1-23 スチューピッドダンスと、被害者達。
作成2018年3月22日
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【タイトル】 このKissは、嵐の予感。
【第1章】(仮)このKissは、真実の中。
1-23 スチューピッドダンスと、被害者達。
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――― ロイ 鉱山 坑道内の秘密基地
――― 6月3日 18:20
「ニーナ様。大変です」
「どうしたのですか?」
「侯爵邸を脱走したエーギンハルト・ヘンデル士爵様が、商人商家協会に匿われているとして、街中の貴族領軍私兵隊が出動。商人商家協会に集結しているとの事です」
「あの侯爵邸から脱出?流石はエーギンハルト・ヘンデル士爵様だ」
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「英雄ロイク殿。これはどういう事でしょうか?」
「向こうから仕掛けて来たのかもしれません。俺達も計画を急いだ方が良さそうですね」
「はい」
「ニーナ様。エーギンハルト士爵様を助けに行きましょう」
「ダメです・・・ロイ中の貴族領軍私兵隊が動いているのですよね?」
「ニーナ様!?」
「何か悪い予感がします」
「・・・悪い予感ですか?」
「そうです。現侯爵がエーギンハルトの名を使い、私達を誘き寄せ一網打尽にしようと、罠を仕掛けて来たのかもしれません」
「女の身体にしか興味の無い侯爵に、この様に手の込んだ事が出来るでしょうか?」
「現侯爵には無理でも、周りに優秀な人材は幾らでもいるでしょう」
「・・・確かに」
「私達は常に冷静である必要があります。勝手な行動はくれぐれも慎む様にしてください」
「分かりました。皆に徹底する様に伝えて来ます」
炭鉱夫擬きは隠れ家の一室を後にした。
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「あ、あのぉー・・・」
「どうしました。ペレー」
「ニーナ様に確認しておきたい事があります」
「何でしょうか?」
「はい、例えば、・・・そう願っていますが・・・侯爵を侯爵から引き摺り下ろした後、ブルーノ・ブオミル様が新しい侯爵様になった時に、サンドラはどうなってしまうのでしょうか?」
「と、言いますと?」
「あの侯爵の関係者として処刑されたりはしないですよね?」
「そんな事はありえません。私達は、誰かを殺して、誰かが責任を取って終わりといった、未来を望んでいる訳ではありません」
「ですが・・・サンドラも、サンドラの前に犠牲になったヴェロニカさんも、あの・・・あの馬鹿野郎の子供を・・・」
「問題は現侯爵なのです。サンドラが自由を失う事などありえません」
俺は、2人の会話を聞き、1つの疑問を覚えた。
「あのぉ~1つ聞いても良いですか?」
「英雄様・・・」
「英雄ロイク殿?」
「アルヴァ・ブオミル侯爵様は、夫人2人に、愛人が30人以上居るんですよね?」
「把握している限りではそうです」
「更に、自殺したり、逆らったとして処刑された女性が、沢山居る訳ですよね?」
「はい」
「夫人になった女性と、愛人のままの女性と、一刻の慰み者として遊ばれ自殺したり処刑された女性の違いって何なんでしょうか?」
「あの侯爵が考える事です・・・馬鹿の思考など・・・」
「う~ん。あれだけ沢山の愛人が居るのに、ヴェロニカ様やサンドラ様は、正式な手続きを踏み夫婦として、第一夫人第二夫人なんですよね?」
「英雄ロイク殿。夫人と愛人の違いに何かあるのですか?」
「アルヴァ・ブオミル侯爵は自分自身が愛人と前侯爵様との間に生まれた非嫡出子ですよね?」
「そうです。ですから、嫡出子であるブルーノこそ正統なのです」
「ふむ・・・」
『ねぇ、ロイク。夫婦だから子供が出来る訳ではないでしょう』
そうですね。
『夫婦だからといって、必ずしも愛し合っているとは限りませんよね?』
・・・神様に誓う訳ですよね?
『人間種って自分勝手な割に、良く分からない時に神様を口にするわよね?』
どういう意味ですか?
『フフフッ。そのままの意味よ。それに、母親を目の前で殺されたのでしょう?大切な人を奪った人を心から愛せる女性なんて居ないと思うわよ。私は人間種では無いから断言して良いのか不安はあるのだけれど、私なら絶対に愛せないはね』
全てが犠牲で成立しているって事ですか?
『それはどうかしらね。フフフッ』
喜んで命令に従う者や、自ら進んでアルヴァ・ブオミル侯爵様の傍に近付く者もいるはずだ。だとすれば・・・
『ねぇ、ロイク。ロイクが考えている事は、ここの領主の一族や住民の人間種が判断する事よね?』
あ・・・確かにそうですね。
『考え過ぎよ。私達は部外者なのだから、気楽に新婚旅行を楽しみましょう』
気楽に新婚旅行ですか・・・
『そうよ』
新婚旅行はともかく、気楽にやってみます。ありがとうございます。マルアスピー。
『フフフッ。夫を支えるのは妻の努めですからね!』
・・・・・・よしっ!
「ニーナ・ブオミル様。決めました」
「な、何をでしょうか?」
「権利や法律によって許可されている事は、間違っている事であってもそれは合法なので、どうする事も出来ませんが、違法な事を行った証拠がある場合は、アルヴァ・ブオミル侯爵様であろうと正統主義派であろうと、俺は容赦無く拘束する事にします」
「は、はい」
「まずは、手始めに、予定通り計画を実行させましょう」
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――― ロイ 商人商家協会の周囲
――― 6月3日 19:07
「報告します」
「うむ」
「商人商家協会の包囲が完了しました」
「それでは、作戦を開始する」
「はっ!」
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「諸君。我々はロイ貴族領軍私兵隊である。現在、商人商家協会は我々によって完全に包囲されている」
「貴族領軍私兵隊の隊長殿!こ、これはいったい何の騒ぎですか?」
1人の男が商人商家協会の正面口から出て来て、貴族領軍私兵隊の隊長の元へ駆け寄る。
「副協会長か!協会長殿はどうしている?」
「協会長でしたら、ルシア・ブオミル様からの呼び出しを受け、不在でございます。それで、これは何の騒ぎでございますか?」
「昨日、総合案内所で拘束され、身柄を侯爵邸に移送されたエーギンハルト・ヘンデル士爵が、どの様な方法でなのかは知らないが、侯爵邸から逃走した。商人商家協会に入る姿を目撃した者が複数います。身を隠している可能性も、匿われている可能性もあります」
「私は1階のロビーにおりましたが、今日はエーギンハルト・ヘンデル士爵様を見かけてはおりません」
「そうか。エーギンハルト・ヘンデル士爵の身柄を拘束するまで、副協会長は建物の中に戻る事は出来ませんのでそのつもりで」
「分かりました。商人商家協会として、全面的に協力しますので、関係の無い協会員達を、早く建物の外に避難させてください」
「そのつもりだ。認証班は正面入り口に展開。商人商家協会の中から出て来る者の身分を確認し、エーギンハルト・ヘンデル士爵でなければ通して良い」
「はっ!認証班は行動開始」
「認証班は行動開始」
「はっ!」
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約1時間経過
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「隊長。商人商家協会内から避難して来た者の確認作業が終わりました」
「うむ。御苦労・・・エーギンハルト・ヘンデル士爵は中に隠れているという事か・・・」
「確認した中には居ませんでした」
「低音銅鑼を60回。叩き終えるまでに出て来る様に、投降を促せ。反応が無い様であれば、全ての入り口より突入を開始しろ」
「はっ!」
「投降の機会を与える!・・・低音銅鑼を60回叩き終えるまでに、両手が見える態勢で、正面口より出て来なさい」
「い~ち ボワァ~ン」
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「に~ぃ ボワァ~ン」
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・
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・・・
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・
・
「ごじゅ~うきゅ~う ボワァ~ン」
・
・
・
「ろくじゅ~う ボワァ~ン」
「反応はありません」
「突撃の合図を出せ」
「はっ!」
「突撃の合図を上げろ」
「はっ!」
≪シュッ ヒュ―――― バン バン ババン バン バン ドゴォ~~~~ゴゴゴゴゴン
「何だ今の衝撃音は?」
「隊長、鉱山の方からだと思われます・・・」
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・
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「な、何が起こったのだ?至急確認させろ」
「はっ!」
・
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――― ロイ 鉱山の出口と入口
――― 6月3日 20:20
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「ニーナ様。坑道の数か所で爆発が起きた模様です」
「爆発が収まり安全確認が済むまで、専門家以外の坑道への出入りを禁止すると、鉱山管理事務所が決定したそうです。鉱山労働者達が避難を開始しています」
「エーギンハルト・ヘンデル士爵様が侯爵に喋ったとは考え難い事ですが、もし侯爵側にここがバレていたとしてたら・・・」
「えっと、皆さん・・・悠長に構えてる時間は無さそうですよ」
俺は計画通りに事を進める為、正統主義派の男達の会話を遮った。
「英雄ロイク殿!英雄殿の力で何か感じるのですか?これは大変な事になってしまった様です」
ニーナ・ブオミル様はとっても上手な三文芝居で、俺を援護してくれた。
「えぇ・・・」
芝居じみてて・・・
『楽しそうね』
・・・
「俺の警戒索敵探索調査スキルに、高山闇爪大魔熊という魔獣の反応が数匹ありました」
「なんと、どうしてこの様な場所に、そんな危険な魔獣がぁ~!」
「英雄殿!高山闇爪大魔熊が坑道で暴れているのですか?」
「その様です」
「・・・・・・。ニーナ様。ここに居ては危険です。我々も坑道から避難しましょう」
「そうですね。あんな危険な魔獣が暴れている何て、ここは英雄ロイク殿に御任せて、私達は避難する事にしましょう」
「はい。・・・英雄殿。暴れている魔獣は我々が侯爵に対抗する為、飼育していた魔獣です。申し訳ございません」
「あ、いえ・・・」
本当は、俺の精霊火属性魔法で爆発を起こして、精霊地魔法と精霊風魔法で適当に砂埃を巻き上がらせてるだけなんです。ごめんなさい。
「ニーナ様。我々は非常通路を使って、奴隷商地区へ移動しましょう」
「そ、それは名案ね。私達は急いで避難しましょう」
「はい」
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・
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正統主義派の人達は、全員非常通路から奴隷商地区へ向かって行った。
さてと、戻って来られると面倒だから、この通路は塞いでおくか。精霊地属性下級魔法【ラピス】自然魔素:清澄地属性レベル1。発動≫
通路の上に大きな岩が出現し通路を塞いだ。
通路を塞ぐ程度の岩を出す予定だったんだけどなぁ~・・・
『集める魔力量の調整が必要よね。1を100等分する癖を付けるとか』
そうですね。時間がある時に練習します。
『そうね。フフフッ』
さてと、次は坑道に魔獣を召喚するとして、東モルングレー山脈に生息している魔獣を200・300匹適当に。
『人間種達の注意を鉱山に向けさせる事が目的ですよね。もっと盛大に召喚しても良いと思いますよ』
確かに・・・。出来れば貴族領軍私兵隊やJOB・BT&LBTの人を、ここに釘付けにしたいですからね。1000匹位ドーンと召喚しちゃいましょう。
可視化:鉱山と鉱山よりの東モルングレー山脈の地図と魔獣を赤で表示。
≪・・・表示しました。
う~ん・・・弱い魔獣だけにするけど、念の為に!
【サンミュール】レベル5。場所:タブレットに表示中の鉱山の出口と入口。人相手じゃないからちょっと工夫して、条件:坑道から内側から外に対して結界。人間の通り抜けを許可。結界を通り抜けした人間に対して【サンミュール】レベル1の1000分の1を付加。こんな感じで良いか。発動≫
【転位召喚】対象:タブレットに表示中の【軍隊地魔蟻】【瘴魔土蜘蛛】【穴魔鼠】【魔毒鼠】【大魔蠍】【地ジュルム】【連隊土豚】。場所:鉱山の出口と入口近辺の坑道に適当に召喚。 発動≫
避難が完了し蛻の殻となった坑道内に、【軍隊地魔蟻】コロニーを2つ召喚してしまった様で13199匹。【瘴魔土蜘蛛】106匹。【穴魔鼠】354匹。【魔毒鼠】37匹。【大魔蠍】19匹。【地ジュルム】461匹。【連隊土豚】485匹が出現した。
魔獣達の総計は、14661匹だ。
さて、次は・・・。出荷広場の貴族領軍私兵隊派出所周辺の地図と人間を青で表示。
≪・・・表示しました。
兵士が誰も居ないや・・・【フリーパス】移動≫
・
・
・
――― 出荷広場
貴族領軍私兵隊派出所の鳩小屋
――― 6月3日 21:32
えっと・・・?足に紫色の飾りを付けたのが侯爵邸に飛ぶ鳩って言ってたよな・・・
『ねぇ、ロイク』
ごめん、後にして貰えますか。ちょっと鳩の数が多くて・・・
『その事なのだけれど、どうせなら盛大に人間種の結婚式の様に、鳩を飛ばしましょうよ。全ての鳩に手紙を付けて飛ばしてしまえば良いのよ』
あっ!ナイスアイデア!そうしましょう。その方が面倒が無くて良いや。
『フフフッ』
【マテリアル・クリエイト】手紙用の紙を創造。えっと個数は・・・1羽、2、3、4・・・23羽。23枚。この手紙の内容を全ての紙に複製。場所:目の前の連絡鳩の足に気付いた人間が解く事が出来る程度に固定。心象を強く描いて・・・発動≫
・
・
・
さぁ~皆、届けてくれよ。行けぇ~
≪バサバサバサバサ
23羽の連絡鳩が出荷広場の貴族領軍私兵隊派出所の鳩小屋からロイの空へと飛び立った。
――― ロイ貴族領軍私兵隊
北貴族領軍私兵隊詰所
東貴族領軍私兵隊詰所
――― 6月3日 21:40
事務方が配属されている警備部、本部、詰所。その中でも出荷広場派出所から比較的近い場所にある、北と東の貴族領軍私兵隊詰所が、連絡鳩から緊急事態を知らせる手紙をほぼ同時に受け取った。
――― 北
「なっ!何だと・・・出動の最中に・・・」
「事務長。出荷広場からは何と?先程の爆発の件ですか?」
「坑道内に、1000匹から4000匹以上の魔獣が大量発生。その中にあの高山闇爪大魔熊が混ざっている可能性があるそうだ」
「よ・・・4000以上?警備部と本部。王国軍と冒険者冒険家協会に大至急連絡鳩を飛ばします」
「急げ!」
「はっ!」
――― 東
「た、大変です。先程の鉱山方面での爆発は、魔獣の襲撃によるものと思わます」
「魔獣だと?」
「はっ!出荷広場の派出所より緊急の報告が届き・・・」
「治安部隊も警備部隊も出動中です。手紙の内容は?」
「はっ!坑道内に1000匹から4000匹以上の魔獣が大量発生。高山闇爪大魔熊の目撃あり。坑道内の数か所で爆発と火災が発生。労働者や関係者の避難は完了しているとの事です」
「坑道内に何処からそんな大量に・・・」
「事務長。本部に確認の鳩を飛ばしましょう」
「そ、そうだな。本部の指示を待つ事にしよう」
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――― ロイ 侯爵邸 鳩小屋
――― 6月3日 21:45
1人の男が、連絡鳩から手紙を外し、内容を確認している。
「坑道に4000匹以上の魔獣だと?・・・ううむ、アルヴァ侯爵様へ報告した方が良いか・・・」
鳩が2羽。小屋へ到着した。
男は、連絡鳩から手紙を取り外し、内容を確認する。
「ん?同じ内容ではないかっ!・・・・・・こっちもだ!・・・黒」
≪スゥー
「はっ!」
「黒を冒険者探検家協会に登録している冒険者として鉱山に向かわせなさい。目立つ行動は慎む様に、それと私も後ほど確認しに行きます」
「はっ!」
「行け」
「はっ!」
・
・
・
――― ロイ 侯爵邸 趣味部屋
――― 6月3日 22:00
≪トントン
「アルヴァ様。こちらだとお聞きしました。いらっしゃいますか?」
「うん?何だ!」
「鉱山の坑道に大量の魔獣が出現。労働員は避難が完了し被害は出ておりません。ですが、坑道内は爆発と火災。魔獣達に埋め尽くされているとの事です」
「そうか」
「・・・アルヴァ様の御命令により、貴族領軍私兵隊は事務方を残し全軍で、エーギンハルトを拘束する為、商人商家協会を包囲中です」
「だから何だ!僕は彼女達とやる事があって忙しいのだ。手短に言え」
「はっ!貴族領軍私兵隊に出している現在の命令を一時的に凍結し、新たに魔獣殲滅の命令を発令しください」
「お前に任せる勝手にやっておけ」
「命令の凍結命令には、アルヴァ様のサインが必要です」
「勝手に書いて良いぞ」
「執務室に重臣達を招集してあります。命令凍結の命令書にサインし新しい命令の発令をお願い致します」
「・・・誰が決めたんだそんな決まり」
「領主の義務と権利として王国法によって定められております」
「チッ・・・面倒な・・・」
「侯爵様ぁ~、行かないでぇ~・・・」
「直ぐ戻るからねぇ~」
「えぇ~~イヤァン」
「ロック。お前も来い!行くぞ」
「はい」
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――― ロイ 侯爵邸 執務室
――― 6月3日 22:10
「これで良いか?」
「はい」
≪トントン
「報告します」
「何だ」
「北貴族領軍私兵隊詰所より、坑道に1000匹から4000匹以上の魔獣が出現。その中には高山闇爪大魔熊の姿もあるとの事です。警備部、本部、騎士団、冒険者探検家協会に対し、魔獣流出を阻止する為協力を大至急要請するとの事です」
「4000以上・・・?」
「今日の屋敷の警備担当以外は、警備部の兵士を全員鉱山に出陣させろ」
「はっ!」
「アルヴァ侯爵様」
「まだ他に何かあるのか?私は忙しいのだぁっ!」
「侯爵邸の警備が手薄になりませんか?」
「普段通りの数は残ってる。何かあったらお前達も剣を持って戦え。何の為に僕の周りに居るんだ」
「は、はぁ~・・・」
「僕は、忙しい。片付いたら報告しろ」
「は、はい」
「ロック。戻るぞ」
「はい」
・
・
・
――― ロイ 商人商家協会の周囲
――― 6月3日 22:00
「まだ、見つからないのか?」
「まだの様ですね」
「さっきの爆発音。煙も火事にしては左右で離れ過ぎている」
「報告します。協会内を捜索していますが、地下1階、2階。地上1階、2階、3階何処にも、エーギンハルト・ヘンデルの姿がありません」
「もう1度探せ」
「はっ!」
・
・
・
「本部より緊急緊急」
≪パカッ パカッ パカッ パカッ
「本部より緊急緊急」
「隊長。高速馬の様です」
「街の中で高速馬だと・・・」
「緊急です」
「どうした?」
「緊急報告します。鉱山坑道内に4000匹以上の魔獣が出現」
「4000?・・・4000だと!」
「はっ!避難は完了しているそうです。坑道への出入り口は、鉄の扉で出来ていますが、いつ破られてもおかしくない状況との事です。消火チームが編成され鎮火に向かおうとしたそうですが、坑道内は爆発と火災による粉塵により視界がわるく断念。各方面からの報告によりますと、魔獣の中には高山闇爪大魔熊の姿が確認されているそうです」
「な、何が起きているんだ・・・」
「た、隊長。貴族領軍私兵隊の戦闘部隊は全軍ここに集結しております。包囲と捜索の兵士を残し魔獣の殲滅に向かった方が良いのではないでしょうか?」
「そ、それは出来ん。分かっているだろう・・・この任務は全軍で士爵エーギンハルト・ヘンデルの身柄を拘束しろという領主令だ」
「で、ですが・・・街の中に魔獣が侵入してからでは・・・」
「領主令に背いた物は、処刑される・・・処刑される事が分かっていて、兵士を坑道に向かわせる事は出来ない」
・
・
・
「早く、エーギンハルト・ヘンデルを見つけ出せ。突入部隊を倍にして協会内を隅々までもう1度だもう1度!意地でも見つけ出せ」
「はっ」
「副協会長。潜伏していそうな場所で、金庫は本当に捜索対象から除外して問題無いのだな?」
「はい。1人で金庫を開けらる事が出来る協会長は不在ですし、開ける手段としてもう1つありますが、その権限と手段を知っている私を含めた3人の副協会長は、今日は誰も顔を合わせていません。金庫の中に潜伏する事は、侯爵邸に侵入するよりも難しいでしょう」
「隊長」
「何だ」
「士爵エーギンハルト・ヘンデルは、その侯爵邸より脱走し、ここに潜伏しています。何らかの手段で金庫の中に入り隠れていてもおかしくは無いと考えます」
「鍵と暗証番号とIDが必要なのです。何らかの手段とは、私達が匿っていると言いたいのですか?」
「そういう意味ではありません」
「連隊長。副協会長は我々に協力してくれているんだ。気を付けて発言しなさい」
「はっ!申し訳ありません」
・
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・
≪パカッ パカッ パカッ パカッ
「領主令 緊急 緊急 最優先命令 最優先命令」
「ん?隊長!」
「次は何だ」
「また、高速馬の様です」
≪パカッ パカッ パカッ パカッ
「領主令 緊急 緊急 最優先命令 最優先命令」
「領主令だと?」
「はっ!御領主アルヴァ・ブオミル侯爵様の執務印による書簡です」
「うむ・・・皆の者、良く聞け。御領主アルヴァ・ブオミル侯爵様直々による書簡である」
「はっ!」
「attention・・・salute」
「はっ!」
「アルヴァ・ブオミルは、ブオミル侯爵領ロイ東モルングレー山脈南部鉱山坑道にて大量発生した魔獣殲滅の為、先侯爵令『士爵エーギンハルト・ヘンデル拘束』を一時凍結する。アルヴァ・ブオミルは、次にブオミル侯爵領ロイ東モルングレー山脈南部鉱山坑道にて大量発生した魔獣殲滅の侯爵令を発令する。本令は、ブオミル侯爵領領主アルヴァ・ブオミル侯爵に与えられた貴族権王国法により発令するものである」
「はっ!」(全軍)
「連隊長。隊を整えろ」
「はっ!」
「隊を2つの部隊に分ける。支度広場へは、支度広場派出所部隊、創生広場派出所部隊、東詰所部隊、本部南門警備部隊。指揮は本部治安警備部隊隊長に任せる」
「はっ!」
「残りの隊は、本部部隊と共に出荷広場へ移動する。点呼報告を確認後、速やかに全軍行動を開始する」
「はっ!」
・
・
・
――― ロイ 侯爵邸 正門
――― 6月3日 22:30
「我々、侯爵邸警備部警備隊は、これより出荷広場へ向かう」
「はっ!」
「坑道内へは、魔術部隊と得物の短い兵士が入り魔獣殲滅と消火活動を行う。他の者は出て来た魔獣の殲滅にあたる」
「はっ!」
「全軍全速前進!」
「はっ!」
――― 出荷広場
貴族領軍私兵隊派出所の鳩小屋
――― 6月3日 21:40
でもって、お次は・・・
可視化:ブオミル侯爵領ロイ駐屯騎士団事務所の見取り図と人間を青で表示。
≪・・・表示しました。
ジェルマン・パマリ子爵様達は、まだ会議中か・・・でも、騎士団にもアルヴァ・ブオミル侯爵様側の人間が居るかもしれないから、監察官執務室へ【フリーパス】移動。
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――― ロイ駐屯騎士団事務所 監察官執務室
――― 6月3日 21:41
「え?」
「あぁ・・・」
「ろ、ロイク君。突然どうしたんだね?」
「突然、転位で入室して申し訳ありません。皆さんにお願いしたい事があります」