4-105 世界は勝手にまわるもの⑥~アイニー・キルダ嬢~
「≪『『はぁ?』』→chef≫」
間の抜けた思考を念話でハモらせた俺達に対しchefアランギー様は説明を続ける。
「≪『つまり、身体の一部を食べさせた。血を飲ませた。舌と舌が絡み合う濃厚なる口付けをした。伽等子作りに励んだ。恥じる事はありませんですぞぉ~。全て愛故にですからなぁ~。はい』→ルーカル&ロイク≫」
説明してくれるのは有難いのだが・・・。
いやいやいや、愛があってもそれはないでしょう。
何処の世界に愛してるからって自分の体の一部を食べさせたり血を飲ませたりする人がいるんですか。
って、長くなるだろうから言わないけど・・・。
「≪『え・・・あ、えっと・・・・・・神アランギー様。何処まで御存知なので・・・しょうか・・・』→chef&ロイク≫」
何処までってどう言う事だ?
「≪『そうですなぁ~。言うなれば、足繁く通っている。と、言ったところでしょうかぁ~。はい』→ルーカス&ロイク≫」
「≪『あのぉ~、二人はいったい何の話をしてるんですか?話が全く見えないんですけど』→ルーカス&chef≫」
「≪『アシュランス王。御願いします。彼女と私の事は、事を、まだ父には秘密にしていて欲しいのです。何卒お願い致します』→ロイク&chef≫」
ガツンと響くルーカス第一王子の念話。
「≪『彼女?・・・すみません。ホント今って何の話してるんですか?』→ルーカス&chef≫」
「≪『パトロ、陛下は本当に鈍珍なのですなぁ~。ルーカスは、アイダとの逢瀬の事を言っているのですぞぉ~』→ルーカス&ロイク≫」
「≪『おうせ?はっ?』→ルーカス&chef≫」
「≪『まさかまさかのそのまさかそこからでしたか。逢瀬とは逢引、ランデブーの事ですぞぉ~』→ルーカス&ロイク≫」
「≪『・・・逢引の意味位は流石に分かります。そうじゃなくてですね。どうして、今なのかなって』→ルーカス&ロイク≫」
「≪『そ、そうです。神アランギー様。私の事等捨て置き、今は偽者の私が何者なのかの方が問題です』→chef&ロイク≫」
それって、微妙・・・。結局のところどっちもルーカス第一王子の事なんじゃ。
「≪『おんや矛盾した事を。まぁ~良いでしょう。秘密とは所詮全ての存在によって共有される物ですからなぁ~。気が動転したくなるのも当然。さてさてさて、問題は、偽者のルーカスも捨て置くルーカスもルーカス貴方自身で解決しなくてはならないと言う事なのですぞぉ~』→ルーカス&ロイク≫」
「≪『私自身が・・・ですか・・・』→chef&ロイク≫」
えっと、また勝手に進み出したぞぉ~。
「≪『その為には、ルーカス。貴方自身が貴方自身を理解し認め省み前進させる必要があります。つまり、アイダをここアシュランス王国王都スカーレットの王城グランディールの謁見の間に召喚する勇気ですぞぉ~。はい』→ルーカス&ロイク≫」
「≪『・・・この場に彼女をですか』→chef&ロイク≫」
アイダさんってあのアイダさんだよな?
彼女って、前もこんな感じじゃなかったっけ?
「≪『陛下。そう言う事ですので、アイダをこの場に召喚してくだされ』→ルーカス&ロイク≫」
「≪『えっ!?』→chef&ロイク≫」
「≪『俺がですか?って、ルーカス第一王子が納得してないというか、まだ決意出来てないって言うか、まだ召喚しちゃダメですよ』→ルーカス&chef≫」
「≪『ふむふむふぅ~む。ですが、そろそろヴィルヘルムでは荷が重くなる頃ですぞぉ~。はい』→ルーカス&ロイク≫」
・
「父上。このままでは只の水掛け論です。他国に我が国の醜態を晒すのはもう止めにしませんか?」
「醜態。・・・はて?」
「醜態。それ以上の失態ですね。王都の図書館、博物館、資料館をそのままにしてしまったのはまずかったですよ。本当にまずかったと思いますよぉ~」
「ルーカス。お前は何を言っておるのだ。はくぶつかん?しりょうかん?とはいったい何だ?」
「はぁ~・・・まったく古代レベルの文化水準はこれだから困るのです」
・
「≪『chefアランギー様。この状況なんですが、俺だともっと荷が重いと・・・思いませんか?』→ルーカス&chef≫」
「≪『仕方ありませんなぁ~。本日二度目の干渉になってしまいますが、乗船してしまった泥んこ船は出航したばかり。傷は浅い内の方が助かる。それに良いと言うまでは現状維持を約束してしまいましたからなぁ~。些か出血し過ぎサービスの大盤振る舞いではありますがぁっ!!!』→ルーカス&ロイク≫」
≪パン パァ~ン
謁見の間に、chefアランギー様のパルマセコの音が響く。その初動とタイミングを同じくして、アイダさんの姿が姿の見えないルーカス第一王子の前に現れた。
「え?あ?はっ?こ、ここはいったい・・・へぇ?こ、ここ国王陛下ぁ~!?ご、御無礼を御許しください」
事態を瞬時に理解したのかアイダさんは、床に手と膝を付き深々と頭を下げ口を閉ざした。
「ヴィルヘルム。クロージャ。イヴァン。陛下。彼女は私の友人でララコバイア王国副王都トミーランのアドベンチャーギルドに所属する凄腕の冒険者アイニー・キルダ嬢ですぞぉ~。はい」
「え?」
愛に生きるだ嬢って、chefアランギー様。流石にそれはないんじゃ・・・。
「アイニー・キルダ嬢。私が誰か分かりますね」
「は、はい。神様にございます」
「その通りですぞぉ~。そう言えば、ヴィルヘルムと陛下はアイニー・キルダ嬢に会った事がありましたなっ!はい」
「そ、そうですね。アイニーさん、お久しぶりです」
「あ、アシュランス王陛下様っ!?す、するとここは」
「アイニー。ここはアシュランス王国の王城グランディール城です。神アランギー様。何故アイ、アイニーをこの場に召喚したのでしょうか?」
「あっ、アイニーさん。皆と同じ様に楽にして良いですよ。誰も気にしないんで」
「え、あっですが・・・アシュランス王陛下様・・・」
王に陛下に様。その内、神に様まで着いちゃいそうな勢いだ。
「アイニーとやら、少しは礼儀を弁えている様ですな」
もう一人のルーカス第一王子は侮蔑を含んだ高圧的な態度で、アイニー・キルダ嬢ことアイダさんに言葉を掛けた。
アイダさんにと言うよりも皆にの方が正解か。
chefアランギー様以外は皆等しく蔑みの対象なのだろうか?
空回りの嘲りや挑発を繰り返しニヤニヤヘラヘラと薄ら笑いを浮かべた表情、口調、雰囲気は、痛々しくもあり滑稽にしか見えない。
この人大丈夫なのか?
「ル、ルーカス様ですよね?」
疑いたくもなりますよね。本物と全く違う。全くの別者偽者ですからね。
親しくもない俺ですら気付けあっ、本物が目の前に居たから気付けただけか・・・まぁ~気付けた訳だし。
「冒険者風情が気安く話し掛けるな。・・・なるほど、そういう意味でしたか。大事も理解出来ぬ父上には調度良い話し相手ですね。ハッハッハッハッハ、神アランギー様も御人が悪い」
御人が悪い。って、御神、御柱・・・う~ん、気にしたら負けな気がして来た。
「ルーカス・・・様・・・」
アイニー・キルダ嬢ことアイダさんは、もう一人のルーカス第一王子が浮かべる下卑た瞳と口元ニヤニヤヘラヘラと薄ら笑いを浮かべる表情にドン引きしている。
しっかしぃ~、いったい何に満足したらあんな表情が出来るんだ?
正直、・・・あの薄ら笑いホント、キモイ。
「ルーカス。貴方にも同じ言葉を贈りましょう。王子風情が気安く神や王そして女性に話し掛けてはいませんですぞぉ~。火の無い所に煙は立たぬ。ヒュームの噂好きは神以上ですからなぁ~。気を付けてくだされ。と、言いたいところですが、神は気まぐれ、いやはや我ながら自分の気まぐれにはいつも驚かされてばかり。今日の私はルーカス。貴方の無礼を許しますぞぉ~。おっ、おやおやおやはて、何を隠そう私はルーカス、貴方にもアイニーを紹介した事があった様なない様な。はて?・・・ヴィルヘルム。貴方とルーカスにアイニーが会ったのは何時の事でしたかな?」
「ルーカスが石化した状態で発見された時にございます」
「あぁあぁあそうでしたなぁっ!私の代わりにアイニーにルーカスの石化の呪いを解いて貰ったのでしたな。はい」
「な、何とあ・・・あの時、救いの手を差し伸べていただいたのは、てっきり神アランギー様だとばかり思っておりました。まさか私を救ってくれたのがアイニー・キルダ貴女だったとは。後程礼の品を届けさせよう」
「アイニー・キルダ嬢。良かったですなぁ~。貰わにゃ損損、孫魔猿。貰える物は貰っておくべきですぞぉ~。はい」
「・・・そ、そうですね。・・・ルーカス殿下、あ、ありがとうございます」
「うむ。大義であった」
何も理解してないが話に乗っかった体だな。
この話、勝手に進むのは良いんだけど、いったい何処に着陸するつもりなんだろう。
毎度の如く有耶無耶に解決とかそろそろダメだろうし・・・。
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「思えばぁ~、そう、あの日。皆思い思いの姿に仮装し実に個性的でしたなぁ~。たかだか一五日前の出来事だと言うのにイヤハヤお恥ずかしい限りですぞぉ~。はい、忘れておりましたっ!ハッハッハッハ。時に、ルーカスは何処まで覚えているのですかなぁ~。あの日の事を」
「神アランギー様。何処までとはどういう意味でございましょうか?」
「そうですなぁ~。例えばですぞぉ~」
ありがとうございました。