5-17 ランドリート④ ~芝居&騎士の紹介~
宜しくお願いします。
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躾。
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紆余曲折を経て俺の提案と口留めに快く応じてくれた騎士三人。
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リュシルと俺は、
偶然立ち寄ったランドリートで、
野良作業に精を出す騎士三人と知り合った。
リュシルと俺は、
三度の飯より野良作業が大好きだ。
常に持ち歩いている愛用の鍬で、
野良作業のお手伝いをした。
予定よりも早く終わった野良作業。
快くした騎士三人は、
「手伝ってくれたお礼がしたい。
あそこに大きなお屋敷があるだろう。
あのお屋敷の隣というか敷地内に
我々騎士団の臨時の詰め所があるんだ。
偶然高級な紅茶くらいしか無いが、
一緒にどうだろうか?」と、
リュシルと俺をお茶に誘ってくれた。
臨時の詰め所の応接室で
お茶を楽しみ談笑していると、
突然大きな音が鳴り響いた。
音の発生源は王族の離宮の一番広い部屋だ。
熱い忠誠心の騎士三人と、
聴覚の優れたリュシルと勘の良い俺は、
この大広間へと駆け付けた。
楽しいナイトライフは心の潤滑油。
彼や此れやとロープで楽しみ、
本番を待ちあぐねていたのだろうか。
ロープで楽しいことになりながら、
仕事机の上で気絶し転がる王族を発見した。
王族は、この屋敷の主。家主。
騎士三人が熱い忠誠心を捧げる主。主君。
薄ら笑いを浮かべ気絶する家主を
救出しているまさにその瞬間
この部屋へとやって来たのが、
姫様と付き人の女性だった。
姫様と付き人の女性は、
入室するなり突然気絶し
二人でボロボロになりながら転倒した。
偶然この部屋にいたリュシルと俺は、
偶然工房ロイスピーが開発しようとしていた
精霊薬を二本持っていた。
熱い忠誠心の騎士三人は、
リュシルと俺に頭を下げた。
「第一皇女殿下をお助けください。
第一皇女殿下のお命をお救いください。
お願いします。」
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心打たれたリュシルと俺は、
「分かりました。
隣の女性も一緒に助けましょう。
お礼なんていりません。
この程度のことでいただけません。
困っている人を助けるのは、
当たり前の事ですから。」
善意が服を着て歩いてると評判の
リュシルと俺は、
脈が弱り危険な状態に陥っていた
姫様と付き人の女性に、
貴重な精霊薬を二本も
惜しげもなく使った。
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「それじゃぁ~そう言う事なんで、騎士チュイチョイ、騎士ムンペトンペ、騎士ミチュマチュ。予定通りお願いします」
「「「畏まりました!!!!」」」
実に素直な、騎士Aことチュイチョイ、騎士Bことムンペトンペ、騎士Cことミチュマチュ。
それじゃぁ~始めますか。
まずは、これの解放だな。
時空牢獄、解除 ≫
でもって、次は姫様の……。
傷、治癒 ≫
体力、回復 ≫
精神、微弱の混乱 ≫
やり過ぎて騒がれても困るから、微弱くらいで良いかな? 最後に口が利ける様に……。
意識、気付け ≫
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「第一皇女殿下。気が付かれた様で何よりです。申し訳ございませんがお答えください。この指ですが何本に見えますか?」
「え……えっと、え?」
「何本に見えますか?」
「三本。です……え?」
騎士ミチュマチュは、姫様の意識を確認すると、
「良かった。ロイク殿リュシル殿、ありがとうございます」
わざとらしく大げさにお礼の言葉を口にした。
「いえいえ」
「ふむ」
棒読み? ふむだけなのに棒読み?
リュシルの三文芝居に驚き、リュシルの顔を凝視してしまった。
「!? 旦那様よ。そんなにも熱い視線で見つめられては、妾はトロけてしまう。良いのか?」
視線を姫様へと流し、リュシルを無視することにした。
姫様は、微弱の混乱状態にありながらも、周囲の状況を確認し把握しようとしているようだった。
「第一皇女殿下。お倒れになられたのです。お部屋でお休みになられた方が良いのではないでしょうか?」
「え、そう。私は……そうですか。疲れが溜まっていたのでしょうね」
「お休みになられるのでしたら、お部屋までお送りいたします」
騎士チュイチョイは、計画通り姫様に退室を促した。
「いえ。まだやることがあります。この部屋のソファーで少し休んだら公務に……あちらのお二人は? 客人を待たせて叔父上はどちらに行かれたのですか?」
計画一は失敗だ。
姫様と目が合った。
「第一皇女殿下。あちらのお二人は偶然この町を訪れた旅人です。貴重な精霊薬を二本も提供していただきました。お二人がこの町を訪れていなかったらと考えるだけでぞっとします」
「精霊薬。……あ、あの精霊薬ですか!?」
「はい。あの精霊薬を二本もです」
「……こ、このお礼は、か、必ずしましょう。精霊薬を二本…………陛下に……爵位? 足りないわよねブツブツブツブツ」
「やはり、お部屋で休まれた方が宜しいのではないでしょうか?」
騎士ムンペトンペは、計画通り姫様に退室を促した。
「そもそもお金で買える物じゃないわ。いったい。えっ? あぁ、大丈夫です。きっと精霊薬のおかげね。倒れる前より楽になってるわ」
「そ……ですか。大事な御身体です無理だけはなさりませぬよう御自愛ください」
計画二も失敗だ。
いつも通りにやったつもりだったのだが、治癒と回復の加減を間違えしまったようだ。
次だ次。
騎士ミチュマチュに視線を送る。
「第一皇女殿下。侍女殿にも精霊薬を飲ませましたが、未だに意識を失ったままです。部屋で休ませた方が」
「それには及びません」
姫様は、胸元から猫の顔型のロケットを取り出すとボタンを押し、付き人の女性の鼻に近付けた。
自宅にいるのに、気付け薬を持ち歩いてるのか?
付き人の女性の鼻がピクピクと動く。
「起きなさい」
姫様は、ロケットを胸元にしまうと、付き人の女性に優しく声を掛けた。
ゆっくりと目を開ける付き人の女性。
あのロケット面白いな。リボン部分がボタンになってて、押すと左右の目が見開くのか。金色の瞼が開くと黒目。人形の目に応用出来そうだ。
「ん? はっ!?」
一気に覚醒状態に入ったのか、付き人の女性は慌てて立ち上がると、リュシルに向かって拳を構えた。
あっ、計画三どころか全部失敗だ。
「何をしているのですか。命の恩人に対し失礼ですよ」
「姫様は何を言っておられるのですか。帝国は私達を裏切っていたのです。あの男は帝国の工作員です」
「「え?」」
姫様と俺の素っ頓狂な声が重なった。
「先程は不覚を取りましたが、あのリリスと私はどうやら互角のようです」
「「「えええぇぇぇ?」」」
騎士三人は、青褪めながら一斉に声を上げた。
「侍女殿、冷静になりましょう」
「勘違いです。それは絶対に勘違いです」
「第一皇女殿下。侍女殿は混乱しておられる御様子。申し訳ございませんが拘束させていただきます」
「そうですね。そ、そうしてください」
「なっ!? 何をする。放せ。触るな。姫様? 放せ。私は姫様のぉー放せ、敵はあっちのぉーおいこらっ誰だ今どさくさに紛れて胸を触ったぁん。私に触るな。放せっ!!」
必死の形相で付き人の女性を取り押さえる騎士三人と騎士三人に抵抗する付き人の女性。
「抵抗しないでください」
「侍女殿。第一皇女殿下のご命令です。従ってください」
「侍女殿。ここは殿下のお部屋です。落ち着いてください。お願いします」
「くぅー、放せっ、こら触るな。誰だまた触っただろう。やめろ」
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騎士三人は、興奮し抵抗する付き人の女性を落ち着かせようと、何度も何度も声を掛け続けていた。
R4075年9月25日(水)12:20―――
時間は戻って、現在。
「貴方方の目的はいったい何なのですか?」
「さっきから何度も言ってますが、話です」
「今直ぐ叔父上を解放し悔い改めなさい。さすれば安らかなる死をお約束致しましょう」
ダメだここの人達。話が通じない。
リュシルと俺は、応接用のソファーに腰掛け、漆塗りの高そうな応接用のテーブルを挟み、上座に設置された応接用のソファーに腰掛ける姫様と対峙している。
姫様の後ろには、騎士チュイチョイ、騎士ムンペトンペ、騎士ミチュマチュが控え。
漆塗りの高そうな応接用のテーブルの上には、仕事机の上から移動させた家主の王族と姫様の付き人の女性がロープで縛られ転がっている。
「メア。知ってますよね? 姫様も、……そこの殿下も女性も、騎士達もこの町の住民達も皆メアの存在ですよね?」
初めからこうしていれば良かった。
対峙する姫様から漆塗りのテーブルの上に転がる二人へと視線を動かす。
「メア? ……いったい何の話をしているのです。黙って私の命令に従いなさい」
回りくどく無駄なことをしてしまったと思ったが、そうでもないか?
恩を盾に色々と聞き出そう作戦も、ストレートに聞いてしまえば何とかなるんじゃないかな作戦も、会話が成立しなくてはどうしようもない。
初めから友好的ではなかった以上、話し合いでどうにかなる相手では無かったと諦めるべきか。
「もう一人の妾以下か。ここまで躾甲斐が無いとはのぉ~。旦那様よ。妾は哀れで迷惑なこ奴等を楽にしてやりたいと思う。どうか?」
「……ダメです」
ありがとうございました。