0-3 真夜中の襲撃
2019年6月13日 修正
・本文冒頭のサブタイトル等を削除しました。
――― マルアスピー村 南部素材買取所傍の門
≪ドゴォーン ドーン
――― マルアスピー村 中心部
≪カンカンカンカンカンカンカンカン
≪カン カン カン
≪カンカンカンカンカンカンカンカン
≪カン カン カン
≪カン カン カン
村全体が寝静まった頃、警鐘が村に鳴り響いた。
――― 自宅の自室
俺は慌ててベッドから飛び起きると、狩猟装備に着替え居間に移動した。居間では既に父が準備万端の状態で、戦闘用の矢筒を4つ整え待機していた。
「ロイク。行くぞ」
「ああ、親父」
「気を付けるのよ」
「ねぇみぃーし、さっさと片付けてくるわぁ」
「母さん、行ってきます」
≪バタン タッタッタッタ タッタッタッタ
親父と俺は家の外へ飛び出した。
≪カンカンカンカン カンカン
≪カン カン カン
≪カン カン カン
「うん?6回になったな」
「門が破られたみたいだけど、親父。どうする?」
「どうぉーするも何もぉ!領軍の詰所で状況を確認するしかねぇーだろぅ~」
「だったら、急ごう」
俺達は領軍私兵詰所へ向かった。
*****警鐘の説明*****
カン 鐘1回は
【東口】駐屯口方面
カン カンは 鐘2回は
【西口】鍛冶場口方面
カン カン カン 鐘3回
【南側全域】ヒグマ広陵方面
カン カン カン カン 鐘4回
【北口】加工場口方面
村の南側には3つの門がある。
【南口】ヒグマの背口へ向かう【南門】
【南東口】ヒグマの尻尾口へ向かう【尻尾門】
農地で働く村人の為に新設された【新門】
そして、南側のヒグマ広陵方面の警鐘には3つの門を区別する制度が確立していない。
①カンカンカンカンカンカンカンカン
連続8回は、村の外部からの襲撃
②カンカンカンカンカンカン
連続6回は、村の内部での戦闘
③カンカンカンカン
連続4回は、火事等の災害
④カンカン
連続2回は、事前に決められた避難地へ集合
連続して鳴っていた警鐘のパターンが変わった時は、特に注意が必要だ。①なら村への侵入を許した時点で②へと移行する。火災等が発生すると、②と③を交互に繰り返す。
警鐘制度は、初代領主リトル・アンカー男爵が村に定着させた物で、今の時代にあっていない。。
*****警鐘の説明おわり****
―――― アンカー男爵領領軍私兵詰所
≪バーン
「バイル・シャレットと息子のロイクだぁ!状況はどうなってるぅー?」
「シャレット士爵様。はい。ヒグマの尻尾から大量の魔獣が広陵を下り、尻尾門を破壊し村へ侵入。領民居住区への進攻を阻止するべく領軍と王国兵が中心になり、村のBT・LBTと共に、素材買取所周辺で交戦中であります」
「俺達はぁー。弓で後方支援に回るがぁ~他に何かあるかぁ?」
「はい、マルフォイ様より指示が出ております」
「マルフォイ?誰だそいつ?」
あいつか。
「親父、その人次期領主らしい」
「ふーん。で、その領主の息子がなんだってぇ?」
「はい。奉納祭の前なので農作物への被害を最小限に食い留める事、その為に魔術と火の使用を禁止するそうです。また、大樹の祭りの為に観光で来ている者達に知られる前に対処せよとの事です」
「はぁー?こんだけ鐘が鳴ってぇりゃぁー馬鹿でも何かあったって気付くだろうよぉ!」
「アンカー邸に宿泊されております。他領の貴族の方々に関しましては、マルフォイ様が責任を持って対処なさるとの事です」
「おい、他家の奴等が来てんなら、そいつらの警護用に戦える奴がいんだろうがぁ!安全な北の屋敷にいんだから兵隊位回せって言ってこい」
「隊長も進言したのですが、警護の者をどう説明して借りるのかと激怒されまして・・・」
あの人ぶれないなぁ~。親父がまともに見える。
「あぁーもういいやっ!んな馬鹿はほっといて、取り合えず武器屋まで行くぞ」
「買取所に向かわないのか?」
「走りながら段取りを説明してやっから」
「私は伝言役ですので、ここに待機してます。士爵家の御2人は武器防具屋に行ってから交戦で間違いありませんか」
「あぁー。なんだっけ?マルボーだっけっか。終わったら殴りに行くから。宜しくって言っとけ」
「行くぞ、ロイク!」
――― 疾走中
俺達は、貴族領民居住区の東の端にある武器防具屋【セドリル】さんの店へと走って向かっていた。
「いいかぁ!ロイク。俺の狩り用の矢筒には、矢は14本だ。お前は12本用が2つだろう。今2つずつ持ってる戦闘用の矢筒には矢が20本ずつ入ってる。問題はここからだ、何本あるか分かるよな?」
「問題って加算とか言わないよな?」
「こんな時くれぇーはよぉ!さすがに、俺だって真面目になるってぇ!」
本当かどうか怪しいところだが、今は緊急事態だ父に従って行動する方が良いだろう。
「親父が54本で、俺が64本」
「この星明かりの中で、夜の魔獣を相手に矢を射るとして仕留める自信はあるか?」
「20mとか、ある程度近距離になってからじゃないと無理だと思う」
「近付くまで待って射ってちゃ後方支援になんねぇー。あまりつかいたかねぇー戦法だがぁ!矢1本を囮で打ち込んで魔獣をこっちに引き寄せてから仕留めるしか、この状況じゃぁーどうしようもねぇーと思う」
「実質、矢は半分ってことか・・・」
「まっ!そうなんねぇー様に。武器屋って訳よ!」
「俺のお手製の矢は殺傷力が高ぇーから、囮はセドリルんとこの矢で十分だろうぉ!」
「金持って来てないけど」
「はぁー?お前、緊急事態だぞ、村があっての商売でしょうがぁー!矢の1万本位タダだろう普通ぅー。うん。タダにするべきだ!でだ、ここからはぁー、真面目な話だけどよぉ!お前より俺の方が正確に矢を射れるよな!」
「あぁ」
「しかも正確に遠くに射れるよな」
「あぁ~そうだな」
「つまり、俺が遠くの魔獣を武器屋に近付ける為に、矢を射る方が確実って事になんねぇか?」
「あぁ~」
「俺が魔獣を仕留めやすい所に誘き寄せっから、お前は20~50m位のところで確実に仕留めろ」
「いや、50mは無理だと思うけど・・・」
「やるしかねぇーんだよ。状況を考えろ」
「分かった。やってみるよ」
「おぅ」
――― マルアスピー村の武器防具屋
≪バンバン バンバン
領軍詰所から役場通りを駆け抜け、宿屋街を駆け抜け、突き当りのY字路を右に曲がり、セドリルさんの武器防具屋に到着した。約2.5Kmの道則を全力疾走した事になる。
「おーい。セドリル開けてくれ。俺だバイルだ!」
≪ドンドン バンバン
「・・・」
店からも、自宅の方からも反応が無い。
≪バンバン バンバン ドンドン
「しゃぁーねぇ!割って中に入っかぁ!よし。それじゃぁーせぇーの」
「待って、待てくれ」
≪カチィ キー
「何だぁーいんじゃねぁーかよぉ!」
≪はぁ~ はぁ~ はぁ~
「・・・バイル様。魔獣が迫ってるって時に、いったい何の御用事でしょうか?上の階の一室に家族で非難していたものですから・・・」
「あぁー何だ。説明してる時間はねぇーから、端的に言うぞぉ!店にある【やすもんの矢】全部と【屋上】借りるぞ!」
「どういう事でしょうか?」
「矢は後で回収してくれぇぃ。売りもんにならねぇー矢は、領主にでも請求しておけぇ!マロルだか何だかって馬鹿がぁ!指揮執ってるらしいからよぉー」
「え?」
「よし。セドリルは、店のドアと窓に、破られねぇー様に板でも張っとけ。ロイク矢を運ぶぞ」
「あぁ~・・・セドリルさんお邪魔します」
「あ、はい」
――― 武器防具屋の屋上
南部素材買取所周辺は、建造物が買取所しかない、門を破られてしまった上に、火の取り扱いを禁止され、農地へ被害を出すなと命令されてしまっては、居住区へと続く道なりに応戦するしかない。
魔獣の襲撃は、瞬く間に貴族領民居住区の目と鼻の先にまで迫っていた。
俺達は武器防具屋の屋上に陣取り、星明かりを頼りに後方支援《後方からの攻撃》を開始した。
≪シュッ
「おい。俺の【遠望】は夜戦に向いてねぇーからよ、【警戒】で距離や位置を把握するしかねぇ!お前はどこまで感知できてる?」
「俺は、90m届かない位かな」
「そっかぁ!それなら、そぉーろそぉーろお前の感知範囲に2匹入んぞ。仕留めろよ」
「・・・90mってハードル上がってないか?」
「さぁっ。次々おいでいただくぞぉ!」
≪シュッ シュッ シュッ
親父は立て続けに3本。矢を遠くに射った。
≪シュッ
俺は、スキル【警戒】を発動させ、感じを掴む為セドリルさんの店の矢を感知した魔獣へ射った。
≪ブスッ
「ブフォッ」
魔獣に命中した。が、仕留めてはいないようだ。
「ブゴォ ブゴォ ブゴオゥ―――」
「親父・・・これって、【ラビットウルフ】の鳴き声だよな?」
「強くはないがぁー、最悪だな。仲間を呼ぶから一気に片付けねぇーと、終わんねぇぞ!」
魔獣【ラビットウルフ】は、体長100cm程。耳が長く、大きく裂けた口には鋭い牙が2本。発達した後ろ脚の筋肉で跳躍しながら移動する。1度の跳躍で、5~10mを移動する。10匹~20匹の群れを作り、危険を察知すると仲間を呼ぶ習性がある。【体当たり】【飛び蹴り】【噛み付き】で攻撃してくる。
「どうする?」
「まずはぁ!予定通りだぁ。仕留めて様子を見ることにすんぞ。こいつらが率先して人を襲うって考えられねぇーからよぉ!こりゃー何かあんぞ」
≪シュッ
15mまで近付かれると、ラビットウルフなら頭部を余裕で射抜ける。跳躍後の着地点を予測すれば簡単に倒せる相手だ。
≪シュッ
≪シュッ
≪シュッ
≪シュッ
「ブゴォ ブゴォ ブゴオゥ―――」
≪シュッ
≪シュッ
≪シュッ
≪シュッ
≪シュッ
「ブゴォ ブゴォ ブゴオゥ―――」
仕留めても仕留めても、仕留めた先から仲間を呼ばれ、一向に減らる気配が無い。
「もう少し先の戦況が分かりゃーなぁ!南東口はどぉーなってんだぁ?魔法も火も禁止だぁー↑?夜の戦闘を何だと思ってんだよぉ。何にも見えねぇーつぅーの」
確かに、スキル【警戒】には限界がある。何となくの位置や数は把握できても、大きさや相手の次の行動が分かる訳ではない。危険を回避する為のスキルで、危険に挑む為の物ではないからだ。
≪シュッ
「ブゴォ ブゴォ ブゴオゥ―――」
――― 2時間以上経過
「親父。セドリルさんの店の矢だけど、あと10本しか残ってない。親父の矢は、1本も使ってないけど、どうする?」
「俺の矢は、確実に仕留められる時だけにしとけ、こう暗くちゃ魔獣以外に当たって、朝になって人殺してましたぁーって冗談じゃ済まねぇーからよ」
「店にもっと矢が無いか見て来る」
「おぅ」
≪シュッ
「急げよ」
「了解」
≪タッタッタッタッ
2階へ移動すると、セドリルさんが1人で、1階へ通じる階段に2階から木板を打ち付けていた。
「セドリルさん。矢が無くなりそうなんです。もっとありませんか?」
「店の分はあれで全部だよ。後は店の裏の倉庫に在庫があるけど。一度、外に出ないと行けない場所だからねぇ~」
「そうですか」
外に出て矢を取りに行ける位なら、初めから屋上に陣取って高所から魔獣を狙ったりはしない。正面から迎え撃ってるだろう。
「バイル様とロイク君は、投げナイフやジャベリンとかは扱えないのかい」
「投げナイフなら扱えますが、槍のスキルは所持していないので、槍本来の攻撃力を生かせないと思います・・・あっ!でも、短剣を投げて使うのはありかもしれませんね。短剣と剣をあるだけ屋上に運んでも良いですか?」
「この際、店の物で魔獣を倒せるなら何でも使ってくれて構わないよ。どれ、1人で運ぶのも大変だろうから、私も手伝おう」
「ありがとうございます」
「いやいや、結果的に、家の屋上にバイル様とロイク君が陣取ってくれたおかげで、我々家族が護って貰っている状況になった訳だ。商品は勿体ないが命あっての物だし感謝してるよ。さぁ~そうと決まれば、店への階段の板を外さないとな」
「これじゃ~下りられませんからね」
≪バキバキバキバキ
「随分確り打ち付けたんですね」
「家族の安全の為だよ」
≪バキバキバキバキ
「十分な理由ですね」
「あぁ~そうさ。よし、これで通れるぞ」
≪タッタッタッタッタッ
セドリルさんと俺は、店の中から初心者用の投げナイフと短剣と剣を腕に抱えられるだけ抱えて屋上に移動した。
「おっ!セドリル。お前も退治すっかぁ!」
「私が武器を使っても石を投げたのと同じ程度のダメージしか与える事は出来ないでしょうから、私は短剣の運搬係です」
「矢は無いのか?ここ武器屋だろう?」
「店には400本置いてあったはずですから、通常でしたら多い位ですよ」
「それで、投擲用の短剣って訳かぁ!」
「はい」
「セドリル。弓矢と違って短剣での攻撃力は、俺達親子はからっきしだからよ、何かあってもいけねぇーし、お前は下に行ってろ」
「ありがとうございます。バイル様」
「で、その前にだけどよぉ!俺ってこの村に住み始めたの、こいつが産まれた頃だったろう」
「もうそんなに経ちますね」
≪シュッ シュッ
≪ドォッ ブチュ
話をしながらでも、親父は的確にラビットウルフの頭部を射抜いている。
「これって、お前らと飲むと誰かが必ず話出すリトルの御伽噺に似てねぇーか?」
「あれは、史実ですよ。大量に盛られて大袈裟になってはいますが」
≪シュッ
≪ドチュ
「どっちでもいいけどよぉー。あれって、確かダークウルフの上位種の群れを追い払ったんだよな?」
「はい、リトル様が御1人で9匹の【オプスキュリテ】の群れを追い払ったのは史実です。倒してはいないと祖父から聞いています。その前に襲って来た【ラビットウルフ】や【ソイルウルフ】の群れの進攻を食い止めたり、殲滅したのは事実だそうですが、それも村人皆で力を合わせての事で、何とか撃退できた感じだったそうです」
「だとするとよぉ!これって、出るんじゃねぇーの、その上位種がよぉー」
≪シュッ ブチュ
「あぁー。俺の方は矢。終しめぇだぁ!」
「まだ、そこにあるようですが・・・」
「これは、殺傷力が高ぇーからよ。下で戦ってる連中に刺さったら冗談になんねぇーだろ。矢としては優秀なんだがぁー!使えねぇー矢なんだよぉ!ワッハッハッハ」
「家の矢は平気なんですね・・・」
「刺さりゃーいてぇーだろうけど、大丈夫なんじゃねぇーの!鍛えてんだろう」
「はぁ~・・・」
「さてと、短剣を投げて倒すってぇーなると、もう少し近付いて貰わねぇーと流石に無理だなぁ!」
「セドリル。ここからは近接戦闘になるから、話は終わりだ下に行け」
「分かりました。バイル様もロイク君も無理を為さらずに危なくなったら直ぐ下に避難してくださいよ」
「わぁーてるよ。閉めるぞ」
≪バタン
セドリルさんが2階へ下りると、親父は入り口を閉めた。なんだろう。今日の親父は何かちょっといけてる感じがするぞ・・・。
「ぅん?どうしたぁ?」
「なんでもない」
本物かどうか怪しくて、父の顔を凝視していた。
「さて、どうするよぉ!敵さんが来るまで何もできぇーぞ。あいつらって移動はすげぇー飛距離で跳ねるけど、上に同じ距離分跳ねたりできんのかぁ?」
「10m以上跳躍できるなら、余裕でここまで跳ねてこられるだろうけど」
何事も起こらず、10分程時間が経過した。俺の【警戒】範囲には今のところ魔獣の感知はない。
「暇だな!・・・お前、104匹仕留めたみてぇーだけど、レベル上がった感じはしたか?」
「数えてたのか?」
「敵の数が分からない以上、倒した数だけでも把握しておかねぇーとなぁ!それで、無駄矢が86本って訳だがぁー。10本はまだそこに残ってるとして、つかえねぇー矢でももう少し使える様になんねぇーとな。俺の方は、誘き寄せる為に打った最初の3本だけで、後は勝手に呼んで増えっから、結局197匹仕留めたはずなんだが、まだ相当居んぞぉ!何匹いるんだよ。こいつらぁー」
「親父の【警戒】は、200m位が範囲だっけ?」
「おうよ」
「って事は、南部素材買取所の方にはもっと沢山居るって事だよな?」
「どうだろうなぁー。1Km位離れてるしよぉ!ま、ただ向こうには軍隊が行ったんだろうぉー。こっちよりも、うまくやってんだろうよぉ!他の狩人や射手も頑張ってんだろうぉーしよ!」
≪キュ――――――ン ピィーン
「あっ?今、買取所の方光らなかった?」
「光ったなっ。魔術みたいだったけど」
≪ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ヒュー―――↑
その時だった、血生臭い匂いと共に激しい風が南から北へ吹き抜けた。
「これ、風属性じゃないよな・・・親父!」
「あぁーこれは、【邪属性】だ・・・。こりゃー祭りがどうこう言ってらんねぇーぞ!」
「どういう事?」
「邪属性を扱える奴が相手ってことぁー!かなりヤバイって話だぁっ!うーんっと・・・まぁーいいや。時間が勿体ねぇー。ロイク!領軍詰所に今直ぐ行って邪属性を扱える奴が敵に居っから、他領の貴族、観光客だって言ってねぇーで、戦える奴は総動員だって伝えるんだ。分かったな」
「親父は残るのか?」
「お前が残っても良いが、お前じゃここは食い止められねぇー。それに、お前の方が【俊足】がある分ちぃっとぉーははぇーだろう」
「それもそうだな」
「良いか、総動員とは言ったが、レベルが低い奴・・・そうだなぁー!10以下は観光客や住民の避難や警護に集中させろ。シャレット士爵家のバイルからの指示だって言えば、マルボーだかなんだかしんねぇーが他家の貴族達は動くだろうぉーよ!急げっ」
「分かった。親父。俺の弓矢置いて行くから、これで何とか凌いでくれ」
「おうよ。援護するから、このまま宿屋街の方から突っ走れ!」
俺は、屋上から地面に飛び降りると、領軍詰所にスキル【俊足】を発動させ全力で走った。
≪シュッ ブスゥ
≪シュッ シュッ ブチュ ブス
――― アンカー男爵領領軍詰所
≪タッタッタッタッタッタッタッタ バァーン
「先程の伝言担当の兵士さんはいますか?」
俺は、勢い良く詰所のドアを開け中へ駆け込んだ。灯りは無く、薄っすらと星明かりで見える程度だったが、人が床に倒れている事に気付いた。
「何があったんですか?」
俺は、床に倒れた人へ駆け寄り、その状態を見て言葉を失った。
床に大量の血を流し倒れていたのは、首の無い1人の兵士だった。
「グルグルグルグル ウグググゥ~」
入って来たドアの方から、低く喉を鳴らし、呻く様な声が聞こえてきた。振り向くとそこには、体長8m以上もある見た事も無い大きさの魔獣が口から血を滴らせながら身構えていた。薄明りの中ではその姿をはっきり確認する事はできなかった。
≪ザッ
そいつは、俺目掛けて真っ直ぐ飛びかかってきた。直線的な攻撃だった事もあり何とか左に身を反らし回避できたが、持ち合わせた武器は短剣2本。
「さてと、どうしよう?」
俺の後ろに回り込んだ。大きな魔獣は、追撃する気が無い様で、こちらの隙を伺っている様だった。外に逃げたところで状況が良くなるとも思えない。攻撃の方法を必死に考えるが何も思い浮かばない。この状況では弓があっても意味がないだろう。俺の能力ではどうしようも無い気がする。
魔獣は、顎が外れる位に大きく口を開けた。
≪ピィーン バァッン キィ――― ドゴォ―――ン ビリビリビリ ビリビリ ビリビリビリ ビリ
「え?何・・・?」
一瞬だった、高密度の何かが視認する事もできないまま、左肩を貫通し、詰所のドアを粉砕し、その先に建つアンカー男爵邸の方に向かって放たれた。直後、地響きと共に大きな爆発音が響いた。
後ろに広がる破壊の後、余りにも現実離れした状況に、左肩、左半身に物凄い激痛が走っている事も忘れ立ち竦む。
「グルグルグルグル」
え?さっきまでドアがあったところに、もう1匹同種の魔獣が現れた。あの破壊力を持つ2匹の魔獣に挟まれ俺は覚悟を決めるしかなかった。
≪トトトトトトトト
≪ピシッ
「おい、小僧。あやつか?【邪念の咆哮】を精霊樹に放った愚か者は?」
え?栗鼠?
「・・・」
可愛らしい1匹の小さな栗鼠みたいな生き物が、大きな魔物を睨み付ける様に、俺の目の前で仁王立ちし対峙していた。
「あれは、お主には扱えんだろう?下がっておれ」
「・・・」
ありがとうございました。