4-106 世界は勝手にまわるもの⑦~エビフライ~
謁見の間は、chefアランギー様ともう一人のルーカス第一王子、二人の問答の場になっていた。
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chefアランギー様は問答の中にありながら、二つのパターンで念話を繋ぎ、今や恒例とも言える脱線過多でこれからの流れ段取りを説明してくれた。
パターンⅠは、本物のルーカス第一王子とアイニー・キルダ嬢ことアイダさんと俺の三人。
パターンⅡは、もう一人のルーカス第一王子を除いた謁見の間に居る全員。
何故、態々念話を二つに分けたのか。
それは、ルーカス第一王子と交わした現状維持の約束を守る為だと思われる。
chefアランギー様の言う現状とは、光の理に干渉しルーカス第一王子の姿を不可視化した瞬間。誰もが可視出来ていた時点までを指すらしい。
今現在は現状ではあるが非現状として正しく認識しているらしく安心して良いそうだ。
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「≪『下界に於いては等しく無常。憐憫極まりし存在。それ即ち神、何を隠そう私もその一人なのです。それに対し、下界に於いては有り余る権利。正に澆薄たる存在。コルトでは可愛らしくも素敵な言葉でエンジェルや天使等と呼ばれていますが、要は創造神様の小間使い。それ即ち使徒、端的に言いますと、あれですなっ!!!』→パターンⅡ≫」
chefアランギー様は、もう一人のルーカス第一王子を見据える。
要するに、神様は下界で使徒に干渉出来ない。って、事だよな。あれれ?でも、フォルティーナは天使のアラキバさんを神気で拘束してたような、あれって時空牢獄だったような気が、
「≪『創造神様からの指令でフォルティーナと天使探しをしたんですが、フォルティーナは時空牢獄で干渉してましたよ』→chef≫」
「≪『フォルティーナ様は、第二神ですからなぁ~』→ロイク≫」
みたいですね。・・・・・・罰の真っ最中にも関わらず相変わらず邪魔ばかりしてくれて・・・ますよ。
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「≪『アイダさんが、あっアイニー・キルダさんがルーカス第一王子にかけられた石化の呪いを解いた時を再現する?』→パターンⅡ-ロイク&chef≫」
「≪『えっ!わ、私には無理です。神アランギー様、どうかお考え直しを、どうか、どうかっ!』→パターンⅡ-アイダ&chef≫」
「≪『三文でも二文でも構いません白々しくも胡散臭い芝居でもう一人のルーカス第一王子の注意を逸らすだけで良いのですぞぉ~。おっとそうでしたそうでしたアイダ貴女は齢三五でしたなぁ~。私にとっては三五も二〇も些細なもの、ですがヒュームのユマンにとっては些細では無いのですよねぇ~』→パターンⅠ≫」
「≪『私は年齢等気にしませんっ!!!』→パターンⅠ-ルーカス&chef≫」
「≪『え?ルーカス様?』→パターンⅠ-アイダ&chef≫」
姿を消し傍観に徹していたとも思われる、のかもしれない、ルーカス第一王子が、chefアランギー様の言葉を強く否定した。
アイダさんはルーカス第一王子の声が聞こえた瞬間、もう一人のルーカス第一王子の姿を確認したが直ぐに、
「≪『まさかっ!また呪い!!!』→パターンⅠ-アイダ&chef≫」
「≪『呪いとかそういう物では、』→パターンⅠ-ルーカス&chef≫」
「≪『その通りですぞぉ~。あそこに居るもう一人のルーカスはあくまでももう一人のルーカス。本物のルーカスは絶賛不可視中なだけで肉体を支配されるといった呪いに冒されてはいませんですぞぉ~。まぁ~次から次へと呼び込んでしまう何かを持っている様ですのでぇ~、ラックが低いと言いますか、幸が薄いと言いますかぁ~不憫ではありますなぁ~。ですが、それも今この時が終わりを迎えた瞬間には過去。アイダ』→パターンⅠ≫」
「≪『はい・・・』→パターンⅠ-アイダ&chef≫」
「≪『ルーカスは貴女と出逢ったのですぞ』→パターンⅠ≫」
おっ!料理以外の道でchefアランギー様が初めて綺麗にまとめた感じだよね。これ。
「≪『あっ・・・』→パターンⅠ-アイダ&chef≫」
「≪『神アランギー様、こ、こんなところで何を』→パターンⅠ-ルーカス&chef≫」
「≪『まぁ~、秘密のままでは、過去も未来も不憫である事に変わりはありませんが気持ちですからなぁ~。私に出来る事は神々の一柱として祝二人の愛を讃え認めるくらいでしょうかっ!はい』→パターンⅠ≫」
折角綺麗に・・・身も蓋も・・・。うん?二人の愛を讃え認める。・・・二人を讃え認める。・・・二人を認める。・・・・・・そ、
「≪『それって、chefアランギー様が神様としてアイダさんとルーカス第一王子を公認するってことじゃないですか』→パターンⅠ-ロイク&chef≫」
「≪『『えっ?』』→ロイク&chef≫」
「≪『はてさて何を今更ですぞぉ~陛下。アイダとルーカスの何処を否定する必要があるのですかなぁ~』→パターンⅠ≫」
いや、無いですよ。否定って言うか、そもそも二人の男女の問題に関わる気なんて一切ありませんから。
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「≪『さて、それでは再現スタートと行きましょう。はい』→パターンⅡ≫」
「≪『『『神アランギー様の御心のままに』』』→chef≫」
俺を除いた全員が、chefアランギー様の号令で、臨戦態勢に入る。
「時に、ルーカス」
「はい。神アランギー様」
「貴方にかけられていた石化の呪いをアイニー・キルダ嬢がどのようにして解いたのか私は非常に興味を持っています。解呪の流れをアイニー・キルダ嬢に再現させ、私の教えが正しく伝わっているか確かめたいのですが、何を隠そう私は究極のリアリスト役者がこうしてここに揃い踏みしているからにはリアルを追求しなくては私とは言えず最早究極のリアリストでも何でもない存在になってしまうのです。ですので、ルーカス役をルーカス。アイニー・キルダ嬢をアイニー・キルダ嬢。あ、と、はっ!・・・ヴィルヘルムもその場にいたのでしたなっ!」
「はい」
「陛下は立ち会ったのですかなぁ~、はい」
「・・・そうですね」
「宜しい。それでは、ヴィルヘルムはヴィルヘルムを、陛下はロイクを再現してくだされ。さん・・・にぃ~~・・・の、はい」
≪パン パァ~ン
「何をやっているのですかなぁ~ルーカス。貴方は石なのですぞぉ~。もっと真剣に石を演じて貰わなくて困りますですぞぉ~。・・・もう一度、もう一度です。はいはい初めから行きますですぞぉ~。さん・・・にぃ~~~・・・の、はいっ!」
≪パン パァ~ン
「ふ~む。・・・何かが足りないと言いますかぁ~、何かが違うと言いますかぁ~。・・・・・・そうです。アイニー・キルダ嬢貴女に聞けば解決するはず。ルーカスはどの様なポーズで石化していたのですかなぁ~。はい」
「え、えっと・・・」
chefアランギー様は、もう一人のルーカス第一王子の正面まで歩み寄ると、
「こうですかなぁ~?・・・それとも、こうですかなぁ~・・・あぁ~それともこんな感じでしょうかっ!」
「え、えっと」
「神アランギー様。な、何もそこまでやらなくても解呪の流れを確認するだけなのですよね?それに私は国の大事を」
「何を言っているのですかなぁ~。リアルを追求してこそのリアリスト。私なのですぞぉ~おっ!石化。石化石化石化。ポーズ以上に追求すべきリアルに気付いてしまいました。折角ですので、ポーズと一緒にリアルの道を極める事としましょう。陛下。こちらへ」
「俺もそっちに?」
「ですぞぉ~。ホラホラルーカス何をしているのですか。石化時のポーズをチャチャッと決めてくだされ。アイニー・キルダ嬢、ヴィルヘルム。ルーカスは石化していた時、目を閉じていましたかなぁ~?」
「「閉じていました」」
計画通りだけど・・・棒読み過ぎだろう。バレないか?
「ルーカス。まずを目を閉じてくだされ」
「は、・・・はい」
「俺はどうしたら?」
「陛下もこちらへ来て私のリアル道をリアル体験してみては如何ですかなぁ~。はい」
「あぁ~なるほど。それは楽しそうですね。では、俺もそっちに行くとしましょう」
・・・はい。ごめんなさい。俺もスゲェ~棒読みですね。
「アイニー・キルダ嬢、ヴィルヘルム。ルーカスはどんな姿勢で石化していたのですかなぁ~?」
「「エビフライです」」
「はっ?エビフライ?か、神アランギー様。エビフライのポーズとはいったいどの様なポー」
「ホラホラホラルーカス。貴方は石なのです。石が喋りますかなぁ~。石が目を開けますかなぁ~。石が勝手に動いてはいけませんですぞぉ~。はい」
「も、申し訳ございません」
「ふむ。謝る必要はありません。貴方は今石なのですから。言われたまま言われた通りに動いてくだされ。エビフライのポーズとは具体的にどの様なポーズなのですかなぁ~。ヴィルヘルム」
「あ、え、えぇエビフライは床にうつ伏せ寝した状態で」
「ふむ。はいルーカス。うつ伏せ寝ですぞぉ~。返事は結構ですぞぉ~。アイニー・キルダ嬢」
「は、はいうつ伏せ寝の次ですよね。次は、両足を反り上げます」
「なるほどぉ~。はいルーカス。足を大きく上にぃ~。返事は結構ですぞぉ~。ヴィルヘルム」
「上半身を反り上げます」
「はて、ヴィルヘルム。私の記憶が正しければなのですがこれは弓のポーズではないかと・・・」
「神アランギー様。弓のポーズは足首を手で掴みますが、エビフライは足首を掴みません」
「ほう。はいルーカス。上半身を大きく上に反るぅ~。返事は結構ですぞぉ~。時に陛下、リアルの追求に遠慮は無用。さぁ~今ですぞぉ~」
この状態なら時空牢獄で拘束出来ると思うんだけどなぁ~。取り得ず計画通りに・・・。
ありがとうございました。