4-99 世界は勝手にまわるもの①~AIRA~
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「宣戦布告と同時に各国の都市や集落を内側から攻撃するつもりで邪闇の魔法陣で移動したら移動先はchefアランギー様の私用空間だった。しかもそこは食材や料理を貯蔵する為だけに存在する無の空間・・・」
同情する気にはなれないが気の毒だとは思う。無の空間って自然魔素の循環に依存して生きる存在にとっては猛毒だってフォルティーナが言ってたし。『本当の毒では無いね。だがしかしだね。致死レベルの害と言う意味では猛毒と同じだね。酸素が・・・まぁ~良いね』って、悲惨な結末しか、ないな。
「ふぅ―――――む。そうですなぁ~」
「ですよねぇ~」
「若干微妙に違うのですが概ねその通りですぞぉ~。はい」
「違うんですか?って、いったいどっちなんですか?」
「はい。連合国家フィリー発足四ヵ国に対してはタイミング的に宣戦布告になってしまった様なのですが、他八ヵ国に対しては攻撃後の降伏勧告。他...... ......国家が安定しているターンビット王国や...... ......比較的コンパクトなジャスパット王国の被害はかなり少なく...... ......内戦状態の国。小競り合いを繰り返していた...... ......と言った感じですなっ!はい」
chefアランギー様の転位陣ネットワーク再設置が完了していたゼルフォーラ王国とドラゴラルシム王国とララコバイア王国とアシュランス王国には、邪闇の魔法陣の被害は無かった。
でも、王都や主要都市の再設置しか完了していなかった準加盟国や保留国には被害が・・・そうでもないのか。ターンビット王国もジャスパット王国も被害はそんなでもないみたいだし。
そうなると、ベリンノック大陸とフィンベーラ大陸か。
「内戦や小競り合いが絶えないベリンノック大陸も深刻そうですが、ガルネス神王国があるフィンベーラ大陸はいったいどんな状況なんですか。カルーダ王国は王女が指揮を執ってるんですよね。王様はいったいどうしちゃったんですか?」
「カルーダ王国ですか。そうですなぁ~・・・」
何だこの間・・・。
「カルーダ王国は王城を落とされ、王は深手を負い意識不明、命を落とした王族や政府要人も数名。どうしてここまでの被害になったのかと疑問に思い視たところ内部に狂信者が紛れ込んでいました」
「凄い事になってたんですね」
「ですが安心してくだされ。既に終わった事です」
「それ、カルーダ王国の人に言っちゃ駄目ですよ」
「それはそうと陛下はどうしたいですかな?」
切替早っ!
「えっと何がですか?」
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「アシュランス王国が丁重に保護しておりますですぞぉ~。はい」
はぁ~、やっとここまで聞き出せたよ。・・・・・・それにしてもいったいどうなってるんだぁ~?
「ふと思ったんですが」
「何をですかなぁ~?」
「アイラさんの報告とchefアランギー様の今の話って、時系列的にはどうなんですか?」
「ふぅ~む。なるほどそこからでしたか」
「そこからって言うか、何かちゃんと報告を受けていない様な気がするんですよね」
「ふむふむふむ。確かに・・・仕方ありませんな。既に鮮度を失い無価値の話ではありますが順を追って説明するとしましょう」
「・・・ありがとうございます」
何か釈然としないがここは静かに・・・。
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「自爆テロに巻き込まれて怪我した人がいたんですか?」
「怪我。まぁ~平たく言ってしまえば捻挫も立派な怪我の一つですな。爆発に驚き転倒し手首を捻挫した者が一名いた訳ですからな」
「その人も災難でしたね。ただ、手首の捻挫で済んで良かったです」
「因みにですがアシュランス王国内で発生した自爆テロは二件。自爆未遂は九件。暴動は四件。結果を見るに完全なる訓練不足。改善の余地ありですぞぉ~。はい」
「訓練不足ですか。自爆した二人以外は生きたまま身柄を拘束出来たんですよね。寧ろ上出来ではないかと」
「果たしてそうでしょうか。二件の自爆も阻止しようと思えば容易に阻止出来たはずですぞぉ~」
「ガルネス神王国の命を受けた世界中の地下組織が一斉に蜂起した訳ですよね。chefアランギー様の転位陣ネットワーク網の再配置のおかげで一五件で済みましたが。潜伏してた連中は今迄バレる事無くその時を待ってたんですよ。それに、蜂起したからといって誰が自爆するか何てパッと見では分からないですよね」
「人なら人、木なら木。と言う訳ですか。やはりヒュームを見極める力を養わせる必要がありますなぁ~。・・・決めました」
決めた?
「な、何をですか?」
「我等が祖国アシュランス王国の国民と財産を護る公僕なる存在には等しく力を与えましょう。まずは、簡単で手頃な称号の付与からですな!」
「称号をですか。【Évaluation】系スキルを付与した方が早くないですか?」
「陛下・・・」
どうしたんだ。急に改まったりして、
「はい」
「イヴァリュエイションは鑑定系スキルですが万能ではありません。上級鑑定のステータスやスキル等をはじめ中級鑑定のプラント、ミネラル、アクセサリー、アームズ等々。下級鑑定のグラース、ツリー、フラワー、ロック、ソイル、ジュエル、ウェポン、プロテクター、クロウズ等々等々。分かりますかな!」
何が言いたいんだ?・・・分からん。
「えっと、どう言う事でしょうか?」
「つまりですな。鑑定系スキルを一つや二つ所持させただけでは、自爆テロを防ぐ事は出来ないのです」
ん???
「九件は防げたんですよね?」
「足りません」
足りない?・・・のか?
「全てを未然って気持ちは分からなくもありませんが流石にそれは、ねぇ~」
「その通りですぞぉ~。ですので、隠し持った武器や兵器。上手く装飾品に見立てた武具や兵器。巧妙に仕組まれた教材擬きのスクロールや兵器。これらを見極め行動を起こす力が必要なのです。それが、称号なのです。何故ならば、武具を見極める【イヴァリュエイション・アームズ】、武器を見極める【イヴァリュエイション・ウェポン】、防具を見極める【イヴァリュエイション・プロテクター】、装飾品を見極める【イヴァリュエイション・アクセサリー】。衣類に何らかの仕掛けを施し自爆する存在も中にはいるかもしれません。考慮が必要そうですぞぉ~。そうなりますと【イヴァリュエイション・クロウズ】も押さえておきたい。と、なってしまう訳です。おっと、【イヴァリュエイション・ブック】を忘れるところでした」
こうやって聞くと確かに称号の方が楽そうだ。
「なるほど」
「そもそも、イヴァリュエイションが細分化され整理済なスキルなのには訳があるのです。多くのヒュームに職と生き甲斐を与えたいという創造神様の御意思御意向が強く反映しているからなのですぞぉ~。と言う事で、与える称号は、『アシュランス王国と国民の平和と豊富を生命と財産を護る眼を持つ者』など如何でしょうかな。殊の外無難で適当に丸く収まっていて良いと思うのですが、参考までに陛下の意見も宜しいですかなっ!」
ながっ!じゃダメですよね。
「そうですね。正直どんな効果があるのか分からないんで何とも言えないです」
「効果ですか。実に単純明快でして聖邪獣眼の超劣化版の下位だと思ってくだされ」
超劣化版で下位とは言え、聖獣様邪獣様の眼だよな。これって、
「理に干渉しちゃいませんかね?」
「あぁ~触れてしまう可能性が・・・何と言う事でしょう。然らばこうしましょう」
やっぱり触れてたか。
「こうしましょうって、いったいどうするんですか?」
「実に簡単な話だったのです。アシュランス王国の公僕には改良し機能を上乗せしたアシュランスカードを渡しています」
「へ、へぇ~」
俺、それ、知らないんですけど・・・。
「定休、休日、休暇、休憩、労働、職務、任務、極秘、短期、長期、他にも状況を事細かに・・・まぁ~要するにですな。公僕一人一人がどんな状況にあるのかが一目で分かる仕様なのですぞぉ~。はい」
「極秘とか一目で分かっちゃうのはまずくないですか?」
「手は打ってありますですぞぉ~。神眼、精霊眼、聖邪獣眼、魔眼等々の特殊な眼が必要なのです。アシュランスカードにクリスタルで記載された名前の色分けは、クリスタルの色が無色透明であれば休日。黄色であれば休憩中。赤色であれば不正中。青色であれば勤務中。分かりましたかなぁ~。はい」
「えっと・・・称号の件はどうなったんでしょうか?」
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「つまり、青色の時のみ称号が付与され、それ以外の時には削除されるって事ですか?」
「違います」
「違うんですか?」
「はい。無色黄色赤色青色はあくまでもノーマル眼。私達の眼に映る色は四色ではありませんのでぇ~称号が付与される色は必ずしも青とは限りません」
「働いてる時のみ称号が付与されるのは分かりました。でも、結局理に干渉してますよね?」
「・・・あぁ~・・・・・・この件はまたにしましょう。話を戻しますが、自爆テロを許してしまった場所はお分かりですかな。何を隠そうスカーレット大神殿の大祭壇の正面とノートルダム大聖堂の大祭壇の正面です」
何て言うか。隠す必要無いですね。
「全力で正教狙いじゃないですか」
「手首を捻挫したのは、スカーレット大神殿で働く小間使いの少女です。まさにそこなのです」
えっと、まだ何も言ってませんが・・・。
「少女だったんですね」
「はい。少女は自爆する瞬間に立ち会ってしまったのですぞぉ~」
「トラウマですか。ケアーの必要がありそうですね」
「そこは問題ありませんですぞぉ~。パトロン殿の奥方アル殿が一時的に保護し回復を見守りました。一応報告しておきますが、大神殿にも大聖堂にも被害はありませんでしたぞぉ~。飛び散った色々と自粛が必要な物もメンテナンスフリーの効果があり特に不都合も無く片付いたといったところでしょうか。保護したと言えば、カルーダ王国の王城を奪還したアシュランス王国【第三空挺騎士団】通称『火焔艦隊』は負傷者と亡骸を人道的観点から緊急保護するに至った訳なのですが、第一王女はアリス殿の提案を拒否し近衛騎士団と王都の騎士団を率いて王都の治安維持と周辺都市の解放に出陣してしまったとか。いやはやまさに一騎当千の姫将軍。一騎当千かは分かりませんがね。ハッハッハッハッハ。おっと大事な事を説明し忘れる所でした。負傷者はパトロン殿の奥方アル殿が一時的に保護し、亡骸は私の私用空間で預かっておりますですぞぉ~。はい」
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第三空挺騎士団って何ですか?
火焔艦隊?
アリスさんと第一王女?
それで、その王女様のその後は・・・?
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「警備隊、騎士団、自警団、各協会が拘束した存在は一一四人と二〇三匹です。拘束した存在は存在の意味を問わずまとめて、先日オープンしたばかりの王立モルングレー西の森自然公園西モルングレー山脈中腹拘置所に収監してあります」
「あれ完成したんですね」
「ダカイラの職人達は噂以上に優秀との事ですぞぉ~。はい」
「ですね。一ヶ月やそこいらで、足場の無い崖の岩を削って五〇〇〇人規模の拘置所って出来るもんなんですね」
「そうそう。空調と水回り照明と寝具と拘束具は私の方で準備しておきました。代金は後程請求しますのであしからずですぞぉ~。ぅん、収監で思い出したのですが、私用空間を汚した存在は全部で六二七四個体。内コルトのヒュームだったと思われる存在は三〇〇二個体。残りはパトロン殿の想像通りヴァルオリティア帝国旗を模した印がトレードマークの魔獣や獣や何かでした」
chefアランギー様はこの言い回し好きなのか?
「なるほど」
「まぁ~回収した邪闇の魔法陣分の成果ではあるのですが、私用の空間を汚された私としては喜べない結界と言う訳です」
「ハハハホント災難としか・・・」
反応し辛ぁ~・・・。
「つまりですな」
つ、つまり?何だ続き?
「あ、はい」
「ゼルフォーラ王国とララコバイア王国とドラゴラルシム王国とアシュランス王国で身柄を拘束された世界創造神創生教の狂信者達は予め潜伏していた存在と改宗に応じなかった教会の者と騒ぎに乗じて序に騒いだ者と言う訳です」
「・・・ですね。ん?騒ぎに乗じて騒いだ奴は狂信者じゃなくてただの暴徒じゃ」
「陛下。連合国家フィリーに加盟する国は全て法治国家なのですぞぉ~。法によって裁かれるが必定。軍によって敵地で捕らえられた者は別にしても必定は遵守しなくてはいけませんですぞぉ~。はい」
うん?これ何の話しだ?
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「我が国のアイラさんは優秀なのですぞぉ~。はい」
「アイラさんがですか」
さっき報告に来た文官の事だよな。chefアランギー様のお気に入りか何かか?
「その通りですぞぉ~。おんや?・・・まさかとは思いますがアイラさんをお忘れに?」
ん?この口ぶりだと『前に紹介しましたですぞぉ~。はい』って感じだな。アイラさん、アイラさん。・・・アイラさん。う~ん・・・。
「優秀な人みたいだしたぶん会った事はあると思うんですが」
「ふむふむふむ。そうですか。ふぅ~む。ですがそれは陛下の気のせいでしょうなぁ~」
「気のせい?」
「陛下の会うが本来の意味で言う所の会うではなく私が言う所のアイラさんに・・・どうやらそれは無さそうですな!」
これ、いつもの様に脱線してる?
「どういう意味ですか?」
「私が言う所の会うで納得するかどうかは陛下次第になる。と、言う事ですぞぉ~。はい。さて、会うのであれば、ここでは無理です」
ここでは無理?
「無理ってさっき」
「それでは」
≪パン パァ~ン
chefアランギー様の軽快なパルマセコの音が国王執務室に響いた。
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姿を現すと同時に周囲を見回す。
天井は五メートル。広さはだいたい十一平方メートルってところか。
「ここ。何処ですか?」
「正方形の六畳間ですぞぉ~」
見て分かりました。それは。
「ここ、グランディール城じゃないですよね?」
「何処だと思われますかなっ!」
あぁ―――、分からないから聞いたんですが・・・。しゃぁ~ない、タブレットで調べるか。
「ここはアイラさんのポヴォウェワン支局ですぞぉ~」
って、教えてくれるんですね。・・・って、教えて貰ったのは良いけど、アイラさんのポヴォウェワンシキョクって結局のところ何処な訳?
「おんや。まぁ~良いでしょう。正確には、カタストロシュール王国の東端東の国境の町ポヴォウェワンにあるアイラさんのラバーズスクレートの六畳間が、ここです」
「カタストロシュール王国ですか」
「そうですぞぉ~。カタストロシュール王国ですぞぉ~。はい」
一四〇〇〇メートル級の孤立峰が十個も点在する中央大湿地帯がある国だったけ。
「ここから東に一八歩から二五歩歩きますと、ガルネス神王国の西端西の国境の町ポヴォーエスタになります。つまり、ここはフィンベーラ大陸の大口ことガルネスト大湾に臨む港町という事ですな。はい」
「・・・いったいどうしてここに?」
「端的に言いますと、ここがアイラさんの最前線支局だからですぞぉ~。はい」
う~ん?
「アイラさんって文官じゃなくて諜報担あ”ぁっ!!!アイラさんって、諜報情報局!」
「AIRAの隠語がアイラさんですぞぉ~。前に一度説明したはずなのですが」
「AIRAってしか読めないのに隠語がアイラさんっておかしくないかって俺言いましたね」
「はい」
「そのままなんですね」
「今更変更してもといった今更感が蔓延しておりましたので変更せずアイラさんで通す事になりました」
≪ウワァー ギャ~ ドォーン
「何か外が騒がしくないですか?」
「騒がしくて当然でしょうなぁ~。ラバーズスクレートの外は戦争の真っ只中なのですぞぉ~」
「一八歩先はガルネス神王国でしたね」
「如何なされますかな?」
「如何って言われても干渉しちゃダメなんですよね?」
「その通りですぞぉ~」
「・・・俺に何をしろと?」
「そうですなぁ~。まずはサンドラ殿と合流してみてはいかがですかな」
「サンドラさんと?」
「はい。カタストロシュール王国に援軍として派遣しましたので、新鮮な戦況を直接確認出来るのではないかと考えた次第であります」
「サンドラさんは、カタストロシュール王国に。この報告も」
「順を追って説明していますので派遣の件はもう少し先ですぞぉ~。はい」
「chefアランギー様。出来れば皆の派遣先を先に聞きたいかなって思ってたりしちゃったりしてるんですけど、いいですかね・・・」
「おんや構いませんですぞ。あの後」
「あの後?」
「はい。陛下から許可を貰い武具を整えていたのですが何分私は料理を司りし神。どうにもこうにも武具の調整が上手く行かず、フォルティーナ様に相談したのです」
「え」
それって、一番やっちゃ駄目なパターン。
ありがとうございました。