1-22 タイトロープ士爵と、連絡鳩。
作成2018年3月21日
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【タイトル】 このKissは、嵐の予感。
【第1章】(仮)このKissは、真実の中。
1-22 タイトロープ士爵と、連絡鳩。
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――― パマリ侯爵領コルト
――― ジェルマン・パマリ子爵邸 客間
――― 6月3日 16:43
俺と、マルアスピー様、パフさん、アリスさん、ロメインさん、リックさん、ルシア・ブオミル前侯爵第二夫人様、ニーナ・ブオミル様、ブルーノ・ブオミル様。俺達9人は、アルヴァ・ブオミル侯爵、エーギンハルト・ヘンデル士爵、そして正統主義派について、情報を出し合い今後の計画を話し合った。
俺と、マルアスピー様、パフさん、アリスさんは、他領の者としての立場を明確にした事もあり、5人の計画をサポートする役に徹する事になった。ただ、【フリーパス】【タブレット】【聖属性魔法各種】等々、俺のスキルに限りなく依存した物であり、関与を追及訴追された場合、否定したところで、言い逃れる事など不可能な次元でのサポート役だ。
「計画に移る前に、シャレット家からブオミル侯爵家の皆さんに贈物があります」
「贈物ですか?」
「はい、現状では特に役立つ装飾品と言いますか武具です。捕らわれの身になる前に、渡せていたら良かったのですが・・・」
可視化(現時点でのタブレットの可視化で、その時限りの許可が無くても視認可能な者は、マルアスピー・シャレットとパフ・レイジィーのみである)
≪・・・認証しました。
武具・装飾品:ルシア・ブオミル限定武具、ニーナ・ブオミル限定武具、ブルーノ・ブオミル限定武具・取り出し≫
≪優先命令。神授スキル【タブレット】を更新します。
え、今?
≪大幅アップグレード開始
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R4075年06月03日(水)時刻16:45
Kami ver.2.00 - 4075-6-1-9:31(前回)
DieuCréer ver.R.1.0.0
R4075-06-03-16:45(更新中)
SKILL & JOB との、誤動作競合回避。
マスターの創造力、想像力、心象力を補助。
快適ライフを提供します。
≫≫≫≫ ≫≫≫ ≫≫ ≫ 更新中
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『とても面白いタイミングね』
面白くありませんよ・・・
「今、出します。ちょっと待ってください」
「はい」
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・
≪WELCOME ≪女の子の可愛い声≫
≪I'm Ready
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R4075年06月03日(水)時刻16:57
DieuCréer ver.R.1.0.0
R4075-06-03-16:45(更新日)
共鳴認証更新の優先
取得SKILL&JOBの自動更新
第三者SKILL&JOB干渉時のバグを1部
解消しました。
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えっと、もう良いって事かな・・・
≪認証中の命令を実行します。
≪装飾品2点【厄災の耳飾り】【洗礼の首飾り】。武器1点【指揮官の剣】を取り出しました。更新に伴い今後重複する共鳴確認認証の必要はありません。
【厄災の耳飾り】【洗礼の首飾り】【指揮官の剣】が現れる。
「はぁ~?・・・な、なん・・・それ?」
俺の目の前に腰掛けていたブルーノ・ブオミルは、自分の目の前の空間から突然物が現れ、何が起こったのか理解出来ずにいる様だ。
「驚きますわよね。私も初めて見た時は驚きました。今のはロイク様のスキルの1つで、魔導具ファルダ―ガパオの様な物だそうです」
「箱や鞄や袋が魔導具ファルダ―ガパオになっている物は見た事がありましたが、空気の中から物を出し入れするのは初めてみました」
ブルーノ・ブオミルの母親ルシア・ブオミルは殊の外冷静だった。
「ルシア・ブオミル前侯爵第二夫人様へは、【厄災の耳飾り】を贈らせていただきます」
ルシア・ブオミルは、耳飾りを受け取った。
「とても綺麗なオパールの耳飾りの様ですが・・・」
それ、オパールって宝石なんだ・・・へぇ~
『フフフッ』
詳細を確認
≪・・・表示しました。
なるほどぉ~
「この耳飾りには、装備しているだけで全ての状態異常を無効化する力があります。ただし、回復や治癒の魔術が一切効かなくなります」
「怪我をした時や、体力を消耗した時は装備を外し、回復魔術や治癒魔術を施して貰うと良いという事ですね」
「そうです。それと気を付けて欲しい事は、第三者が無断で耳飾りに触った場合、状態異常の【毒】【麻痺】【沈黙】の状態になります。装備者指定武具の強化版です」
「【麻痺】状態で動けず。【沈黙】状態で声も出せず。【毒】に犯される・・・恐ろしい罰が待っているという訳ですね」
「そうです。そして、オパールは10月大樹の月の石として有名らしいのですが、この石には『幸福を呼ぶ』『幸せな家庭』『喜びの享受』『自由の謳歌』『寵愛』という意味があるそうです」
「石に籠められた言葉の様に、そうありたいものです。感謝します。ロイク殿」
「そうなりますよ。きっと」
『上手くまとめたわね。フフフッ』
俺だってやれば出来るんですよ。
「そして、【洗礼の首飾り】は、ニーナ・ブオミル様への贈物です」
「これは?」
「これもまた装備者指定武具なのですが、第三者が無断で触った場合、これは状態異常の【気絶】状態になります」
「【気絶】ですか?」
「ジワジワと苦しんだり、捕まる恐怖を体験する事はありませんが、眠っている間に逮捕されている感じでしょう」
「なるほど」
「そして、【洗礼の首飾り】の効果は、装備時に善い行いをすると、その日は1日中、全ての状態異常が無効化されます。途中で外した場合の効果状況は試していませんので分かりません」
「善い行いをし続けている限り、常に状態異常の恩恵を受けてるという訳ですね。就寝時以外は可能な限り身に付ける様に心掛ける事にします。ありがとうございます。英雄ロイク殿」
「そして、この【指揮官の剣】はブルーノ・ブオミル様への贈物です。この剣は、【STR】の最大値が+200。【VIT】【AGI】の最大値が+100。パーティーを組んでいる際は、自身がパーティーリーダーの時は、更に【STR】の最大値が+200。【HP】の最大値が+200。ステータス値が補正される効果があります。そして、この剣も装備者指定武具です」
「【STR】が最大で400もUPする剣ですか。1人の剣士として感謝します」
「それでは、行動を開始しましょう。ニーナ・ブオミル様と俺は坑道に移動し魔獣騒ぎを起こします。タイミングを見計らって、順次皆さんを転位で呼びます。いつ転位移動しても良い様に客間に待機していてください」
「分かりました」(全員)
マルアスピー
『何かしら』
皆さんをお願いします。
『フフフッ。分かったわ。気を付けてね・・・平気でしょうけど』
確かにそうですね・・・
「ニーナ・ブオミル様。転位移動しますよ」
「はい」
【タブレット】:ロイの鉱山、出口付近の坑道を表示≫
≪・・・表示しました。
ここだな。【フリーパス】移動≫
・
・
・
――― ロイ 鉱山 坑道の中
――― 6月3日 17:20
坑道の中にしては、随分快適な空間だ。おっと、観察するのは後回しっと。
【タブレット】:マルアスピーの周りに居る人を表示≫
≪・・・表示しました。
【転位召喚】:ニーナ・ブオミル 発動≫
ニーナ・ブオミルが俺の目の前に現れる。
「おぉ~・・・転位とは本当に凄いスキルですね」
「俺もそう思います」
転位じゃないんだけどね・・・
「鉱山の出口付近の坑道に移動したんですが、ニーナ・ブオミル様達の隠れ家は何処にあるんですか?」
「こっちらです。私に着いて来てください」
「わかりました」
坑道を歩く事暫し・・・
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・
・
俺の瞳には偽装の意味が無いから仕方ないとして、これって一応地魔術で侵入禁止の結界を張ってるって事だよね?それに、フリーパスは結界もフリーだし・・・
「英雄ロイク殿。この先は行き止まりの様に見えますが、仲間の魔術師によって結界が張られ岩肌の様に見えているのです」
「地属性の魔術で結界ですか。同じやり方で、水火風でも目眩まし程度でいいなら応用出来そうです」
「他の属性で応用ですか・・・」
うん?・・・
俺は、不思議そうな表情を見せるニーナ・ブオミル様を、神眼で分析する事にした。
あぁ~なるほど。
「ニーナ・ブオミル様は、STATUSやSKILLを確認する限り、NBT特化の様ですが、どうしてここまで危険な事を?」
「そ、それは・・・最初は兄上の不審な死を調べる為でした」
「不審な死?」
「はい。現ブオミル侯爵の継承を認めないと抵抗している正統主義派は、元々は正統後継者だった御兄様の死に、疑問や違和感を感じた者達によって組織された、真実の声という真実を追求する集団だったのです。御父様が御亡くなりになりアルヴァ・ブオミルが侯爵位を継承すると、エーギンハルトによって今の様な集団に変ってしまいました」
「今の様に好戦的ではなかったんですね」
「はい」
「ねるほどね。・・・あっ!・・・変に思わないでくださいよ。エーギンハルト・ヘンデル士爵がニーナ・ブオミル様の御兄様の死に関わっているって事は無いですよね?」
「エーギンハルトがですか」
「ブルーノ・ブオミル様も、ルシア・ブオミル前侯爵第二夫人様も、魔獣に関しても皆さん騙されていた様だったので、関わってるかもとなんとなく思っただけです」
≪スゥー ・・・
「ニーナ様。話声が聞こえましたので、こちらにおられたのですね。突然目の前から消え、皆で探し回っておりました。ん?・・・そちらの男性は?」
いかにも炭鉱夫といった出で立ちの男が、地属性の結界が張られ岩肌として見えている事になっている通路から歩いて来た。
「こちらの方は、英雄ロイク殿だ。母や弟・・・私達の味方です」
「味方ですか?エーギンハルト・ヘンデル士爵様を侯爵に引き渡した張本人ですよ」
「その事なのですが」
「ニーナ様。まさかエーギンハルト・ヘンデル士爵様の身に何かあったと言われるのですか?畜生、あの侯爵めぇ~!お、お前のせいで我等の偉大な指導者の御一人がぁ~」
炭鉱夫擬きは俺に掴みかかろうとする。
「ま、待てぇっ!」
≪ゴン
「ガハッ・・・アェ?」
炭鉱夫擬きは、俺の周りに自動展開している結界に、勢い良く顔面からぶつかった。
「落ち着いてください。俺の周りにある結界は、竜ですら傷1つ付ける事の出来なかった物で、下手をしたら自分の攻撃で怪我をしますよ」
「は、はやぐ・・・えいえよ・・・」
「馬鹿者。お前が勝手に掴みかかろうとしたのだろうが」
「二、ニーナざま・・・」
「それに安心すると良い、エーギンハルトは生きている」
「総合案内所から侯爵邸に身柄を移送されたのを、大勢の者が見て居ます。現侯爵とて早々に処刑は出来ないでしょう」
「そ、そうですよねっ!魔獣が突然居なくなり、ニーナ様は目の前から突然消えるわで・・・」
・
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・
――― ロイ 鉱山 坑道内の秘密基地
――― 6月3日 17:40
誰が裏切者なのか分からない状況だ。可能な限り情報は俺達だけで共有する事にしていた。
・
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・
「エーギンハルト・ヘンデル士爵様は、英雄殿とパマリ侯爵家の方を、何か勘違いされ不当拘束しようとし、逆に総合案内所の警備に拘束された。そこへ運悪く、娼婦遊びを終え帰路途中の侯爵が通りかかり連れて行った訳ですか」
「その際に、侯爵邸まで同行したのですが、エーギンハルト・ヘンデル士爵を確認したのは、内側の門を通るまでで、その後は違う経路を通った為分かりません」
「英雄殿は、侯爵邸に行かれたのですか?」
「ええ。アルヴァ・ブオミル侯爵とその御家族に挨拶しました」
「ヴェロニカさんとサンドラさんに会われたのですか?」
「はい」
「ニーナ様。ペレ―を呼んで来ます」
≪タッタッタッタッタ
炭鉱夫擬きは、坑道の奥へと走って行った。
・
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・
「良く分かりませんが、やっと離れてくれましたね。それでは、急いで魔獣騒ぎの準備をしましょう。ここの人達を坑道から非難させますか?それとも、秘密基地の方に魔獣達が侵入しない様に、簡単な結界を入り口になっている通路に張りますか?」
可視化。東モルングレー山脈鉱山周辺の魔獣。坑道に弱い魔獣を数匹適当に転位召喚させるとして・・・
「余り弱過ぎると、派出所の貴族領軍私兵隊だけで殲滅出来ちゃいますよね?」
「は、はい・・・お願いします」
ニーナ・ブオミルの返事がおかしい。
「どうしたんですか?」
「その、ペレ―はサンドラの父親なのです」
「ペレー?」
・
・
・
≪タッタッタッタッタ
≪タッタッタッタ
「ハッ ハッ ハッ ニーナ様、英雄殿。こちらは、サンドラさんの父親で、舞踏家のペレーさんです」
炭鉱夫擬きの男性と姿勢の良い長身の男性が凄い勢いで駆け寄って来た。。長身の男性は深々とお辞儀をすると、丁寧に名を名乗る。
「ペレーと申します。英雄様。娘に会ったのですよね?元気にしていましたか?娘の様子は?」
「母子共に元気そうでしたが、どうしたんですか?」
「母子?・・・・・・」
「はい。ですので御会いしていただいた際に、栄養補給と体調管理様に、何本か回復用の道具を贈らせていただきました」
「なんてことだ・・・」
ペレーさんは脱力し壁にもたれ掛かった。
「英雄ロイク殿。昨年の7月7日サンドラの16歳の誕生日。踊り子としての初舞台の日に、ペレーは奥さんを殺され、娘・・・サンドラは侯爵邸に連れていかれたのです」
「連れていかれた?」
「ニーナ様。私かお話致します。英雄様...... ・・・・・・ ......な訳です」
「抵抗した奥様をアルヴァ・ブオミル侯爵様は、部下に命令し切り捨てたのですか?」
「私は、楽屋に控えていて、その場にはいませんでしたが、大勢の観客の前で、妻を手にかけ娘を連れ去って行ったそうです」
「現侯爵は女の敵。人間の屑。ロイには不必要な存在なのです」
『欲望に忠実なだけでしょう?屑呼ばわりされる理由にはならないわよね?』
・・・欲望に忠実って・・・これじゃまるで、アルヴァ・ブオミル侯爵はただの動物ですよ。
『人間種も動物ですよね?』
そうですけど・・・
『ふ~ん・・・フフフッ。ロイクは難しく考え過ぎなのよ。人間種なんて大なり小なり皆こんな感じだと思いますよ。欲深くて傲慢で好戦的で、種によっては悪戯好きなのもいますね』
確かにそういう人もいるとは思いますが、皆が皆・・・
『私が知りえる限りでは、人間種達は世界の何処かで、常に争い殺し合い奪い合っている様ですし。ロイクが思っている以上に人間種達は戦いが好きなのだと思うわよ』
200年近く大きな戦争は起きていないけど、小競り合いや盗賊行為は頻繁に起きてるし否定は出来ないか・・・
『人間種達の本質を追求する事には興味がありますが、私はロイクをもっと知りたいし、私を知って欲しいです。ですから、早く新婚旅行を再開しましょう』
新婚旅行って・・・。6月1日2日3日って、まだ3日しか経ってませんが、ただ忙しく動き回ってる気がします。それに、王都まで輓獣車両で移動し旅を楽しむって言いながら、ほぼ転位移動してませんか?
『気持ちの問題よ。気・持・ち!フフフッ』
・
・
・
――― ロイ貴族領軍私兵隊本部 1階
――― 6月3日 17:10~30
「隊長」
「どうした」
「東貴族領軍私兵隊詰所に続き、北貴族領軍私兵隊詰所からも、商人商家協会に潜伏しているとの疑いがあるエーギンハルト・ヘンデル1人を拘束する為に、詰所の兵士全軍で出動するのか?間違いでは無いのか?と連絡鳩で確認の手紙が届きました」
「侯爵邸の警備部からの指示という事は、アルヴァ様からの御命令だ。背く訳にはいかん」
「ですが、東門と北門の警備はどうするのですか?」
「アルヴァ様の御命令なんだぞ。出入管理と一緒に門の警備も王国軍に任せておけば良い」
「隊長!」
「次は何だ?」
「はっ!」
「出荷広場、支度広場、中央広場、他各貴族領軍私兵隊派出所からも連絡鳩により確認の手紙が次々届いております」
「侯爵邸の警備部から、貴族領軍私兵隊各隊に対して全軍で商人商家協会に出動しろというのか?」
「隊長。これは何の騒ぎですか?」
「本部長何処に行っていたのだ」
「執務室で始末書を作成していましたが・・・」
「見ての通り、侯爵邸の警備部から、大規模討伐さながらの指示が出た様で、本部長室に呼びに行かせたのだが」
「始末書の内容で、頭を抱えておりました。気付きませんでした。申し訳ありません」
「そんなことはどうでも良い。本部以外の貴族領軍私兵隊には、指示が出ている様なのだ。これはどういう事だろうか?本部長の意見を聞かせてくれ」
「隊長。まず、侯爵邸の警備部からの各隊への指示の内容を確認させてください」
「うむ。そうだな。連絡鳩で届いた手紙を、本部長に」
「はっ!」
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貴族領軍私兵隊本部の本部長は、手紙の内容を確認した。
「これは・・・?侯爵邸から逃走したエーギンハルト・ヘンデル士爵様1名の身柄を捕らえる為だけに、ロイの警備そっちのけで、貴族領軍私兵隊を出動させろという事ですか・・・?」
「1人の人間を捕らえる為にこれは大袈裟過ぎる。侯爵邸の警備部の者が、アルヴァ様の御命令を書き間違えたのではないかと思うのだが」
「隊長。侯爵邸の警備部に連絡鳩を送り確認した方が良いと考えます」
「そうだな。本部以外に届いている時点で何か妙だ、至急確認の手紙を送れ」
「はっ!」
「始末書の途中で1階に下りて来たので、私が確認の手紙も認めましょう。まとめて警備部に送った方が鳩も1回で済みますから」
「ありがとうございます。それでは宜しくお願い致します」
「本部長。お前は、始末書の途中なのだろう?」
「もう少しで書き終わるところでしたから、確認の手紙位は直ぐに準備出来ます。それに、兵士が警備部に確認するよりは、本部長職の私の手紙の方が向こうも対応が早いでしょう」
「そ、そうだな。本部長頼んだぞ」
「はっ!」
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――― ロイ貴族領軍私兵隊本部 5階
――― 6月3日 17:40
≪トントン トン トントントン トン
「何だ?」
「エーギンハルト・ヘンデル士爵様」
「入りなさい」
「大変な事になっております」
「その様だな・・・今、この手紙が届いた。読んで良いぞ」
エーギンハルト・ヘンデルは、本部長に1通の手紙を渡した。
********手紙の内容*********
ブオミル侯爵領侯爵邸警備部より
領主令により指示するものである。
貴族領軍私兵隊本部は全軍を率い、侯爵邸
より逃走した士爵エーギンハルト・ヘンデルの
身柄を直ちに取り押えること。
エーギンハルト・ヘンデルの潜伏先は、
協会集合地区の商人商家協会。
抵抗する者は生死問わず排除して良い。
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「私宛の手紙と、本部宛の手紙を一緒に送って来るとはな」
「エーギンハルト・ヘンデル士爵様宛の手紙には何と書いてあったのですか?」
「ふん。貴族領軍私兵隊本部部隊に混ざり商人商家協会に入り、英雄一行と共に侯爵邸に来いとの事だ。何か手を打たんと・・・」
「他に指示はなかったのでしょうか?」
「ない。お前は、その手紙を下に持って行け。魔獣の件を聞きたかったが、そんな事をしている場合では無い。兵に混ざって商人商家協会に行く方法を考えねば」
「はっ!」
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――― ロイ貴族領軍私兵隊本部 1階
――― 6月3日 17:46
「隊長」
「本部長!警備部へ確認の手紙は送ったか?」
「それが、送る直前に連絡鳩より、この手紙が届きました。どうぞ」
「ふむ」
貴族領軍私兵隊の隊長は手紙を受け取り手紙を読んだ。
「どうやら、侯爵邸の警備部からの指示は間違いでは無い様だ。本部に飛ばした連絡鳩が遅れたのだろう。各隊へ連絡鳩を飛ばせ。全軍で商人商家協会を囲む。包囲網が完成するまでは決して突入するなと」
「はっ!」(大勢)
「本部長。事務方を残し出動だ。本部の兵を本部前に整列させろ」
「はっ!」
「貴族領軍私兵隊本部部隊は、御領主アルヴァ侯爵様からの御命令により、商人商家協会に潜伏中の、士爵エーギンハルト・ヘンデルの身柄を拘束する為出動する。総員準備を整え本部前に整列。各隊の隊長副隊長班長は部隊の点呼を確認し連隊長へ報告」
「はっ!」(大勢)
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――― ロイ貴族領軍私兵隊本部 5階
――― 6月3日 17:52
≪トントン トン トントントン トン
「何だ?」
「卿」
「黒か、どうした」
「本日、私の部隊の魔術師が1名欠員になっております。貴族領軍私兵隊の魔導衣で兵士に変装し突入し、英雄一行を発見後エーギンハルト・ヘンデル士爵様として、兵士達に投降してください。私が責任を持って侯爵邸までお供致します」
「分かった。だが問題は、英雄達をどうやって侯爵邸に・・・」
「全部隊が商人商家協会に集結するまでには時間がかかると思います。それまでに考えるとして、今は本部前に集合致しましょう」
「そうだな・・・やれやれこの歳になって魔導士の真似事・・・一兵卒の真似事とはな・・・」
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