4-77 汚穢のリントブルム。
「メアの闇がつ」
「なっ、み、水柱がっ!し、島がぁぁぁ―――っ」
ララコバイア王国の国王ヴィルヘルムは、鬼気迫った表情で目を見開き島を見つめ、悲痛な叫び声を上げた。
「黙らぬか。ふざけておるのか。態々儂がぁ―――――ぁん?こりゃまたどうしてメアの闇が随分と強くなった様じゃが・・・」
説明を遮られたメア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドは、怒りを露わに殺気立った視線でヴィルヘルム国王を睨み付けたが、異変に気が付くと直ぐにフォルヘルル島へと視線を動かし止めた。
「おぉぉぉぉ何じゃこりゃぁ~。神アランギー様よ、古の世界の王よ。古の世界の井戸は随分と過激で破壊的なのだな」
過激で破壊的って・・・。こんな光景今迄一度も見た事ないです・・・よ。
滝壺に落ちる濁水の様に激流へと姿を変えた漆黒色の水柱は、意思を持った蛇の様に縦横無尽に流れ動き回っている。
大地は易々と抉り取られ至る所に大穴をあけ。草木はみるみるうちに緑を失い立ち枯れ薙ぎ倒され押し流される。
「あぁぁあああぁぁぁぁ、わ、わ、我が国に、ににに、いったたたたいなな何あわぁぁぁぁぁぁぁ」
見るも無残な姿へと変貌を遂げて行くフォルヘルル島を前に、ヴィルヘルム国王は、狼狽するばかりで、きちんと言葉を喋れていない。
こんな状況を目の前にして冷静でいられる方が普通じゃないと思う。取り乱して当然だ。
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これって自然現象?・・・じゃないよな。そうなると魔術魔法の類?
神眼Ⅲを意識し島中を隈なく視認する。
自然魔素が干渉した形跡は無いか。・・・さっき微妙に感じた悪気は微弱過ぎて自然の力の循環に影響を及ぼすとは思えないし・・・。
「ま!!!まさか!!!こ、これは、汚穢のリントブルムぅうぅぅうぅぅうぐぅズピーうぅぅ」
メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドは、消え入るような声で呟くと、鼻を啜り乍ら涙を流し始めた。
「汚穢え?えぇぇぇ―――!?ちょっ、ちょっ、ちょっとどうしちゃったんですか、サザーランド陛下。あっ、えええぇぇぇ―――!?」
「儂は今猛烈に感動しておる」
は、はぁ~。えっと何に?
「あぁあぁあぁぁわわわわぁくくくぅうわぁ~~~」
ヴィルヘルム国王は、最早言葉を喋れていない状況だ。
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「サザーランド陛下。この状況が何なのか知ってますよね?汚穢って汚穢属性の事ですよね?汚穢がどうしたんですか?しっかりしてください」
「うぐぅぐぐぐぅ~ズピーうぅぅ」
・・・あぁ―――あっちもこっちもいったい何なんだ。島が大変だって時に、この状況は何?。
「二人共確りしてください」
「その通りですぞぉ~。時に陛下。あの水なのですが......」
そ、そうだった。こういった意味不明で不可解な事はchefアランギー様に訊ねた方が確実なのに、どうしてサザーランド陛下なんかに聞こうとしてたんだ。
「......今し方メア下界の汚穢属性に汚染されてしまい猛威を振るっている訳ですが、あぁ~つまり、コルト下界の理の外。理外の存在によって不確か克不安定な状態になってしまった訳ですが、メア下界ではこの有様を汚穢の大蛇【汚穢のリントブルム】と呼び、これを目にした者は死の瞬間まで家族と共に幸福な時を過ごす事が出来る。そんな心温まる都合の良い迷信が邪の女神改め絶対神ナナンフェルテリーナ様と共に信じられているのですぞぉ~。はい」
多岐に渡り気になる事ばかりなのだが、今は、
「コルト下界がメア下界から干渉を受けてるって事ですよね?それって、かなりヤバくないですか?この現象を止める方法は無いんですか?」
止めるのが先だ。
「そうぉ~ですなぁ~。どっこいどっこいと言ったところでしょうか。それにですぞぉ~、亜下界の理に干渉され続ける程下界の理は脆くはありませんですからなぁ~」
「じきに治まるって事で・・・」
「幾久しく見ておらなんだったが、うんうん。心洗われる美しさとはまさにこれじゃこれ。うむ。・・・古の世界の王よ」
「ああ、はいはい」
話の途中なんですけどぉ~。
「実に見事な汚穢のリントブルムじゃ。涙が止まらぬ。儂は・・・儂は、古の世界に心から謝罪したい」
「は?謝罪ですか」
「ああ心からの謝罪じゃ。・・・儂は、こんなにも清らかで美しい景色を作りだす井戸を知りもせずに中傷してしまった」
過激がなんたらって言ってたな。
「心から詫びる。ありがとうぉ~!ありがとうぉ~!!!・・・この島は美の楽園。まさにまさにパラディースじゃ。古の世界はパラディースじゃぁ~。ありがとうぉ―――!!!」
それ謝罪って言うか感謝。
「フワッハッハッハッハッハッハ。おや!?何を青褪めておるのじゃ。力無きランコバのヴィーム?あぅん?まぁ~何でも良い。力無きランコバも心に焼き付けるのじゃ。二度と見られぬやも知れぬ絶対神様の・・・あぁ~創造神様の奇跡を共に心に刻もうではないか。子孫繁栄家内安全交通安全ノワッハッハッハッハッハ」
「ああぁぁぁわ、わ、わ、わ、わがわわがあああぁぁぁ~」
「ふん。声も出ぬか。分からんでもない。・・・うむ実に美しい。スゥ―――ハァ―――――、スゥ―――――――ハァ~」
何だ。深呼吸なんか始めて。
「香しく腐ったアイの鼻腔を襲うラフィニールトでツァルトな芳香。スゥ―――ハァ~、スゥ―――ハァ―――。う~む。余りの興奮で眩暈がぁアッハッハッハッハ」
「陛下。アイとは卵の事ですぞぉ~。また一つ賢くなってしまいましたなぁ~。はい」
あ―――。・・・そうですね。・・・卵ね。卵が腐った臭いね。あぁぁなるほど。強烈な刺激臭に意識を持って行かれそうになってるって事ね。
「しっかしぃ~、初めて見ましたが確かに蛇ですなぁ~。面白さは何処へ行ってしまったのやらと言ったところですが。ふむふむふむ、後味も夢見も良いに越したことはありませんからなぁ~。まして他下界からの干渉とあっては」
≪パチン
chefアランギー様のフィンガースナップの音が全島に降り注ぐ様に響く。
・・・。
が、目の前に変化は見受けられない。
「うん?フゥファニー卿?」
「島民を元邪の女神の大神殿に強制転位移動で避難させただけですぞぉ~。はい」
「・・・水没してるんですよね」
「その通りですぞぉ~。物事を迅速に解決する法則の一つに、一纏めにすると手間が省け効率的。【馬鈴薯の皮を剥く時は取り合えず全部】と言う様に神気は計画的に使わなくていけないのですぞぉ~。はい」
「ほぉ~。神アランギー様よ。メアにも同じ様な詞があります」
「コルト下界と比べメア下界は合理的な下界ですからなぁ~。はい」
「左様。悠久なる時間を積み重ね効率生産結果重視怨嗟渦巻く世知辛い多文化社会を育み争い奪い憎しみ合う。儂のメアはそんな尊くも美しい世界じゃ。故に、【悪気は余所者の為ならず。社会は財と力で渡るもの】悪気も計画的に使わなくて意味を成さず己の意思を伝えられずにシックザールトートと言う訳じゃ」
これってもしかして、いつもの脱線!?話が見えない。
「あぁぁあああぁぁぁぁ、わ、わ、我が国がぁぁぁぁぁ」
あっ!・・・忘れてた。
「クゥッハッハッハッハッハ。なんじゃなんじゃ、死へのカウント五秒前のカゲロウかランコバっ!!!!ガッハッハッハッハッハ。おおぉぉおぉおそうであったそうであった。儂とした事が心洗われ忘れておったわ。説明の途中であったな」
おっ!自力で戻って来た。この人、フォルティーナより優秀だ。間違い無い。
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・・・・
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メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドの説明によると、メアの力【悪気】の干渉によって砕かれたメアの【月属性】コルトの【地属性】の隙間に【闇属性】が誘われ浸食しメアの理の壁を通り抜けコルトの理の壁に染み出した。
悪気は、コルトの理の中では存在し続ける事が難しい。そこに偶然にも闇属性を豊富に含んだ水が存在していた。悪気は闇属性を豊富に含んだ水に溶け込みあっという間に飽和するに至った。
飽和した闇属性と悪気の水は井戸から噴き出した。虹はただのおまけ。
水柱となった闇属性と悪気の水は大気に触れコルトの理の干渉を強く受け、闇属性のみの水へと変化した。
そこに偶然にもゲートが程良い按排で周囲に存在していた。
―――
「陛下。サザーランドが言うゲートとはこの島に施されている魔力陣や術式の事ですぞぉ~。はい」
なるほど、メア下界では、全部一緒くたにゲートな訳か。
―――
闇属性のみになった水は、ゲートから漏れ出す微弱な呪いの数々を取り込みメアの【汚穢属性】に限りなく近い属性へと変化した。
その結果が汚穢のリントブルム。
「要するにですなぁ~。メア下界の存在がコルト下界へ間違った方法を行使し許可も無く渡ろうとした結果、コルト下界にメア独自の力が少しばかり干渉したと言う事ですぞぉ~。はい」
「それって、メア下界の誰かがゲートを繋げようとしてるって事ですか?そんな事になったらコルト下界のヒュームはひとたまりも」
「それは違いまずですぞぉ~。陛下」
ないじゃ、・・・ええぇ、違う!?違うの?
「ふむ。古の世界の王よ。お主は忘れたのか。古の世界よりメアの者を召喚した者がおったでわないか」
「召喚した人がですか」
「先日。ジョンペーターの隷属の眷属がシュヴァルツやらなんたらに召喚されてスタンダードがなんたらと申しておったではないか」
あぁあぁあ、はいはい。
「そうなんですよ。それなんですけど、今度その件について何か知ってると思われる人に会う事になってるんです。って、その件はこの状況に関係無いですよね?」
「ふむ。信じたくは無いが、その者と儂のメアの何者かが、通じておる可能性がある」
え?
「残念ですが、ありませんですぞぉ~」
お!
「神アランギー様よ。可能性を否定する根拠はあるのでしょうか?」
「簡単な話ですぞぉ~。その者は精霊界の地の公王だからですぞぉ~。精霊は神との理で禁忌に触れられぬ存在ですからぁ~。悪気がコルト下界では存在し得ない様に不可能なのですぞぉ~。はい」
なるほどぉ~。トゥーシェとリュシルと俺は禁忌に触れてぇ~・・・・・・あぁ~精霊じゃ無いから触れてはい無いのか。
「よ、よよよ良く分かりませんが、神アランギー様。アシュランス王。我が国を我が国を御救いください。お願いします。創造神様、お願い致します」
何となく復活したヴィルヘルム国王は、chefアランギー様の足にしがみ付き嘆願している。
・・・神への嘆願。間違ってはいないのか。
「はてさてはて?その為に、ヴィルヘルム、貴殿を連れて来たと説明したはずですぞぉ~。はい。脱線しましたが、然らば」
≪パチン
ありがとうございました。