4-104 世界は勝手にまわるもの⑤~不可視化~
「然らば」
≪パン パァ~ン
大会議室に、chefアランギー様のパルマセコの音が響く。その初動とタイミングを同じくして、ルーカス第一王子の姿が俺達の目の前から消えた。
「「「おおおぉぉぉ」」」
そしてそれと同時に皆から驚きの声が上がった。
「良いですかなぁ~。私がヒュームに直接干渉するのは今回が最初で最後。今回に限りルーカスが良いと言うまで現状維持を約束しましょう。ふむ、まさに出血大サービスですなっ!」
「神アランギー様。消えた実感が無いのですが・・・」
ルーカス第一王子が立っていた場所から、ルーカス第一王子の声が聞こえる。
やっぱりだ。気配は感じるからそうかなとは思ったけど、これって見えていないだけなんだ。
「神アランギー様。ルーカスの声だけが聞こえるのですがこれはいったい?」
「ヴィルヘルム。見えなくしただけで聞こえなくした訳ではないのですぞぉ~。姿無き存在としてそこに存在しているのですから音や臭いや気配、自然魔素はあって然るべき。まぁ~消えた実感が無いのは当然でしょうな。他の眼にはであって己の眼にはではありません。まぁ~完璧に絶対を保障するものではありませんのでぇ~、他の眼にはであっても注意する必要はありますですぞぉ~。はい」
「この感じが通常と言う事でしょうか?」
「通常。まぁ~そんな感じですかな。光の理に干渉しあーだこーだ。と、説明しても良いのですが時間も下地も今は足らずお手上げ状態万々歳」
「こ、これはそういう物なのですね」
「ルーカス。そこに居るのか?」
「はい、父上。先程から目に前に控えております」
「声だけが聞こえるとは何とも不思議な感覚だ」
これって、神眼Ⅲを意識すれば、
・
・
・
やっぱりだ。良く視える。
ルーカス第一王子は、竜王の後方へと移動する。
何やってるんだ?
「父上」
皆の視線が一斉に竜王へと集中する。
「儂の後ろだ後ろ。儂を見て何とする」
「神アランギー様。これは悪戯心を擽りますね」
ルーカス第一王子は、元居た場所に戻ると、
「父上。これはなかなかどうして利用出来そうです」
「お、おぉう。次はこっちなのか。・・・エスピオンやアササンには持って来いだな。見えない側には心臓に悪いが」
「近付き声を掛けるだけで心の臓の弱い者には致命的という訳ですね。正にアササンですね」
何この親子、さっきからアササンアササンって・・・。
「その通りですぞぉ~。柔軟な思考こそ美徳。仔細に寛大ゆえ人徳。風吹て団扇まさに役得と言いますからなぁ~。さて、陛下っ!」
柔軟な思考でアササンですよ。美徳じゃないですよね。あれ?
相変わらず意味の分からない事をぉって、いきなり振らないで欲しんですけど。
はいはい。準備OKって事ですね。
「彼等に入室の許可を出しますね」
「違いますですぞぉ~」
あ?
「違う?」
「はい。違いますですぞぉ~。まずは、ルーカスを時空牢獄に入れてくだされ」
「あぁ~なるほど。見えないだけで気付かれる可能性がありますからね」
「その通りですぞぉ~。はい」
・
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・
三つの報告を受けた俺達は、ルーカス第一王子を騙るもう一人のルーカス第一王子と会う事にした。
会う場所は、もう一人のルーカス第一王子の希望を叶え謁見の間だ。
chefアランギー様のパルマセコで、グランディール城の謁見の間へと移動した俺達は、本物のルーカス第一王子と姿見が瓜二つのもう一人のルーカス第一王子と対峙した。
「吹けば飛ぶような小国の一王子風情の願いを...... ......おや?父上ではありませぬか。姿が見えぬ様でしたが、まさかアシュランス王の下に居られたとは。国の大事にいったいここで何をなされておいでで?」
この微妙な喋り方は何だ?
カトリーヌさんの変装程じゃ無いけどでもホント姿だけは良く似てる。姿だけでちっともルーカス第一王子っぽくないけど・・・。
神眼Ⅲを意識し視認する。
関連付けによって強化されたMRアイズを通して視界にもう一人のルーカス第一王子の個人情報が浮かび上がる。
はぁっ?おっと危なく声を出してしまうところだった。
視界には、unknownの文字がズラリと並んでいた。
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【名前】unknown
【性別】unknown
【種族】unknown
【個体レベル】unknown
【生年月日】unknown
【年齢】unknown
【血液型】unknown
・・・
・・
・
【状態】unknown
amnesia
≪称号≫
unknown
unknown
***********************
神眼Ⅲとフリーパスとタブレットで視られない情報って、あれしか・・・。
「≪『chefアランギー様』」
「≪『どうかされましたかな?』」
「≪『もう一人のルーカス第一王子なんですが、あれって』」
「≪『おんや、パトロン殿も気付かれましたか』」
「≪『神様』」
「≪『天使ですぞぉ~』」
「≪『・・・』」
「≪『天使つまり創造神様の下僕、使徒の事ですぞぉ~。はい』」
「≪『・・・えっと、質問しても良いですか?』」
「≪『構いませんですぞぉ~』」
「≪『ありがとうございます。それじゃ、天使が何でルーカス第一王子の姿でここに?』」
「≪『ふんむっ。何と言いますか。目の前に本人が居る訳ですからぁ~、直接本人に聞いてみては如何ですかなっ!』」
「≪『いやそれはまずいんじゃないかな。正体がバレてないって思ってるかもしれないし』」
「≪『なるほどなるほどなぁ~るほど。それでしたら、ここは暫く様子を見る傍観に徹してみては如何ですかな』」
「≪『・・・そうですね。ちょっとだけ様子見で行きますか』」
・
「はて?今日の連合国家フィリー加盟国の会議にはルーカスも出席させると首相のマイヤーオレグに伝えたはずなのだが」
マイヤーオレグ?首相はイニャス卿のはず。わざと?
それに、未来会議だし・・・。
「イニャスからは何も聞いておりませんが。うん?マイヤーオレグですか?・・・昨日今日と彼を見かけておりませんので、もしかしたらですが行き違いがあったのやもしれません。行き違いとは言え、大切な会議に出席しなかったのは事実。父上、・・・・・・竜王陛下。・・・・・・聖王陛下。アシュランス王そして神アランギー様。会議に出席出来ず誠に遺憾に思います」
普通、一人一人に敬礼するか?目礼で十分だろう。・・・皆の立ち位置をさり気なく確認してる様にも見えた。
時間をたっぷり使ったのは何かを狙って?
「≪『ルーカス』→ルーカス&ロイク≫」
「≪『ルーカス?chefアランギー様。ルーカスがどうかしたんですか?』→chef≫」
「≪『もう一人のルーカスでは無い方のルーカスとパトロン殿に念話で話し掛けただけですぞぉ~。はい』→ロイク≫」
「≪『なるほど。だとすると俺も、ルーカス第一王子と繋いだ方が良いですか?』→chef≫」
「≪『そうしてくだされ』→ロイク≫」
「≪『分かりました』→chef≫」
「≪『ルーカス。声も口も不要。思考するだけで結構ですぞぉ~』→ルーカス&ロイク≫」
「≪『・・・は、・・・・・・・・・・・・は・・・い。こんな感じでしょうか?』→chef≫」
「≪『大丈夫ですぞぉ~。さて、この会話は、私と陛下と貴方三人の間だけで成立している今だけホットラインです』→ルーカス&ロイク≫」
「≪『は、はっ!仰せのままに』→chef≫」
「≪『えっとですね。俺には、chefアランギー様の声しか届いてないです。ルーカス第一王子。俺の声は聞こえてますか?』→ルーカス&chef≫」
「≪『あ、はっ!』→ロイク&chef≫」
「≪『繋がったようで何よりですぞぉ~。さてさてさて、それでは本題に入るとしましょう。ルーカス。嘘はその意味を成さず真実は常に貴方の中にあり続ける。正直に答えなさい。貴方はここ四〇日の間に身体の一部、血液体液を誰かに渡しましたかなぁ~?』→ルーカス&ロイク≫」
ありがとうございました。