4-70 対峙③
事の経緯は後で説明しようと思う。俺は今、ジブリール城の地下円形闘技場その名も『王立ブルートフェストアリーナ』の舞台の中央付近に立ち、二千メートルの距離を隔てメア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドと対峙している。
円形闘技場の舞台の大きさは、半径二千八百メートル。収容人数不明。
地下三階にも関わらず、天井は存在せず大空が広がっている。魔術か魔導具或いは俺の知らない方法で疑似的な空を作り上げているのだろう。
舞台には、小規模な草木、土岩、川、池、森のエリアがあるようだ。
皆は何処だろう?
遠くに設置にされた観客席を見渡す。
俺の右方角にすると北側四千メートル地点の観客席に集まって座っていた。
トゥーシェとリュシルに、ここって見えるのか?
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「ヴィスズでありながら儂から逃げずにいた事は褒めてつかわそう。だがしかしだ。儂の可愛い孫娘をふ、ふ、二人も手籠めにしたその罪万死。せめてもの情けだ。三日三晩もがき苦しみこの世に生を受けし己を呪い死ぬ機会くらいはくれてやろうではないか。ヌォゥワァッハッハッハッハッハ」
メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドの声が地下三階に木霊する。
正面約二千メートルってところか。魔導具か何かで声を全体に響かせてるのか?
「それでは、親善親睦友好を記念し、古の世界を管理せしロイク国王陛下とメアを統べしサザーランド国王陛下による実戦さながらの演武を」
「参るっ!!!」
メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドの姿が正面二千メートル地点から消える。
え!?まだトラヤヌスさんの開始の合図が・・・
「はじ・・・・・・陛下・・・」
「見えまい。この儂の悲痛に満ちた心の叫びを理解しろとは言わぬ。儂の心の痛みを二倍・・・二十倍にして返してくれようぞ。ヌオワァッハッハッハッハッハ」
卑怯ってこういう時に使うと良いんだっけか。
「死にさらせぇ~~~~!!!!」
神気スキル【時空牢獄】...... ...... ≫
≪・・・・・・
(時空牢獄の壁に衝撃を与えても音は鳴らい)
「な、何だこれは!?・・・見えない壁?」
メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドが地面に着地した瞬間を狙い、彼を中心に半径五メートルで時空牢獄を展開したのは良いが、ここからどうしよう。
「ふん。儂を見くびるでないぞ。この程度の壁、悪気我が求めに応じ...... ......邪には邪を闇には闇を無より来たりし聖なる...... ......終焉を解き放て」
ま・じ・で・す・か。
「ちょ、ちょっと待ったぁ~。そ、その中でそんな」
「聖属性究極魔術【ツェアファルラディーレンエルプズュンデロイデ】」
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闘技場から戻り、質疑応答を再開した。
「すると何か。トゥーシェは神の罰で古の世界の王の伴侶になったと申すのか。伴侶になる事が罰であってたまるかぁっ!!!」
木炭の燃えカスの様に白く変わり果て、絶命寸前のところをギリギリで救助し、全力に近いレベルで治癒魔法を施したのが十ラフン前。・・・どうしてこんなに元気なんだ?・・・どうしてまたこの話題なんだ?
「御祖父様は戦敗側に命じ、側室や愛妾、女子の奴隷を侍らせておるではないか。勅令で他人の妻を奪い娶った事もあったと御祖母様より聞いておるが、妾の気のせいか?」
「う、うぅ・・・儂はメアを統べし王であるからのぉ~。このメアに於いては法であり絶対なのじゃ」
「おジジ王。メアで絶対は絶対神ナナンフェルテリーナ様だけなのじゃぁ~。長生きし過ぎて馬鹿になったのじゃぁ~おジジ王が馬鹿になったのじゃぁ~」
「トゥ、トゥーシェ・・・わ儂は絶対神様の御意向に背いた事は一度も無い。全ては絶対神様の御意向に従い行った事ぞ」
うそくせぇ~。
「うんうんだね。御意向でも御意思でもゴミ虫でも何でも良いね。つまりだね。ナナンよりも偉いあたしよりもちょっとだけ偉い創造神が勝手に決めた婚姻は絶対だね。あたしとしては、当事者の立場での称号が理想だったね」
「女神フォルティーナ様。もう少し分かり易くお願いできませんでしょうか。有難い御言葉の意味が理解出来かねます」
意味が理解出来ていないのに有難い御言葉って流石に無理が・・・。
「要するにだね。あたしとしてはだね。嫁だ婿と言われるのは心外だね。女神と神二人の関係だね。妻と夫が正しいね。嫁だ婿だと宣うは二人以外の存在にのみ許された言葉だね。当事者の口からは聞きたくないね」
「は?はぁ~?・・・???」
えっと、フォルティーナが大人な対応で流した。・・・奇跡だ。けれど、良い話をしてるとは思うんだけど、今する話じゃないよな。これって・・・。
「遊びの女神も稀に良い事を申すではないか。夫に妻と呼ばれるは名誉であり、嫁と呼ばれるは不名誉。確かだ」
「邪神竜。お前も分かってくれるかね。そうだね他人に許された言葉を夫婦間で用いるとはけしからん事だね」
「その通りだ」
「今度神界に寄ったらだね。創造神に称号のやり直しを要求するね」
「ふむ。重要な事だ。我も戸籍の確認をせねばならん。称号には注意するとしよう」
「あぁ―――。女神フォルティーナ様。邪神竜ロザリークロード様。要するに儂は・・・」
「おっ、・・・忘れていたね。つまりだね。一応一番偉い神が公認したね。絶対神が決めた事よりも絶対だね。従うしかないね。全ての理よりも理だね。はい、分かったならそれで良いね」
そんなんで納得出来る人がいる訳無いと思うけど・・・。
「ですが。神によって無理矢理夫婦にされ自由を奪われる事の何処に正しさがあると」
「何を言ってるね。神は絶対だね。正しいね。サザーランド、お前には、妻が二百五十七人いるね」
「はい」
「子は九十一人いるね」
「は、はぁ・・・」
「おや、御祖父様よ。新たに二人の妻を娶ったのか?子も二人増えておるのぉ~。妾の従妹従弟も増えたのか?」
「おジジ王はまた女を腹ませたのじゃぁ~。メアの種馬王、絶倫王、性欲魔王、万歳なのじゃぁ~」
・・・絶対に言われたくない二つなばかりだな。ドリームは百人以上居るって教えて貰ったけど、この分だとかなり多そうだ。五百とか千とか居たりして。ハハハ。
「止めぬかトゥーシェ。照れるではないか。ガッハッハッハッハッハ」
「テレてるのじゃぁ~おジジ王がテレてるのじゃぁ~ギャッハッハッハッハッハ」
「「ヌゥワァッハッハッハッハッハ」」
国王プライベートリビングルームに、二人の笑い声が響き渡る。
≪パチン
フォルティーナのフィンガースナップの音が二人の笑い声を掻き消した。
「ギャッグギャァ―――――ァァァァァァァッァ」
「グゥガルルルルルルルルルルギャギャギャギャギャ」
「うるさいね」
「・・・フゥ~フゥ~はい・・・なのじゃぁ~」
「ハァ~ハァ~お、御赦しを・・・」
「まぁ~なんだね安心するね。サザーランド、お前はお前の意思で娶り手籠めにし続けて来たがだね。ロイクは創造神とあたしともう一人の神が公認した許嫁と嫁、妻しかいないね。それにだね。リュシルには神の罪は存在しないね。ほぼ自由恋愛に近い形で公認されたね」
「は?」
おっと、・・・自由恋愛って意味分かってて使ってますよね?
フォルティーナの無責任な発言に、慣れたつもりだったのだが、つい声に出してしまった。
「ほぉ~。妾と旦那様は大恋愛自由恋愛の末に夫婦となった間柄であったのか」
「そうだね」
そうだね。って、違うし。
「リュシルと、人、ロイクは恋愛結婚だったのじゃぁ~知らなかったのじゃぁ~」
「ふむ、妾も知らぬ事実であるが、なるほどのぉ~、そうであったか」
「ふと思ったのじゃが、トゥーシェは何をやって神の怒りを買ったのじゃ?」
「罪状は七つあるね」
「おおぉ!?・・・何か増えてるのじゃぁ~」
「だが安心するね。ロイクと夫婦である限り恩赦で無罪放免だね」
「それで、七つの罪状とはいったい?」
「創造神の仮住まい様の仮神殿を破壊した愚行の罪。ナナンの省みの生と死の神殿で飲食した与奪の罪。許可無く他下界へ渡航した暗躍の罪。許可無く保護者の物を飲食した窃盗の罪。許可無く保護者の下から姿を消した逃走の罪。保護者のペットを解き放ち下界を混乱させた騒乱の罪。保護者の言う事を聞かない我儘の罪だね」
後半は只の言掛りにしか聞こえないのだが・・・。
「トゥ、トゥーシェ・・・お前と言う奴は・・・・・・さ、さ、さ、流石は儂の孫じゃ。数年前に姿を眩ませたと思ったら古の世界で良くもまぁ~こんなにも面白そうな事を。儂にも一声掛けて欲しかったぞ」
「おうなのじゃぁ~。ギャッハッハッハッハ」
「罪は夫婦である以上無罪放免だね。分かったかね。サザーランド、ロイクはお前の可愛い孫娘を手籠めにはしたがだね」
「おい。手籠めとかって、してないし」
「良いからロイクは黙ってるね。分かってるね」
分かってるって・・・。
「手籠めにするしないはロイクの問題であたしやサザーランドが関与出来る問題ではないね。だからどうでも良いね。でだね。ロイクはお前の孫娘を罰から救い出した男だね。その方法は確かに人としてどうかとも思うね。思うかもしれないね。だがしかしだね。終わり良ければ全て良しと言うようにだね。トゥーシェは既に来たる日に備える為の重要な一人だね。分かるかね」
何言ってるんだこいつ?
「申し訳ございません。女神フォルティーナ様。儂にはいったい何の事やらサッパリ分かりません」
「そうかね。・・・この話はまた今度にするね。うんうんだね」
≪は?
フォルティーナ以外、皆の「は?」が綺麗に重なった。
Q2:先程見た嫁妻婿夫について話て貰えぬか?
A2:うんうんだね
「は?」
by.サザーランド・ボナ・サザーランド
+.その他大勢
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闘技場に移動する少し前。
「ほう。すると古の世界の王は、神の命に従い仕方なく儂の孫娘トゥーシェを娶り手籠めにしたと申す訳だな」
「そうじゃなくてですね。確かに創造神様からの神授はありましたが」
「確か。か・・・。はぁ~、なるほどのぉ~。良く分かった。古の世界の王よ貴様に罪状を申し渡す。・・・万死。血肉骨全て跡形も残さず消し去ってやりたいところではあるが、聞いた事も無い神の命に従い凌辱の限りを尽くしたとあっては酌量の余地が無いとも言えぬ故に、貴様には漢同士生死をかけたデュエルを受けて貰う。刑の執行は今より九分後だ。トラヤヌス」
「はっ!」
「儂は一足先に闘技場で待つことにする。罪人を連れて参れ」
「あ、あのぉ~。古の世界の王と本当に戦われるおつもりなのでしょうか?」
「くどいぞトラヤヌス」
くどいって、今初めて。それよりもデュエルって決闘の事だよな。サクッと情報を貰って帰るつもりだったのに、どうしてこうなった。
「旦那様よ。九分とは九ラフンの事じゃ。知っておったか?」
「ロイク。九ラフン後に死闘だね。楽しくなって来たね」
「おっ!?死闘なのじゃぁ~。おジジ王が処刑されるのじゃぁ~」
「我が使徒ロイクよ。良いのか?あれは殊の外軟弱だ。躾のつもりで叩いたがそれだけで死にかけおった。我が種族の端くれ達よりは幾分か丈夫ではあるようだが加減を忘れるでないぞ。頬に指でツンツン程度が理想だ」
「そんなに弱、・・・それ馬鹿にしてるって思われませんかね?」
「馬鹿を申すでないわ。お主の力でそれ以上はそれこそ木端微塵跡形も残らぬわ。お主は我と初めて出逢った頃よりも遥かに成長しておるのだ」
「分かりました。ばれない様に加減してみます」
「うむ」
「主殿よ。主殿に代わり私が」
「エリウス。嬉しんだけど。あの未神を相手にするとなると神のはずのエリウスでも無理があるかな」
「そこまでの御仁でしたか。メアの王は」
「エリウスも精進していればその内強くなりますよ」
「はっ!・・・」
「どうかしましたか?」
「主殿は、その、メアの王に指ツンツンなのですよね?」
「みたいですね」
「・・・このエリウス。粉骨砕身日々努力を忘れず、必ずやメアの王以上の高見へと到達してみせましょう」
「・・・聖馬お主は馬鹿か。あの程度を超えたところで何とする。神気を持たぬ未神に勝るは神の必然だ。お主がやらねばならぬ事は一つだ。我が使徒ロイクの言葉を確実に実行する力を持つ事だ」
「か、畏まりました。このエリウ」
≪パンパンパン
「は~い。それでは移動しますだね。場所はここの上であってるかね」
「はい。女神フォルティーナ様」
「分かったね。人を待たせるのはあたしの美学に反するね。女が男を待たせる時代は終わったね。それでは行くとするかね」
≪パチン
ありがとうございました。