4-73 ティータイム。
―――アシュランス王国・王都スカーレット
エルドラドブランシュ宮殿・朝食の間
R4075年09月17日(邪)08:30―――
chefアランギー様と妖精のおしごとが織り成す恐悦至極のプティデジュネをのんびりと優雅に楽しんだ後は、ティータイム、談笑しながら茶を楽しむ憩いの時間だ。
ティータイムに並ぶ菓子は、マルアスピーの工房ロイスピーお試しスイーツ、chefアランギー様とマルアスピーの工房ロイスピー探求お試しスイーツ、妖精のおしごとの芸術の域スイーツ。
飲み物は、chefアランギー様がアルコール以外ならある程度要望に応えてくれる。俺がタブレットから神茶を取り出し提供する事も多い。
そう。家の朝のティータイムは、世界の中心と言っても過言ではないのだ。
飛び交う世界各地の裏情報、華やぐ優美な菓子。
グリーズのセルヴォーを刺激する取り留めも無い無駄話、アルジャンのクヴェールからあれよあれよという間に口の中いっぱいに頬張られ消える菓子。
chefアランギー様曰く「情報と菓子を制する者は世界を制す。情報と菓子を制する者が住まう地。その地こそ世界の中心であぁ~る。はい」
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俺は神茶を楽しみながら、昨日の夜、就寝前にベッドで横になりながらマルアスピーと話した精霊界について考えていた。
・・・のだが。
いつもの様にいつもが如く邪魔が入り、脱線。
絶賛振り回されの真っ最中である。
「ねぇねぇトゥーシェちゃんリュシルちゃん。いつも朝食の後はこんな感じなのかしら?」
「そうなのじゃぁ~」
「旦那様は家族との時間を大切にしておる故、食後はいつもこの様に楽しく賑やかで和気藹々としておる」
「良いわぁ~、理想的よねぇ~、団欒。憩いの空間。美味しいスイーツが必ずあるのよね♪?」
「そうなのじゃぁ~。私の二番目が世界の一番目なのじゃ~」
「・・・そうなのねぇ~凄いわぁ~♪・・・あっ、これもとっても美味しいわ♪うわぁ~♪これも。これも!これも♪・・・ふわぁ~~~!!精霊様はスイーツの神様だったのね」
話が噛み合ってないし・・・。トゥーシェさんや、今はスイーツの売れ行きベストツーの話してませんよぉ~。
「ミネルヴァ。それは違うわ。神気は持っているのだけれど私は神では無いわ。大樹の森の聖域の精霊樹に宿りし精霊。残念なのだけれど大精霊から上位進化した助手精霊よ」
あ、あぁ、うん。いつも通りだ。こっちも微妙に話が通じてないや。褒められてるのにねぇ~、マルアスピーらしくて良いけどさぁ~。
「精霊様ってお呼びした方が良いのかしら?それとも、マルアスピーちゃんって呼んだ方が良いのかしら?」
「私だと分かる呼び方なら何でも構わないわ」
「それなら、トゥーシェちゃんとリュシルちゃんの間を取って、マルアスピーちゃんって呼ぶわね。あっ!ちょっと長くて疲れるからアスピーちゃんって呼ぶ事にするわ。宜しくねアスピーちゃん。私の事は、お姉さんって呼んでね」
・・・間を取ってマルアスピーちゃん?何の間を取ったんだ?・・・長くて疲れるからアスピーちゃん?マルの二文字が消えただけで楽になれるのか?・・・お姉さんって呼んでね。って、流石に無理がありますよね。ミネルヴァ王妃。
「おっ、そっか。姉さんって呼べば良いんだな!任せとけぇっ!俺のこたぁーバイルって呼んでくれぇっ」
ティータイムに合流した父バイルと母メアリ―。父バイルは朝から元気いっぱいバイタリティーに溢れ、ミネルヴァ王妃の豊かな夢と希望を男の浪漫を真顔でガン見しながら威勢良くハキハキと返事をしている。
「アナタ」
「あっイテテテテテ、何だよぉー。減るもんじゃあるめぇーしよぉー。じっくり見るくれぇー別にいいだろがよぉー」
母さんにつねられたな親父。・・・相変わらずで安心するよ。まったく。
「ふむ」
ミネルヴァ王妃は、柔らかな微笑みを浮かべながらも鋭い視線で父バイルを詮索している。
そう言えば、母さん達の紹介まだだったな。
「「ミネルヴァ王妃様」」
あ!?
慌てて母メアリ―へと視線を動かす。母メアリーは小さく頷くと。
「御挨拶が...... ......ロイクの母のメアリーと申します。ほらアナタも...... ......最初の挨拶くらいはきちんとしてください」
「お、おうよぉっ」
「貴女が、ロイクさんの母君殿・・・ですか?・・・・・・確かに面影は・・・」
ミネルヴァ王妃様は納得のいかない表情を浮かべ、母メアリ―と俺を見比べては、小さな声で呟いていた。
あれれ、どうしたんだろう?
「姉さん。この部屋を探しても無駄だぞぉっ!この部屋にトイレはねぇー」
「と、トイレですか?」
ブッ!!!?・・・お、親父おま、おま、お前何いきなりトイレとか言ってんだよ。
「アナタ!突然何を言い出」
「あん?違ったかぁっ!んならまぁー良いやっ。おっす、オラ、バイル。宜しくなぁっ!こぉー見えてピッチピッチの独身だっ!ハッハッハッハハァ~?おっおいこらっ、ふ、普通ここは笑うとこだろうぉっ!無視すんなよお前等っ!これじゃまるで俺がイテェー男に見えちまうだろうがぁっ!!!どうしてんくれんだよぉー」
こいつは毎度毎度いったい何をしたい。いつも通り普通にイタい感じが冴え渡っている様で何よりなんだが。
「あらあらあらあら、ロイクさんのテテ親殿はユーモラスでお茶目な男の様ですね。それにしても不思議ですわぁ~。古の世界のユマンなる人間は十六歳で成人し子を成すのですよね?」
「あん?古のマンだぁー。・・・あっ!ユマンかぁっ!」
「はい。ユマンです」
「十六で成人ちゃー成人なんだがよぉー。結構複雑な事情があんだよぉー」
複雑な事情?そんな物あったっけ?
「古の世界にも過酷な成人の儀式があるのですね」
「あぁ」
親父・・・頷くのは自由だけど。この流れ理解してるんだよな?
「・・・そう簡単に教えてはいただけないと言う事ですね」
「んあ?」
「私の瞳は魔眼と言って精気ある者を視通す力があるります。男よりに特化した力ではありますが、女の能力を視通す事も難しくはありません」
「いってぇー、何が言いてぇー」
「御二人は、ロイクさんの母君殿とテテ親殿で間違い無い様なのですが、おかしいのです」
「お、おかしいだぁー?お、俺の何処がおかしいって言うんだよぉ!はっきり言ってみやがれおい、おいこらぁっ!!」
何処?って、誰が見たって、普通に全体的にだろう・・・。
「年齢ですね」
年齢?あぁなるほどね年齢ね。確かにおかしいわ。
「母君殿よ。その通りです。過酷な成人の儀式をゲラーデで通過したとしても古の世界では十六歳なのですよね?」
「ヒューム属ユマン種ユマン族の成人は十六歳で間違いありません」
俺は、・・・俺の成人は二十四歳でしたけどね・・・。あぁ~、大人になれて良かったです。大人になるって素晴らしいですっ!!!マルアスピー、ありがとうぉ~!
「ロイクさんは二十四歳なのですよね。心躍る過ち故に十六歳で産んだとして、母君殿の年齢は四十歳」
「あぁーそっちねっ!そっちかよぉー、チッ、やられちまったぜぇー。てっきりトイレだとばかり・・・あぁーまぁーあれだっあれっ!」
親父の中ではトイレの話が続いてたのね。・・・うん、そっか。・・・だよな。
「俺とメアリーはぁー色々あってよぉーこんな感じな訳よぉー。まぁーここは一つこんな感じで宜しく頼むわぁっ!姉さん!!!」
全く説明になってないし。
「バイルはいつも面白くないのじゃぁ~。スベってばかりなのじゃぁ~。おババ王は気を付けた方が良いのじゃぁ~」
「おいこらガキんちょぉー!人が珍しく真面目な話してっ時になぁーに言ってくれてんのよぉー。くすぐんぞぉ―――!いいのかぁーおぉーいあーん」
父バイルは舌を出しながら、両手の指を表現し難い怪しさで動かしている。
アホだ。アホにしか見えない。
「・・・気を付けた方が良さそうですね」
「そうなのじゃぁ~。バイルはオープンホーニィエロエロなのじゃぁ~」
「!エロエロとな!!!・・・エロ、若く新鮮な男は良いのぉ~。ゾクゾクするのぉ~。甘美な男とスイーツの盛り合わせ。あぁ~イイ、考えただけで」
「オホン。ああ~奥様。ここはメアではございません。効果を考えますに少々控え目になされた方が宜しいかと」
え?
「そ、そうでしたね。古の世界の女はメア程煽情的ではないのでしたね。ユマンと言う人間の男は清楚華憐で初心な女のフリをし攻め立てた方が興奮しそそるのでしたね」
「左様でございます」
えっ!?うぇええぇぇぇ、って!!!
「トラヤヌスさん!」
「おはようございます。ロイク国王陛下。如何なさいましたか?優雅なティータイムに発声練習でございますか?」
「い、如何って・・・着いて来ちゃってたんですか?」
「私めは、ボナ・サザーランド家の家令でございます。奥様とお嬢様あるところトラヤヌスありと申します様に、メアの常識にございます」
トゥーシェとリュシルは前から家に居るけど、トラヤヌスさん・・・家に居ませんでしたよね?
ボナ・サザーランド家の家令なんですよね?家主を放置して来ちゃまずいんじゃ?
「御安心くださいませ。ボナ・サザーランド家には、私めを筆頭に百十一人の非常に優秀な家令執事が控えてございます」
おっと、心を読まれた?
「百十一人もですか、普通に凄いですね」
「それにでございます。私達家令執事は旦那様の子守をする為に仕えている訳ではございません」
「へぇ~、そうなんですね」
「ボナ・サザーランド家の非常に優秀な家令執事は、メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランド陛下の影。従者であり盾であり耳でございます」
「旦那様よ。盾とは護衛、耳とは諜報、従者とは付き人の事。故に爺やは」
「なぁ~爺や聞いた事がないのじゃぁ~。爺やはメアの影なのじゃぁ~。私の周りを目障りなくらいウロチョロしてたのは子供の頃までだったのじゃぁ~」
目障り。って、トゥーシェさんやもう少し言葉を選びましょうよ・・・。それとリュシルさんや。流石に従者くらいは俺でも分かりますよぉ~。
「おおぉぉ、爺やは嬉しゅうございます」
う、嬉しいの!?えっと、そう~なんだ。
「一家令に過ぎぬ私めの二つ名を、おいおいおいおいおい」
あぁ~、トゥーシェに気を遣ったのか。
「旦那様よ。爺やの二つ名は正確に言うと、メアの影では無く王の影じゃ。ボナ・サザーランド家の家令執事は国王直属の諜報機関『シャッテン』のハイパーエージェント。爺やはシャッテンのナンバーワンじゃ」
へぇ~。
「そうなんですね」
「トゥーシェは幼き頃の妾が間違って覚えた記憶で話しておる故、優しく聞き流して貰えると嬉しいのだが良いであろうか?」
なるほどぉ~。
「えぇ」
王の影か。
「あらあらぁ~リュシルちゃんたら朝からお熱いのねぇ~。とっても羨ましいわぁ~」
どう見ても話をしてただけにしか見えないですよね。ミネルヴァ王妃。
「因みにだけどぉ~。お姉さんはねぇ~。メアのお姉さんって二つ名で呼ばれてるのよぉ~。凄いでしょう。皆のお姉さんなのよぉ~。エッヘン」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
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神様の力。時間の理。理外の民。俺の家族眷属隷属。他色々と、ざっくりと簡単に説明しティータイムは終了した。
「あれ、フォルティーナは?」
「今頃気が付いたのね?」
マルアスピーは、いつもの調子で教えてくれた。
俺以外の皆にはいつもの調子に見えるかもしれない。だが、俺には分かる。この表情は喜怒哀楽の楽だ。
「家って、居ても居なくても結構賑やかなんで。ハハハ」
「聞いたら数日間は後ろから着いて来られるわよ」
「それ、本気で勘弁して欲しいです。それで、フォルティーナは」
「神界よ」
「また何かやって創造神様に呼ばれたんですか!?」
「直談判で勝利を掴むね。って、温泉に浸かりながら教えてくれたわ。フフフ」
「へぇ~・・・勝利をですか」
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「二十日なのだけれど、ここに集合して皆で精霊界に行くのかしら?」
「皆の都合の良い方で良いんじゃないかな。ドゥ―ミナ様は精霊界に居るんですよね?」
「えぇ」
「ロロノクック様の方はどんな感じなんですか?」
「そうねぇ~・・・最悪強制召喚かもしれないわ」
無理矢理って事ですね。
「マルアスピーのお父さんって」
≪スゥ―
「おんや。パトロン殿よ。おっと、これは失敬。失礼致しました。陛下。政務のお時間でございますぞぉ~」
「のわぁっ!!!いきなり後ろから話し掛けないでください。それに近い。近過ぎますからぁ~」
「マルアスピー王妃」
「なにかしら、アランギー」
「ヘソを曲げ不貞寝を続ける短小なる存在に良く効く香は必要ありませんかな。はい」
「・・・そうね。母には必要ね」
「ふむふむ。然らば」
≪パンパ~ン
何も起きないぞ?
「王妃と陛下の共有スペースに収納済ですぞぉ~。用法用量をお確かめの上御利用は計画的に。然もなくばギンギンギラギラお目目がパチクリエキサイティングエキサイティングフィーバーフォゥーッ大事に成らぬ様お気を付けくだされ。はい」
嫌な予感しかしない。
「マルアスピー。・・・ミト様に渡すの止めた方が」
「奇遇ね。私もロイクと同じ考えよ」
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「それでは今日も一日元気に政務を頑張りましょう」
≪パンパ~ン
ありがとうございました。