4-92 異文化交流①~つまらない物とドレスと時間の定義~
謁見とは名ばかり。
碌に話もしないまま・・・。
コルト下界を管理する神だと勘違いされたままで・・・。
料理を司りし神chefアランギー様からパトロン殿と呼称される程の高尚な存在だと盛大に勘違いされたままで・・・。
後に知ったのだが、精霊界に於いてパトロンとは保護者。保護者という意味しかないそうだ。
俺達の世界の様に、支援者、後援者、理解者といった意味を持つ言葉はサポーター。
いつか何処かで勘違いを正さなくては・・・。
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帰り際、精霊王様からつまらない物をいただいた。
精霊界では、つまらない物をプレゼントし合うという不思議な仕来たりがあるそうだ。
マルアスピーに言われるがまま、欲しくも無いつまらない物を受け取り、つまらない物にどうして何故にお返しする必要があるのかと思いながらも、つまらない物として【麒麟の頭部の角】二十本、【鼻に並ぶ角】五十本、【額の角】十本、【額の神角】三本、【霊亀の甲羅】十枚、【霊亀の神甲羅】二枚をピュアミスリルの装飾箱に入れ返礼した。
装飾箱には、妖精のおしごとの厨房に置かれている魔導具【業務用冷蔵冷凍庫】を応用し劣化腐敗損傷防止と空間拡張と時間停止を施した。
正直、神授スキル【マテリアル・クリエイト】で慌てて創造したわりには良い出来だった思う。
中身にしてもそうだ。
急遽準備したつまらない物としては十二分にお誂え向きだ。
神獣カフェドームココドリーロで幾らでも手に入れられるし、神授スキル【タブレット】の収納ロイク個人アイテム管理内には、使い道も無くアホみたいに沢山腐る程大量に入っている。
郷には郷とは言え、つまらない物をプレゼントし合う精霊界の仕来たりには馴染めそうにない。
実に不思議な文化だ。
ただ、世界は違えど、そこまで大きくかけ離れてるとは思えない。
つまらない物の価値観。その基準を満たしたつまらない献上品だったと思う。
chefアランギー様曰く
「多様性に富み。協調と融合、拒絶と排他を繰り返し成長するのが文化なのですぞぉ~。はい」
「尊重し合うとか妥協し合うとかはダメなんですか?」
「難しいでしょうなぁ~。コルトのヒュームにそれを望むのは酷と言うものですぞぉ~。はい。短いながらも微妙な綱渡りを巧みに制し時の都合のみを押し付け積み重ねて来た歴史がそれを証明しておりますからなぁ~。争いの渦中にあってこその誕生と発展、衰退と滅亡なのですぞぉ~。私達神が持ち合わせていないマゾヒズム、ヒュームはマゾの気質を持ち合わせそれを心の底で望んでいる。だからこそ神界ではありない程の多様化をコルトは実現出来たのでしょう。ストイックとは真逆なかけ離れた存在という点では私達神を模しただけの事はありますなぁっ!」
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一つ気になった事がある。
神授スキル【マテリアル・クリエイト】で慌てて創造した装飾箱を目にした精霊王様やロロノクック様やミト様をはじめとする精霊様達の反応が、何だかちょっと微妙だった。
つまらない物を入れるだけの箱に気合を入れる意味ないですよね?期待する人っていますかね?
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俺達は、ブランルーゴリア宮殿を後にした。
―――プリフェスト下界ミッテタルグルント
工房ロイスピー・ミッテタルグルント支店3F
R4075年9月20日(樹)17:10―――
パーティー会場に向かう前に少しだけ休憩のつもりで、リビングルームのソファーに腰掛ける。
「精霊界って家に入る前に靴を脱ぐんですね。地下0階の温泉宿の玄関みたいな」
「管理者殿それは少し違います。家に入る前に靴は脱ぎません。家に入り家に上がる前に靴を脱ぎます」
「あ、上がるって意味で入るって喋ったつもりだったんですが上手く通じてなかったみたいですね」
「ロイクさぁ~ん♪。こんな人相手にしてないでドレスあっ!」
俺の左腕に勢い良く抱き着いて来たミト様の時が止まる。
「ドレスを着てパーティーに参加するつもりだったのかしら。残念ね。ドレスは無いわ。準備していないもの」
それで動かなくなったのか。なるほど。
「このままで構わんだろう」
「そうね」
「・・・な」
おっ、反応した。
「なっ、・・・・・・いい・・・・・・・・良い・・・訳ないでしょう。これは礼装。どこから見てもドレスじゃないの。分かるでしょう。もう、皆分かって無さ過ぎよ。良いアスピーちゃん。こんなのに気を遣う必要ないわ甘やかしちゃダメなタイプなんだから」
あ、動き出した。・・・ミト様。父親を指差すのは流石にどうかと。しかも、マルアスピーは無視ですか。母親を無視しちゃまずいんじゃ。
「ねぇ~ロイクさぁ~ん。どうしましょう。アスピーちゃ~ん、どうしましょう」
マルアスピーに抱き着くミト様。
無視された事、ちっとも全然気にして無い様だ。
って、それでも無視ですか。マルアスピーさんや。
「はいはぁ~い、ロイクさん♪」
ミト様は、左腕でマルアスピーを抱え飛び跳ねながら、右手で元気良く挙手している。
おっ、揺れ・・・凝視・・・。
って、違ぁ~~~う。そうじゃないだろう。
凝視しつつも、
「どうかしましたか」
「パーティー用のドレスがありませぇ~ん」
改めて言われなくても分かってますよ。その件について話が進みそうな感じでしたよね?
「困ったわぁ~。どうしましょうぉ~」
上目遣いで言われても・・・。
「女には色々とやる事があるのよ。ねぇ~アスピーちゃん♪分かるでしょう~ロイクさぁ~ん♪」
そこで俺に振る。振りますか?知ってますか?振られたら困るだけですよ。
助けを求めるべく。マルアスピーへアイコンタクトを送る。
「ねぇロイク。アナタの出番よ。ソファーで足を延ばしてないで、サクッと解決なさい」
「はい、何でしょう」
って、どうやら、通じなかったようだ。
「ドレスの事よ」
その件につきましては、重々承知しております。ですがですね。
「いきなり振られてどうにか出来る話だと思いますか?前にモルングレーでドレスを作って貰った時の事覚えてますよね?」
「えぇ。人間種のドレスを学ぶ良い機会になったわ。私としてはあんな感じで構わないのだけれど」
「身内の昼食会だぞ。礼服でも何でも服であれば着てさえいれば構わんだろうに」
「構うわよ。礼服はフォーマル。ドレスはクライト。あぁ~どうしてドレスの事忘れてたのかしらぁ~。あああぁぁぁアスピーちゃぁ~ん何とかしてぇ~」
構うって・・・。
「何だドレスとはクライトの事か?それならミッテタルグルントの屋敷に沢山あるだろうが」
「え、ホント?嘘だったらただじゃおかないわよ」
ロロノクック様は精霊界に御屋敷を持ってるのか。
「お前の部屋にあるだろうが」
「あああぁぁぁああああれねぇっ!・・・精域の中で飽きもせずに四千年以上も引き籠ってゴロゴロ不貞寝していたものだから忘れてしまったのね。四千年以上も前の物を実の娘と実の孫娘に着ろだなんて実の父親の言葉とは思えないわ。剰え着て生き恥を晒せだなんて私が何をしたって言うのよ。おいおいおいおい」
・・・スゲェ~、この人ある意味本物だ。
「み、ミト。お前と言う奴は・・・」
「揶揄っている暇は無いわ」
「そうですよ。ロロノクック様を揶揄うのはお終いって帰って来る時に約束しましたよね」
「あらぁっ!そうだったかしら。・・・あらやだ。そうだったわね。コルト下界の地の大精霊ロロノクック様が四千年間も居留守してたって話はもうしないって話だったわね。忘れてたわぁ~。ごめんなさいねぇ~。お・と・う・さ・まっ♪」
「く、くっ・・・」
「ねぇロイク」
「はい、何でしょう?」
「さっきからいったい何をしているのかしら?」
何って、巻き込まれてると思ってます。ええいここは強制的に脱線解除っ!!!
「取り合えず、御屋敷にドレスを見に」
「私のドレスは、マテリアルクリエイトで最新のデザインの物を創造して貰えるかしら」
行き・・・なるほど、その手があったか。だがしかしだ。
「最新のデザインですか。残念ですがドレスとは余り縁が無くてトレンドとかサッパリ分からないです」
「何を言っているのからし。タブレットで検索して気に入ったドレスを創造するの。ホラ、サクサク行くわよ。ドレスを探す時間が減ってしまうわ」
「探さない。ドレス無かったわ。嘘だったの。だからお願い。ロイクさんお願いだから私のドレスも作って。ね、ね。良いでしょう~。ちょっとだけで良いから一着。一着だけで良いか。ね、ね」
一着だけで良いって、寧ろ一着で十分ですよね。それに、嘘って、ここに居ましたよね。
「み、ミト。お前と言う奴は・・・はぁ~、どうやったらお前みたいにあっけらかんと無責任に強かに逞しく生きられる。真似をする気にもなれんが一度詳しく教えて欲しい物だよ」
それ、俺もすんごく気になってました。
「そんなの簡単よ。どうでも良い事は気にしない直ぐに忘れる事ね。どうせどうにもならないならどうにもしないにこした事ないわ。常識よねぇ~ロイクさん♪」
「そ、そうか」
スゲェ―考え方だ。精霊樹この人に任せてしまったけど、大丈夫だろうか。
「そうね。その考えだけには共感できるわ。興味を惹かれない書籍や存在に費やす時間程勿体ない事は無いもの」
なるほどなぁ~。マルアスピーはだからなのか。ちゃんと母娘だ。
「あぁー何と嘆かわしい。我が孫娘に我が娘の血通わぬ心冷たき浅ましくも愚かな一面が遺伝してしまっていたとは。あぁ~」
「あらだったら喜ぶべきよ。アスピーちゃんは、ちゃんと遺伝してるものぉ~。お・と・う・さ・まの引き籠り癖をねぇ~♪聖域から出るのは謁見の時くらいだしぃ~、精霊樹の精域からたまに出ても精々大樹の聖域内だしぃ~。ホラね♪ほとんど立派な引き籠りでしょう。良かったわねお父様♪」
「くっ・・・」
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ロロノクック様とミト様の愛情溢れる親子口喧嘩愚痴り合戦を温かい目で見守りながら終わるのを待っていたのだが、終わる気配を感じない。
「ねぇロイク」
ですよね。
「はい、時間が勿体ない。ですよね。今直ぐ調べますのでお待ちください」
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神授スキル【タブレット】で検索し確かめたところ、精霊界とコルト下界では、ドレスの概念が全く違っている事が分かった。
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「本当にこれで良いんですか?」
「良いの良いの♪」
「そうね」
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「・・・管理者殿よ」
「どうかしました?」
「私の目には、ホッホツァイトの衣装にしか見えません」
「ホッホツァイトって何ですか?」
「ホッホツァイトはホッホツァイトです。管理者殿も創造神様の祝福の下で私の孫娘とホッホツァイトしたはずです」
「は、はぁ~・・・」
ホッホツァイト。・・・後でマルアスピーに聞こ。今は無理そうだし。
ミト様とマルアスピーは、俺が見様見真似で創造したドレス用のアクセサリー選びに夢中の御様子だ。
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谷・・・創造したドレスを眺めながら。ロロノクック様と弾まない会話をぎこちなく繰り返していると、
「ねぇロイク。これどうかしら?」
「はい、な・・・って、似合ってますよ」
「そ、なら良いわ」
「・・・」
「どうかしましたか。ロロノクック様」
「・・・創造神様から祝福を神授された夫婦なのですよね?」
「そうみたいですね」
「そうね」
「何と言いますか。・・・気の、気のせいでした。私の気のせいでした」
「「は?」」
「しっかしぃ~、コルト下界のドレスはホッホツァイト、ワンピースタイプだったとは。交流が無かったとはいえ大文明の頃より住んでいたにも関わらず知らなかったとはいやはやお恥ずかしい」
「そうね。私としては、精霊界のドレスがジャンプスーツタイプだという事に驚きを隠せないわ」
「仕方ないですよ」
だって、マルアスピーは、謁見以外で精霊界を訪れた事が無い訳で、はっきり言って戦力外。
だって、ロロノクック様は、孤高と言えば聞こえは良いが、ボッ・・・、戦力外だし。
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結局、タブレットを参考にミト様の要望を百パーセント叶える形で、斬新でキュートでゴージャスなコルト式のドレスを創造したのだが。
「本当にこれで良いんですか?」
「良いの良いの♪」
「そうね」
「なら良いんですが・・・」
つなぎ服にしか見えない精霊界のドレスも可愛いとは思ったけど、こうして眺めてみると胸元の・・・コルト下界のワンピース型のドレスの方がヒラヒラしていて女性らしいかな。
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「さてと準備も出来た様ですしそろそろ行きましょう。・・・・・・」
「どうかしたのかしら?」
「ロイクさん?」
「管理者殿?」
「あぁ―――、パーティー会場の場所を確認するんで少しお待ちを」
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創造神様からのメール何故か指令⑧を読み直してみたところ、あら大変ビックリ仰天。パーティーの開始時間は、コルト下界の時間でいうところの正午から。
現在の時刻は・・・。
MRアイズで確認する。
はい、遅刻決定。
「どうしましょう?」
「気にする必要は無いわ」
「そうよロイクさん。アスピーちゃんの言う通りよぉ~」
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ロロノクック様やミト様やマルアスピーの話を聞く限り、精霊界では約束の時間は約束の時間の前後誤差五時間が常識らしく、コルト下界の時間で言うなら十時から二十時の間であれば正午扱いになる。
解釈は精霊によって多少違うらしいが、二時間や三時間の誤差であれば間違いなく範囲内。問題ないらしい。
そして、パーティー会場はというと、
「地の公王様の御屋敷が会場らしいのですが、ロロノクック様ミト様。知ってますか?」
ありがとうございました。