1-18 しょっぱい苺飴と、欲望の罠①。
作成2018年3月5日
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【タイトル】 このKissは、嵐の予感。
【第1章】(仮)このKissは、真実の中。
1-18 しょっぱい苺飴と、欲望の罠①。
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――― ロイ 商人商家協会 協会長室
――― 6月2日 15:24
「ロイク様。身分カードを渡していただけますか?」
「どうぞ」
俺は、ポケットから身分カードを取り出し、ロメインさんに渡した。
「犯罪歴が無い限り、この機械にカードを読み込ませるだけで・・・」
≪チィ―ン
「と、直ぐにMGカードは出来上がる訳です」
「速いですね」
俺は、ロメインさんから、身分カードとMGカードを受け取った。
「MGカードの事は知っていると思いますが、初回の方には説明するのも、私が決めたルールでして、申し訳ありませんが、説明が終わるまで少しお付き合いください」
「お願いします」
「MGカードは......
・
・
・
......紛失した際には、再発行手数料はかかりません。盗難の際は紛失と同様の手続きになります。他人がカードを利用する事は不可能な仕様になっているからです。本来は発行手数料が2000NLかかりますが、製品化していただいたお礼もありますので、受け取っていただきます代金と合算しMGカードに入金させていただきます」
「うん?手数料と言うのは、MGカードを作る時に最初に入金する金額が2000NLって事なんですか?」
「そうです。勘違いされている方が居るようですが、初回の費用は入金用です。毎年大樹の休息月10月1日【無】の日に、自動更新され、その際は手数料として2000NLいただいております。ですが、MGカード内に30万NL以上入っている場合は、更新時の手続き費用手数料は無料です。MGカードを所有されていますMGカード会員様の9割以上がこの状況ですね」
「なるほど」
「それでは、入金の手続きを引き続き行いましょう。この機械で金銭の移動も可能なのです」
≪ウィーン
ロメインさんは、自分のMGカードを機械に挿入し読み込ませる。
≪ピッ
「それでは、本来100万NL以下だった商品を、ざっと200億NL以上の価値の商品に製品化していただきましたお礼として2割の40億NL。それと初回費用2000NLを機械に保留させます」
「よ、よ、よん、40億NL・・・ですかぁ~・・・・」
「パフちゃん。大丈夫?」
「凄い金額過ぎて・・・目がぁ~~~」
「あら・・・」
「パフさんには刺激が強過ぎたようですわね」
マルアスピーは、人間社会の感覚に疎いから平気だとして・・・
『何よそれ、まるで、私が鈍いみたいじゃない』
そういう意味じゃ無いですよ・・・
「ロイク様は、凄いスキルを沢山お持ちですよね?」
「どうしました。アリスさん?」
「先程のスキルは、あの大きな紅玉に1度使っただけで、40億NLの稼ぎです。騎士団見習いの私の1ヶ月間の給金は約14万NL。創造神様より神授していただくスキルという物がどれだけ凄い事なのか、金額ではないですが・・・実際、かなり驚いています」
「フフフッ。ロイクにとって、40億NLは大した金額ではないですよ」
「マルアスピーさん。40億NLがですか?」
「竜、大樹髭大陸亀、痺魔闇土蜘蛛、地水大牙狼、金剛石竜子、闇炎牙狼の素材。この世界では全て希少価値が高く高額で取引される物なのでしょう?」
「闇炎牙狼以外はS級か古代種ですよね?・・・ロイク様が英雄様だという事を忘れていましたわ」
「ロイク様は、英雄殿なのですか?」
「村を旅立って、コルトの町に入った途端、英雄と呼ばれる時がありまして、自分自身良く分かっていない状況です」
「ロイク様。ロイク様を英雄と呼ばずに、誰を英雄と呼んで良いのか分からない程の事を、ロイク様は先程も・・・」
「先程と、言いますと?」
「えぇ~・・・この件は、また日を改めて、ロメインさんお話します」
「分かりました。楽しみにしています」
「さて、入金手続きを先に終わらせてしましょう。今、この機械には40億2000NLがストック状態になっています。私のMGカードを取り出して、ロイク様のMGカードを挿入します」
≪ウィーン
俺は、挿入口にMGカードを入れた。
「金額を確かめていただき、間違いが無い様でしたら、受け取りのYES/NOでYESを選択してください」
「はい」
≪ピッ
「そして、最終確認で私がYESを選択すると・・・」
≪ピピ ピピ ピピ
「これで、お金の移動が完了しました。離れた相手に入金する場合は、窓口で1枚書類を作る必要がありますが、入金する側と受け取る側が同じ場所に居る場合はこの様に、簡単に手続きする事が出来ます。高額な取引の際に現金で直に遣り取りしいては数えるだけで大変ですからね」
「なるほどぉ~」
「さて、本題に入りましょう」
「本題ですか?」
MGカードも入金も終わりましたよね?
『この人間種も金剛石竜子の事が気になる様ね。フフフッ』
そうでしたね。
「この部屋ですと、テーブルとソファーが邪魔かもしれないです」
「この部屋だと小さいって事ですか?」
「小さくは無いのですが、このテーブルの上には、無理だと思います」
「それでしたら、解体室に行きましょう」
・
・
・
――― 鉱山都市 商人商家協会 解体室
――― 6月2日 15:45
「凄い設備ですね」
「商品になる素材を扱う場所ですから、最新の設備を整えてあります」
「へぇ~故郷の加工場の解体用の台もこの位大きいと良いのに・・・」
「それでは、台の上に宝石専用のマットを敷きますので、その上にお願いします」
「分かりました」
可視化。素材・宝石?・・・金剛石:個数・全部:場所・目の前の台の上。取り出し。
≪・・・金剛石を素材・宝石より取り出しました。
「こ、この量は・・・それに状態が非常に良さそうです」
金剛石の総重量は?
≪・・・合計1387万カラットです。
「どうやら、合計1387万カラット。ピッタリ2774Kgあるらしいです」
「量を把握されているのですね。ご安心ください。温厚篤実がモットーですから。しかし、ぱっと見でも分かる程ですよ。素晴らしい素材解体の技術です。大きな物で500カラット前後でしょうか?」
「たぶんそうだと思います」
タブレットが俺のスキルを使って自動で解体したから良く分からないです・・・
『フフフッ。こんなに沢山あると、有難みを感じないわよね。この小さいサイズの石の5分の1程の大きさの物を先程、人間種のお店で見かけましたが、確か1億NL位でしたよ』
「奥様。その大きさで約50カラット程です。・・・ロイク様。1387万カラットあるのですよね?」
「はい」
「これは、スタッフを総動員しないと終わらないですね。売る売らないは別にして登録する必要はありますから、後々の事を考えても、ここで済ませてしまった方が良いでしょう」
「そうですね」
「明日までには、完了させます。いえ、完了してみせます。登録手数料は、えっとですね・・・石としては何個あるか分かりますか?」
「あ、はい」
金剛石の個数を表示。覚えられないだろうから・・・
『フフフッ』
≪・・・表示しました。
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R4075年06年02日(地)時刻15:53
【金剛石】
総重量:1387万カラット
内訳
500カラット:5000個
400カラット:6000個
300カラット:7000個
250カラット:8000個
200カラット:8500個
150カラット:9000個
100カラット:11000個
50カラット:14400個
※衝突防止付与済み※
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「魔術で、お互いに傷付かない様に、衝突防止を施してあります。それで、個数ですが、50カラットが14400個。100カラットが11000個。150カラットが9000個。200カラットが8500個。250カラットが8000個。300カラットが7000個。400カラットが6000個。500カラットが5000個あります」
「凄い数だとは思いましたが、そうですよね。・・・全部で68900個ですね。登録には1個1000NLの手数料がかかります。王国への税金が500NL。貴族領への税金が300NL。手続き費用が200NLです。全て売り物になると仮定して、手数料は総額6890万NLです」
「登録だけで、物凄い金額ですね」
「ですが、それだけ利益が膨大な物になると言う事です。確約は出来ませんが、50カラットのこの石は、6億から7億NLです。しかもロイク様は登録料こそ発生しますが、取引の際の税金が免除対象の貴族様ですから、凄い事になるはずです」
「マルアスピーさんが仰っていた事が良く分かりましたが・・・ロイク様を常人の次元で考えてはいけないのです。ロイク様はバイル様よりも凄い方だったのですね・・・」
「そうね・・・ロイクは凄いのよ」
「はい」
「しかし、同じ大きさの石は見比べても違いが分からない程に寸分違わぬ解体。既に加工の域です。金剛石竜子は何人で討伐されたのですか?ここまでのスキルを所持する人がパーティーに居て討伐となると・・・大掛かりな物になりそうですが」
「俺1人で狩りました」
「あぁ~なるほど。1匹分でしたから、通りで大量なはずです・・・はい↑?・・・金剛石竜子をお1人で討伐されたのですか?」
「はぁ~」
「・・・ロイク様は英雄殿でしたね・・・」
「変な事を聞く様ですが、普通は金剛石竜子は何人位で討伐する物なんでしょうか?」
「そうですね。私が知っている限りでは、フルパーティーが3組程で共闘して討伐に成功し、ここで買い取ったのが3年前に1件。買取件数は26件でした。討伐中に1人亡くなったそうで、26人で均等配分したそうです。合計で1014万カラットだったと記憶しています。血液と脳と核以外は全て金剛石の魔獣ですが、討伐の際に破損した部位は売り物になりません。彼等が持ち込んだ時は、運搬する為に無理矢理5つに解体してありました。損傷個所が多く魔獣の重量事態は2800Kg程ありましたが、売り物になったのは、1014万カラット分。1人39万カラット。サイズの権利で途中仲間割れを始め大変だった事を覚えています」
「なるほど」
「今回は、ロイク様お1人が取引相手ですので、仲間割れの心配が無いのも有難いです」
「そうですね。因みにですが、3年前の39万カラットは、どの位の金額で取引が成立したのですか?」
「ざっと、約4兆NLです」
「1人4兆NLなら、死の危険があったとしても討伐に参加する人はいそうですね」
「そうですね。前回の討伐から期間が長くなればなるほど市場の価格が高騰します。ゼルフォーラ王国での討伐は、この3年前が前回の討伐です。大火山と一枚大岩の大陸ベリンノックでは、年に2~3匹討伐が成功し世界市場に金剛石が供給されてはいるのですが、他の大陸に出荷されるのは1割以下。200万から300万カラットを3つの大陸で買取合戦する事になり値段が更に高騰します。」
「宝石って綺麗な石なのに、現実はなかなかシビアでドロドロしてるんですね」
「ですが、そのドロドロは宝石商である私達が、一手に引き受けています。御客様は宝石に対して、夢と憧れと、正しい知識があればそれで良いのです」
「知識ですか?」
「これは、旧民としての、ちょっとしたプライドです」
「大地石の知識ですね」
「そうです。宝石には力があるのです」
「普通の宝石にも人を虜にしてしまう力があるみたいですからね」
「さて、話を戻りますが、この金剛石を私の商会だけで全て買い取るのは流石に無理ですので、商人商家協会の宝石担当の者と相談し可能な限り買い取らせていただきたいのですが、お手元にはどの位残されるご予定ですか?」
「何かに使えるかもしれないので夫々100個ずつ残しておこうかと思っているのですが、多いですかね?」
「ふ~ん。195000カラット分を手元に残す訳ですね」
計算、はや・・・
・
・
・
≪トントン ガチャ
「協会長。探しましたよ。って、何ですかこの金剛石の山は・・・」
「調度良かった。君、協会員を集めて、50カラットが14400個。100カラットが11000個。150カラットが9000個。200カラットが8500個。250カラットが8000個。300カラットが7000個。400カラットが6000個。500カラットが5000個の登録と、夫々100個ずつ省いて買取計算しておいて貰えるかな?」
「それは、構いませんが・・・こんなに大量に何方が?」
「大切な御客様をお連れしたって言ったでしょう。聞いて無かったのかな?」
「覚えいます」
「そう・それなら良いよ。それで、こちらの方が、この金剛石の所有者で、シャレット士爵家のロイク・シャレット英雄殿で、こちらのお美しい方が奥様のマルアスピー・シャレット様。そして、長旅でお疲れなのでしょう従者のパフ・レイジィーさん。そして、こちらの方が、パマリ侯爵家の御令嬢アリス・パマリ様だ。覚えたかね?」
「士爵の英雄殿に、奥様が3人ですね。協会員を集め、早速作業を開始致します」
「あ、それで何だけど、明日の朝には作業完了で頼むよ。久々の大仕事だし利益が凄いからね。臨時のボーナスは出ると思うよ」
「はい」
『フフフッ。奥様が3人だそうよ。他の人には、そう見えるのね』
からかわないでくださいよ。
「アリスさん・・・アリスさん」
「・・・・・・あっ・・・ロイク様」
「どうされたんですか?」
「凄い金額の話と、ちょっと考え事がありまして・・・あっ、でも考えていた事は、金銭の事ではありません。何て言いますか・・・言いますか・・・あ~・・・はい」
「え?」
『からかってるのはロイクの方よ。私は素直に感じたままに伝えただけですもの』
・・・ま、良いですけど・・・
『あらぁ~随分素直ね』
そうでもないですよ。
『あらそっ・・・フフフッ』
・
・
・
――― ロイ 商業地区6丁目
「ロメインさん。ここ6丁目は、どんな商業地区何ですか?」
「ここは、鉱山都市ロイの東の台所ですね。公園や広場に隣接した地区という事もあり、飲食店や屋台が大通り沿いに犇めき合い味を競いあっています。一本路地を中に入ると、肉屋、魚屋、八百屋等、住民の生活を支える伝統的な店舗が並び、昔懐かしい商店街が残っています」
「商店街なんですよね?」
「そうです。今は、商店街の方へは曲がりませんが興味がおありですか?」
「いえ、故郷の市場街は商店が並ぶ村で一番活気のある場所でしたが、肉屋が1軒、魚屋が2軒、八百屋が2軒、料理雑貨屋が1軒、調味料屋が1軒、床屋が1軒、研ぎ屋が1軒、花屋が1軒、パン屋が1軒だったので、規模が違うなぁ~と・・・」
「ロイク様、コルトの衛星集落の御出身ですか?」
「俺は、アンカー男爵領マルアスピーの生まれです」
「なるほど・・・そういえば、奥様のお名前は街の名前と同じですね」
『私の名前を後から名乗ったのは人間種よ』
・・・
「私達、ロイの旧民と、マルアスピーの旧民は、先祖達の時代には今よりも盛んに交流があったそうです」
「そうなんですか?」
「父や祖父、その父や祖父も父や祖父から聞いただけで、見て来た訳ではありませんけどね」
「当時は、大陸全土を統治する前ゼルフォーラ王国。ゼルフォーラ王国史では大ゼルフォーラ王国期と言うそうですが、貴族様方の教育機関で私達が学べる機会はありませんから、私の知識はあくまで雑学程度に聞いてください。大ゼルフォーラ王国期の時代、王国の中心はコルトだったそうです。ロイは大地石の集落。マルアスピーは信仰の集落。サンガスは海の集落。リッツは火山の集落。人間はこの5つの集落に集まり生活していたそうです。私は若い頃に、ロイを除いた4つ地域に好奇心から何度も行きました。そして、今でも年に1度のマルアスピーの大感謝祭にだけは必ず参加しています」
「村に毎年来ていたんですか?」
「奉納祭の猪肉より、感謝祭の猪肉の方が美味しいですからね」
「確かに、そうですね」
「あの脂は止められません」
「そうですよね・・・」
「お腹が空いてる時に、何て話をしているのよ。ロイク・・・」
「これは、奥様、失礼しました。そして、私の行き付けの店は、ここから全てです」
「おぉ~」
『人間種がいっぱい』
「祭りの様な賑わいですね」
「ロイク様。マルアスピー様。これは屋台街という商店等の出店が集まった物です」
「へぇ~」
「約300mの道に、200程の店が並んでいます。レストランや定食屋とは違う楽しさや驚きがあります。食べたい物を買い食べながら歩く。街中でやると罰金や逮捕されてしまう行為も、この地区だけは法律で許されています。公園と同じルールが適応されています」
「食べ歩きが出来るんですね」
「そして、この屋台街には、私が愛してやまない絶品グルメがあるのです。それが、これですぅ!」
ロメインさんは、1軒の屋台を両手を広げ、俺達に紹介する。
「グルメですよね・・・?飴の店ですか?」
「そうです。世界最強最高のグルメ。苺飴です」
『私、パンとかラザニアが食べたいわ』
俺も、飴より、普通に食事をとりたいです。
「皆さん、どうしたのですか?ここの苺飴は、ロイが生んだ塩デザートの元祖にして、日々進化を続ける歴史を持った進化し続ける究極至高超絶グルメなのです」
『セル!』
「あの飴は、塩デザートなのですか?」
「そうです」
「この苺飴が塩デザートの元祖とは私も知りませんでした」
「パフちゃん。アリスさん。食べますよね?」
「えぇ~」
「はい、マルアスピー様」
「ロイク、3つよ」
「御心配召されるな。奥様。顔馴染みの私が元祖から新商品までおすすめを、皆様の分まで買って来ます。ここでお待ちを・・・」
・
・
・
ロメインさんは、60ラフン程並び普通に購入し、戻って来た。
「いやぁ~、今日はいつもよりも混んでいる様で、お待たせしました」
『飴1つ食べる為に、人間種の行動は理解できません。待たせ過ぎです』
そう言わずに、折角並んで買って来てくれたんですか、お礼を言って食べましょうよ。
「それで、これって苺飴なんですよね?」
「そうです。私が愛してやまない絶品グルメです」
「それで、これは、どうなってるのでしょうか・・・?」
「それでは、説明しましょう」
ロメインさんは、俺達に1箱ずつ苺飴?の箱を配り終えると、饒舌に語り出した。
「まず、蓋を開けてください」
「蓋無いですよ・・・」
「気分の問題です。蓋を開けた時に視界に広がるパラダイス」
「早く、食べたいのだけれど・・・」
「そうよね」
「オホッン。金剛石の様な輝きで中の大きな苺を包み込んでいるのが、塩味の飴です」
「ようするに、塩が入った飴ですね」
「興醒めするような身も蓋も無い様な事を言わないでください。まぁ~良いでしょう。盛り上がって来たところで、隣の安価な牛の血紅玉の様な色合いにも関わらず、洗練された香り口に広がる芳醇で濃厚でやや苦み走る大人な味の、醤油というリリスで開発された最新の調味料を使った醤油飴」
『ビーフ?』
たぶん、牛の血とか牛の肉の色に似ているって意味なんだと思います。
『牛肉ではないのね』
飴ですからね・・・
『そうよね』
「そして、その隣、これこそが、究極至高超絶グルメ。柚子胡椒苺飴です」
どれも、苺飴でやる必要があったのかと疑問を感じる組み合わせだ。
「私が説明した順番で食べる事をお勧めします。順番を間違うと最悪の場合、柔らかな変化に気付けないまま完食という、あってはならない人生の失敗を経験する事になります」
「飴ですよね」
「そうです。私が愛してやまない絶品グルメです。さぁ~食べましょう」
『食べて良いのね』
そうみたいです。
「それでは、いただきます」←ロメインさん
「いただきます」←俺
「いただきます」←マルアスピー様
「いただきます」←パフさん
「口上はともかく、物は試しにいただきます」←アリスさん
・
・
・
味のイメージは、御想像にお任せします・・・。
・
・
・
「さぁ~。次にいきますよ」
「次は、食事らしい物をお願いしたいです」
「次は、肉です。それと、一段落ちますが塩デザートの苺飴です」
・・・苺飴が続くのかぁ~
「アリス様は、飴を舐め終えた後で、苺を食べる派なのですね」
「パフさんは、ガリガリ派みたいですけど、飴は溶けるお菓子なのに、噛み砕いて食べるのはどうしてですか?」
「飴の味と苺の味が交じり合うと美味しいんです」
「なるほど。飴で甘くなった口の中を、苺の酸味で少しずつ薄めながら、その感じを楽しむのではなくて、甘さその物を楽しむ訳ですね」
「良く分かりませんが、そうだと思います」
「アリス様も、パフさんも、通ですなぁ~。目玉焼きの様に、この苺飴には拘りを持った食通達が沢山います。中には誹謗中傷暴力と、愚かな行為手段に出る心無い者達もいますが、他の食べ方を尊重し、自ら楽しみ方美味しさを追求する美食家が多いのです」
「そうなんですね」
「因みに、私は、ガリガリ派です」
「そうなんですね」
「奥様は、ペロペロ派と少数派の様ですが、それもまた美味しく食べる手段。実に素晴らしいです。流石は、私が愛してやまない絶品グルメです」
「そうですね・・・」
・
・
・
「肉と言いましたが、実は、次のお薦めは、鰻の蒲焼です」
「おぉ~」
「流石、ロイク様は、マルアスピー生まれのマルアスピー育ち。蒲焼に対しての反応実に素晴らしいです」
「何か違う感じですが、これは?」
「これは、先程の苺飴にも使われていました。醤油という調味料を使った、最新の鰻グルメです」
「苺飴の時の醤油のイメージが残ってるので、何だか拒絶が・・・」
「確かにスィーツとメインディッシュでは違いますからね。マルアスピー村の名物料理。コルト川の鰻の蒲焼は、白焼きを柚子胡椒で食べたり、塩で食べたり、梅の実を潰し練った物で食べますよね?」
「後は、焼きながら香草バターを塗りコンガリ焼き上げたり、コンソメとミルクで煮込んだりですね」
「これは何と、さっきの醤油飴とほぼ同じ材料を調味料に使っているにも関わらずデザート、スィーツではないのです。皆さんの分も私が買って来ます。ここでお待ちを・・・」
・
・
・
ロメインさんは、30ラフン程並び普通に購入し、戻って来た。
「さぁ~、次の店で苺飴を買って、公共中央庭園のバラ園でランチにしましょう」
・
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・
――― 鉱山都市ロイ 公共中央庭園
――― 6月2日 17:20
「ここは、1年中バラの花を楽しめる様に、世界中のバラを集めたそうで約22000種類のバラが楽しめる庭園です。今、私達が居る場所は、少しだけ高台になっていますよね。ここには、私が生まれる前の話ですが、ロイの町を守る為の見張櫓があったそうです。櫓はありませんが、それでも、中央広場や公園を見下ろせるのでなかなか良い場所だと思いますよ」
「綺麗な所ですね」
「ロイで人気の観光地の1つです。整備された庭園としては、王都の王宮にあるルーリン湖畔庭園に次いでゼルフォーラ王国では2番目に広いそうです」
「ここ、ブオミル侯爵邸。領主館の中央庭園のバラはとても見事だと聞いた事がありますが」
「アリス様。領主館の庭園には、貴族領民や王民の一般階級の者は自由に出入り出来ません。公共中央庭園が観光の目玉として住民の憩いの場であり、領主館の中央庭園の事を知らない者の方が多いのです」
「そういえば、コルトは街の中に大きな公園や広場がなかったですね」
「はい、ロイク様。コルトは、旧王都の街並みを拡大し発展した街です。大通り以外は馬車が擦れ違える程度の環状通りを数本整備しただけで、後は大勢の人や馬車が通れない様に工夫された昔の街並みのままなのです」
「パマリ侯爵邸を中心に壁に覆われていた地区と大通り以外は確かに、小路が多い街でしたね」
「外壁と内壁に挟まれた地区は、コルトの3分の2程の広さがありまして、主に商業地区と貴族領民の居住区になっています。大きな道が無いのは、住民の反乱を小規模の内に鎮圧する事が出来る様に工夫された結果だと言われています」
「そう言われてみれば、ロイと違って、コルトは貴族領民と王民の住む場所が違うだけで、領内の生活に大きな違いを感じませんでした」
「住民の8割が貴族領民だからだと思います」
「へぇ~」
「コルトは街の中に大きな公園がありません。領主館の外壁の内側に広がるパマリ庭園が唯一かもしれません。ですから、内防壁の内側も領主館の外壁の中も専用地区に侵入しない限り通り抜けが許されています。パマリ庭園は住民の公園みたいな物ですから。あとは、外防壁に並行して整備された緑地もありますが、ただの緑地で壁と街に挟まれた平らな土地なだけですので、憩いの場としては機能していないのだと思います」
『本当に人間種って色々あるわよね』
そうですね・・・って、俺も人間ですからね。
『そうね』
・
・
・
「さて、それぞれの街の特色の話はまた後にして、鰻を食べましょう。さぁ~お待ちかねです。蓋を開けてください」
俺達は、言われるがままに蓋を開ける。
「良い香りです」←アリスさん
「湯気が香りが、もう美味しいです」←パフさん
「鰻は良く食べていましたが、これは・・・?」←マルアスピー
「とても柔らかそうです。臭いも食欲をそそりますね」
「この箸と言うスプーンやフォークの代わりに使て食べる道具なのですが、それで鰻をめくってみてください」
「えっ・・・柔らか過ぎるにも・・・」
「凄い、木の棒で掴んだだけで割れました」
「そうです。ただ焼くのではなく、蒸す工程を入れてあるそうです。それによって、余分な脂が落ち、柔らかくなり、微かな臭味が無くなるそうです。そして、鰻の下は何と米なんです。私も初めて遭遇した時には驚きましたが、米と鰻を食べる習慣は、大樹の大陸ゼルフォーラの南の海洋王国ララコバイアのカトラ諸島と、大息吹の大陸ネコトミサールの間に位置する嘆きの島に、昔からあるそうです」
・
・
・
***余談***
【ロイの鰻のタレ】の作り方
≪準備する物≫
①醤油
②混成酒ミリン
③酒(料理用米酒)
④砂糖orハチミツor黒糖
⑤鰻の頭や骨
≪手順≫
1:②と③を鍋に入れ、火にかけます。
2:沸騰させアルコールを飛ばす。
3:⑤を焼きます。
4:アルコールの飛んだ2に⑤を入れます。
5:④の何れかを入れます。
6:5に①を入れ、火にかけます。
【醤油苺飴の飴の部分の配合】の説明
≪準備する物≫
①水飴
②砂糖or黒糖
③醤油
④場合により塩
≪手順≫
1:①と②を鍋に入れ、火にかけます。
2:かき混ぜながら熱します。
※150度手前位まで熱すると良いそうです※
3:火を消し、③場合により④を入れ混ぜます。
4:泡立ちが治まるまで飴を冷やします。
5:苺の入った型に入れ冷やし固めます。
***余談おわり***
ロイの中央広場と街並み、庭園のバラや草木を楽しみながら、鰻と米に舌鼓を打った後、マルアスピー様とパフさんとロメインさんと別れ、俺とアリスさんは狩人射手協会に移動した。
マルアスピー様とパフさんは、ロメインさんのバトン宝石商会で、俺がプレゼントする事になっている宝石を探すそうだ。
――― 鉱山都市ロイ 冒険者探検家協会関連の建物
――― 6月2日 18:00
「あのぉ~、狩人射手協会は何階ですか?」
「狩人射手協会は、向かって右側の階段を上り3階です」
「ありがとうございます」
――― 同建物3F 狩人射手協会
――― 6月2日 18:03
「弓の新作発表会って、結構やってるんですか?」
「王国軍や貴族領軍への売り込み狙いで、大手の3社が常に何処かの街の狩人射手協会で開いているそうよ。でも、私が見たいのは、軍の兵士達用の量産物ではなく、ロイの武器職人が製作したハンドメイドよ。ロイク様は弓は何をお使いなのですか?」
「今は自作の弓を使っます」
「幾つかお持ちなのですか?」
「故郷が襲われた日、使っていた弓を無くしてしまって、大樹の森で拾った弓を持ち歩いてはいたんですが、スキルでしまってはありましたけどね」
「拾った弓では、命中の精度に心配がありますからね。それで、御自分で製作された弓という訳ですか」
「そんな感じです。アリスさんは、どんな弓を使ってるんですか?」
「私の弓は、港湾貿易都市サーフィスの、弓を専門に扱う武器職人Sir:ウルに作って貰った物です」
「職人なのに、騎士の敬称がある職人なんですね」
「弓専門の武器職人として有名になる前は、王国中央騎士団の騎士だったからと聞いた事がありますが、どうなんでしょうね」
「港湾貿易都市サーフィスには、王都の後で寄る予定なんです。武器職人Sir:ウルさんの弓を折角だし試してみたいです」
「召集で王都に行かれた後、サーフィスまで足を延ばされるのですか?」
「母の親戚だったかな?従姉妹だった気もしますが、その人に用事がありまして」
「そうなのですね。弓はゆっくり見るとして、ロイク様の射手への転職手続きを済ませましょう」
「そうですね」
俺と、アリスさんは、受付カウンターへ移動した。
「転職希望です。このカウンターで出来ますか?」
「お嬢ちゃんが転職するの?」
「いえ、こちらのロイク様です」
「ロイク様?様ねぇ~・・・まぁ~いいや。それじぁ~HAカードを貸してぇ」
「持ってません」
「あぁ~・・・狩人になりたい初心者さんね。下の冒険者探検家協会でも、狩人になら転職手続きが出来るのに、わざわざこっちに来たのかぁ!」
「ちょっと、貴方、言葉遣い〇×△□□×〇☆」
俺は、アリスさんの口を押える。そして、小声で、アリスさんに話をした。
「目立つ必要はありませんから、適当に受け答えして転職を済ませて、弓をゆっくり見ましょう。良いですね」
「ふぁい・・・」
「手を離しますよ」
「ふぁい・・・」
「で、受付カウンターの前でじゃれ合うのは良いが、他に用事が無いなら次があるからどいて」
「???他に人が居る様に見えませんが・・・」
「皮肉ですよ。これは・・・」
「あぁ~」
狩人には、親父もそうだけど、口が悪い人が多い様な気がするけど気のせいだよね・・・
「HAカードは持っていませんが、JOB・inhで、狩人はレベル10です」
「継承組ですか。それなら、この用紙に必要事項を転写するので、PTカードか身分カードを、カウンターの黒い部分に表を下にして置いて、左右の親指を左右の黒い部分に置いて、良いって言うまでそのままでいてください」
「あ、はい」
俺は、PTカードをポケットから取り出し、黒い部分にセットして、左右の親指を両サイドの黒い部分に置いた。
≪ピッ ・・・ ピィピィ ・・・ビィー・ビィー・ビィー
「あん?用紙が違うってかぁ~・・・お前、射手転職だよな?見た感じ20代前半くれぇからだしよ。本当に狩人なのか?」
「貴方、先程から失礼ですよ」
「アリスさん・・・」
「ロイク様は、トミーサス大行進の英雄バイル様の息子で、本人もまたマルアスピーの英雄様なのですよ」
「あ~?・・・バイルさんの息子だぁ~?ハッハッハッハ。久々に現れたか・・・お前もバイル信者の狩人か?いるんだよ、バイルさんの息子を名乗って何したいのか分んねぇ~変なガキがよぉ~・・・お前もう20代だろう。16歳やそこらの成人したてじゃねぇ~んだからよ。ふざけてねぇ~で真面目に働けって」
「あっ、貴方ね。受付担当の者が、シャレット士爵家のロイク・シャレット様と、パマリ侯爵家次男ジェルマン子爵家のアリス・パマリに対して、その暴言万死に値しますよ。今直ぐ謝罪なさい」
「お嬢ちゃんは、あのパマリ侯爵家な訳ね。はいはい。ふざけてるんなら帰った帰った」
「・・・貴方、名前は何て仰るのかしら?」
「ロイの王民シリアル・メーンだ。文句あんのか?」
「貴方の今の態度は、誰に対してであっても、無礼であり、狩人射手協会に相応しくありあません。協会長を呼びなさい」
「あぁ~・・・うちつぅ~か。この建物に入ってる協会には、協会長はいません。残念でした。さっさと帰ってくれ。邪魔だ」
「なっ・・・」
「アリス。1階の冒険者探検家協会の窓口で確認すれば良いだけの事だから、ここは下に行きましょう」
「は、はい」
・
・
・
――― 1F 冒険者探検家協会
俺達は、冒険者探検家協会の窓口に移動した。
「狩人射手協会の窓口に行ったのですが、話が通じない方でしたので、こちらで確認したい事があります」
「は、はぁ~・・・何でしょうか?」
「この建物の中にある協会には、協会長は1人も居ないと言い。会わせてくれないのです」
「なるほど。間違ってはいないのですが・・・」
「そうなんですか?」
「はい、この建物内に入った協会全ての長を兼任している人は居ます。ですから、冒険者探検家協会の協会長は、傭兵職業軍人協会。魔術師魔導士協会の協会長でもある訳です。役職が場所や階によって変わってしまっては不便ですので、ここでは所長と呼んでいます」
「その所長に合わせてください」
「所長は立場上激務ですので、予約が無い人とは基本お会いする事はございません。そうですね、今ですと、6月27日の昼過ぎですと予約出来ますが予約しますか?それと、どの様な御用件でしょうか?事前に相談内容の確認もする事になっておりますので、差支えなければお伺いいたしますが・・・」
アリス・パマリは、爵位カードを窓口の女性へ渡すと、
「魔導具に読み込ませても構いません。私は、パマリ侯爵の次男ジェルマン・パマリ子爵の娘アリス・パマリです。今直ぐ、協会長いえ所長に会わせなさい。分かったわね」
≪ピッ
「ロイヤルブルー・・・・・・急ぎ、所長に話を通しますので、少しだけお待ちください」
「分かりました」
・
・
・
「ヘンデル所長がお会いになるそうです。御案内致します」
・
・
・
――― 同建物1F 所長室
――― 6月2日 18:35
「私が、総合案内所所長のヘンデルです。一応、士爵位を持っている貴族の一員です」
「私は、パマリ侯爵の次男ジェルマン・パマリ子爵の娘アリス・パマリです」
「で、そちらの男性が、英雄バイル殿の息子さんという事でしょうかな?」
「はい」
「3階の狩人射手協会の協会員から苦情が来ました。侯爵家の名前を騙る若い女性とバイル殿の名を騙る例のあれが来た。仮に本物の侯爵家の令嬢だとして悪戯にも限度がある。士爵は貴族だろう同じ貴族家の子供に大人を馬鹿にするなと説教しろとね」
「なぁっ!あの、態度の悪い受付担当の男は、更に私達に無礼を・・・」
「アリス様。言いたくはありませんが、これ以上総合案内所で業務妨害をされるのでしたら、ジェルマン子爵様へ連絡する事になりますぞ」
「・・・それは、構いません。お好きな様にすると良いでしょう。ですが、2人の貴族階級の者を侮辱し、国王陛下に王宮へ召集され謁見予定の英雄に対しロイの総合案内所がとった行動を全て報告するだけになりますよ」
「まだ、続けるおつもりですね・・・はぁ~・・・分かりました」
≪ビッビィー ビッビィー
「侯爵家の令嬢であっても、協会内での狼藉に対して、協会長には、拘束する権利があります。牢に入れたりはしませんが、見張の付いた部屋で少し頭を冷やしなさい」
「ロイク様。ここの人達は、皆さん頭が少しおかしい様です」
「おかしいと言うか、人の話を聞かないにもほどがありますね。拘束される理由がありませんし、アリさんには指一本触れさせません。アリスさんは俺の傍から離れないでください」
「は・・・は・・・い・・・ロイク様・・・」
≪バターン
「こいつ等ですか?」
「そうだ。女性の方は本物の貴族階級。男の方は英雄の息子を騙る愚か者じゃ。拘束し地下でおとなしくさせておけ」
「はぁっ!」(9人の男達)
さてと、精霊聖属性魔法【テルールパンセ】レベル452中制御1。発動≫
「君達どうしたんだね」
「ロイク様。これは?」
「彼等は、今、俺に対する恐怖状態で動く事が出来ない状態です。簡単に説明すると魔力で拘束しただけです」
「なっ!君達、ふざけてないで、この男を拘束しろ」
「貴方も、分からない人ですねぇ~。3階の無礼な受付の男と、アリスさん。どちらを信用するべきか人間として直ぐに分かるでしょうに・・・」
「お、お前達・・・本当に動けないのか・・・」
「だから、そう言ったじゃないですか・・・彼等は俺の聖属性魔術【テルールパンセ】で身動き出来ない状態だと」
「【テルールパンセ】は闇属性の魔術。魔導具か何かを使ったのかな・・・この様な高価な悪戯が出来るという事はお前も何処かの貴族家の倅か?」
「ロイク様。この人も3階の男と同じで、ちょっとダメそうな人みたいですよ」
「う~ん。何か誤解がある様な気がしないでも無いのですが・・・」
「誤解ですか?無礼・非礼・中傷。誤解は既に貴族への侮辱として私の中で認識しています」
「いえ、こちらの認識ではなくて、向こうの認識に誤解がある様な気がして」
「例え、誤解があったとしても、私達への侮辱は既に処刑されて良いレベルです」
「取り合えず、落ち着きましょう。アリスさん」
「ロイク様がそう仰るのでしたら・・・分かりました」
「ヘンデル所長。何か誤解されている様ですが、狩人射手協会の受付の男性の言葉を信じて、パマリ家のアリスさんの言葉を信じない理由は何ですか?」
「君が言いますか?」
「俺が何かしましたか?」
「白々しい。君は、英雄バイル殿の息子でしたね」
「そうですが、それが・・・」
もしかして、親父の奴・・・ロイで昔何かやったのか?
「良いですか。トミーサスの英雄バイル・シャレット士爵様は、騎士団や狩人射手協会、冒険者探検家協会で知らない者は居ない、リリスの民を救った英雄です。神授スキル【遠望】と弓の腕、そして自作した高性能の矢を扱い大変な活躍ぶりでした。ですが、彼は25年前突如表舞台から姿を消したのです」
「はぁー・・・」
「バイル殿が姿を消し、16年後の事でした。最初にあれは現れました」
「あれ・・・アリスさんあれって何でしょう?」
「あれって、あれよね?」
「王都の狩人射手協会に、英雄バイルの息子を名乗る16歳。成人したての少年が現れたのです」
「うわ・・・親父隠し子が居たのか・・・女にだらしない所があるとは思ってたけど・・・母さんに知られたら半殺しにされるかも・・・」
「ロイク様。バイル様は、女性にだらしない所はあったそうですが、御父様が仰っていましたが、何だかんだと紳士で律儀が男だったと・・・」
「いや、あれが律儀って、俺には想像出来ないです。下品で適当で、無責任が服を着て歩いてるって俺は思っていた位ですよ」
「なっ・・・ロイク様。バイル様を、その様な・・・」
「も、もしや、君は、本当に、バイル殿の・・・バイル殿息子なのか?」
「あれ?」←アリスさん
「そうです。と、先程から言ってますよね?」
「いや、そんなはずは無い。本物のバイル殿に会った事があるんだろう?」
「当たり前でしょう。息子が、父親や母親と会わないでどうするのよ」
「そういう意味ではない。引退したバイル殿に偶然会い、バイル殿の人となりを知ったのだろう?」
『面白そうなので、聞いていたのですが、そろそろ麗しのマルアスピーさんが、ロイクに良い事を教えて差し上げますね』
はぁ~?麗しのマルアスピーさんですか?
『そうよ。教えて欲しいの?欲しく無いの?』
役立つ情報なら聞きたいです。
『義理の御父様は、元からの信仰の集落の住民ではありません』
でしょうね。村の人なら知っているはずのリトル・アンカーの話を家は両親共に知りませんでしたから。
『最初に、聖域の傍で見かけたのは、26年位前の今頃でした』
うん?親父に会った事があるんですか?って、26年前・・・って
『まだ、幼さの残るあの時の青年が、義理の御父様だと気付いたのは、コルトの丘に行った時です』
あぁ~ヒグマ広陵ですね。
『あの時、義理の御父様は、遠望で信仰の集落を視認しました』
そうだったんですね。
『26年前に、聖域の手前で、遠望を使い、大樹の森の聖域の精霊樹を視認しようとしていた青年だと、スキルを発動した時に気付きました』
まさか、マルアスピーの存在に気付いて、覗こうとしていたとか言いませんよね?
『私は、元来姿を人間種達に見せません。義理の御父様は欲望に忠実な方ですが、それは無いと思います』
欲望に忠実な方って、褒めてるか汚してるのか不思議なニュアンスですよね。それで、良い事ってどんな情報ですか?
『私が義理の御父様を見かけた最初の日から、義理の御父様は毎日の様に聖域の結界の前まで来ては遠望を発動し何かをしていました』
結界って普通の状態だと入れないんですよね?
『入れないというのは少しニュアンスが違います。入れますが直ぐに出てしまうだけです』
なるほど。
『そんなある日、義理の御父様は、聖域から少し離れたコルト川の近くで、非常に大きな魔力を秘めた邪森炎魔王鼠に遭遇し、弓で戦いながら少しずつ川の近くへ移動し、川に飛び込み無事に逃げる事が出来ました』
邪森炎魔王鼠がどんな魔獣なのか知りませんが、その魔獣はどうなったんですか?
『義理の御父様に矢で20発程射られ、それなりに【HP】を減らしていた様ですが・・・』
あのぉ~、麗しのマルアスピーさんに質問ですけど、アリスさんと俺が置かれている今の状況と、この話って何か関係あると思いますか?
『無いと思いますよ』
ですよねぇ~・・・
『はい。義理の御父様が、表舞台から姿を消したのが25年前の事なのでしょう?私が見かけたのは26年前。邪森炎魔王鼠との戦闘の後に何かがあったのかしらね?』
・・・今度、親父に聞いてみます。
『そうね。フフフッ』
・
・
・
「俺の爵位カードを魔導具に通せば分かる事ですよね?」
「ほう。分かっているのかね?公共の場で身分を騙った場合。口頭での冗談の内でなら罪には問われないが、公共の手続き時に偽称説明、偽称発言は罪に問われるという事を」
「ですが、カードは偽称出来ませんから、カードを通せば、白黒はっきりしますよね?」
「左様。罪人がどちらなのか確定する。もし、お前が本物ならば、私は士爵位を国王へ返上し、所長職を退き、鉱山奴隷にでも何でもなりましょう。ハッハッハッハ」
「あらま。余程、鉱山で働きたいのですね。もう60歳を超えているでしょうに・・・殊勝な事です」
「貴族爵位。貴族家、英雄を騙った罪はA級の終身刑ですぞ」
≪ブゥー
・
・
・
「あ、えっ?・・・こ、この状況は?」
「君、個人認証判定魔導具でも通行判定魔導具でも何でも良いです。持って来てくれ」
「は、はい」
・
・
・
――― 6月2日 19:00
俺の前々には、入出管理徴収兵が持って来た通行判定魔導具とそっくりな魔導具がある。
「アリスさん。これ、はっきりした時点で、どうなります?」
「お前は終身刑になる。それだけだ!」
「まず、目の前に居る今は所長で士爵は、直接爵位を持たない貴族階級の者を相手に、職位を持つ者が侮辱発言をした事になりますから、私達へは謝罪。私達の家への謝罪やお詫び。不当拘束に対する責任問題。国王陛下への謁見前の英雄への拘束行為は反逆罪として成立しているでしょうし。私達が黙っていても、総合案内所がここまで騒いでしまっていますから、次に会う事はないかと思います。3階の無礼者は、終身の奴隷としてこの先を生きる事になるでしょうが、今は所長で士爵よりはましな方かもしれません」
「何となく可哀想な気がしますね」
「そうですか?私はこの様な理不尽極まりない役職や貴族の横暴が許せない性分でして、可哀想だとは思いません」
「そうなんですね」
『あら、アリスって人間種は、なかなか良いわね。私、その考え方とても好きよ』
アリスさんの話てる内容まで分かるんですか?
『ロイクの心が私に全部伝えてくれているだけよ』
・・・そうなんですね・・・
・
・
・
「ほれ、さっさとカードを翳し判定後に、読み込ませて罪人落ちすると良いぞ」
俺は、カードを翳した
≪ピッ
水晶体は、ロイヤルブルー色に発光し5回点滅した。
「貴族階級の者という私の目立てはあっていた様だな」
続いて、カードを読み込ませる。
「貴方が不正を働くとは考え難いですが、俺達は貴方を信用出来ません。兵士1人の拘束を解除します。解除された兵士は、カードの情報を大きな声で所長に聞こえる様に読上げてください。良いですねって、頷けないか・・・」
『ロイク。今のはちょっと面白ですね』
いや、ふざけてる訳じゃないですから。
『そっちの方が楽しくなりそうね』
終わったら、宝石をプレゼントしますから、そっちで待っててください。
『分かったわ。苺飴3種の神器を買って来てね!』
3種の神器?
『塩・醤油・柚子胡椒よ』
あああ・・・あれ、ですか。分かりました。
俺は、拘束を解除した。
「はい、どうぞって・・・あっ!」
≪タッタッタッタッタッタ
「ロイク。あの兵士・・・仲間呼びに行ったわよね。これ」
拘束を解除された兵士は、部屋の外へと飛び出しロビーへ向かい走って行った。
・
・
・
暫くすると、沢山の兵士や冒険家探検家協会関係のBTやLBT達が大勢集まった。大勢が集まる中で、受付の女性が俺の身分を読み上げる。
「父バイル・シャレット士爵。母メアリー・シャレット。長男ロイク・シャレット(本人)。年齢24歳。王宮召集勅令対象R4075年6月10日正午」
それを聞いた、所長は床に崩れ落ちた。
「残りの兵士さんの拘束を解除します。命令されてやった事ですので、兵士の皆さんに対して俺は何かする気はありません。安心してください。解除≫」
兵士達は俺達に謝罪すると、つい先程まで所長だったエーギンハルト・ヘンデルと、狩人射手協会の受付シリアル・メーンを拘束した。
・
・
・
――― 総合案内所 正面の路地
「何だぁ!中が賑やで楽しそうだなぁ!兵士見て来い」
「はっ!」
・
・
・
兵士は、馬車を離れ、総合案内所の中へ入る。
「アルヴァ・ブオミル侯爵様の一行である。速やかに責任者は、この催しについて説明しろ」
――― 同建物1F 所長室
――― 6月2日 19:20
「侯爵様が、何故?」
「誰か、呼んだのか?」
「責任者って誰だよ・・・」
「副協会長達だろう」
「それなら、この中で、一番偉い冒険者探検家協会の副協会長だな」
・
・
・
――― 総合案内所 正面の路地
「さっきの兵士は、確認の1つもまともに出来ないのかぁ?トロい奴は嫌いなんだよぉ!」
「アルヴァ侯爵様ぁ~怒っちゃ嫌ですぅ。キスしてください」
「私にもぉ~」
「さっき、楽しんだばかりじゃないか・・・お前達は僕を干物にする気だなぁ~アハハハ」
「キャー。アルヴァ侯爵様のケダモノォ~~~」
・
・
・
――― 総合案内所 ロビー
「なるほど、現職だった所長が、英雄殿を不当に拘束しようとし、それを阻止しようとしたパマリ家の御令嬢をも拘束しようとしたが、英雄殿の強力な魔力の前に拘束しようとした兵士が身動き1つ取れず、最終的に現職の所長は職を解かれ拘束されたという事だな」
「はい」
・
・
・
――― 総合案内所 正面の路地
「アルヴァ・ブオミル侯爵様......
......と、いう事の様です」
「パマリ家の令嬢に、英雄かっ!確か・・・綺麗な娘か?・・・うん。面白そうだ。行くぞ。案内しろ」
「はっ!」
・
・
・
兵士は、馬車を離れ、総合案内所の中へ慌てて入る。
「アルヴァ・ブオミル侯爵様の総合案内所内見である。協会関係者は速やかにロビーに集まれ。御尊顔、御挨拶、これは名誉である」
・
・
・
――― 同建物1F 所長室
――― 6月2日 19:20
「ややこしい事になりそうね」
「ブオミル侯爵様ってどんな方か知ってますか?」
「知らないわ。2年前か3年前に家督を継いだって事位しか・・・」
『なんだか、そっちがとても楽しそうなのだけれど、そっちに行っても良い?』
可愛く言ってもダメです。終わったら、俺達がそっちに行きます。
『はぁ~い。苺飴多目に宜しくね!』
分かりました。
・
・
・