4-78 遺跡で史跡と、娼館。
フォルヘルル島西ドュン村の玉切り場にある三つの枯れ井戸の底、島の地下空間に広がる三層の壁に囲まれた巨大な無人の都市。
chefアランギー様の話によると、都市の名前はハオスヘルテリン。何十万年も前に存在した王国のそれなりに大きな都市の一つだったらしい。
現存部分は二割弱。欠損部分は八割強。
もしかしたら五層以上の壁に囲まれた都市だったのかもしれないと言う俺の予想は強ち間違いではなかった様だ。
unknownばかりで情報が乏しく宮殿だったのか神殿だったのか結論を出せずにいた中央の建物は、神殿よりもグレードが上の大神殿。邪の女神様の大神殿だったらしい。
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―――ララコバイア王国・フォルヘルル島
元邪の女神の大神殿・湯浴みの祭壇
R4075年09月17日(邪)18:00―――
俺達は、水没した無人の都市の主を失った元大神殿の湯浴みの祭壇の間へと、chefアランギー様の指パッチンで移動した。
島民は東西ドュン村関係無く水の中に漂う一つの大きな玉の中に、調査チームはチーム別に分けられ水の中に漂う六つの玉の中に保護されていた。
亜神鱓のミイール様まで強制転位移動で保護されていた。
俺達が、ミイール様の隣に姿を現すと、
「「「陛下っ!!!ここは?これは?」」」
調査チームのメンバー達が、堰を切ったかの様に一斉に口を開き質問を投げ掛けて来た。
「「「あの御方は国王陛下なのか?国王陛下自らお助けに!?国王陛下。村が私達の村が・・・」」」
調査チームの後方に漂う島民達は、調査チームのメンバー達が騒ぎ出し俺達の存在に気が付いたのだろう。少し遅れ声を上げた。
俺は皆さんの王様じゃないですよ。一度伺いましたよね?・・・皆さんの王様は、あっ!・・・これ宜しくない無い状況だ。
ヴィルヘルム国王は、chefアランギー様の足にしがみ付き、鼻水と涎を盛大に垂れ流している。
この場をどうやって切り抜けるかと思案していると、
「さてさてさて、それでは始めるとしましょう」
chefアランギー様は、全てを無視し切り出した。
やっぱり神様は神様だ。
「サザーランド」
「はい。神アランギー様」
「まずはこの水を全て飲み干しここから水を抜きましょう」
「はい。畏まりました。・・・ぅえ?」
「私はその間にコルト下界とメア下界の理の壁を修繕し補強しておきましょう。はい」
「え?あっ、えっと、神アランギー様?」
「何ですかな?」
「わ、儂極稀になのですが耳の調子がおかしくなる事がありましてぇ~・・・宜しければもう一度御指示をいただけませんでしょうか?」
「はてはてはて、未神とは言え神は神、老化による身体機能の低下など無いはずなのですがぁ~・・・ふ~む。まぁ~良いでしょう。私は理の壁を修繕し補強します。その間に、サザーランド、貴方は水抜きです」
「水抜きですな。お任せください」
「全て飲んでしまってかまいませんですぞぉ~。はい」
「畏まりました。お任せくだ・・・の、飲むのですか!!!」
「当然ですぞぉ~。この水はメア下界の汚穢属性と瓜二つ。サザーランド、貴方にとっては万能薬にも似たポーション。この汚水から善意の効果を享受出来るのは何を隠そうサザーランド、貴方だけなのです。さぁ~、周囲の目等気にせず一気にグイッと漢なら良いとこ見せましょう。はい」
ここの水を飲み干すって事は、島中の水を飲み干すって事だよな。・・・全部飲み干す必要はあるのか?この漆黒色の汚水は万能薬に近い訳だしメア下界に持って帰って利用した方が良くないか?
「フゥファニー卿。この汚水はメア下界では万能薬になるんですよね?ここで全部飲んじゃったら勿体なくないですか?」
「おっ、そうじゃその通りじゃ。古の世界の王よ。儂もその方が良いのではないかと」
「ダメですぞぉ~。汚穢属性と瓜二つとは言えあくまでもコルト下界の理の中ででの話。メア下界の理の中で利用するとなると品質を保証出来かねます」
「ここで飲む分には」
「問題ありませんですぞぉ~。陛下」
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壁の修繕と補強は、ものの数ラフンもしないうちに完了した。
chefアランギー様は、フィンガースナップを三回、指を三回鳴らしただけだ。
俺は、chefアランギー様の隣に立ち指パチンを見ていただけだ。
chefアランギー様は、メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドに、
「急ぐ必要はないですぞぉ~。ですがぁ~、ディネの準備がありますので、それまでには戻りたいですなぁ~。はい」
と、言い残し。
「私達は、地上に戻りますぞぉ~。それでは」
≪パチン
―――ララコバイア王国・フォルヘルル島
西ドュン村・中央池の池畔広場
R4075年09月17日(邪)18:33―――
俺達は、メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドを湯浴みの祭壇に一人残し、chefアランギー様の指パッチンで西ドュン村へと移動し村の復興作業を開始した。
復興作業と言っても壁の時と同じでchefアランギー様以外誰も何もやっていない。
≪パチン
東西ドュン村の復興作業が、フィンガースナップ一回で完了してしまったからだ。
村へ移動し一時間半程経った頃だった。汚穢のリントブルムから漆黒色の水柱へと姿を戻していた水柱が徐々に細く短くなり姿を消した。
水が完全に引いた瞬間だ。
何はともあれフォルヘルル島は、こうして何事も無かったかの様に平穏を取り戻した。
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「ヒュームにとって時間は財歳月は糧。飲み終えるのを何もせずに待つのも悪くありませんが有意義で然り、有効活用するとしましょう。はい」
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「アキゴとコルゴ、島の代官が揃っているのですぞぉ~。ヴィルヘルム、貴方は国王として島の観光化インフラを指揮するのです。怪我の功名とでも言いましょうか島を脅かしていた呪いの類は全てひっくるめて一切合切漆黒色の汚水汚穢属性の水に溶け込み、サザーランドが飲み干してしまえば解呪完了。しかもですぞぉ~、呪いの原因は陛下が、アシュランス王国のロイク・ルーリン・シャレット国王陛下が責任を持って回収するのです」
chefアランギー様は、ヴィルヘルム国王に指示を出した。
へぇ~。島に施されていた魔力陣と術式は、俺が回収するのか。
「それとここからが重要克無駄な話なのですが、フォルヘルル島の管理は今まで通りフォルヘルル家に任せましょう。ですが、地下の無人都市は古代遺跡貴重な観光資源です。この国の王都に匹敵する程の規模を誇る大きな史跡でもあります。古代遺跡の管理は王国に任せます」
サルディー魔務大臣がいない所で勝手に決めちゃって良いんだろうか?
「「「畏まりました」」」
ヴィルヘルム国王とアキゴ村長とコンゴ村長。三人は、瞳をキラキラと輝かせ元気に返事した。
「おっと忘れる所でした。古代遺跡ハオスヘルテリンの中央元邪の女神の大神殿はこの世界の守護聖人管理者パトロンロイク殿が管理します。そうですなぁ~、分かり易く第一層の城壁から内側をパトロン殿の管理下にしましょう。城壁観光はKANBEと名を持つ下界でもなかなかの盛況ぶりでしたからぁ~・・・第一層の城壁も、ヴィルヘルム、貴方の国に任せます」
「畏まりました。・・・神アランギー様。先程、古代遺跡ハオスヘルテリンには数多くの神殿が建立されゲートが施されていたと伺いましたが、神殿の管理は如何致しましょう。史跡にあたると思わっるのですが・・・」
「そうですなぁ~。事前に陛下と私で安全を確認しておきましょう。中央以外は、ヴィルヘルム、貴方の国に任せます。史跡管理の経験を積む良い機会になるでしょう。はい」
安全確認?・・・あぁ~ゲートを回収するのか。
「ありがとうございます。ララコバイア王国を挙げ勉強させていただきます」
「「「勉強致します。させていただきます。感謝致します」」」
島民達は、ヴィルヘルム国王の言葉を復唱し、chefアランギー様を讃える。
これが集団心理って奴か。宗教ってこうやって生まれるのかもしれない。・・・神が目の前に居るととっても分かり易い。
「最後に娼館跡地に造られた玉切り場ですが」
「「「娼館???娼館ってあの娼館か?娼館なんてあったか?あれか!あれは創造神様の・・・」」」
東西ドュンの村長と西ドュン村の大人達は、初めて聞いた耳にした言葉だと言いたげな表情で顔を見合わせている。
玉切り場の廃墟は、娼婦の館の跡だったのか。創造神様の神殿だっていったい誰が言い出したんだ?西ドュン村の人達は先祖代々娼館に祈りを捧げてから玉切り場で作業を行っていたのか。・・・うん、まぁ~、あれだな。
別の意味で御利益とかありそう・・・。
「そうですぞぉ~。何を今更騒いでいるのですかなぁ~。娼館跡地の玉切り場に古代遺跡への入口として巨大な階段を私がプレゼントしましょう。ヴィルヘルム、貴方にはフォルヘルル家との調整。つまり、ホテルあぁ~宿屋や食事処等宿場町の建設も任せます」
「畏まりました。領主島民と共に協力し合い必ずや立派な観光地にすると誓願致します」
「古代に夢や思いを馳せ古代を真似るのも面白いかもしれませんですぞぉ~」
それって、娼館?
「はぁっ!畏まりました」
おっと、畏まっちゃったよ・・・。
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―――ララコバイア王国・フォルヘルル島
西ドュン村・中央池の池畔広場
R4075年09月17日(邪)23:40―――
メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドが合流した。
水を飲み続ける事五時間半強。メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドは見事に役目を終えた。
「ディネ♪ディネェ~♩ディネェ~~~♪!!!さぁ~今直ぐ戻って下拵えを始めましょう。新しいディネが来た♪希望のディネェ~♩さぁ~パトロン殿も御一緒に」
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≪パチン