5-3 場の記憶、そして出陣前の魔剣隊。
老師ナディア率いる近衛魔術剣士隊は攻守ともに優れたララコバイア王国の最強エリート部隊だ。
その最強エリート部隊魔剣隊を出し惜しみする余裕などララコバイア王国には当然無い。
現在隊本部は遠征航海の準備に追われ慌ただしくデジュネやシエスタの時間すら取れない状況にあるらしい。
隊員達が急ピッチで準備を進める中、老師ナディアは何もする事が無く暇を持て余していた。隊本部に響く出陣へのカウントダウンを聞きながらシエスタが出来る程神経は図太く無い。
あくまでも自称・・・。
仕方が無いので邪魔にならない様に王都をブラブラしていたそんな時、好奇心を擽る大きな自然魔素を感じ暇潰しを兼ね現場へ急行中央教会まで駆け付け俺達を発見した。
戦争の要だろう隊の老師がブラブラしてる国。大丈夫なのかぁ~・・・。
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そして現在に至る訳だ。
「chefアランギー様の御力で天使ハスデア様がドリーマーしていた時の全履歴は俺の神授スキル【タブレット】で文字でも絵でも音声でも映像でも確認出来ます」
「確認出来るなら態々検証しに来なくても良かったんじゃないかなぁ~」
「天使ハスデア様の五感に残された記憶だけだと、何処でどんな干渉を受けたのか正確に分からないらしいんですよ。なんで今回の検証は、現場に残された場所の記憶も回収する予定なんです」
「場所の記憶?」
老師ナディアは首を傾げる。
「言葉だけだと分かり難いと思うんで、現場に着いたらやって見せますよ」
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中央教会の礼拝堂、祭壇の前、元聖なる箱、ララコバイア王国教区長室、王都ラワルトンク教区副教区長室、神官長室、副神官長室、司祭長室、副司祭長室、事務室、休憩室、会議室、沐浴室、食堂。部屋という部屋を片っ端から周りその場所に残された天使ハスデアに関する記憶を回収した。
chefアランギー様の指示の下、無属性の小魔晶石に直接魔法陣と術式を施し最長約二時間分の記憶が回収出来る魔導具に分類するには微妙な道具を準備し記憶を回収しただけだ。
余談だが、教えて貰った魔法陣と術式そして小魔晶石では記憶を遡り回収出来たとして良くて一〇〇年悪くて五〇年。
そもそもコルト下界の自然の力の循環に於いては理の都合もあるらしいが場が記憶していられる時間はそう長くない。
chefアランギー様曰く
「そうですなぁ~、せいぜい一万年無いし五千年いや一千年でしょうか。その当時を知る建造物木岩陣次第ですので何とも言えないのが実情いやはやいやはや結局のところ究極の物頼みと言ったところでしょうか。はい」
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「魔晶石その物を魔導具にですか、ブツブツブツブツ」
たぶん魔導具みたいな物を使い回収作業を続ける俺の横で、強力なマイワールドを展開し、大きな声で独り言を続ける老師ナディアに関わらない方が良いと判断した俺は終始彼女には触れず。作業を続けた。
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「陛下。王都での検証回収はここが最後です」
「結構かかりましたね」
「主殿おっと陛下。記憶を記録する魔導具は」
「それなら大丈夫です念の為にいっぱい用意してきてあります。ただ二つも使わないといけない場所があったのには正直驚きました」
聖コンラート王都中央教会。
ジーメンス男爵家王都邸。
選籍局。
警備隊本部。
旧コンラート・ジーメンス邸(玄関のみ)。
聖文を読み上げた王城の会議室。
等々他にも何となく気になった場所の記憶を回収し、当時から使われているという魔剣隊の老師専用馬車の記憶を回収し終えたところだ。
「なぁ~お兄ちゃん」
「うん?」
「記録には、陽が重なりややあって目的地『鰻処稍助平』到着。二度目のキセルタバコ吹かし早々途に就く。横陽半天あって隊本部到着と書いてあったはず。前老師は教区長と真昼間っから贅沢にもウナギと洒落込んでいたって事だろう。鰻処稍助平の記憶も回収した方が良いじゃないかなって私は思うんだけどぉ~……会話とか気にならないのか?」
「回収しましょう」
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俺達は、老師ナディアのアシストを受け鰻処稍助平の記憶を回収した。
その後、バイタリテ宮殿。ネットハルト島強制奴隷収容棟とトハルト炭鉱一号坑道から二四号坑道の出入り口の記憶を回収。
―――アシュランス王国王都スカーレット
グランディール城・国王執務室
R4075年9月24日(火)19:00―――
執務室に戻りchefアランギー様と合流した。
「おんや。ララコバイアのナディアよ。ララコバイは戦の準備で大忙しだと聞いておりましたが……宜しいのですかな?」
「皆大人。私が居なくても何とでもなる。神アランギー様。という訳なので面白そうなこっちに着いて来ました。ダメでしょうか?」
「構いませんですぞ」
「そうですよね。ダメ……ありがとうございます!!!と言う訳だからお兄ちゃん神様からのOKは絶対だしさっさと始めようじゃないかっ!ホラッ、何をしてるんだい今は今しかないんださっさとぉ~~~……ところで次はいったい何をするのか分かる人がいたら私に教え……ボソボソボソボソ」
何がそんなに楽しいのかは分からないが無邪気な笑顔で自分が居なくても大丈夫だと豪語し、嘘っぽい不安気な表情を経由し満面の笑みを浮かべ感謝の言葉を口にし、そして口籠もっている老師ナディアは、再びマイワールドを展開していた。
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「では、ハスデアの記憶と場所の記憶。そして関連する資料。陛下が即席で創造した真実を真偽する帽子の結果。それと先程私が視て来た情報と現場検証の結果。それらの擦り合わせ作業を始めるとしましょう。はい」
ありがとうございました。