5-14 ランドリート① ~潜入~
「見た目はユマンそのものですね」
「旦那様にもそう見えるか」
それなのに、これって、文字…だよな? 絵?
「のぉー、あそこにおるモーヴェシープの老女の名なのじゃがこれは何と読むのか」
視界には(MRアイズでは)
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う~んむ。
「さぁ~? 神眼のおかげで本当の姿は見えてるんですけどねぇ~」
「妾も同じじゃ。妾の魔眼も真実を映し出しておる。故に意味の分からぬこれが不快なのじゃ。何とかならぬのか?」
「何とかって言われてもなぁ~……そうですねぇ~」
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リュシルに言われ、タブレットを操作してみたが、状況が改善される事はなかった。
「ダメみたいですね。あっでも、文字なのか絵なのか分かりませんがこれ名前では無いみたいですね。皆同じだし」
「ステータスの小窓を見ようとすると意味の分からぬこれが展開してしまう。この原因も分からぬのか?」
「はい。今までにこんな事は一度もなかったんで」
「旦那様の瞳は、コルト、メア、プリフェスト、三つの下界の理を制限無しに視認出来る様になったのではなかったのか?」
「そのはずなんですけどねぇ~」
そうなんだようなぁ~。おっかしいなぁ~。
―――ガルネス神王国・西ガルネス神平原
畜産農業の町ランドリート
R4075年9月25日(水)11:20―――
リュシルと俺は、ランドリートの町の状況や住民を観察する為、町の西の端にある厩舎と思われる建物の屋根の上にいる。
三〇メートル程離れた場所で森牛に似た大型動物の世話をしている男性へと視線を動かす。
俺の神授スキル【フリーパス】で屋根に降り立ち、一番最初に観察した男性だ。
「カゲユイマですよね」
「にしか見えんのぉ~。………あっちの井戸の傍らで馬鈴薯の様な根菜を洗っておる女子はリリス」
「ですよねぇ~。……さっきからずっとあそこで立ち話してる奥さん達は、スースにモーヴェクローにモーヴェカールにモーヴェボア」
「不思議な光景だとは思わぬか?」
「えぇホントです。まさかコルト下界に」
「そうではない。上位のスースと下位のモーヴェボアが楽し気に語らっておるのだぞ。不思議だとは思わぬのか?」
「同じ悪魔種族同士話くらいしてても」
「そうではない。旦那様よ。メアの身分制度を覚えておるか?」
「種族単位の階位とか卿とか……魔王とか」
「ふむ、まずは勘違いを正すとしよう。身分ではある故勘違いしたのやもしれぬが、魔王も卿も身分制度ではない」
それもそっか。って、
「リュシル。今は潜入中です。要点だけ簡単に話して貰えませんか?」
・・・
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「幼少の頃、爺やに「一般種は何を食べて大人になるのか?」と聞いた事があってな。その時、爺やは「上級悪魔は中級悪魔を飼育し富を得空腹を満たし力を蓄え、中級悪魔は下級悪魔を狩り富を得空腹を満たし力を蓄える生き物です」と話してくれた。飼育とは家畜を育てる事、故に一般種には、飼い主、家畜、家畜の餌。妾達悪魔貴族と同様厳しい上下関係があるという訳だ」
家畜?……餌?……身分に?
「うーん……」
「メアは、力こそ全て持たざる者は、従属か死か。旦那様は古の世界コルトの管理者であってメアの管理者ではない。故に、理解出来ずとも気にする必要はない。そうは思わぬか?」
・・・
・・
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「...... ......故に、妾は驚きを禁じ得ない。分かるか?」
「はぁ~、まぁ~、何となくですが……」
大樹の森の兎や猪と俺だと思えば良いって言われてもなぁ~。
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「全員、メア下界の」
「だが、種族だけしか分からぬ。この状況がいったい何なのか妾にもサッパリじゃ。どうするのか?」
「そうですね。町長とか領主とか偉い人に会って直接話を聞いちゃいますか?」
「一度戻って皆に相談しなくても良いのか?」
「う~ん」
戻って、相談って言ってもなぁ~。あの面子だよな。
・・・
・・
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屋根の上で考え込むこと数ラフン。
やめとこ。絶対おかしなことになる。
「ここは俺達だけで行きましょう」
「そうか。妾は旦那様に従う故好きな様にやるが良い。行くか」
「ですね」
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検索した結果、偉い人が居そうな場所は二箇所。
町の中央に鎮座する絢爛豪華な王族の離宮と、離宮の北に広がる放牧地に点在する掘っ建て小屋、平屋建ての小屋群の中に唯一存在する三階建て庭付きの屋敷だ。
「悩むことか?」
「普通に考えたら離宮で正解だと思うんですよ」
「妾もそう思うが、違うのか?」
「三階の東側に五つ並んだ正方形の部屋の北側と南側の部屋の中に一人ずつ。どちらの部屋も廊下側ドアの前に更に一人ずつ。二階の広い部屋に一人、その隣の部屋に三人。一階の奥の細長い部屋に九人、たぶんキッチンですね。バックエントランスに見張りが二人、エントランスには四人、三つあるゲートには見張りがそれぞれ二人ずつ。庭、訓練場かもしれませんが忙しなく動き回ってるのが六一人。四階には二人、たぶん見張り台ですね。北に見える豪邸以外に高い建物はないみたいだし町を三六〇度見渡せて良い感じです」
「町を……と言うか、南に森、東に川、北と西は草地。邪魔する物が無い故遠くまでよう見えるであろうのぉ~」
「朝日とか夕日とか見渡す限りの大自然。眺めは最高かも」
「スタシオンエスティバルクリュよりもか?」
「……それはそうと。豪邸の方には誰もいないみたいなんで」
「ふむ。悩む必要はなかったの。大豪邸へ参るとしようか?」
「えぇ。ですが」
「まだ何かあるのか?」
「アポも無しに正面ゲートから堂々と行くのはまずいだろうし……」
「そうなのか?」
「一応、俺達って潜入してる……みたいな?」
「ふむ」
「四階から……」
「この空模様では、期待するだけ無駄だとは思わぬのか?」
「景色なんかどうでも良いんです……」
「この辺りは時期に白く冷たい雪なる水の結晶に覆われるのであろう。妾は雪なる水の結晶を見た事が無い故、白一色に染まった世界と言うものに興味がある。灰に埋もれた町とは違い綺麗なのであろうなぁ~」
灰に埋もれた町って、いったいその町に何が起こったんですかね。
「雪は雪で大変なんですよ。村に住んでた時、二度大雪で冬の間村から外に出られなかった事があって、狩りには行けないわ、家でじっとしてなきゃいけないわ、村の外って言いましたが隣の家に行くのだって大変で一二、三メートル以上も積もった雪の中を……って、思い出しただけでゾッとします。「雪の重みで家が潰れちまうかも」って、親父が言い出して、親父と二人で屋根に上がったんですが、滑って深い深い新雪の中に落っこちて、あの時は」
「のぉ~旦那様よ。それで、大豪邸へはいつ参るのか?」
「あ」
「一人しかいない部屋。三つの内の何れか。たぶんですが家主はそこにいます」
「ふむ。で、家主とやらは、何れの部屋におるのか?」
「え……っとですねぇ―――。大きい部屋かな?」
「では、そこへ参るとしようか」
ありがとうございました。