4-93 異文化交流②~念話と魔導具と距離と靴の定義~
精霊界の長老精霊地の公王ヘリフムス・フォン・センペル様は、屋敷を六つ所有しているそうだ。
一つは、ミッテタルグルントの西方に浮かぶウムフェルングルントのエールデハイマート通称『土の都』の中心に鎮座する地の公王様の居宮城のクゥーゲンアラグルント宮殿。
一つは、俺達が今居るミッテタルグルントのミッテタルグルントの遥か西方にそびえ立つミッテタルグルントの最高峰ヌアクレフティヒ山の麓に。
因みに、プリフェスト下界の最高峰はウムフェルングルントの土の都の西に隣接する独立峰クリュフト山で標高は二万二千十六メートル飛んで三十七ミリメートル。
一つは、ミッテタルグルントの北方に浮かぶドレッサールグルントのシュピーゲルハイマート通称『水の都』のヌアドゥフト湖の湖畔に。
因みに、ヌアドゥフト湖は、プリフェスト下界で最大の面積を誇る湖で、俺達の世界の大樹の森の倍はあるそうだ。
一つは、ミッテタルグルントの南方に浮かぶフォルアーデグルントのドゥムドゥフトハイマート通称『火の都』の左の双剣と謳われる大連峰ヌアシュランクの最高峰ヴァンダーバールエング山と次鋒エルンストロマーンの切戸に。
因みに、左の双剣大連峰ヌアシュランクは、フォルアーデグルントの西方に連なる縦断山脈で全長四千キロメートル強。
右の双剣と謳われる大連峰ハルトオプティマールは、フォルアーデグルントの東方に連なる縦断山脈で全長四千七百キロメートル強。大連峰ハルトオプティマールの最高峰フォルアーデン山はヴァンダバールエング山より三千四百メートルも高い。
一つは、ミッテタルグルントの東方に浮かぶタルタイトルグルントのヴァルツァーハイマート通称『風の都』の愛囁の丘ことヌアイデュルの丘の上に。
因みに、愛囁の丘=ヌアイデュルの丘=ヌアイデュルヒューゲル。どれでも通じるらしい。正式な名称はヌアイデュルの丘。
一つは、ミッテタルグントの北東方に浮かぶリュアリーツグルントのブレッヒェンハイマート通称『蛇の都』の西クレーター大砂漠を越えた先に広がる大平原ベグリッフリュンケ広陵の西端に。
因みに、西クレーター大砂漠と東クレーター大砂漠は、リュアリーツグルントの南方で繋がっている為、一纏めにリュアリーツグルントクレーター大砂漠地帯とも呼ばれているそうだ。
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「迂闊でした」
パーティー会場の屋敷ってどの屋敷だろう。宮城でって可能性もあるよな?
ロロノクック様とミト様から屋敷について教えて貰ったはいいが何の解決にもなっていない。
そうだ。念話だ!!!
「ロロノクック様。地の公王様に念話で確認して貰えませんか?」
「ねぇロイク。それは無理よ」
「はい、何でしょう。って、無理なんですか?」
「えぇ」
「・・・」
地の公王様とロロノクック様は兄弟精霊だったよな。引き籠ってる間に疎遠に・・・いや無いな。招待されてるし。えぇって、あの。マルアスピーさん?それだけですか?説明は?
・・・当然無いですよね。
「ロイクさぁ~ん。アスピーちゃんにくぅわって私が手取り足取り腰取りいっぱい教えてあげちゃうわよぉ~。ウフフッ、さぁ~お姉さんに言ってごらんなさぁ~い。何を教えて欲しいのかしら♪」
お姉さんね。・・・色々言いたい事はあるが、まずは何を教えて欲しいかって、念話に決まってますよね。
って、この人こんなキャラだったっけ?事ある事にマルアスピーや俺に抱き着いて来るけどいったい何事?うれ・・・マルアスピーの瞳の奥がですね。ちょっとですね。色々と・・・。
「ねぇロイク。近くないかしら?」
ホラね。めっちゃ睨んでるし。
「あらあら何言ってるのかしらぁ~。アスピーちゃんは!まったくいつまで経っても困ったちゃんなんだから。もうぉ~」
もうぉ~。って、それミト様の台詞じゃないですから。
「ほぉ~ら。何を教えて欲しいのかしらぁ~。正直に言って良いのよぉ~。優しく教えて、あ・げ・る。きゃ♪」
・・・マルアスピーと見た目ほぼ瓜二つそっくりさんな年増のギャル。意外に・・・じゃなかった。
腕に強制的に集められた感覚を放置し、浪漫を気合で押しとどめ口を動かす。
「ね、念話で、念話でお願いします」
「チェ、つまんないなぁ~。そんな事でいいのぉ~。でも、今日は特別に大サービスで教えてあげちゃうわ。テレパティ―は上位が下位に対し意識を繋ぐスキルなのよ。精霊界にはコルトよりもはっきりとした序列が存在するの。だからねアスピーちゃんが言った通りなのよねぇ~」
俺達の世界のスキル【テレパシー】と同じ様に考えてたけど、どちらかと言うと眷属間の念話に近いのか。・・・ってか、精霊王様しか公王様に念話出来ないって不便過ぎるだろう。
「精霊王様のところにもう一度行くのはなぁ~」
出来れば控えたい。
「念話は無理ですが、屋敷に戻れば魔導具【ヌンマーシャイベタイルナーメゲシュヴェッツ】で話せますよ」
「ヌンマー・・・何ですかそれ?ん?それで話せるんですか?だったらそれで良いじゃないですか。是非それでお願いします」
「あらぁ~そうね。そんなものもあったわね。家に戻るのよねぇ~ちょっと面倒だわぁ~。アスピーちゃんここには無いのかしら?」
「無いわ」
「ここってお店よね?どうして無いのよ。ミュスティカァ!ミュスティカァ過ぎるわ。聞いてよロイクさん。このお店お店なのに置いてないとか信じられない事してるのよぉ~。心構えがなってないわ。ねぇ~そう思うでしょう」
ここマルアスピーと一応俺の店なんです・・・が。
「いったい貴女は何を言ってるのかしら。ヌンマーシャイベタイルナーメゲシュヴェッツって言ったかしら。そんな魔導具があること自体今知ったのよ。今知ったばかりの魔導具がある事の方がミュスティカァ不思議だと思うのだけれど」
凄いなマルアスピーは、ヌンマーシャ何だっけ?一度聞いただけで覚えられたのか。
「オホン。それで連絡はどうしますか?」
「してください。ここまで来てパーティーに出ないとかはないと思うんで」
「分かりました。それでは、私の屋敷へ移動しましょう」
「はぁ~・・・。御父様♪」
「何だ?ミト」
「家の場所知ってるわよね?」
「・・・まさかお前!」
ミト様、まさか!?
「私はロイクさんとアスピーちゃんとここで待ってるから会場が何処か聞いて来てちょうだい♪」
・・・やっぱり。まさか、そのまさかを口に・・・。
「ミ、ミト。お前と言う奴は、全く変わらないな。・・・仕方ないか。今は急ぎだ。管理者殿よ。申し訳ありませんが暫し席を外します」
って、ちょっと待ってくださいロロノクック様、一人で行く気ですか?
「ロロノクック様の御屋敷から直接向かった方が早いですよね。戻って来るのを持つより一緒に行った方が良くないですか?」
「そうね」
「ですよね」
良かった。マルアスピーまでミト様みたいに待つって言い出したらどうしようかと思ったけど、ホント良かった。
「う~ん・・・それもそうね。そうと決まれば皆で家に行くわよ。ホラ急いで急いで」
「ミト・・・」
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ロロノクック様の屋敷に到着した。
店の邪魔にならないよう裏口から外に出て、正門が見える大通りへ移動し、店を背に左側西へ三百メートル程歩いただけだ。
立派な門構えのロロノクック様の御屋敷は工房ロイスピーの御近所さんだった。
「あぁ~疲れたわぁ~。車が欲しいわぁ~」
ミト様を無視し、ロロノクック様とマルアスピーと俺は話を進める。
「近いですね」
「そうね」
「管理者殿の店舗は中央大通りの一番地一番街全てを所有している様ですので、一番地三番街の右の端にある私の屋敷とは登記上隣り合わせ。飛ばずに歩いたところで時間は左程変わらないと思います」
・・・・・・・
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中央大通りの一番地は一番街から九番街まである。一番街を中心に西側が偶数番街で東側が奇数番街。
宮殿の真南に敷かれた中央大通りは東西五キロメートル。
端から端までのんびり飛行移動したところで十分(コルトの時間だと十ラフン)とかからない。ミト様は車が欲しいらしいが・・・。
短い移動中に、教えて貰った精霊魔導具【ヌンマーシャイベタイルナーメゲシュヴェッツ】は、相互通話方式の魔導具で、魔導具一つ一つに一桁五桁五桁五桁五桁五桁全二十六桁の識別番号があり、話をしたい相手のデスクや自宅に設置された【ヌンマーシャイベタイルナーメゲシュヴェッツ】の識別番号をダイヤルするとダイヤルした【ヌンマーシャイベタイルナーメゲシュヴェッツ】とダイヤルされた【ヌンマーシャイベタイルナーメゲシュヴェッツ】の精霊気が繋がり精霊気が通い合っている間は念話の様に話が出来る。
下位から上位へは、不便だがこの方法で連絡するのが一般的なんだとか。
説明を聞く限り、かなり便利そうな精霊魔導具だ。精霊気では無く自然魔素で繋がる様にしたら俺達の世界でも使えるかもしれないと思ったのは言うまでもない。
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ミト様に頼まれて、ロロノクック様が連絡をとっている間に、ミト様の私物『衣装、装飾品、魔導具、書籍、雑貨、その他』を回収した。
俺の神授スキル【タブレット】の収納は本当に便利だ。雑多に何でも適当に収納したとしても整理は一瞬で完璧おまけに修復加工処分まで熟せてしまう。もう一生離れらないと思う。
「そうそうロイクさん。御爺様から貰ったつまらない物って何だったのかしら気になるわぁ~♪」
つまらない物が?ホントに?
「そうね」
マルアスピーもですか・・・。ふむ。
「まだ中身を見てないんで、家に帰ったらミト様の私物と一緒に確認しますか」
「えぇ~今見たいのにぃ~。ロイクさんのイジワルゥ~♪」
「そうね」
その、そうね。は、帰ったらの方にですよね?
初めに通された玄関横のゲストルームに戻ると、ロロノクック様の姿はまだ無かった。
「マルアスピー」
「何かしら」
「靴何ですが、ロロノクック様の御屋敷は脱がなくても良いんですね」
「この部屋も物置もリビングルームではないのだから脱ぐ必要は無いわ」
「うん?精霊界ってリビングルームだけ靴を脱ぐんですか?」
物置ってミト様の部屋の事だよな?
「違うは」
「違うんですか・・・」
「えぇ、リビングルーム、ダイニングルーム、リビングダイニングルーム、ベッドルーム、ドレッシングルーム、バスルーム。他にも靴を脱がなくてはいけない部屋はあるのだけれど一般的にはこんな感じね」
「例外もあるのよぉ~。風の精霊達は浮いてるでしょう」
浮いてるでしょうって言われてもなぁ~見た事ないし。取り合えず頷いておこう。
「はい」
「だから靴は汚れないし、それにとっても肌触りが良のよねぇ~」
「はぁ~。ようは風の精霊様は靴を脱がないんですね」
「それはどうかしら。風の精霊達も靴をずっと履いてるって事は流石に無いと思うわよ」
「・・・で、ですよね」
家の中での話だったはずですよね。・・・疲れる。
「風の精霊達の靴は希少でなかなか手に入らないのよぉ~。あぁ~一足くらい欲しいわぁ~♪チラッ」
「そうね」
上目遣いで強請られても・・・。
「そうよね。アスピーちゃんも欲しいわよねぇ~♪」
「そうね」
一人では無理だと判断したか!
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ミト様に振り回されていると、
「お待たせしました」
通話を終えたロロノクック様が戻って来た。
「え。地の公王様はいないんですか?」
「急な用事じゃ仕方無いわねぇ~」
「そうね」
「申し訳ございません」
「いやいやいやロロノクック様が謝る事じゃないんで」
「そうね」
「そうよ。直ぐに謝る癖直した方が良いと思うわ。ねっロイクさぁ~ん♪」
「み、ミト・・・」
ミト様は、ちゃんと謝れる様に・・・慣れたら良いですね。
「ねぇロイク」
「はい、何でしょう?」
「どうするのかしら?」
「どうするって言われてもなぁ~。どうしましょう?」
「管理者殿。その事なのですが、宮城の精霊執事の話では、兄は、パーティーは開く。予の一族が異界から来るのだ心してもてなせ。そう言い残し、メアへ向かったそうです」
メア・・・。
「い、今、メアって言いましたよね」
「はい。自然の循環の地の力に現地の大精霊では手に負えないレベルの損傷部位が見つかったそうなのです」
「そうなんですか」
・・・メア下界か。
「ねぇねぇっ、それでパーティーの会場は何処だったのよ。勿体ぶって無いでさっさと教えなさいよっ!」
「勿体ぶるも何も、今私は管理者殿と大切な話をして」
「そんな事はどうでも良いでしょう。メアとかって世界よりもパーティーの方が大事でしょう。ホント確りしてちょうだい」
「み、ミト。お、お前とい」
「それで、何処なのよぉ!」
「そうね。精霊王に次ぐ公王が向かったのだから話は終わりね。私達が気にするだけ無駄よ。会場は何処なのかしら?」
正論だとは思う。だけど何か。何かこう、心に何か感じませんかマルアスピーさん・・・や。
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「クゥーゲンアラグルント宮殿ね!ロイクさぁ~ん♪行くわよホラッ!!!何ソファーなんかに座ってるのよっ。アスピーちゃんロイクさんも気合を入れなきゃダメよ」
気合?
「必要ないわ」
俺も気合なんて必要ないと思います。
「あるわよ。もう始まってるの」
「始まってる。何がですか?」
「いったい何の話をしているのかしら?」
「はぁ~。良いアスピーちゃんもロイクさんもお聞きなさい。熾烈な争いは既に始まっているのよ。分かったなら気合よ気合。パーティーヒロインになりたくないの」
「「ヒロイン?」」
「えっ!?ヒロインを知らない・・・嘘でしょう。有り得ないわ。パーティーヒロインはパーティーの主役花形女の一番なのよっ!!!ちょっと聞いてるの。ちゃんと聞きなさい」
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「管理者殿よ。どの様な手段で向かわれますか?」
「そうですね」
「そうね」
ミト様を無視し話を進める。
宮殿の正面ならフリーパスでいきなり行っても騒ぎにはならないよな。
「ミト様とマルアスピーと俺はフリーパスで移動出来るんで、先に宮殿の前まで移動しようと思います。ロロノクック様はちょっと待っててください。向こうに着いたら召喚しますんで」
「畏まりました」
「それでは」
神授スキル【フリーパス】......
「皆一緒に転位移動した方が早いと思うのだけれど」
あっ!そっちの方が・・・ま、良いか。...... .....発動 ≫
ありがとうございました。