5-7 上書きされた指令①、監獄島の聖職者。
コルトの一日は、三〇時間。
二つの陽が昇り始める、朝六時。
二つの陽が重なり合う、正午一五時。
二つの陽が完全に沈む、夜二四時。
日が変わる三〇時は、〇時でもある。
時間の概念は、ロイーナや、各国の王侯貴族、役所等の公共機関、アカデミー、軍。正創生教とその教会。各ギルドを中心に、着々と広がっている。
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―――エルドラドブランシュ宮殿
R4075年9月24日(火)28:40―――
寝室ではあるが寝室ではない。
俺にとって寝室ではなくなってしまった部屋のソファーに腰掛け、テーブルの上に展開させたタブレットの画面を見ている。
画面は全部で一二個。
一二インチの画面を縦に三つ横に四つ。
画面の配置に深い意味は無い。
記憶を擦り合わせ検証を終え整理された情報と、タブレットがオートで整理した情報を見比べ、情報の相違点を探していた。
「ふあぁぁ―――。これ結構肩凝るなぁ~」
肩や首を揉みながら漏れたのは大きな独り言だった。
あっ!!!
独り言を口走ると同時に頭の中に一つの考えが浮ぶ。
相違点だけを表示させれば良かったんだ!!!
・・・
・・
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「……ねぇロイク。いったいアナタはそこで何をしているのかしら?」
「あー、明日の為に情報を……整理してた、みたいな感じです……」
タブレットが整理した情報を使えば良かっただけで、俺は時間を無駄にしていただけなんですけどね。ハハハ。
「そう。それで何か分かったのかしら?」
「天使ハスデア扮するコンラート・ジーメンスがネットハルト島のトハルト鉱山から姿を消したのは、旧教当時の改戒創生教会関係者三人の慰問を受けた直後だった訳じゃないですか」
「……」
もの言いたげな顔で俺を見つめるマルアスピーの話は後で聞くとして、今は俺の話を先に終わらせてしまおう。
「場の記憶と班長の証言で、サルーカス神官と呼ばれていた男性は嫌味な老人。ブギーガン神官と呼ばれていた男性は強欲な初老。念の為に確認したリズヘイミー助祭長と呼ばれていた女性は口の悪い癇癪持ち。天使ハスデアにどうやって干渉したのか方法は不明。天使ハスデアの記憶というか記録だと指令が突然上書きされていた。上書きは、天使ハスデア扮するコンラート・ジーメンスの傍にこの三人がいたタイミングで起きていた。上書きしたのは三人或いは三人の内の誰か」
「……あくまでも仕事の話を続けるつもりなのね。分かったわ…………」
分かった。って、いったい何が? ……まぁ~今は良いや。続けよ。
「擦り合わせた情報とタブレットが整理した情報を見比べていたんですが」
・・・・・・・
・・・・
・
「でですね、ここからは、天使ハスデアや時の記憶ではなく、証言や記録、タブレットの情報です」
「……」
「ブギーガン神官は、神授の夜の後も改宗を拒否し続け正教を邪教だ悪教だと罵っていた。改戒創生教会が世界創造神創生教から正創生教へと所属を変え王都ラワルトンク中央聖人教会・ネットハルト出張教会へと名称を変えるとその日の内に姿をくらました。船着き場を使った形跡は無し。船を島の何処かに隠し持っていた可能性も否定できませんが、現時点で移動手段は不明。でもって、居所をタブレットで検索してみた結果、旧教の総本山ガルネス大寺院があるガルネス神王国の王都ガルネスにいました。一応付け加えておきますが王都ガルネスは彼の生まれ故郷だったみたいです。それと、王都ラワルトンク中央聖人教会・ネットハルト出張教会は更に名称を変え、今は聖コンラート王都中央教会・ネットハルト出張教会って呼ばれています」
「…………」
「サルーカス神官も改宗を拒否。教会の所属が変わった次の日の便で島を後にしています。検索の結果は該当無し。それならって事で、島を後にした日から今日までの足取り主に寄港記録や公式な発表を検索してみた結果、連合国家フィリー加盟国と友好国の港に寄港した記録は残っていませんでしたが、ヴァルオリティア帝国の第二帝都ヴァルタの旧教中央創生教会の司教に就任していました。就任は帝国と旧教両方から公式に発表されていたようです。因みにですが、彼の生まれ故郷は消滅した帝都ガルガンダです。しかもです、彼は司教に就任した一〇日後の八月八日光の日の朝ベッドで冷たくなっていたそうです」
「………………」
「リズヘイミー助祭長に至っては、どうやって検索しても該当無し。偽名だったんだと思われます。因みにですが、公式な記録は一切存在していません。はっきり言ってかなり怪しいです」
「……」
何か言われる前に、続けてしまおう。
「誰かに扮した天使ハスデアに接触した者。つまり、指令を上書きした可能性のある者は、生存の確認が取れているブギーガン神官と正体不明のリズヘイミー助祭長」
「へんね。コンラートが姿をくらましたのはルーカスが生まれる以前の話よ。二人の内の何れかでも二人でもこの際どっちだって構わないわ。当時、いもしないルーカスに化け、ありもしない最新の転位陣ネットワーク網を利用し、ありもしないアシュランス王国のいもしないロイクに謁見を求めるように上書きした。無理があると思うのだけれど」
「えぇ。なんで、上書きした者、上書きが可能な者は複数人いるんじゃないか、いたんじゃないかって俺は思っています。分かりやすく説明しますね」
「……まだ続くのね」
「天使ハスデアの動きを......
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① 世界創造神創生教が蔓延る以前。
② 世界創造神創生教が蔓延る最中。
③ ②のララコバイア王国。
※上書きの容疑者※
・多数(全員他界)
補足:破門の聖文を運んだのは
天使ハスデア
:王都中央創生教会に赴任予定の
副神官長に扮していたのは
天使ハスデア
(後に本物が赴任した為有耶無耶に)
:聖文を読み上げた
王国教区教区長に扮していたのは
天使ハスデア
(後にオスカーが眠り有耶無耶に)
④ ③のネットハルト島。
※上書きの容疑者※
・ブギーガン神官(高齢)
・リズヘイミー助祭長(高齢)
⑤ 世界創造神創生教の没落後。
⑥ ⑤のララコバイア王国。
※上書きの容疑者※
・多数(王族貴族一般)
補足:王子ルーカスに扮していたのは
天使ハスデア
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......大雑把ですが六つに分けて考える事にしたんです。まぁ~没落以前に関しては当事者の天使ハスデア以外存在していないので分けたところで記憶記録頼みなんですけどね。ですが、没落後に関しては存命の人ばかりなんで疑い放題って訳です」
「そ、そうそれは良かったわね……」
ありがとうございました。