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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
―ララコバイア編ー
269/1227

4-74 謁見の間。

―――アシュランス王国・王都スカーレット

   グランディール城・謁見の間

R4075年09月17日(邪)09:32―――


 グランディール城の国王執務室で、chefアランギー様と十ラフン程打ち合わせをし、謁見の間へと歩いて移動した。


 上段上手側の扉から謁見の間に入室し、黄金(おうごん)色の絨毯を踏み玉座へと向かう。


 あれ!?玉座の上張りがパープルになってる。ブルーじゃなかったっけ?


 違和感を覚えつつも玉座の前に立ち、中段と下段を見下ろす。


 皆、オマージュ(臣従儀礼)の最敬礼の姿勢で、一応国王の俺を待っていた。


 アシュランス王国の宮廷オマージュは、旧エルヴァリズ王国のハイヴァン様式と呼ばれる古式の作法に近代エルフ(樹人)族の最新トレンド(作法流行)を融合させ調整したものなんだそうだ。


 因みに、オマージュ(臣従儀礼)の最敬礼とは、右手を左胸に当て、頭を四十五度深々と下げる姿勢の事を言う。


 右手を左胸に当てる動作は軽い挨拶や感謝の気持ち。これに頭を下げる動作が加わると敬礼という姿勢の一つになる。頭を下げる角度によってその意味が異なるらしいのだが、俺が知ってるのは信愛(しんあい)と忠誠を表す最敬礼の姿勢だけだ。


 もう一つおまけに、ゼルフォーラ王国やララコバイア王国では、右手を左胸に当てる動作は、死者への哀悼、創造神様の下へ旅立つ者への追悼を意味する為、右手や左手を上げ相手に掌を見せる動作が軽い挨拶として広まっている。



 皆を一通り確認し、玉座に腰掛ける。


「諸君、面を上げて良いですぞぉ~。はい」


 俺が玉座に腰掛けるのとほぼ同時に、中段上手側に立つフゥファニー卿ことアランギー・フゥファニー公爵ことchefアランギー様の凛とした声が謁見の間を支配した。


 その声に合わせ皆が頭を上げる。


「陛下。フゥファニー卿。緊急召集令を受け私ルードヴィーグ・ダダはじめ準伯爵位少将位以上の公僕、応召致しました」


 中段下手側に立つダダ卿ことルードヴィーグ・ダダ侯爵は、首相として謁見の間に召集された公僕を代表し発言した。


 準伯爵位少将位以上が集まってるのか。


 もう一度、中段と下段を確認する。


 うん?、あれれ、足りない。緊急召集令状って最優先公務のはず。


「最優先なのに」

「陛下!!!ここは謁見の間でございます」


 お、おっとっと。そうだった。旧エルヴァリズ王国のハイヴァン様式では、謁見の間での国王の発言は許されないんだった。


 ・・・疑問だ。【念話】や【レソンネ】があるし、発言の有無なんて正直意味無いと思うんだけど。


「≪『緊急召集令って最優先公務でしたよね?』→chefアランギー様≫」


「≪『おんやその通りですぞぉ~。公僕の義務、最優先の義務の一つです。時にパトロン殿よ。レソンネは反則ですぞぉ~。はい』→ロイク≫」


「≪『以後、気を付けます』→chefアランギー様≫」


「≪『ですが、一度気になってしまうと落ち着いて聞いては居られないでしょうからぁ~、今回だけは特別に話しましょう。はい』→ロイク≫」


 皆は、フゥファニー卿の次の言葉を待っている。のだが、そんな事などお構いなし、フゥファニー卿はレソンネで語り始めた。


 おっと、皆ごめんよ。


 フゥファニー卿の沈黙は、皆に無駄な緊張感を与えてしまっている様だ。静まり返った謁見の間にこの張り詰めた空気は精神的にも肉体的にも絶対に良く無い。


「≪『ガリバー卿は...... ......マリレナ殿は...... ......バジリア殿...... ......メリア殿は...... ......バルサ殿は...... ......カトリーヌ殿は...... ......アリス殿は...... ......テレーズ殿は...... ......サラ殿は...... ......です。マルアスピー殿、トゥーシェ殿、リュシル殿には、メア王国の王妃ミネルヴァ・ボナ・サザーランドを優先...... ......パフ殿とアル殿には、一足先に愛と憎しみの館に...... ......塔の現状把握を優先...... ......サンドラ殿には、ゼルフォーラ王国へ。エルネスティーネ殿には、ララコバイア王国へ。ミュー殿には、ドラゴラルシム王国へ...... ......午後一のサミットを円滑に進める為事前の夢に捕捉をお願いしてありますですぞぉ~。はい』→ロイク≫」


 やば、最初の方ちゃんと聞いて無かった。えっと、整理が追い付かない。ようは・・・皆総出で何かやってるって事かな?


「≪『愛憎の神殿とサミットと他にも色々と気になる言葉が目白押しなんですが、どう言う事ですか?』→chefアランギー様≫」


「≪『なお、玉座は、赤紫、赤、赤橙、黄橙、黄、黄緑、緑、深緑、青緑、青、青紫、紫。全十二色ですぞぉ~。詳しくはマリレナ殿に聞くが宜しいかと。はい』→ロイク≫」


 俺の質問スルーされたし。しかもスルーした挙句、マリレナさんに聞けって・・・。パープルとか凄い気に成るし、聞きますけど。・・・何か違う。何か。



「諸君、分け合って公僕最優先公務を免除した者がいますが気にせずに話を進めますぞぉ~。本日は、我が国にとって記念すべき一日となるでしょう。それでは」


≪パンパ~ン


 中段上手側に立つフゥファニー卿は、下段に向かっていつもの口調で話し、そして手を叩く。


 すると、俺が座る玉座の隣、下手側に重厚感漂うモダンな椅子が二脚現れた。


「諸君、異界の地メアを治めるメア王国の国王とその貴妃に最敬礼を」


≪メア王国?聞いた事が無いぞ?ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ...... ......異界?


 誰も知らなくて当然。いきなり言われても困りますよね?


 謁見の間の正面扉が開くと、メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドと知らな女性の姿がそこにはあった。


 あれ?王妃様じゃなくて、きひ?って言った?



 玉座の横に置かれた椅子に腰掛けている個性的な装いが怪しいメア王国の王とスプリンググリーン色を基調とした清楚で落ち着いたドレス姿の美しい女性と、玉座に座る見すぼらしい俺。


「古の世界の王よ。まだ終わらぬのか?」


 メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドに話し掛けれ、声が下段に聞こえない様に小さな声で仕方なく返答する。


「みたいです」


「ねぇ~サァーザちゃん。ウチまだここに居なきゃダメなのぉ~?」


「うんゴメンねベッキーちゃ~ん。とっても怖い古の世界の王がねぇ~、逆らったらベッキーちゃ~んから殺しちゃうぞって笑いながら言うのぉ~。信じられないよねぇ~。いざとなったら儂が絶対にベッキーちゃ~んを守るよ。でもさぁ~儂って無駄な殺生を嫌うタイプの平和主義者じゃん。ちょっとだけちょっとだけで良いからさぁ~我慢してよぉ~。お・ね・が・い」


「え~~~どうしようかなぁ~。・・・分かったわサァーザちゃんの為にウチガンバちゃうねぇ~」


 何なんだこいつらは・・・。


「古の世界の王よ。ベッキーに免じ暫しこの場に居る事とする。が、時差のせいか儂もベッキーも疲れておる故頼むぞ」


 ・・・俺に話す時だけ尊大に振舞ってるけど無理あり過ぎますよ。



 メアの二人じゃないが長い。いったいいつになったら終わるんだ?


「陛下!」

「おやおや、上に立つ者が率先して陛下にルールを破らせようとするとは、身も蓋もありませんなぁ~。はい」


 紛糾する中段を眺めていると、ハイヴァン様式を強く支持した一人ダダ卿が痺れを切らし話掛けて来たが、フゥファニー卿は言葉を被せそれを許さない。


「フゥファニー卿・・・ですが・・・ぁ・・・」


 ダダ卿は、フゥファニー卿へと向き直り、言葉を発するが直ぐに口籠ってしまった。


「ふむ。確かにですがぁ~ですな。全くと言って良い程に話が進んでいないのも事実。緊急召集されたは良いが最優先公務は掴みどころ一つ無い異界について聞かされる事。義務ある公僕として召集されたとはいえ確かに酷ではありますなぁ~。はい」


 フゥファニー卿は下段に向かって強い口調で捲し上げる様に言い放った。


 話を面倒な物にしているのは、フゥファニー卿。貴方ですけどね。


 溜息と共にフゥファニー卿へと視線を向ける。


「畏まりました」


 え、何が?


 下段の方を向いていたはずのフゥファニー卿は、瞬時に俺の視線に気が付き、何かを汲み取ったらしく小さく頷いた。


「昨日陛下は、フォルヘルル島の三つの枯れ井戸の調査にあたった井戸チームの報告を受け、ロザリークロード女史、フォルティーナ王妃殿下、トゥーシェ王妃殿下、リュシル王妃殿下、エリウス卿と共に闇の迷宮の調査に向かわれました」


 えっ、どうして最初から?


「その件は先程お聞きしました。私が聞きたいのは、経緯もそうですが、メア王国、メア下界についての詳細です。経済通貨同盟然り文化技術交流然り我々はいったいどの様な存在と何をしようとしているのですか?」


 ダダ卿は、謁見の間に召集された皆を代表し、フゥファニー卿と言う名の暖簾を必死に腕押ししていた。


「なるほどなるほどなぁ~るほど。分かりました。全てを教え聞かせる事は出来ませんが、見る分には構わないでしょう。はい。・・・それでは」


≪パンパン!


 フゥファニー卿が手を叩くと、謁見の間に召集された皆が一瞬で眠りに落ちた。


「な、なんじゃこりゃぁ~。い、古の世界の王よ。な、何が起こったのだ」


「サァ~ザちゃん。ウチ怖いぃ~」


「大丈夫だからねぇ~。儂が守ってあげるからねぇ~。ベッキーちゃ~んは何も心配しなくて良いからねぇ~」


 ・・・こいつら。


「陛下。それにメアの王とその貴妃。ご安心くだされ、彼等は夢を見ているだけですぞぉ~。話聞かせ理解が及ばぬのであれば見た方が早いですからなぁ~。はい」


 召集とか要らなかったんじゃ。初めからパンパンとかパチンっていつもみたいに自由に強制的に解決しちゃえば良かったんじゃ。


・・・・・・・・・・


・・・・・・・


・・・・



―――アシュランス王国・王都スカーレット

  グランディール城・国賓歓迎応接室

R4075年09月17日(邪)10:58――― 


「ズズズズズズゥ~」


 やる気の無い疲れた俺は、柔らかなソファーに腰掛け専用の湯飲み茶碗で神茶(しんちゃ)を啜っていた。


「まぁ~下品」


「ホントだよねベッキーちゃ~ん。ありえないよねぇ~。・・・・・・古の世界の王よ。儂のベッキーの前で下劣極まる下品な行動は慎んで貰う。目が腐る」


 何なんだこいつ等は・・・。


「おやおやおやおや、メアの王ともあろう者が茶のルールも知らぬとは嘆かわしいですな。はい。所詮は半魔半神の未神(みかみ)ですな。良いですかなぁ~。今パトロン殿が飲んでいる神茶は数多の世界に存在するティー()の香り部門キングオブキング頂点に君臨する茶なのですぞぉ~。無味の神茶を楽しむ正しい作法所作は音を出し転がしエレガントな香りを口と鼻で楽しむ事なのです。今日は特別に未神と連れの貴女に提供しましょう。目一杯音を鳴らしていただきますぞぉ~。はい」


「ふむ。・・・・・・ベッキーちゃ~ん。昨日神様って絶対神様だけじゃなくて沢山いるって言ったでしょうぉ~。その沢山いる神様の一人がねぇ~。卑猥な音を出してテー()を飲みなさいだってさぁ~。儂も頑張るから二人で頑張ろうぉ~?」


「え~~~どうしようかなぁ~。・・・分かったわサァーザちゃんの為にウチガンバちゃうねぇ~」



―――アシュランス王国・王都スカーレット

   グランディール城・国王執務室

R4075年09月17日(邪)11:25―――


 昨日の今日で特に話す事の無い俺は神茶を啜りながら、個性的な装いの怪しい漢とその怪しい漢の貴妃らしいベッキーと言う名前らしい女性の、言語中枢に支障をきたしたと思われる奇妙奇天烈なセッションを観賞。


 挨拶も碌にしないまま公務を理由に逃げる様に執務室へと戻った。


「パトロン殿よ。メア王国の件ですが、昨晩の内に連合国家フィリー主要国の首脳陣には夢で説明済ですぞ」


 へぇ~、そっちは夢で済ませてたんですね。


「神託って便利ですよね」


「厳密には神託ではなく啓示なのですが混乱を避ける為神託として情報を開示したのですぞぉ~。はい」


「家も召集令とかじゃなくて啓示にしておけば早かったんじゃ」


「主要国の首脳陣に夢を見せたのは、連合国家フィリープラスワン第一回サミットを安全安心のここグランディール城で今日の午後一に開催するからですぞぉ~。パトロン殿はメア王国の兄国アシュランス王国の国王です。国家間の調整はこちらに任せ、適当に談笑し茶を飲み親睦を深めてくだされ。はい」


 ん?


「サミットって首脳会議の事だったんですね。で、サミットを家で開くってどう言う事ですか?兄国っていったい何ですか?」


「兄国とは、人間で例える所の兄で年上の男の兄弟の事ですぞぉ~」


「それは分かります」


「ふむふむとどのつまり。アシュランス王国はメア王国の兄国となり、メア王国はアシュランス王国の弟国になったという訳です。はい」


「いつですか?」


「朝のティータイムを涙片手に抜け出し、メア王国へと赴きました」


 は?


「メアは短い日中があるだけで真夜中が長い世界。私が赴いた際は真夜中の深夜でした。就寝中に申し訳無いとも思いましたが、フォルティーナ様の指示に逆らえる訳も無く。私は礼拝堂から寝室へと移動しました。すると、メアの国王はベッドで激しい運動の真っ最中。この時ばかりは日頃の行いに感謝しました。起こす手間が省けたのですから。運が良かったです」


 は、はぁ~・・・。


「おぉ勘違は宜しくありませんですぞぉ~。神も精霊も人間も清潔が一番。きちんとシャワーを浴びさせ着替えさせてから連れて来ましたぞぉ~。はい」


 勘違いって何を?


「続けてください」


「古来より女性には男性よりも時間が必要です。時間を有意義に活用するべくメア王国の王家ボナ・サザーランド家とアシュランス王国の王家ルーリン・シャレット家の間に家訓を設けました」


「はっ?家訓?」


「その通りですぞぉ~。家訓です」


「当事者だと思う俺がその家訓を何も知らないんですが問題じゃないですかね?」


「そうですな。今回の家訓に関して言えば、問題にはならないでしょうなぁ~。はい」


 ・・・問題にならないのか。


「何故に?」


「王家間の家訓として設けましたが、ボナ・サザーランド家にとっては規律、ルーリン・シャレット家にとっては常識当たり前の事項ばかり。パトロン殿は知らずとも問題に成り得ません」


 ふ~ん。


「一応、内容を聞いておきますね」


「はい。それでは僭越ながら、・・・ボナ・サザーランド王家=ルーリン・シャレット王家処世の為の家訓。

一つ、ルーリン・シャレット王家を兄としボナ・サザーランド王家を弟とする。

一つ、兄のルールは弟のルール。

一つ、兄は大幅な自治を弟に認める。

一つ、弟は兄の戒飭を真摯に受け止める。

一つ、兄は弟の進言を真摯に受け止める。

一つ、...... ......一つ、兄はゲートを管理する。一つ・・・」


「いったい幾つあるんですか?」


「百八の家訓ですので、そのまま百八個ありますぞぉ~」


 ・・・なげぇ~。


「残りは今度にします」


「問題ありませんですぞぉ~。はい」



 chefアランギー様プレゼンツ、メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドのアシュランス王国親善友好訪問劇の黒幕はフォルティーナだった。


 昨晩、直談判しに神界へと戻る直前のフォルティーナにchefアランギー様は捕まり、半ば無理矢理に今日のプレゼンツを押し付けられたそうだ。

ありがとうございました。

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