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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
―ララコバイア編ー
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4-110 世界は勝手にまわるもの⑪~ダージリンティー~

―――アシュランス王国王都スカーレット

 エルドラドブランシュ宮殿・朝食の間

R4075年9月23日(水)08:40―――


 chefアランギー様率いる妖精のおしごと(・・・・・・・)が織り成すプティデジュネ(朝食)を堪能した後はティータイムの時間だ。


 雑談と談笑、情報の交換に予定の確認。

 いつもの我が家の一コマだ。



 エフティー何だったかな?


 テーブルに置いたティーカップを口に運び、そしてテーブルに戻す。

 

 オムレットさんに教えて貰ったばかりなのにもう忘れちゃったよ。名前が長過ぎて長い名前の紅茶って印象しか・・・。


 テーブルに置いたティーカップを口に運ぶ。


 おっと、もう飲み終わってるし。ハハハ、味あんまり覚えてないや・・・しっかしぃ~ホント、

「ねぇロイク」

 名前なん、ぅん?

「ぁはい、何でしょう?」

「その紅茶そんなに美味しいのかしら?」

「おい・・・しかった・・・ですよ?」

「一心不乱に飲んでいたように見えたのだけれど、違うのかしら?」

「一口目は美味しかったと思うんです。ただ、名前を忘れてしまったんで思い出そうとしてたら、無意識に口に運んでたみたいで、ハッハッハッハッハ」

「そう。それでその紅茶の名前は何て言うのかしら?」

「それが長い名前だって事しか思い出せなくて」

「そう。分かったわ。私もそれをいただくことにするわ。もう一杯くらい平気よね?」


「まだ九時前なんで大丈夫ですよ」



「旦那様奥様。...... ......ファイネストティッピーゴールデンフラワリーオレンジペコ通称エフ(F)ティー(T)ジー(G)エフ(F)オー(O)ピー(P)をお持ち致しました」


 オムレットさんは、白磁に水色で描かれたグロテスク模様のトレイに乗せた白磁のティーセット一式をテーブルに移しながら紅茶の銘柄を口にした。


「だそうよ」

 マルアスピーは、覚えたわね?と、言わんばかりの口調で話し掛けて来たが、自分はどうなんだろうか?ちゃんと覚えられたのか?・・・怪しい。よっし、ここは、

「ファイヤーゴールドピー何たらって感じだったと思うんですがあってますか?」

「全然違うわ。ファイネストティッピーゴールデンフラワリーオレンジペコよ」

 へ、へぇ―――・・・。

「このFTGFOPは、KANBE下界で完全無農薬栽培されたダージリンの夏摘みの葉だけを使用した最上級品で、正式にはスペシャルファイネストティッピーゴールデンフラワリーオレンジペコ通称S(エス)FTGFOPと言います。KANBE下界ではSFTGFOPが最上級品なのですが、私達妖精のおしごとでは更にその上の食神級品シェフアランギーオマージュスペシャルファイネストティッピーゴールデンフラワリーオレンジペコ私達はC(シー)A(エー)SFTGFOPと呼称しているのですがこのCASFTGFOPのみを扱っています」

 へ、へぇ~・・・。

「そう、それでこのCASFTGFOPなのだけれど、家のダージリンティーはこれだけって事で良いのかしら?」

「はい、奥様」

「そう、話が早くて良かったわ。ねぇロイク」

 うん?

「お、俺ですか?」

「そうよ。今日から(うち)ではCASFTGFOPをダージリンと呼ぶ事にしましょう。妖精のおしごとのダージリンティーはCASFTGFOPだけなのだからダージリンと呼んでも問題ないわ」



「ロイク様」


 ダージリンを楽しんでいると、アルさんがやって来た。


「アルさんも、このえっと・・・ダージリン飲みますか?」

「そうですね。オムレットさん。私にもダージリンティーをお願いします」

「はい。奥様」


「天使アラキバと天使ハスデアの件なのですが・・・」

「目を覚ましましたか?」

「は、はい。ですがいったいどうしたものかと・・・」

「うん?どうしたものかってどうしたんですか?」

「それがですね。天使アラキバは左遷先の職場で天使関係が上手く行っていない様なのです」

 へ、へぇ~・・・なんつぅ~か、

「天使の世界も世知が無いというか大変なんですね」

「御役所にでも行かない限り見かける機会の少ない天使達の閉鎖的なコミュニティやシステムがギクシャクしているのは本当に問題です」

 職場の環境とか人間関係は良いに越したことはないのだがぁ~・・・天使の事は天使で良いんじゃ?


「ねぇアル。天使アラキバの左遷先が悲惨な状況にあるのは分かったのだけれど、その事実と私達の何処に関係があるのかしら?」

 ・・・マルアスピー。流石です。

 確かに俺達には全く関係の無い話だ。首を突っ込む程親しい間柄でもない。

「天使達が機能不全に陥った場合、困るのは主に神界神域です。ただ創造神様の指令を受けた天使が存在する下界もそれなりに被害を受けてしまうかと」

「コルト下界もその一つって事ですか」

「はい」

「ふぅ~ん。ホント迷惑な存在ね天使って」

「迷惑ですか?」

 アルさんは、マルアスピーの言葉を心の底から疑問に感じている様だ。

「そうよ。一歩譲ったとして仕事熱心なのには感心出来るのだけれど、寝ながらというのはどうなのかしらね。そのせいで仕事の半分はミス、後始末付随業務が増え尻拭いに追われる時間。尻拭いの半分も結局はミスするのでしょうね。どうせ連鎖するのなら負ではなくて正、工房ロイスピーや民間では考えられない有り得ない次元の無能と無駄だわ」

「昨日の取調で判明した天使達の現状とか天使ハスデアの事とか天使ハスデアを利用してた者達の事とか、マルアスピーには全部話たんです」

「あぁ~なるほど」

「能力が低いのであれば仕方が無いと諦めも付くわ。でも、天使の能力は大精霊以上なの。いったい何をどうやったら低レベルな結果になってしまうのか疑問しか残らないわ」

「とまぁ~天使の話になると昨日からこんな感じなんです。眠るまで愚痴、愚痴か?まぁ~そんな感じの事に突き合わされちゃって、ハハハ」

「ねぇロイク。これは笑い事じゃないのよ」

 ・・・。

「ですね」


 アルさんと俺は、短くアイコンタクトを取り、小さく頷いた。



・・・・・・・


・・・・



「その缶詰何ですが、天使アラキバさんの忘れ物じゃないです。それ、chefアランギー様が出したKANBE下界産で、・・・凶器です」

「凶器?」

「はい。殺人兵器です」

「缶詰ですよね?」

「はい。とっても危険な缶詰です。説明を受けた時は凄い技術と発想だと感心したんですが、まさか食べ物だと油断させてからの、あれ、だとは考えもしませんでしたよ」

「あれですか?」

「あら?アルは聞いて無いのかしら?」

「ぅん???」

 小首を傾げるアルさん。

「第一取調室の惨劇のことよ。あの惨劇はたった一つの缶詰によって誘起したの。天使アラキバが貴女の下へ運び込まれたのはその惨劇が原因なのだけれど、聞いてないのかしら?」

「仕事が仕事がと慌ただしく身支度を整え、問診もそっちのけで帰界の途に就かれてしまわれたので・・・・・・それに、意識を失ってしまった時の事を覚えていない様な・・・」

「そう、まぁ~良いわ。それで缶詰は今何処にあるのかしら?」

「病室のベッド用のサイドテーブルの上に置いてありますが」

「アルさん!今直ぐ回収しに行きましょう」

「何をやってるのかしら零れたわよ勿体ない。缶詰は逃げたりしないわ」

 ティーカップを左手に持ったまま、勢い良く立ち上がったせいでダージリンを少しだけ零してしまった。

 ちょっと零しただけなのに・・・・・・イヤ、少しだけ。じゃないな。このダージリンに限らず勿体ない精神と感謝の精神はって、今はそれどころじゃないだろう俺っ!

「誰かが間違って開けてしまったり、誤って落としてしまってその拍子に破裂とか無いとは言い切れません。封鎖するのは第一取調室だけで十分です。何よりもタブレットに収納しておかないと俺が落ち着けないんです!!!」

「そ、そう。それなら仕方が無いわね。回収しに行きましょう」

 はて?

「回収するだけだし、ダージリンを楽しんでても良いですよ」

「内容はどうであれ、現物の缶詰を見ておきたいの。新商品の役に立つかもしれないでしょう?」

 どうやら着いて来る気満々の様だ。

「なるほど」


「あのぉ~」

「何かしらアル?」

「どうかしましたか?」

「盛り上がってるところ大変申し訳ないのですが、面会時間は入院患者さん達がお昼ご飯を済ませた後の十六(16)時からお夕飯の前の二四(24)時までなんです。まだ、()時前ですので今からはちょっとぉ~・・・」


 誰だよそんなルール作ったの。


「ねぇアル。王立の病院なのよね?」

「はい。患者さんファーストが原則の王立病院です」

「そう。・・・面会に行く訳じゃないのよ」

「はい。関係者以外時間外の立ち入りは衛生上問題がありましてぇ~」

「そ、そうなのね・・・」


「アルさん。これって緊急事態だしマルアスピーとか俺って関係者だと思うんですが」

「私は兎も角、ロイク様とマルアスピーさんは病院の関係者では・・・はい・・・すみません」


 う~む。


≪スゥ―

「おんや、シェフアランギーオマージュスペシャルファイネストティッピーゴールデンフラワリーオレンジペコの香りがテーブルよりも下に香っていると思って来てみれば!・・・いったい何処の誰ですかなぁ~神の雫を二粒も零したお馬鹿さんはっ!」

 マルアスピーとアルさんの視線が俺に集中する。


 って、どうして、他の皆まで俺を・・・。


「なるほどなるほどなぁ~るほど。パトロン殿が犯人でしたか。然らば」

「犯人って・・・」


「然らばぁ~、パトロン殿に天使ハスデアを任せる事にしましょう。懲罰中は秘書にでもしてくだされ」

「はぁ↑?な、何で俺が」

「犯人だからですぞぉ~。はい」

「犯人って・・・」


「時にアル。缶詰なのですが貴女とパトロン殿の共有収納に収納しておいてくだされ、後程適当に回収します。頼みましたですぞぉ~」

 あっ!

「はい。アランギー様」

 その手があった。



「それと、ハスデアなのですが、実に見事な暴れっぷり。簡易メンテナンスフリーと簡易結界は持ち堪えられそうですかなぁ~?」

「今のところは大丈夫だとは、思うのですが・・・」


「どうしたらって、もしかして暴れてるからだったんですか?」

「は、はい・・・状況を受け入れられず、攻撃的になってしまったり自閉的になってしまったり、患者さんも様々でして」

 ふぅ―――ん。・・・天使ハスデアだよな。

「寝てても起きててもこれじゃ何も変わらないじゃないですか。でっ、暴れてる理由は何ですか?」

「それがですね。天使アラキバと一緒に帰界しようとして失敗した際に、力を失っている事に気付いたと言いますか、思い出したと言いますか、その後」

「暴れてると」

「はい」

 馬鹿なのか?阿呆なのか?

 自ら望んで創造神様に・・・。


「・・・放って置きましょう」

「良いのですか?」


「力を失った天使なんてヒュームみたいなものなんですよね?」

「その通りですぞぉ~。はい」

「らしいんで、そうしましょう」

「そ、そうですか・・・でしたら落ち着いた頃に呼びますので半壊した病室を元に戻すのだけお願いします」


 ヒュームレベルなんだよな?

「半壊ってどういう事ですか?」

「はい。内側の結界を破り床や壁や窓や屋根に直接被害が出ています。あっ、でも外側の結界はロザリークロード様でも破壊出来ないらしので壊れた所だけお願いします」


「chefアランギー様。これってどういう事なんでしょうか?」

「思うに少しだけ高スペックなヒュームよりもちょっとだけ優秀なのでしょうなぁ~。基礎部分が天使な訳ですから納得の結果ですぞぉ~。いやはや天使とは末恐ろしい存在ですなぁ~。はい」

「末って言うか、今が・・・現時点で既に恐ろしいと思うんですが・・・俺の気のせいですかね」


「ふんむっ!そうですなぁ~」

「迷惑なのは確かね」

「病院の病室の内側の結界程度でしたら私の眷属の聖獣邪獣達でも頑張れば何とかなると思います。私が気にしているのは、朝食に一切手を付けず暴れている事なんです」


 あああぁぁぁ―――、

「本気で放って置きましょう」

「そうね。自力で恥と虚しさに気が付けば良いのだけれど、・・・無理そうね」


「公務の前にまとまって良かったですなぁ~。はい」

ありがとうございました。

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