4-109 世界は勝手にまわるもの⑩~天使ハスデア②~
髪と身体を洗い。
温泉に浸かり。
洗い。
浸かり。
納得いくまで何度も洗い。
また浸かる。
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そして、chefアランギー様率いる妖精のおしごとが織り成す甘美なディネを楽しみ。
―――アシュランス王国王都スカーレット
エルドラドブランシュ宮殿・地下1階
R4075年9月22日(地)27:00―――
エルドラドブランシュ宮殿の地下に新設した第二取調室へと移動した。
取調室こと第一取調室を立ち入り禁止にしたからだ。
今日はまだ終わらない。
第二取調室に置かれた一辺一五〇センチメートルの正方形の机には、天使アラキバの犠牲により目覚めた天使ハスデアが座っている。
因みに犠牲となった天使アラキバは、一命こそ取り留めたものの、受けた衝撃が大き過ぎたのだろう、未だに昏睡状態が続いている。
「フワァ―――――ッ」
堂々と大欠伸を繰り返す天使ハスデア。
「五百年位寝てたんですよね?」
「ですはい」
そう。天使ハスデアは、ただの生理現象ドリーマー夢堕ちとも呼ばれる睡眠状態、熟睡していただけだった。
天使達は神授が届けば熟睡中であっても熟睡しながら指令を熟す。熟し続ける。
天使ハスデアは、四百年から五百年程眠っていたそうだ。
「ハスデア、貴方は重度の夢遊病の状態にありました。今、貴方が置かれている状況はかなり深刻です。理解出来ていますかなぁ~?」
「は、はい。神アランギー様」
夢、夢遊病!?
天使ハスデアと向かい合う様に座る俺の右隣に腰掛けているchefアランギー様が取調を開始した。
え?さっき、睡眠妨害によるドリーマー障害が原因でドリーマーが誤作動を起こしてた様だって、言ってませんでした?
「そうですか。理解しているのであればそれで良いでしょう。これにて本件は一件落着とします。さて」
「!!!は?ええぇぇぇ―――!?」
「パトロン殿よ。突然どうしたのですかなぁ~、阿呆の真似などして。流石の私も引き」
「ち、違います。そうじゃなくて、何が一件落着何ですかっ!何も解決してないじゃないですかっ!!!」
「そういう体な訳ですか。分かりました。ですが、理解出来ていると言質を取ってしまった以上、これ以上白洲を続ける訳にはいきません。下界に於ける天使の優越。天使の理がそれを許しませんのでぇ~。ですので、今から事の顛末をハスデアに説明させます。それで納得して貰うしかありません。如何ですかなっ!」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
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「守秘義務ですか」
「ですはい。神格未所持の下界管理責任者に知る権利はありません」
「神格ですか・・・」
う―――ん、天使の理が原因でした。って、これ説明になってないよな。
皆、納得しないだろう。
「はて、パトロン殿よ。ここからが面白い所ですぞぉ~。はい」
「面白いところ?」
「はい。ハスデアは説明の中で自身の疑問をパトロン殿に提示しました」
「はぁ?」
疑問を俺に提示した?・・・いつ?
「いけませんなぁ~。人の話を聞く時は、耳で聞き眼で聞き心で聞くものですぞぉ~。まぁ~良いでしょう。ハスデアに代わり私が疑問を提示しますので、パトロン殿は解決策の一つでも思い付てくだされ」
「え、あ、えっと、神アランギー様。私の話は」
「もう結構ですぞぉ~」
「えっと、・・・ですはい」
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「...... ......つまりですな。天使のドリーマーとは、ヒュームのパラソムニアに近い現象の様なのですが、生産性の全く無いヒュームのパラソムニアと創造神様からの御指示を熟睡しながらも遂行し続ける生産性の高い天使のドリーマーを同じ様に考えるのはナンセンスではないか?という事なのですぞぉ~。はい」
「かもしれませんね」
「生産性の高いドリーマーですが、五〇パーセントの確率で創造神様からの御指示を誤認します。巻き込まれた側には傍迷惑な話ですが、あくまでも眠りながら熟すが前提の生理現象。成功確率が五〇パーセントもある事から初期設定のまま」
「改善されるずに放置されてる・・・と?」
「触って確率が下がってしまうよりも現状の維持を選んだのでしょうなぁ~。御役所とはそういう所ですぞぉ~」
「五〇パーセントですよね。寝ながらワーキングの半分は迷惑行為ってただの嫌がらせだと思うんですが」
「上手く事が運べば感謝され上手く事が運ばなければ非難される。全く以て世知が無い世の中ですなぁ~」
「ルーカス第一王子に成りすましララコバイア王国が大事になってると狼少年を演じた挙句醜態を晒したんです。非難されて当然ですよ。何者かによる睡眠妨害が原因だったにせよ、五〇パーセントの確率で誤作動する生理現象のドリーマー中だったから天使の理って事で、この件は、はい、終わり。って、誰が納得するんですか?」
「端的に言いますと、納得するしかないのですぞぉ~。はい。さて、納得出来たところで問いましょう。パトロン殿は理の制限や規制を緩和させ解除させ無効化させる能力を所持しています。長けていると言っても過言では無い存在な訳ですが、この件についは如何考えますかなぁ~」
納得出来てないんですがぁ~・・・・・・。今日は脱線せずこれでもかって位に気持ち良く次に進むんですね。
「コルト管理者ロイク。私も気になる。聞かせてくれ」
状況を立場を忘れてしまったのか、顎を上げ上から目線の天使ハスデアは命令口調だ。
腕を組み頷きながら一方的に語るだけであれば、なんだchefアランギー様の真似をしてるだけか。
で、流せる。
だが、この態度は見るに見兼ねる。
天使ってこんなのが普通なのか?
・・・もしかして、目の前に居るのはニセモノの天使。
「パトロン殿よ。何もそこまで難しく考える必要はありませんですぞぉ~」
「ですはい。コルト管理者ロイク。簡単に解決する方法を今直ぐ聞かせてくれ」
あ―――――。
欲しい物は貰えるのが当たり前。
何でも手伝って貰えるのが当たり前。
被害者ぶって謝罪しないのは当たり前。
悪いのは謝罪を要求する側だと居直り、挙句の果てに理解不能意味不明な愚行の数々で周囲を巻き込み盛大に自爆する。
目の前に居るのは確実に苦手な部類。
ダメな方だ。
ふと、フォルティーナの顔が頭に浮かんだ。
あぁ~なるほどね。そういうことね。
これは、抗い様の無い理不尽なんだ。
神様だから天使様だからの・・・だとすると、ここは。
「chefアランギー様。抜本的な解決にはなりませんが、天使ハスデア単体でならもう二度と五〇パーセントの確率で誤作動しない方法があります」
「二度とですか。ふむふむふむ」
「今のフォルティーナみたいになってしまえば良いんです」
創造神様からの罰でフォルティーナはコルト下界ではという制限付きだが力の多くを封印された状態にある。
「ファルティーナとは女神フォルトゥーナ様の事でしょうか?」
「その通りですぞぉ~。ハスデア」
「女神フォルトゥーナ様と同じ。同じ。・・・コルト管理者ロイク。今直ぐ同じ事を私にしてくれ」
「分かりました。創造神様に確認してみますね」
「創造神様に確認?」
「ハスデア。この件は、創造神様からの許可が必要なのですぞぉ~」
「神アランギー様。それはどう言う事なのでしょうか?」
「つまり、貴方はパトロン殿の提案を飲み貴方の意思で創造神様の御意思御意向を待つ存在となった。それだけの事ですぞぉ~。はい」
ありがとうございました。