1-20 精霊石と、欲望の罠③
作成2018年3月8日
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【タイトル】 このKissは、嵐の予感。
【第1章】(仮)このKissは、真実の中。
1-20 精霊石と、欲望の罠③
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――― ロイの騎士団事務所の一室
――― 6月3日 6:01
「もう、朝か・・・うん?」
俺の右腕には、生まれたままの姿のマルアスピー様がしがみ付きながら眠っていた。
「な、何やってるんですか。離れてください」
「柚子胡椒苺飴。なかなか美味しいよぉ~」
「そんな夢見て無くて良いので、離れてください」
「う~ん」
「うわっ・・・ちょっと!」
・
・
・
首に腕を回され、互いの身体更に密着する。
・
・
・
胸が柔らかい・・・って・・・・
≪トントン
「ロイク様。マルアスピー様。おはようございます」
「あっ・・・」
どうしよう・・・
「お湯をお持ちしましたので、失礼します」
「まっ」
≪ガチャ
・
・
・
パフ・レイジィーの時間は止まった。目の間の状況が何であるか16歳成人したパフさんにも分かって当然だ・・・数秒の後、時間が戻った彼女は慌てふためいていた。
「・・・わわわわ・・・わ・・・おゆゆ湯です。つつ机の上においおい置いていきます。ししし失礼しましたぁ~!」
≪バタン
・
・
・
「うんん~~~ん」
ドアの閉まる音で目覚めたのだろうか?
マルアスピーが目の前で身体を伸ばす。雪の様に透き通った白くて大きな双丘。それは、夢と希望に溢れ、誘惑のダンスを披露している。抱き着かれていた時に感じた。あの弾力・・・あの柔らかさ・・・揺れ動く魅惑の愛と希望・・・
「フフフッ。子供みたいね」
「な、何がですか?」
「触って良いのよぉ~!夫婦なのだから」
≪ムニュ
マルアスピーは、俺に抱き着き、胸を顔に押し付けた。
「なっ・・・胸が顔に当たってます・・・離れてください」
・
・
・
「あらぁ~・・・。その割には、抵抗はしないのね?」
「うぅぅ・・・」
「フフフッ」
・
・
・
刺激的な朝で疲れはしたが、とても気持ちの良い朝でした・・・
――― 街乗り用の馬車の中
――― 6月3日 8:00
「パフちゃん。どうかしたの?」
「あのぉ~・・・い、いえ・・・何でもありません」
パフさんは、朝食の時からずっとこの調子だ。
「ロイク様。パフさんと何かあったのですか?」
「大きな勘違いがあったというか、勘違いでは無いけど勘違いだったというべきで・・・」
「何よそれ、意味が分からないわ」
「ハハハハ」
「パフさん。何かあったのですか?」
「アリス様。な、な、何もありませんでした。はい、私は何も見ていません」
「はぁ~?」
・
・
・
俺達、マルアスピー様とパフさんとアリスさんと俺は、騎士団事務所の街乗り用の馬車を借り、商人商家協会へ移動している途中だ。
「皆、昨日プレゼントした宝石は付けていないんですね?」
「私は、・・・あれは、大切な物ですから、大切な時に使わせていただきます。・・・ロイク様・・・」
「アリスさん。そう言っていただけるとプレゼントして良かったって思います」
「は、はい!」
「ロイク様。私なんかに、あの様に高価な物を・・・」
「パフさんとパフさんのお母さんにって話だったはずだけど、耳飾り2個で良かったの?」
「十分です。はい、十分です」
「それならいいけど」
・
・
・
「ロイク。私にも聞いてください」
「何をですか?」
「何故付けていないのかです」
・・・
「・・・分かりました・・・何故、付けていないんですか?」
「あれは、大切な物なので、大切な時に使いたいと思っています」
・・・アリスさんの真似?
「・・・それが言いたかったのですか?」←アリス
「ま、マルアスピー様・・・」
『アリスって人間種と何が違うのよ』
「デジャヴだと思いましたよ・・・ハッハッハ」
「そうですね。アハハハ」
「マルアスピー様・・・」
『私にもプレゼントして良かったって、言ってください。言ってください。言ってください』
彼女は頬を膨らませ、胸の前で腕を組みながら、共鳴で同じ言葉を連呼する。
どうしたんですか?
『私も優しい言葉が欲しいです』
あの言葉の何処が優しい言葉に聞こえたんですか?
『違うのですか?』
違いますよ。
・
・
・
『そ、そうなのですね。・・・なるほど、それでしたら私はKissの方が嬉しいです』
はぁ~?
『フフフッ。冗談です』
・
・
・
なっ・・・何だったんだ?
――― 商人商家協会
――― 6月3日 8:40
「おはようございます。協会長のロメインさんは、いますか?」
「あっ!これは、マリア・パマリ様に、ロイク・シャレット士爵様奥様。協会長はまだ出勤していません。協会長室まで御案内致しますので、そちらで暫しお待ちください。登録の作業と価格確認の作業は既に完了しておりますので、協会長が出勤しましたら、立ち合いでの確認を宜しくお願い致します」
「窓口の君。ロイク・シャレット士爵様御一行を協会長室まで御案内し、マニュアルSで宜しく頼むよ」
「はい。副協会長」
「副協会長さんだったんですね」
「の、1人です」
「何人かいるんですか?」
「ここには、3人います」
「私は、徹夜明けのスタッフ達と交代のスタッフ達への指示がありますので、これで失礼致します」
「ありがとうございました」
「いえいえ、とても大切な御客様です。御用の際はスタッフまでなんなりと御申し付けください」
「君、任せたよ」
「はい」
・
・
・
――― 商人商家協会 協会長室
――― 6月3日 8:50
「昨日、御父様から聞いた話なのですが、現ブオミル侯爵は、3年前の12月に亡くなった前侯爵と正式な妻では無い愛人との間に生まれた子供。つまり、非嫡出子なんだそうです」
「非嫡出子?」
「パフさん。非嫡出子って言うのは、婚姻関係に無い者同士の間に生まれた子供の事です」
「ふ~ん。でも、子供は子供よね?」
「マルアスピーさん。勿論、子供は子供です。ですが法律では、産んだ母親側の籍の子供としては認められるますが、父親側の籍の子供としては認められていないのです。ですから、父親側の財産を相続する権利はありません。当然、家督を継承する事も出来ません」
「あれ?おかしくありませんか」
「はい、私も疑問に思い御父様に確認したところ、養子縁組する事でブオミル家の一員にしたのだろうと」
「大変なんですね」
「家もそうですが、どの家も少なからず問題を抱えているものです」
「その点、家は一代貴族家なので、面倒が無くて良かったです」
「ロイク様。一代貴族家って何ですか?」
「世襲の権利が認められていない爵位で、ゼルフォーラ王国なら、名誉子爵、名誉男爵、士爵(名士)が一代貴族」
「そうなんですね」
「男爵位や男爵位から下の爵位が全て一代貴族って国もあるらしい」
「貴族様じゃ無くなってしまった貴族様はどうなるんですか?」
「一般の王民とし普通に暮らすだけだよ」
「王民の中には元貴族家の人が居るって事ですか?」
「そうなるね」
「パフさん。一応貴族家ですが、一般の王民として生活している者もいるのですよ」
「ええ~?貴族様が王民の中にですか?」
「ええ。准男爵や半爵は世襲こそ出来ますが、次男や三男以降の者は、主家にとって名を連ねるだけでしかありません。その下、甥や孫の代になると貴族家の一員ではありますが、ほぼ一般人です」
「アリス様は子爵ですよね?」
「そうです。家は御父様が侯爵家の次男でしたので、成人の際に国王陛下より准男爵位を叙勲。その後、功績により陞爵され子爵になりました。もし家が准男爵の状態で、私に兄や弟がいた場合、兄は准男爵ですが、弟はパマリ侯爵家やパマリ准男爵家に名を連ねるだけの存在になっていた事になります」
「この場合は、王民にはならないのですか?」
「え?パフさん。貴族は元々王民よ」
「そ、そうなんですかぁっ!」
「ですから、一般の王民と私は使い分けていたのですが・・・お気付きになりませんでしたか?」
「そうだったんですね。なるほどぉ~」
「領民は、貴族領民。直轄領民。王都領民の、3つに分けられますよね?」
「はい」
「王民も、一般王民。貴族家に連なる王民。貴族家、3つに分けて考える事が出来るのです」
「へぇ~、俺も知りませんでした」
・
・
・
≪ガチャ
「いやいや、お待たせしました。おはようございます。ロイク様。奥様。アリス様。パフさん」
ロメインさんが、額の汗を紫色のハンカチーフで拭いながら、協会長室の中へ入って来た。
「おはようございます。ロメインさん」
「おはようございます」←アリスさん
「おはようございます。ロメインさん」←パフさん
「早速ですが、昨日の金剛石を確認しに行きましょう。いやぁ~実に楽しみですなぁ~。先程、報告を受けた限りでは、ロイク様が持ち込まれた石は全て最高級品質のSSSだそうです」
「トリプルS?」
「奥様。宝石業界内での、金剛石のランクです。最高級品質のSSSからSS、S、A級、B級、C級、D級、E級の8等級で評価分けし販売価格を決める際の参考にしています」
「ふ~ん・・・」
『ロイク』
なんですか?
『私は、ロイクが製作した金剛石の指輪が欲しいです』
構いませんよ。神様から指輪のレシピをいただいていますし、後でデザインを一緒に考えてくださいよ。
「ありがとう。楽しみです!」
・
・
・
――― 鉱山都市 商人商家協会 解体室
――― 6月3日 9:30
「おはようございます。協会長。買取価格の計算を最初からやり直す事になりまして、鑑定士と監視員総出で作業して、やっと今日の朝先程作業が完了しました」
「SSSだったんだろう?」
「それが、石同士の研磨を防ぐ為に、保護魔術が全ての石に施さた状態だったのですが、当初その魔術に気付かずSS評価で試算してしまい・・・」
「あっ!俺、伝え忘れていました。仕事を増やしてしまって申し訳ありません」
「石の専門家として、気付けなかった我々の落ち度ですので、頭を上げてください。それに、ここまで品質の良い石は18年ぶりなんです。私達の協会から市場にデヴューすると思うだけで、宝石担当部署の者としては嬉しくて嬉しくて、帰ったとしてもどうせ興奮して寝付け無かったと思います」
「実を言うと、私も昨日は金剛石の事が気になって、なかなか寝付けなかった」
「協会長もでしたか」
「宝石に生涯を捧げる覚悟を持った者にとって、昨日出会ったここにある金剛石の質の良さは、S以上だと、見た瞬間に分かったからな」
「ロメインさん。保護する為の魔術が施されていると、何か違う物なんですか?」
「光を通す透明感。透明度にほんの僅か微妙にですが、濁りを感じるのです」
「知りませんでした。・・・協会員の皆さんの仕事のおかげで、1つずつ綺麗に並べられている状態みたいですから、保護を解除した方が良いですよね?」
「解除出来るのですか?」
「ロイク様。あっ・・・いえ、大地紅石を最高品質の紅玉に製品化出来る魔術をお持ちなのですから、解除の1つや2つ・・・驚いてはいけませんね」
『フフフッ』
面白いですか?
『えぇ』
「協会長。保護魔術の解除費用を差し引いて、買取価格を出しましたので、その分を・・・」
「幾らで計算したんだ?」
「はい、施された魔術を解除する為の手数料は、石の場合大きさにより異なりますので・・・」
「合計幾らだ?」
「直ぐに確認致します」
≪バタン
協会員は会計室へ走って行った。
「慌ただしく、申し訳ありません」
「いえ、俺が保護魔術の事を伝え忘れていたせいですから・・・」
「しかし、自ら保護魔術と解除魔術を扱えるとは、流石は英雄殿ですな」
「彼が戻って来る前に解除しちゃいます」
「宜しくお願いします」
『解除って、何をやるつもりなの?』
そうですね。聖属性魔法で保護魔法を浄化しちゃおうかと考えたんですが・・・
『聖属性の保護魔法を、聖属性で浄化するのは不可能のよ』
そうなんですか?
『えぇ~』
う~ん・・・あっ!
『フフフッ』
マルアスピーは俺の顔を見つめながら、優しく微笑む。
大地紅石の時と同じ原理でやってみます。
『ロイクにしか出来ない方法ね』
神授スキル【マテリアル・クリエイト】自然魔素:清澄聖属性。金剛石から集積。えっと・・・売らない50カラットの石に集めた聖属性で・・・
俺は、台の上に置かれた50カラットの金剛石を左手に持ち、右手を台の上の金剛石に翳す。
状態:結界・対象:左手の金剛石・発動≫
≪ピカッ!!!!!
左手の金剛石が、眩い白い光を発し輝き出す。
「な?何が起きたんですか?ロイク様」
「台の上の金剛石の、聖属性で施した保護魔術の魔力を、左手の金剛石に集めて、解除しただけなんですが・・・」
「その神々しい輝きはどうなっているんですか?」
「ロイク様。これは、湿地帯の魔獣殲滅の際に、空をまるで日中の様に明るくした。あの魔術でしょうか?」
「あれは、光属性の魔術だったはずなので、これとは別の物です」
「え?ええ?・・・教会よりも強い聖属性の魔力が・・・???」
「あれ?パフさん。聖属性の魔力が分かるんですか?」
「あ・・・はい。ここまで強いとはっきり分かります」
『ホラッ!』
ホラッて何ですか?
『私、言いましたよね。パフちゃんは良い子だと』
言ってましたっけ?
『ロイクぅ~・・・』
冗談ですよ。
『もう』
怒った顔はしないんですね。
『フンッ』
あれ?この石・・・
「精霊石?」
「ロイク様。今、精霊石と仰いましたか?」
「はい。左手の金剛石何でが、精霊石・・・」
あ、どう誤魔化せば・・・
『フフフッ。私に意地悪するからですよ』
意地悪って子供ですか?
『永遠の16歳・・・19歳でした。私19歳ですから!フフフッ』
16歳も19歳も大人ですよ
『あら、そうね・・・・・・それはそうと、どうするのよ』
「前に呼んだ本に書いてあった精霊石に似ているなって思っただけです」
「・・・白く眩しく輝く神々しい光。離れていても感じる魔力。近くで見るには眩し過ぎます。しまって貰って良いでしょうか?」
「はい」
「ロイク様。ロメインさん。今のは精霊石なのですか?」
「私は宝石専門なので詳しくはありません。あれは精霊石に近い何かかもしれません」
「アリスさん。後で説明します」
『おっ。覚悟を決めたのね』
覚悟って何の覚悟ですか。
『色々よ』
精霊石の事を話だけに覚悟も何も・・・
「ロイク様。マルアスピー様・・・今のは、ロイク様のま・ほ・う・・・ですか?」
パフさんは、俺達に小さな声で話かける。
「だと思います。後で、話ます」
「パフちゃん。ロイクといると面白いわよね」
「あのぉ~・・・は・・・い・・・」
・
・
・
***金剛石の取引額の説明***
最高級品質SSS
50カラット:1個: 4億8000万NL
100カラット:1個:12億3600万NL
150カラット:1個:20億6400万NL
200カラット:1個:29億7600万NL
250カラット:1個:39億8400万NL
300カラット:1個:51億8400万NL
400カラット:1個:71億5200万NL
500カラット:1個:99億8400万NL
≪取引個数≫
50カラット:14300個
100カラット:10900個
150カラット: 8900個
200カラット: 8400個
250カラット: 7900個
300カラット: 6900個
400カラット: 5900個
500カラット: 4900個
≪総額≫ 222兆660億NL
***金剛石の取引額の説明おわり***
取引の結果はこんな感じだ。
登録の為の手数料、合計金額6890万NLは、保護魔術の解除費用、合計金額1億9292万NLから差し引かれ、1億2402万NLが代金に合算される事になり、総額222兆661億2402万NLになった。
代金は、昨日作ったばかりのMGカードに全額入金して貰った。
――― 街乗り用の馬車の中
――― 6月3日 10:50
「いやぁ~良い取引が出来ましたなぁ~」
「金額が大き過ぎて、取引の良し悪しの判断が付きません」
「でしょうなぁ~。ロイの商人商家協会の買付用の運用資金の半分程の金額です。私の商会の5・6倍程の資金をロイク様は個人で所有しているのですから。ハッハッハッハッハ」
「パフちゃん大丈夫?」
「パフさん、大丈夫ですか?」
「☆〇×△□★〇・・・・」
パフさんは、先日同様、目を回し横になっていた。
「まだまだ大量に、希少価値の高い素材や道具をお持ちだとか。素晴らしいですなぁ~」
『人間種達の世界は、お金が全てだと本で学びましたが、私達の資産は既にお金の為に素材を集めたり依頼を受けたりする必要の無い状況です』
既にというか、村に戻った日の闇炎牙狼の素材や、その後の狩りや素材や加工品で、一生分のNLはありますよ・・・
『あら?そうなのね・・・』
先日の指令達成によって、神様からいただいたお金もあります。
『お金は使うと減りますよね?』
そりゃそうですよ。
『大樹の森のコルト湖の畔に、種や族の壁を越えた街が在れば、楽しいだろうなと幼い頃から考えていました。手始めにコルト湖に私達の家を建てるお金を貯めましょう』
え?あのぉ~マルアスピー・・・
『なにかしら』
222兆NLもあるんですよ。それに魔法も・・・お金を貯める必要なんか無いですよ。今直ぐにでも建てられますよ。
『あら、そうなのね・・・人間種達の住む家はお金では幾ら位必要なのかしら?』
う~ん。考えた事が無いので良く分からないです。ロメインさんに聞いてみましょう。
『そうね』
「ロメインさん。ロイの一般的な家の価格って幾ら位しますか?」
「家ですか。そうですね・・・ロイの一般的な王民居住地区、下級貴族居住地区の家の場合ですよ?」
「はい」
「王民居住地区の一等地は、第11地区と第12地区の庭園や公園に面した区画です。一般的な家となりますと、答える事が難しいです」
「ロメインさんは、ロイのどの辺りにお住まい何ですか?」
「私は、王民居住地区第1地区です。商業地区に囲まれた地区なので、商人が多く暮らしています。妻と2人で暮らすには少し広い家に住んでます」
「なるほど。簡単な相場とか分かりませんか?」
「ロイに定住をお考えなのですか?」
「そういう訳では無いのですが、一般的な価格が気になったもので・・・」
「そうですねぇ~。参考になるか分かりませんが、私の家は、20年前に購入した時で、税金や修繕費用や引っ越し費用やらで、2億6000万NL弱でした」
「う~ん。村の家や周りの相場も知らないので、それが高いのか安いのかも分からないですね」
「ハッハッハッハ。後で協会の不動産担当の者に聞いてみましょう」
「買う訳ではないので、仕事の邪魔にならない程度にお願いします。それはそうと、ルシア・ブオミル前侯爵第二夫人様の使いの者が協会に来て、ロメインさんや俺達にルシア・ブオミル様が会いたいって話だったんですよね?」
「受付の者の話ではそうです」
「それで、あの馬車の案内で、後ろを走ってる訳ですよね?」
「はい」
「公園の中に入ったり、小路に入ったり、先程から変だと思いませんか?」
「ロイク様。これは騎士団や軍で学ぶ、基本的な間者間諜をまく為の動きです」
「ルシア・ブオミル様は何かに警戒しているって事か・・・」
「その可能性が高いという事です」
『う~ん』
どうしました?
『いえ、将来的にどの様な家に住みたいか、内装を考えていたのよ』
あぁ~・・・ゆっくり考えていてください。
『えぇ、そうするわ』
さて、念の為、周囲を確認しておこうかな。
「ロメインさん。俺達が今いる所は街のどの辺りですか?」
「そうですねぇ~・・・ここは、商業地区17丁目を抜けて奴隷商地区の中の、奴隷管理地区へ向かってる様です」
「北側の鉱山よりでしたよね?」
「鉱山事態がロイの北にありますから、山の東側と言うと分り安いでしょうか?」
「なるほど」
「ロイク様。前侯爵の第二夫人が、奴隷管理地区に住んでいるとは考え難いのですが・・・おかしいですよね?」
「商人商家協会から、奴隷管理地区まで最短ルートを使わず中央広場を通り、行政地区や王民居住地区や商業地区を行ったり来たりしながら北門広場を経由し、商業地区16丁目と17丁目の中を通り抜け、出荷広場手前の奴隷商地区入口から奴隷管理地区へ移動しています。ここが目的地だとすると8倍以上の距離で移動した事になります」
「スキルで周囲を確認します」
【タブレット】起動。
頭の中で思うにしても、何か決まった心象を設定した方が良さそうだ。今度、考える事にしよう。
≪WELCOME ≪女の子の可愛い声≫
俺を中心に周辺の地図を半径300mで表示。
≪・・・表示しました。
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R4075年06月03日(地)時刻11:58
≪ロイ・奴隷商地区―奴隷管理地区―≫
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奴隷商地区って、城壁の中のはず・・・どうして、魔獣がいる?それに、なんで表示されてるんだ?
≪学習能力による機能向上。Versionアップによるシステム更新が理由だと考えられます。
へぇ~・・・としか言えないな・・・こういう時は、この魔獣が何なのか詳細も一緒に表示される様になると便利だと思うけど。
えっと、地図の表示をそのままで、魔獣の詳細情報を表示。
≪・・・表示しました。
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R4075年06月03日(地)時刻11:59
≪ロイ・奴隷商地区―奴隷管理地区―≫
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「ロメインさん。魔獣が建物の中に8匹居るみたいなんですが、ロイの奴隷商は魔獣の取引もやってるんでしょうか?」
「え?生きた魔獣の取引は、法律で冒険者探検家協会の管理下協会の生き物愛玩協会だけに認められています。商人商家協会にも取引の権利を認めて欲しいという意見も多いのですが、今のところ認められる兆しはありませんね」
「そうなると、奴隷商地区に高山闇爪大魔熊が居たら変ですよね?」
「街の中に闇熊が居るんですか?」
「闇熊ではなく。高山闇爪大魔熊が居るみたいです。建物の中みたいなので野生では無いと思ったのですが・・・」
「スキルでそんな事もまで分かるのですか?」
「はい」
「ロイク様。何か起こってしまってからでは取り返しがつきません。軍に連絡するか、私達で仕留めた方が良いのではないでしょうか?」
「そうですね」
「御2人で、闇熊の上位種の上位種の上位種高山闇爪大魔熊8匹を相手にするおつもりですか?」
「そうなりますね。ただ、アリスさんには、馬車の中で皆を護って貰います。良いですね」
「分かりました」
「ロイク様・・・御1人で高山闇爪大魔熊8匹は・・・軍を待ちましょう」
「ロメインさん。ロイク様は、金剛石竜子や竜を1人で討伐する事が出来る英雄様です」
「英雄殿だと分かってはいるのですが・・・」
「ロメインさん。貴方、何か知っているのではありませんか?」
「わ、私は何も・・・」
・
・
・
闇熊は、体長約3m。体重800Kg。闇牙狼と同じ闇属性の魔獣だ。全身は漆黒色の毛に覆われている。堅く厚い筋肉。強靭な爪。1体から取得可能な経験値は11。群れる魔獣ではない為、討伐対象に指定された事は無い。
高山闇爪大魔熊は、闇熊の上位種の闇爪熊の更に上位種の闇爪魔熊の上位種だ。体長約5m。体重は1300Kgを越える。闇炎牙狼の2倍、32の経験値が取得可能だ。高山に生息し里山に出没する事が無い為、討伐対象に指定された事が無い魔獣だが、高山闇爪大魔熊は1匹で、闇炎牙狼3匹以上の危険性危険度がある。本来群れる事の無い高山闇爪大魔熊8匹を、一度に相手した場合に限る話だが、その場合はS級討伐7以上に相当する事になる。
「確認しておく必要はあるでしょう。魔獣の居る建物の前まで行きましょう」
「そうですわね」
「あら?考え事をしていたら、いつの間にか、面白い事になっている様ね」
「何を呑気な事言ってるのですか、最悪S級討伐に相当する戦闘になるのかもしれないのですよ」
「アリスさん。大丈夫よロイクがいるのよ」
「そ、そうかもしれませんが、マルアスピーさん。もう少し緊張感と言いますか・・・」
「まぁ~まぁ~アリスさん。彼女はのんびりタイプなので、余り急かさないでやってください」
『フフフッ』
笑ってないで、少しは協力してくださいよ。
『戦いになってしまったら、私は干渉出来ませんし、最初から傍観する事がルールですから』
そうですけど・・・戦闘状態になったら、パフさんの事を頼みますよ。アリスさんにも頼んでおきましたが、アリスさんでは心許無いので。
『そうね』
そうだ。神様からいただいた御褒美の中に、マルアスピー用の武器があったはずなので、渡しますね。
『武器を渡されても・・・』
それが、凄いんですよ。見たら驚きますよ。武具:武器・【愛を与えし者の杖】取り出し。
≪・・・愛を与えし者の杖を武器より取り出しました。
俺の手に1本の杖が現れた。
「ん?ロイク様。その杖は?」
「ロメインさん。この杖はマルアスピー専用の杖です」
「ロイク様のファルダーガパオは、管理保管に制限が無い物の様ですね。いやぁ~凄い」
「そうですね・・・」
マルアスピー。
『・・・』
この杖凄いでしょう?
『ええ。驚いています。パーティーの仲間だけにではありますが、聖属性での支援が許可される様ですね』
渡しておきます。
『分かったわ』
俺は、愛を与えし者の杖をマルアスピーに渡した。
『他にもいただいていましたよね?パフちゃん達には渡さなくて良いのですか?』
気絶している子と、騎士団の見習い兵ですからね。武器を渡した結果、頑張られてしまうと危険ですからね。
『フフフッ。優しいのね』
これは優しさとわ言いませんよ。邪魔だから居ない方が良いって言ってるんですから。
『そうね。フフフッ』
・
・
・
――― 奴隷商地区―奴隷管理地区―
――― 6月3日 12:06
俺は、マルアスピー様とパフ・レイジィーとロメインさんをアリスさんに任せて、奴隷管理地区にある倉庫の様な建物の入り口の前に居る。
「窓が1つも無い倉庫かぁ~・・・そうなると、このドアしか無いか」
可視化:目の前の建物を中心に半径50mを見取り図で、魔獣を黒、民間人は青で表示。
≪・・・表示しました。
どういう事だ?・・・人がこんなに沢山・・・それなら。
≪ドンドン ドンドン
「ブオミル領ロイ駐屯騎士団より来ました。王都中央騎士団第3師団名誉団長のロイク・シャレットです。中を確認させてください」
ドアの内側からバタバタと慌てて動く音が幾つも聞こえる。
≪ガチャ
「騎士団の騎士様が、こんな奴隷管理地区まで何の御用事でさぁ~?」
「所要で、知り合いの奴隷商を訪ねる途中なのです。御者が奇怪な鳴き声を聞いたと言う物ですから、街の中で何かあっては一大事と、念の為に職務を優先し安全を確認して回っていました」
「鳴き声ですけぇ~?・・・おーい。変な鳴き声が聞こえたらしいさ~、お前達何か聞いたかさぁ~?」
「いや」
「聞いてねぇ~」
「だそうです。ここは、安全見たいですけぇ~、違う所を確認してくだせぇ~」
「中が慌ただしい様ですが、大丈夫ですか?」
「あぁ~・・・大丈夫でさぁ~」
「おい、どうした?」
体格の良い男が奥からやって来た。
「班長。騎士団の騎士様が、安全確認で来たさぁ~」
「騎士団?お前みたいな細い奴が騎士団だってぇ~?ハッ笑わせるな。騎士団のカードを見せてみな」
【FORMカード】騎士団カード。・・・俺はポケットからカードを取り出し、体格の良い男に見せる。
「あぁ~・・・間違い無く・・・・・・こ、これは・・・大変失礼致しました」
ジェルマン子爵様に公職カードの1つ騎士団カードを見せて貰っておいて良かった。
「いえいえ」
「しかし、これは、幹部?団長クラスのカードだったと思うのですが・・・」
「はい、私は中央騎士団第3師団の名誉団長です。団長と同じカードなはずですから、気のせいではないですよ」
名誉団長のカードなんてあるのか知らないけど・・・
『フフフッ。面白そうな事をやっているわね』
結構、必死ですよ・・・
『フフフッ』
「何?第3師団ですかぁっ!俺は、わ、私は第3師団遊撃部隊に所属していました。騎士団を辞めた後も仲間とは交流があり・・・・・・。第3師団は、極秘任務でドラゴン討伐の為中央街道をサス方面に向かい、全滅した可能性があると聞いておりました」
「あぁ~それは・・・団長のジェルマン・パマリ子爵様と、遊撃隊隊長のマリア・パマリさん、他7人。俺と見習い兵1名。そしてロイの駐屯騎士団49名で、最終的に討伐を達成し帰還しました」
「それでは、噂?・・・本当だったんですか?あ、いえ、本当でありますか?」
「残念だけど、第3師団は、王都に残った者と今回生き残った者を除いて、6711名もの尊い命を失い。駐屯騎士団は、3051名の尊い命を失いました。・・・竜達に喰われず亡骸を回収出来た団員達は現在王都に搬送中です」
「名誉団長殿。俺を・・・私を、ジェルマン団長殿とマリア遊撃隊隊長殿に会わせてください」
「どうしてですか?」
「仲間達の為に、仲間達の代わりにもう1度、騎士団で・・・」
・
・
・
「班長・・・片付けして来てもいいけぇ~?」
「あぁ~ここは俺に任せろ」
俺は、二人が会話しているその間に、男のステータスを確認する。
***体格の良い男の説明***
【名前】リック・マケイン【性別】男
【種族】人間族【個体レベル】28
【生年月日】R4037年11月4日
【年齢】37【血液型】A型
【身分】王民【階級】一般
【虹彩】ガンビア
【髪色】サンビーム
【髪型】ベリーショート
【身長】194cm
【体型】スラング
【利腕】左
【JOB・本職】BT:魔獣使いレベル6
≪任意16≫※父系継承※
【JOB・inh】
※JOB・cho(本職)移行※≪父系・inh≫
【JOB・inh】
BT:【剣士】レベル3≪父系・inh≫
***リック・マケインの説明おわり***
なるほど・・・魔獣使いか・・・
「遊撃部隊所属でしたよね?」
「そ・・・そうであります」
「貴方に、第3師団の仲間として、改めて確認します。この建物の中には、高山闇爪大魔熊が8匹いますよね?」
「・・・」
「いますよね?」
「・・・・・・はい」
「俺は、取締に来た訳ではありません。安全確認の為に来ただけです。安全さえ確認出来れば理由次第で見なかったにします」
「ここでは、話せません。誰にも聞かれない場所でなら・・・」
「分かりました。それなら、騎士団から借りた馬車があります。馬車の中で話ましょう」
「はい」
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――― 街乗り用の馬車の中
――― 6月3日 12:30
「彼等は、聞かれても大丈夫な人達です」
「実は......
......と、言う訳です」
「ルシア・ブオミル前侯爵第二夫人様に頼まれ、3重の檻に入れられた魔獣8匹を監視していた訳ですね」
「はい」
「誰かが来る時は、睡眠の魔導具で魔獣達を眠らせて木箱で檻を隠していたと・・・」
「はい」
「ロイク様。この男の言葉を信じるのですか?」
「彼は嘘を言ってませんからね」
「この男は、ロイに危険な魔獣を8匹も隠し、潜伏させていたのですよ」
≪コンコン
「御者の者。御者台より降り、両手が見える様に万歳の姿勢のまま、そこに立っている様に」
「君達は、駐屯騎士団の憲兵隊だろう?この馬車は駐屯騎士団の馬車です」
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「外が騒がしいですね」←アリスさん
≪ガチャ
「元第3師団の団員が、ロイの街中に魔獣を持込調教しているという告発が、駐屯騎士団憲兵隊にありました」
「な、何・・・俺が告発?」
「元団員リック・マケインと、その協力者で商人商家協会協会長ロメイン・バトンと、士爵家子息ロイクとその一行で、間違い無いか?」
「いかにも私が商人商家協会協会長ロメイン。そして、こちらの方が勅令召集の旅の途中に、ロイに立ち寄られているシャレット士爵家のロイク・シャレット英雄殿です。そして、こちらの令嬢は、パマリ侯爵家のアリス・パマリ様です」
「勅令召集されている英雄様に、侯爵家の方・・・?」
「隊長。監察官様に確認した方が良いのではないでしょうか?」
「わ、分かっている・・・副隊長。至急本部まで行き監察官様に確認して来るように」
「はぁっ!」
「ちょっと待ってください。昨日の報告会議が終わらず、今日も朝から会議のはずです。こんな根も葉も無い告発で騎士団の憲兵隊が動いたとあっては、恥をかくだけです」
「え~貴方は・・・」
「英雄のロイク・シャレット様です」
「その英雄様は、この告発はガセネタだと言われるのですか?」
「俺達をここに呼び出したのは、ルシア・ブオミル前侯爵第二夫人様です。俺達は昨日ロイに来たばかりで、商人商家協会協会長ロメインさんに会ったのは昨日が初めてです。そして、元第3師団の遊撃部隊所属のリック・マケインとはたった今会ったばかりです。仮に彼が魔獣を調教していたとして、私達が協力出来たと思いますか?」
「我々は、貴族領軍私兵隊である。ロイに不正な方法で魔獣を持込、隠している者が居ると告発があった。調査対象の倉庫前で何をしている?」
「我々は騎士団憲兵隊です。貴族領軍私兵隊にも、魔獣ついて告発があったのですか?」
「騎士団にもですか?」
「我々は告発を受け、捜査中です。魔獣に関しては王国軍貴族領軍関係無く、協力する事になっていたはずです。現在、倉庫を管理している責任者に確認中です。貴族領軍私兵隊の責任者の方もこちらで一緒に確認されますか?」
「そうさせて貰う」
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「つまり、英雄殿御一行は、ルシア・ブオミル前侯爵第二夫人様より招待されロイを馬車で移動。偶然ここを通りかかった訳ですね」
「そうです」
「隊長。奴隷商地区を偶然通りかかるものでしょうか?」
「商人商家協会に確認すれば直ぐに分かる様な嘘を、商人商家協会協会長のロメインさんがいちいち言うと思うか?」
「それは無いと思います」
「そうだろう!」
「そして、彼もまたルシア・ブオミル前侯爵第二夫人様の依頼により、そこの倉庫で荷物を管理していただけという訳ですね。荷物の中身は魔獣ではないのですね?」
「そ、それは・・・」
「先程、俺も確認しましたが、中身はただの廃材でした」
「廃材?」
「名誉団長殿?」
俺は、右目でウィンクし合図を送る。
「はい、廃材でした。簡単な確認しかしませんでしたが、あれはある討伐命令で出陣し討伐成功で帰還した、駐屯騎士団と第3師団の裂けた団旗の様に見えました。ですから廃材でしょう」
「念の為、確認し、告発の真偽を見極めたいと思います。宜しいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「ロイク様大丈夫でしょうか?」
「名誉団長殿」
「ロイク様。先程ま・・・じゅう・・・と・・・」
「大丈夫だって」
『フフフッ』
ちょっと立ち会ってきます。
『面白そうなので、私も立ち会いたかったです・・・』
彼女は悪戯な笑顔を俺に向けた。
「それでは、行きましょう。元団員リック・マケインと協会長のロメインさんと、憲兵隊の皆さん。それに、貴族領軍私兵隊の皆さんは俺について来て下さい。仮に魔獣だった場合は危険ですから、英雄と呼称される俺の後ろからどうぞ」
「名誉団長殿・・・」
「ちゃんと手は打ってあります。安心してください」
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――― 倉庫の中
――― 6月3日 12:56
「作業の手を止め、両手を私達に見える様に上げ、そのままその場で待機して居てください」
倉庫の中で作業を進めていた男達は、貴族領軍私兵隊の指示におとなしく従った。
「情報によると大きな木箱だ。確認しろ」
「はぁっ!」
貴族領軍私兵隊の兵士達が恐る恐る木箱を動かす姿を、騎士団の憲兵隊達と俺達は眺めていた。
「こちらの箱は、荷台の残骸です」
「こちらの箱には、車輪だったと思われる物と、折れた槍に欠けた陶器が複数」
「こっちの箱も同じ様な物が多数」
「あっ!」
「どうした?」
「いえ!」
「何だ、はっきり言え」
「えー大人用の雑誌が大量に入っています」
「そ、そっか・・・」
倉庫で作業をしていた男達とリック・マケインさんは、狐につままれた様な顔で互いに顔を見合わせていた。
「俺が先程確認した時と同じみたいですが、貴族領軍私兵隊の皆さんには誰からどの様に情報が寄せられたのですか?」
「情報提供者の名を、開示する事は出来ないのです」
「ですが、この様に嘘の情報を寄せてくる者を、提供者として保護する必要はあるんですかね?」
「ですが、規則は規則です。我々は虚偽の告発だったと報告しに戻ります。皆さん、御協力に感謝します。英雄ロイク様。商人商家協会協会長ロメインさん。リック・マケインさん。御協力ありがとうございました。それでは我々は失礼します。行くぞ」
「はぁっ!」
「憲兵隊の皆さんはちょっと待ってください」
「はっ!」
「急にどうしたんですか?隊長」
「ロイク様は英雄であると同時に、中央騎士団第3師団名誉団長様だと先程元団員リック・マケインより聞きました。我々憲兵隊は、名誉団員お呼び幹部騎士様方を逮捕拘束する権限を持っておりません。誠に失礼致しました」
「もう済んだ事だし、皆任務で動いただけでしょうから、気にしないでください。それよりも、この告発って、ルシア・ブオミル前侯爵第二夫人様本人或いは関係者からですよね?」
「どうしてそれを?」
やっぱりね。
『フフフッ。乗り気じゃない』
少しだけですよ。
「隊長・・・」
「あっ・・・良いんだ。副隊長。名誉団長様は騎士団の団長様とほぼ同じ権限を有する。指揮権が認められていないだけで我々の上官。上官への虚偽に対し我々は何をする」
「それは・・・軍務違反行為で身柄を拘束します」
・
・
・
『これから、どうするの?』
そうですね。こちらから会いに行きますか?ルシア・ブオミル前侯爵第二夫人様に。
『面白くなりそうね』
面白いかは別として、元第3師団の団員や協会長のロメインさんや俺達を、罠にはめようとしたのは何故なのか、知る必要がありますからね。ブオミル家はきな臭いです・・・
『フフフッ』
・
・
・
「憲兵隊の皆さんは、何事も無かった様に、騎士団事務所に戻ってください」
「分かりました」
「監察官とジェルマン子爵様達に、報告会議お疲れ様です。と、お伝えください。それとですね、告発に対しての捜査の結果は、怪しい男3人と女3人の身柄を拘束し大きな木箱を8個押収したという事でお願いします。後で訂正します。それまでは、これでお願いします」
「どういう事ですか?貴族領軍私兵隊は、嘘の情報だったと直ぐに騒ぎ出すと思われますが」
「貴族領軍私兵隊はたぶんですが、ルシア・ブオミル前侯爵第二夫人様の仲間だと思います。騒ぐとしても、魔獣が居なくなった事でだと思います」
「魔獣ですか?・・・まさか、本当はここに魔獣がいたのですか?」
「居ませんでしたよね?一緒に確認したじゃないですか?」
『フフフッ』
これくらい、良いじゃ無いですか?
『そうね』
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「それでは、我々は騎士団事務所に戻ります。協力する事は出来ませんが、指示していただいた程度の事位は・・・お任せください」
「憲兵隊の皆さん。宜しくお願いします」
「はぁっ!任務完了。告発通り我々は男性3名と女性3名を拘束し8個の大きな木箱を押収した。引き上げるぞ」
「はぁっ!」
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「名誉団長殿。これは、どうなってるんですか?」
「ロイク様。これは?」
「俺のスキルで、3重の檻ごと魔獣達を、大丈夫なところに8匹とも移しただけです」
「大丈夫って何処にですか?」
「秘密!」
「班長・・・俺達はどうしたらいいですけぇ~」
「お前等の仕事は・・・今日はもう終わりだ。まだ昼前だが、今日の賃金を渡すから飲んで食って身体を休ませておけっ!」
「おぉ~班長ぉ~あいしてるぜぇ~・・・う~ん」
「てめぇのキスなんかいらねぇ~よ。ホラ、金はテーブルの上に置いておくから、皆で均等に分けろよ」
≪ジャラ
「皆、行くぞぉ~班長も後で来やすかい?」
「もしかしたらな」
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――― 街乗り用の馬車の中
――― 6月3日 13:40
「つまり、これはルシア・ブオミル前侯爵第二夫人様かそれに近い者の罠だと?」
「はい。俺はそう考えています」
「ロイク様。ロイは前侯爵様がお亡くなりになってから、次男のアルヴァ様が爵位を継承し、取り分け10代の女性や10代の娘が居る家の者には、住み難い街になりました。・・・それ故、三男のブルーノ様こそ正統な後継者だと、擁立しようとする者が未だに多いのです」
「その様ですね。昨日俺達が、アルヴァ・ブオミル侯爵に会った事を知った。ルシア・ブオミル前侯爵第二夫人様側の誰かが、動いたと考えるべきでしょう」
「ロイク様は、アルヴァ侯爵に会われたのですか?」
「昨日、ロメインさんの店で宝石を買う前に侯爵邸に行ってたんですよ」
「アリス様と狩人射手協会へ行くと仰っていましたよね?」
「それが、そこの受付と、総合案内所の所長が、俺達を不当に拘束しようとして色々ありまして、彼等の身柄は地下に拘束される事になったのです。揉めているところにアルヴァ・ブオミル侯爵様が通りかかり、地下ではなく侯爵邸の牢の方が良いだろうと提案しました。彼等は侯爵邸に移送される事になり、俺達も正式な挨拶の為、侯爵邸に行った訳です」
「昨日、総合案内所で何かあったらしいとは、商人商家協会でも噂にはなっている様だったが、まさかエーギンハルトが、アルヴァ侯爵に拘束されていたとはな・・・」
「協会長同士だとやっぱり知り合いだったりするんですか?」
「奴は、先程話しました。前侯爵アーマンド様の三男ブルーノ様擁立の強硬派です」
「なるほど・・・」
「ですが、この件には、まだ疑わしい点がもう1つあります」
「ロイク様はアルヴァ侯爵に会ったのですよね?」
「はい」
「アリス様と一緒にですよね?」
「はい、私もロイク様と一緒に、侯爵へ挨拶をしました」
「アリス様は、年齢、容姿が・・・アルヴァ侯爵の目に留まった可能性がございます」
「はぁーそれで?」
「侯爵が、アリス様を目当てに何かしたとも考えられます」
「変な発言はしていましたが・・・」
「確かに変な発言は何度かありましたが、こうもはっきりと愚行に及ぶでしょうか?」
「ロイク様。私も流石に、そこまでアルヴァ侯爵が愚かだとは思えません」
「ロイク様。アリス様。あの侯爵の愚行や性癖を甘く見ない方が良いです」
『フフフッ。騎士団に、情報を提供したのは、ルシア・ブオミルという人間種だとして・・・私達を捕まえさせて何のメリットがあったのかしら?』
う~ん。不明ですね・・・
『そうね。直接確かめた方が早いわよね!』
ですよね。やっぱり、こちらから会いに行きましょう。ルシア・ブオミル前侯爵第二夫人様に!
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――― 某所
――― 同じ頃
「魔獣が確認出来なかっただと?どういう事だ!」
「私兵隊詰所本部の隊長の話では、私兵隊が駆け付けた時には、先に騎士団の憲兵隊が到着していたそうです。その場にはパマリ侯爵家の令嬢アリス様と、士爵家の英雄ロイク様とその奥様、商人商家協会協会長ロメインが居たそうです」
「何故、騎士団が・・・どういう事だ?」
「分かりません」
「それよりも、魔獣は何処に行ったのだ?探し出せ!」
「はぁっ!」
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――― 侯爵邸
――― 同じ頃
「そうか、拘束したか・・・アリスの他に美少女が2人いたそうだな!」
「はい、騎士団事務所の発表では、男3人女3人の身柄を拘束。倉庫内にあった危険物の入った木箱を8個押収したとあります」
「騎士団に、貴族は僕が取り調べる。身柄をこちらに渡せと伝えろ」
「はっ!」
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