5-25 ハイジィーさんの祖父母①
―――ガルネス神王国・カルーダ獣道
カルーダ湖まであと2Km
R4075年9月25日(風)19:40―――
ハイジィーさんの祖母に会う為、ハイジィーさんとリュシルと俺は西ガルネス神森林のカルーダ獣道へと移動した。
サクサクっとスピーディーに移動したい。スキルを何度も発動させるのは正直面倒臭い。世の中ははっきり言ってそんなに複雑じゃない。簡単な理由が絡み合いそれっぽく見えちゃってるだけだ。
という事で、ハイジィーさんを俺のパーティーに登録した。「手っ取り早く理外の民にしてしまえば良いね」と無責任にもフォルティーナは言い放ってくれたが、「ロイーナの条件覚えてますよね?」と一蹴しいつものように流した。「本当にそれで良いのかね?」とニヤニヤと残念な顔でフォルティーナがいつも以上にしつこく絡んで来たが、「確認して来いって言っておきながら邪魔ですか。サクッと終わらせて家に帰りたいんで、もう行っても良いですかね」「うんうんだね。さっさと行ってくるね。…………あたしはそれで構わないね」
神授スキル【フリーパス】の発動と同時にフォルティーナが何か喋っていた様だが、いつもの脱線だろうから気にしないことにした。
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カルーダ獣道。獣道と書いて獣道と読むのは何故だろう。ちょっとだけ疑問に思ったが家に早く帰りたかったのでスルーし今に至る訳なのだが……。
「草、ほとんど生えてませんね」
「随分と背丈の高い木ばかりではないか」
「ですね」
どの木もだいたい二〇〇メートルってところか。
「この辺りの森は、西ガルネス神森林のカルーダ湖畔域と言って、聖域の傍にあります。ガルネス神王国で森と言ったらここカルーダ湖畔域が最も有名なのです」
リュシルと俺が高い木を見上げていると、ハイジィーさんが簡単な説明をしてくれた。
「なるほどのぉ~。旦那様よここは面白いのぉ~足が埋まってしまう程の枯葉の絨毯が一面に広がり道など何処にも見当たらぬではないか」
「ですね」
少し強く踏み込んでみる。
ちょっと踏み込んだだけで二〇センチメートルもか。
「妾も、えいっ……おおぉぉなかなかに気持ちが良いのぉ~、のぉ旦那様もそうは思わぬか」
「なんとなく浮いてる感じがしますね」
「それじゃっ、それ。浮いてる感覚に似ておる。だが妾としてはもう一つ推しておきたいと思う。ベッド。ここはめくるめく官能の世界シーツの海。秋の夜長を肌寒い早朝の目覚めの一時を絡み合い温め合うのに相応しい。……ふむ」
饒舌に語っていたリュシルが言葉を止め思考モードに切り替わった。
「深いところだと五メートル。浅いところでも三メートルはあるそうです。因みにこの辺りは雪と氷の国ガルネス神王国にありながら雪が積もりません。降り積もるのはこの落ち葉だけなんです」
ハイジィーさんは、地面から枯葉を一枚拾い上げ左右に回しながら説明してくれた。
リュシルのことが気になり何となく聞き流してしまった。
「祖父母の家はもう少し湖寄ですので、歩きながらこの森のあるあるをもう少しだけ...... ......」
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「ハイジィーさん。かれこれ三〇ラフン程歩きましたが、まだ家には着かないんでしょうか?」
「兎。よもや迷ぉた訳ではあるまいか?」
「え、え、えっと……えっと、え、えっとですね。ゴメンナサイ、申し訳ございません。ありません。迷ってしまったみたいです。いえ、迷ってしまいました。も、申し訳ございません」
フカフカの枯葉の絨毯の上で五体投地するハイジィーさん。うん。やっぱり謝ってるようには見えないな。
タブレットの地図機能で目的地を検索する。
「ふむ。旦那様よ。二〇メートル圏内というより妾達は目的地の上に」
「重なってますね」
「も、申し訳ございません。ありません。お許しください。お、お願いします」
五体投地しながら大きな声で謝罪の言葉を繰り返すハイジィーさんと地図を見つめながら頭上にハテナマークを浮かべるリュシルと俺。
「家の外が騒がしいと思ったらハイジィーではないか。……それにお前さん達はぁ―――、……ヒュムでは、ないな」
振り向くと初老のモーヴェバニーが立っていた。
「リリス。にしては悪気がちと大き過ぎる。……お前さん達はいったい」
「俺は」
「お許しくださいませ。申し訳ございません」
「……えっと、俺」
「迷ってしまって申し訳ございません。お許しください」
頼むから喋らせて。
「ハイジィーお前は静かに出来んのか。さっきから家の前で騒がしいぞ。これでは話にならないではないか。あ? 話にならない以前にこの二人はお前の連れではないのか? 騒いでないで先に紹介せぬかっ!!」
「えっ!? あっ! お祖父ちゃん。お祖父ちゃんがいます。お祖父ちゃんです。お、お、お祖父ちゃん私をお家に連れてって、く、だ、ざ、いぃ―――――」
「こ、こらっやめんか。ズボンを引っ張るな。脱げてしまうではないか。やめ、こら」
五体投地からの瞬間移動。ハイジィーさんは初老のモーヴェバニー改め祖父の膝に飛び付き力強く服を引っ張り続けていた。
「お家に」
「目の前にあるだろうが。お、おいこら」
ありがとうございました。