5-22 ランドリート⑦ ~悪気・弐~
このような新年ではありますが、あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。
「ここだね。挨過ぎて見つけるのに苦労したね。……ふぅ~……今日もまた良い仕事をしてしまったアタシにはもう温泉に浸かりながら熱燗でキュっとやる未来しか残されていないね」
フォルティーナは、絢爛豪華な大豪邸の庭に隣接する演習場と放牧地の境界を示す境界杭の隣に三段で積まれた黒光りした平らな石の前で立ち止まり、何か自己完結している。
言いたい事は、今日も山ほどある。……が、我慢しよう。
「二時間強も俺達を連れ回して見つけたってのは、その石とか言わないですよね?」
「そ、そ、そん、そんな何処にでも転がってる様な石を見つける為に私は縛られ……あっ」
「ひ、姫様っ! お気を確かに」
「………あ……えっ、私はいったい何を…………」
「神フォルティーナ様。お願いします。姫様にお与えくださりました神命も私が引き継ぎます。ですので、姫様を、姫様を解放してください」
「ハイジィー、お前はいったい何を言ってるね。その不躾なキャスパリーグは、この特異な環境下にあって最も順応し恩恵を受けてるね。いつまで寝ているつもりかはしらないがだね。そこの不敬なキャスパリーグより優秀だね。だがしかしだね。足りないね。だからこそ心を鬼にしてランドリートの住民を皆庭に集めたね」
ランドリートに滞在する全てのノルテールノーンに白昼夢もとい神授を正確には啓示を強行し、庭に集まるように命令し、何を始めるのかと思えば。…………石探し。いったいこいつは何をしたいんだ。
「姫様に逃げる意志はありません。ですのでせめて拘束だけでも」
いやいやいや、逃走する気満々でしょう。……フォルティーナを相手に三度目の正直とか無いんで諦めて従った方が速いですよ。
「そ、そうです。私を誰だと思っているのですか、私はガルネス」
「うるさいね。少し多めに黙ってるね。分かったかね」
「「は、はい……」」
少し多めってどの位だよ。
「あのぉー、お話し中のとこ申し訳あらへんのどすけど、それ、食事の際に椅子替わりに使うてるうちが積んだ石どすえ」
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「この腰掛石が悪気の正体だった訳ですか。……うん? あれ? ちょっと待ってください。おかしくないですか?」
「何がだね」
「あっおい様の草庵、神殿は三六一年前ですよ。ですが、ノルテールノーンえっと流れ人でしたっけ?」
「爾後の民どすえ」
「どっちでも構わないぞ」
どっちでも良いって、それ、一番困るパターンなんですよね……。
「ありがとうございます。あぁー、彼等は旧教が組織される前からこの世界に居た訳ですよね。この腰掛石では無理がありませんか?」
「挨過ぎてとは言ったね。だがだね。ロイク、それはあたし達神の基準での挨だね。一塵法界だね」
「まだ一応人間のロイク。遊びの女神はつまりこう言いたいんだぞ。人間の眼では見ることも認識することもできない挨一塵もまたここコルト下界のように一つの世界が備わっていて影響し合っているんだぞ」
で?
「つまりどういうことですか?」
「凄いってことだぞ」
あぁ―――もぉっ。……説明になってないし。
「ロイク、この石を良く視るね。たいへん良く使い込まれた美しい曲線だね。これが、三〇〇年や四〇〇年で出せると本気で思っているのかね」
「は、はぁ~」
腰掛石を見やる。
「悪狼神に問おう。この美しい曲線は年々物だね」
はっ? 俺は?
「そうどすなぁ~……五〇〇〇、五八〇〇、六〇〇〇年くらいでっしゃろか」
「分かったかね。ロイク。そういうことだね」
……想像はつく。どうせ残念な顔で俺を見てるだけだ。何も言わずに黙って腰掛石を見ていることにしよう。
「ホラ、さっき、五分も離れるとめんどいって。そやさかい、三六一年前に引っ越したんどす」
あぁ~なるほどね。
「そういえば、悪狼は、エグルサーラにも庵を構えていたぞ」
へぇ~エグルサーラに草庵を、エグルサーラに!?
「えっ、エグルサーラにですかっ! って、凄く気になります。あっ……今は我慢します」
「……我慢するようなこととちゃうと思いますえ。けど、それでええならうちはかまへんよ」
「懐かしいぞ。あの島はでかいだけで不味くて食えたもんじゃないのが入れ食いで、良く悪狼と愚痴ったぞ。キューン キューン」
あぁ~あの巨大な魔獣達のことか。あれって食用に出来たのか?
「そうどすなぁ~……、懐かしいどすなぁ」
「キューン キューンだぞ」
「それで、お前達はさっきから何が言いたいね。人と話をする時は短く分かりやすく丁寧にと教わらなかったのかね。これだから最近の存在はなってないね。まったくだね」
……なんだろう。この胸に痞えるモヤモヤは。
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「あっおい様が腰掛け食事すること六〇〇〇年。そのおかげでランドリートには心地の良い悪気が戦いでいる」
「それだけではないね」
「まだほかにあるんですか?」
「当然だね。皆、あたしに着いて来るね」
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「これって肥溜め池ですよ」
「安心するね。あたしにもそう見えるね」
「し、信じられませんわ。王族の私をこ、このような場所に」
「うるさいね。肥溜めを前に神も精霊も無いね。黙って見ているね。さっきあたしに忠誠を誓った騎士三人こっちに来るね」
「「「はっ!!」」」
三人の騎士ことチュイチョイ、ムンペトンペ、ミチュマチュは、フォルティーナのもとへ駆け寄り跪いた。
「この池の底の何処かに悪気を増幅している何かが埋まっているはずだね。今すぐ探すね」
「「「え?」」」
「返事は、「はい」か「はっ」だね。分かったかね」
「「「はっ」」」
「フォルティーナ、肥溜め池は四つありますよ」
「安心するね。あたしにも四つ見えているね。不躾なキャスパリーグ」
「は、……はい。神フォルティーナ様、わ私にあの騎士達と同じことを……」
「それでも構わないね。だがしかしだね。あたしとしてはそこで呑気に惰眠を貪る不敬なキャスパリーグに」
「お、お任せください!! 今すぐ叔父上を叩き起こしてご覧にいれますっ!!! ハイジィー」
「はい、姫様」
「何本使っても構いません。叔父上に最高級の回復薬を」
「かしこまりました」
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「ここは、臭いね」
フォルティーナの一言で俺達が解散した後も四人は神命に従い肥溜め池を浚い続け、三時間後、悪人族の騎士ミチュマチュが池の底から発見した物。
それは、片足の靴下だった。
ありがとうございました。




