団欒を邪魔されなければ、何だって構わない。



「あれはないわね」

「ですね」

「ミミリーもレオナもそう思うでしょう。あれに乗って帰って来た私を褒めて。拷問に絶えた私を褒めて」

「偉い偉い。わぁースージー偉い偉い」

「はい、スージーお姉様は頑張りました」

「……二人とも棒読み。少しは心を籠めなさいよ」



 メア王国一二諸侯区バフォメランド王国の王家一族アドゥバス家の家紋【黒漆(くろうるし)右角(みぎつの)緋眼(あけまなこ)焦茶(こげちゃ)(ひつじ)】(紫色の下地に、薄ら笑いを浮かべた焦げ茶色の羊の頭部、太くて大きな黒い右の角と根本から折れた左の角、赤色の目、折れた左の角を咥えた口)が描かれたごてごてと装飾過多で下品な贅の限りを尽くした河馬車(かばしゃ)で帰って来たスージー。


 スージーは、殿下からの手紙と下賜されたゴミを父ウィリッツに渡し、貸与された身なりの良い偉そうな男女二十五人を私達に紹介すると、足早に自室へと駆け込み、普段着へと着替えを済ませ鼻歌混じりで満面の笑みを浮かべリビングへと戻って来た。


 あぁそういうことね。華やかさを欠いたギンギンギラギラとド派手なドレスを一刻も早く脱ぎたかったのね。確かにあれはない。衣類にそれほどこだわりのない私ですら遠慮したい。全力を以て残念な一品だ。


「さぁミミリー。お姉様。シュバイネハクセを食べに行くわよ!!」

「は、え? スージーお()お嬢様は、今からま、街へ出られるのですか?」

「え? ミミリーは行かないの?」

「帰って来たばかりです……よ。それに御身体の方」

「おからだって、何言ってるのよ。五か月も先の話なのに、ベッドで横になっててください。おからだに触ります。とか、ミミリーありえないわ」

「そこまでは言ってません……が…………」


 戻って来るや否や私達をランチに誘うスージーにミミリーは危うく他家の者の前でいつもの調子で喋ってしまいそうになっていた。

 ミミリーには悪いと思うが、二人のやり取りを見ていると、ホッとする。

 言動も行動も何も変わっていないスージーを見て、少しだけ気持ちが軽くなった気がする。


「妃殿下。妃殿下は何の為に宮殿を御抜けになられたのか、お忘れになられてはおりませんよね?」

「そうよスージー。あなたは」

「当たり前でしょう。何の為に着替えて来たと思ってるの。それにちゃんとお姉様も誘ったじゃない。大丈夫よ、シュバイネハクセは逃げないから」

「静養ぇは? 何を言って」

(じい)大熊車(おおぐましゃ)をお願い。それと、騎士なら河馬車の手綱くらい握れるわよね。誰でも良いからあの下品な河馬車返しておいて」

「なっ、な、何を仰っておられるのですか? 大切な御体なのです、御自愛いただくのが当然ではありませんか」

「さっきから言ってるけど、産まれるの五か月も先なのよ。ご自愛ご自愛って、新手の呪詛か嫌がらなら今にも産みそうな別の夫人のところに行きなさいよ」

「殿下より妃殿下の筆頭侍医を仰せつかっておりますので、おいそれと他の妃殿下様方の下へは参れません」

「医務官が一人いなくなったくらいで誰も気付かないわよ。あの殿下がそんな細かいこと気にすると思ってるの?」

「ウグググ……そ、それに、それにです。妃殿下ともあろう御方が平民街へなど、有り得ません。あああぁぁぁなんと嘆かわしい、もしもこの事を殿下がお知りになられたらと思うとゾッとします。心優しく繊細な殿下は悲しみの余りきっと暴れていたでしょうな」

「そうね。それはそうと」

「あ、あの妃殿下?」

「それで、河馬車の手綱は握れるのよね?」


「我々は妃殿下と御子をお守りするのが任務です。申し訳ありませんがその命令に従うことはできません」

「できません」×12

「更に付け加えさせていただきます。我々は騎士です。御者ではありません。御留意願います」

「願います」×12


「……来る時っていったい誰が握ってたの?」


「妃殿下。私が御者を務めておりました」

「あなたが? あなた殿下のところの……」

「アグニーデと申します。妃殿下の身の回りのお世話をするよう殿下より仰せつかっております」

「ふーん。ならあなたに頼むわ。あの下品な河馬車返しておいて、頼んだわよ」

「え? で、ですが、移動はどうされるのですか?」


「聞いてたわよね? ご自愛ご自愛って言ってたじゃない。あの人、私の筆頭侍医らしいから聞いてなかったのなら確認してみるといいわよ。ここに来る時聞いた話けど、ご自愛中はベッドから離れてはいけないらしいから、置いておくだけなんて勿体ないでしょう。どうせあったって恥ずかしくて嫌だし。ねっ」

「あ、ですが……」


 貸与医務官と女官は顔を見れば誰かは分かる。けど、貸与騎士の方は皆同じ板金鎧を装備していて誰が誰だか分からない。見分ける方法は体の大きさ位かな。


・・・

・・


 スージーワールドを解除したのは、スージーに爺と呼ばれた我が家の執事だった。


「お嬢様はそれで宜しいのでしょうか?」

「……爺、分かるように話てちょうだい」

「はい。お嬢様が輿入れされ、彼是六週間程経ちました」

「そうね。それで」

「例の店の近くに最近話題になっている仕立て屋があります」

「もっと詳しく」

「斬新なデザインが面白可愛いと評判なんだとか。マタニティなどもそうですが、数着……オーダーメイドを」

「それよそれ。今の私に思いっきり足りていない物はまさしくそれよ。その話、のったわっ!!!!」


「お、おい貴様。たかだか男爵家の使用人風情がアドゥバス王弟家の筆頭侍医(ひっとうじい)でもある私の優秀克適格な医学的判断を、いったい何のつもりだ。妃殿下の実家だからと黙って聞いていたがもう我慢できん。おい。そこの騎士。その男を不敬罪で処刑しろ」

「我々は妃殿下と御子をお守りするのが任務です。申し訳ありませんがその命令に従うことはできません」

「できません」×12


「何だと!? 私は、アドゥバス王弟家の筆頭侍医であり妃殿下の筆頭侍医でもあるのだぞ」

「存じております」×13

「ウグググ……もういいっ。だったら誰か剣を貸せ」

「お断り致します」×13

「王家より賜った剣は我々の心魂。大切なことですので今一度申し上げます。お断り致します」

「お断り致します」×12


 ミミリーとスージーのやり取りも面白いけど、貸与されて来た人達もなかなか良いセンスしてるかも。


「何なんだここは、石ころ風情が猿のように喚き散らし、わ、わ、私は」

「医務長殿、落ち着いてください。才ある社会的強者の私達が相手をするまでもありません」

「そうです。家の中で女の真似事そしてるような男と、戦うしか能の無いような肉の塊を医務長殿が相手にする必要はありません」

「う、うるさい。そんなことくらい分かってるわ。お前達は私の指示に従っていれば良いんだ。分かったか!!」

「「はい」」


・・・

・・


「勘違いされているようなので申し上げます。医務官殿は先程から不敬罪だと騒ぎ立てておりますが、この状況で不敬罪が成立するのは医務官殿です」

「は?」

「我々は日々の訓練によって、人が内包する悪気(あっき)や呪術力を感知しその大きさを漠然とではありますが測定することができます。呪術力とは一億年以上を生きて来られた方々にのみ内包する力です。そちらの吾人は大きさから判断するに十億歳を超えています」

「まさか…………エルダーオウィス。実在する訳が……ない」

「い、医務長殿、医学的にあ、ありえません。嘘に決まってます」

「そうです。寿種(ことぶきしゅ)は架空の存在です。神話や伝説の中の話です」


「おや。寿種とはまた懐かしい言葉をご存じですね。寿種は架空の存在ではありませんよ。そうですねぇー、例えば皆さんが良く知る偉大な御方、メア王サザーランド陛下がそうです。因みに、私は偉大なる寿悪魔種族の皆々様がご活躍されていた時代始祖期の末期に生を受けた若輩者の慶種彼等の子の世代にあたります」

「え、あ、あ―――ほ、誉高きエルダーオウィス様にお、お会いできましたこと誠に恐悦至極であ、ありまして、光栄で存じたてたて……さ、先程までの御無礼平に平に御容赦ください。お願い致します。その広い御心を以て何卒平に平に御容赦くださいませ」

「私の本意ではありませんでした。医務長殿、そうです医務長殿にも悪気(わるぎ)はなかった思います。ですので、医務長殿も謝罪し反省しておりますので、何卒何卒穏便に」

「私は寿種や慶種に興味があります。詳しくお聞かせ願えないでしょうか?」

 土下座を始めた医務官と、蚊帳の外だと勘違いしている医務官と、最早別次元にいる医務官。


「短毛で茶と黒のマーブル。口ぶりから察するに貴男はジェンダーベン家の者ですね?」

「はい。僭越ながら名を名乗らせていただきます。私は、ゲルヒンクライン・ブランリーグ・ジドーベル・ザド・ジェンダーベン。現ジェンダーベン伯爵家の当主の叔父にあたります。アドゥバス家の筆頭侍医を八百年程務めております。彼等は私の部下で、ゴアド医務官とデアーダ医務官です」

「ゴアド・ザド・ダイエイッグ。ダイエイッグ子爵は私の伯父です」

「宜しくお願い致します。私はデアーダ・エンズガード。父は考古学者、母は呪術師、姉は男爵家に嫁ぎ無職、もう一人の姉は本当は兄なのですが女としてウェディングドレスを夢見ています。弟とは父から偶に手渡される書籍に記された神話や伝説を議論する。そんな幼少期を過ごしていました」


・・・

・・


「長くなりそうね。爺、先に大熊車をお願い。シュバイネハクセを食べたあとで寄るから、手配しておいてね」

「ランチの後で宜しいのですか?」

「え、お腹空いてるし」

「ちょっとスージー」

「何よレ、お姉様」

「服を新調するのよ?」

「あ―――――……今回はマタニティだけにしようかな」



「着いたわね。さぁミミリー勝負よ」

「シュバイネハクセを食べに来たんじゃ……」

「ノルマは三個だから四個目からが勝負ということになるわね。ウカウカしてはいられないようだし、分かったは私も本気を出させて貰うわ。覚悟なさいミミリー」

「が、……頑張ります」


「ちょっと何やってるのよ二人とも。私しかいないのに店員に三人です。って言っちゃったじゃない。店先で馬鹿なことやってなくて良いから、レストランにさっさと入りなさい。ホラッ」

ありがとうございました。

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