4-68 対峙①
祖父と孫娘。六十万年強越しの再会に、感動の瞬間が訪れる事は無かった。
「ゴホン。それでは旦那様、不肖ながら私トラヤヌス・ド・モルダヴィア。御客様方の紹介をさせていただきます」
「トゥ、トゥーシェの話がまだすん」
「御紹介致します。旦那様より向かいましてロングロングソファーの一番左側に腰掛けておられます御方は、リュシルお嬢様でございます」
トラヤヌスさんは、メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドを無視して俺達の紹介を始めた。
「儂の孫娘トゥーシェと瓜二つのこ、この」
「リュシルお嬢様の右隣りに腰掛けておられます御方は、トゥーシェお嬢様でございます」
「トラヤヌス。答えよ」
「畏まりました。それでは続けさせていただきます。トゥーシェお嬢様の右隣りに腰掛けておられます御方は、我等が絶対神ナナンフェルテリーナ様の同輩神運を司りし良妻の女神フォルティーナ様でございます」
「同輩神だと。何を申しておるのだ。神は絶対神ナナンフェルテリーナ様のみ。忘れた訳ではあるまい。神や女が」
「女神フォルティーナ様の右隣りに腰掛けておられます御方は、古の世界を管理されしロイク国王陛下でございます」
「い、い、い古の世界をじゃとぉぉぉ!?」
「ロイク国王陛下の右隣りに腰掛けておられます御方は、邪竜神ロザリークロード様でございます」
「我は神竜。邪を司りし生と死の女神ナナンフェルテリーナ様が眷属神神獣神竜。邪を司りし神竜。邪神竜ロザリークロードだ。竜神如き三下と一緒にするでないわ。それにだ。そこの女神は、遊びの女神だ」
「も、申し訳ございませんでした。・・・御紹介致します。ロイク国王陛下の右隣りに腰掛けておられます御方は、邪神竜ロザリークロード様でございます」
「よ、よ、よ、幼女!?で、で、ででででで出たぁぁぁぁ―――――よよよよよよよよ幼女幼女幼女が出たぁ――――――!!!!!」
「邪神竜ロザリークロード様の右隣りに腰掛けておられます御方は、聖馬神エリウス様でございます」
「ゆ、ゆ、ゆゆゆゆゆ夢がまさまさまさ」
「部屋の外のモーヴェドラゴンは、ウェードカルンドーナのリッターとサブリッターとの事です」
「ぬわぁぁぁぁぁ―――――あ、あ、あ、あくあく悪夢が現実・・・・・・トカゲがこの城に何故おるのだ?」
切り返し早っ。
「それはさておき、旦那様。先程も申し上げましたが、リュシルお嬢様はもう一人のトゥーシェお嬢様でございます。トゥーシェお嬢様はとある事情で」
「ふ、ふむ。そ、それもそうなのじゃが、神いや悪夢いやいやいやトカゲいやトゥーシェの方が大事じゃ。いやいやいやいやいやいや神は世界がひっくり返る事態ぃ―――いやちょっと待て待て待て待て待て古の世界の王古の世界の王とはあの古の世界の王。き、き、き、来たる日がつ、つ、つ、ついにき、来てしまったと・・・言うのか」
「旦那様。説明の途中にございます。トゥーシェお嬢様を前に興奮を抑えられぬお気持ちはお察し致しますが、稚拙であり見苦しくもあり大変いとうございます」
「うんうんだね」
おいこら、そこ肯定しちゃまずいだろう。何となくやんわり否定してくださいよ。
「サザーランド。お前に確認したい事があるね。ここメア下界はナナンが創造した世界だね。何故だね。何故邪ではなく闇が広がっているね」
えっと、何が起こったんだ。
フォルティーナは、トラヤヌスさんの言葉を肯定すると、トラヤヌスさんとメア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドの会話を遮り、自由気ままに話し始めた。
いつもと感じが違うぞ。いったいどうしたんだ。変な物でも食べたとか?
フォルティーナの様子がいつもと違う。いつも通り自由である事に変わりはないのだが、何だかちょっとだけ声がほんの少しだけ表情が真面目な気がする。
「答えるね」
「き、貴様ぁぁぁ―――。儂をメアの王サザーランド・ボナ・サザーランドの名を呼び捨て」
メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドは、一人掛け用のソファーから勢い良く立ち上がると、声を荒げフォルティーナを指差した。
≪パチン
フォルティーナのフィンガースナップの音が部屋に響く。
「ギャッ、あ?私じゃないのじゃぁ~。良かったのじゃ~」
「にすグゥギャァギャァギャァギャァギャァグゲェアァァァァァァ―――――ガハァッ」
勢い良く立ち上がったばかりのメア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドは、フィンガースナップの音が響くと同時に、一人掛け用のソファーの上に猛烈な勢いで倒れ込みジタバタともがき苦しみのたうち回る。
トゥーシェの声が聞こえたので、トゥーシェを一瞬だけ確認する。
我関せず。のたうち回る祖父でメア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドを視界に入れない様に俯きながら黙々とモグモグと工房ロイスピーの菓子を頬ぼっていた。
トゥーシェ・・・。指パチンの音に身体が反応し声が出てしまったのだろう。自業自得なところもあるけどさすがに可哀想だ。
「アガガガガガガガガ」
「おジジ王。うるさいのじゃぁ~」
「ガァルルルルルギャギャギャアガァ」
うる、うるさいって。鬼ですか。・・・前言撤回、自業自得です。ちっとも可哀想じゃないです。
「グゥギャギャギャギャウガハァッ」
「うるさいね」
≪パチン
「アヴェババババババビィブベボォッブルルルルルルルアンガァァァァァァ」
こいつは女神なんだよな?・・・悪魔とかその類の何かの間違いじゃないんだよな。
「さぁ~答えるね。今だね」
「フォルティーナ。や、やり過ぎです。それ以上やったら死んじゃいま・・・」
「ハァ~、ハァ~、ハァ~、ハァ~、今のはいったい。ハァ~、ハァ~」
「あ、へ?大丈夫そう・・・ですね」
そう言えば、ロザリークロード様の攻撃を受けたのに、意識を失っただけでピンピンしてる。
「安心するね。この程度でどうにかなってしまう存在では無いね」
ステータスを視る限りそこまで高くない。いや、かなり高い方だけど、丈夫って程じゃない。
「ち・・・違うな」
メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドは、鋭い視線を流れる様に動かしエリウスそして俺を睨み付け呟いた。
「さぁ~今だね答えるね。闇が広がっているのは何故だね」
「今のは貴様・・・貴女がやったのか!」
メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドは、ファルティーナの夢と希望を漢の浪漫を鋭い視線で刺す様に睨み付け、唸る様に言い張った。
「そんな事はどうでも良いね。お前はあたしに答えるだけで良いね」
「こ、この儂から一瞬で自由を奪い。体全身に痛みを走らせ思考を奪うか。フワァッハッハッハッハッハッハ。そんな女がこのメアにまだ居ようとは。ハッハッハッハッハ」
「何を笑ってるね」
≪パチン
「ハグワガァガガガガガルルルルルゥグヴァアッハァッ」
「おジジ王。ビリビリは痛いのじゃぁ~」
「さっさと答えるね」
「トゥ、トゥーシェ!?ま、まさかお前はこの者達に」
「あたしが話してるね」
≪パチン
「グゥガガガガガガガガガガガガァ―――グゲガァ~・・・・・・」
「トゥーシェは後で問題ないね」
「そう、そうなのじゃぁ~。私はおジジ王に用事はないのじゃぁ~。静かにお菓子を食べてる・・・の・・・」
トゥーシェは語尾を濁し言葉途中で視線を逸らすと、モグモグと菓子を食べ始めた。
リュシルとロザリークロード様は、我関せず騒がしさなどお構いなしな感じで、飲み物を楽しんでいた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
・
「数億年前からとはどういう事だね」
「それが、分からぬのだ」
「分からないとは何だね。サザーランド、お前は始まりに近い頃からメア下界に存在してるね。ほぼ全てを見て来たのではないのかね」
あの、あのフォルティーナが真面目な話を真面目に続けてる。
「な、な!?。何処でその事を」
何処でって。メアを統べし始まりの王って名乗り続けてる訳ですよね。たぶん皆知ってるじゃ。
「お前は、トゥーシェ以上の愚か者かね。ハァ~。良いかね。メア下界は十三億一千六百六十五万九千四百六十六年前、ナナンが創造した下界だね」
へぇ~。フォルティーナには世界の年齢まで分かるのか。
「そしてお前の歳は十三億一千六百六十五万九千三百十一だね」
「邪酔の柄鏡と同じ力を持っておるとわな」
邪酔の柄鏡と同じ力?
「フォルティーナ様、旦那様よ」
「なんだね」
「どうかしましたか?」
リュシルは、ティーカップをテーブルに置くと、視界のMRアイズ画面を操作する。
「サザーランドのステータスがどうかしたのかね」
俺の視界では、メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドのステータスが展開し、誘導するかの様に矢印が【種族】を指し示し点滅していた。
MRアイズを瞳にセットしているフォルティーナとトゥーシェにも同じ情報が展開してるはずだ。
「メアではこのMRアイズの様に......
***********************
【名前】サザーランド・ボナ・サザーランド
【性別】男 【血液型】B
【種族】半神半魔、未神
父:邪嵐を司りし慈雨の神
カナンバアール
母:夢魔族、メア十三始祖
メリンダ・マーシー
・ボナ・サザーランド
【生年月日】創生155年2月23日
【年齢】1316659311
【レベル】999(上限)
【ジョブ】聖風の勇者:☆10(上限)
【身分】亜下界『メア』の王 始まりの王
メア王国 初代国王
未神(神気未所持の半神)
【称号】邪を司りし生と死の女神が
眷属邪嵐を司りし慈雨の神の子
メアを支えし者
【生命力・体力】2億6000万 over
【魔力量・魔力 】2億2000万 over
【物理攻撃力・筋力 】110万 over
【応用力・器用さ 】80万 over
【物理防御力・筋力 】160万 over
【敏捷性・素早さ・筋力 】4000万 over
【知識知恵・記憶力 】216万 over
【魔力干渉力】150万 over
【精神力・状態異常耐性 】160万 over
【運】1万 over
【神気・神気力】0
***********************
......ステータスを見ることは叶わん。故に、絶対神ナナンフェルテリーナ様が神殿の祭壇に置かれた邪酔の柄鏡が必要なのじゃ。邪酔の柄鏡を用いた所で見えるは、自身の【真名】【年齢】【レベル】【ジョブ】【ステータス値】ステータス値は数字では無く文字じゃ。上卿ともなると皆一様にSの文字でのぉ~。妾など生まれて二日目にして邪酔の柄鏡の意味が無くなってしまった。凄いとは思わぬか?」
「ステータス値が文字ですか・・・」
想像が付かない。
「なるほどだね。ナナンはいったい何をやってたね。こんな初歩の初歩も伝えていなかったのかね。ロイク」
「・・・なんですか?」
「口で言っても分からないね。自身で確かめた方が早いね」
「俺にどうしろと?」
「簡単だね。サザーランドに【イヴァリュエイション・ステータス】を上限で付与するね」
「こっちの世界に俺達のスキルを付与しても平気なんですか?」
「・・・問題ないね。何とかなるね」
何とかってまた適当な事を・・・。
「さぁ~今だね。今がその時だね」
「何かあったらフォルティーナのせいにしますからね。ちゃんと責任取ってくださいよ」
・
・
・
メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドに、スキル【イヴァリュエイション・ステータス】を付与した。
「トゥーシェよ。先程からこの者達は何を言っておるのだ?儂に分かる様に説明してくれ」
「わ、私は・・・モグモグモグモグ・・・か、関係ないのじゃぁ~・・・モグモグモグモグ」
「御祖父様よ。今に分かる故、暫し口を閉じて待たれるが良い。そうは思わぬか?」
「トゥ・・・リュシル。ふ、フム」
「はいだね。それではサザーランド。たった今ロイクがお前に付与したスキルを使ってだね。お前自身のステータスを見てみるね」
「スキルを付与した?ステータスをスキルで見る?」
「何をやってるね。さっさとやるね」
「ヴィスズにしか見えぬ者が古の世界の王でスキルを付与しただとぉぉぉ―――!?・・・ありえん!!!」
≪パチン
・・・・・・・
・・・・
・
「ははぁ~。女神フォルティーナ様。今直ぐ確認致します。そ、それでどの様にしてスキルを使えば宜しいのでしょうか?」
「自身を探り省みスキルの名を大きな声でハッキリと分かる様に唱えるね」
「なるほど!畏まりました!!イヴァリュエイション・ステータス!!!のぅわぁっ!!!!な、何だこれは・・・・・・邪酔の柄鏡、神具以上の・・・」
メア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドは、自身のステータスを食い入る様に確認している。
「分かったかね」
「わ、儂は。・・・純血のドリームではなかったのだな」
「我が使徒ロイクよ。あれは本当にカナンの倅なのか?」
「と言いますと?」
ロザリークロード様が耳打ちして来た。
「カナンはコルト下界のユマン族と同じ姿の神だ。あれは躾のなっておらんただの変態ではないのか?」
「個性的な恰好をしてますが変態ではないと思いますよ。それに、神眼を欺けるだけの力を持ってる様には見えません」
「遊びの女神を欺く存在か。その様な存在一柱しかおらぬわ」
第二神だって言い張ってたが、・・・そっか。
「カナンの倅よ。我はカナンと主神を同じくする存在だ。我も問おう。メアは何故闇に塗れておるのだ」
「わ、儂はいったい何者なのだ・・・・・・トラヤヌス!!!儂はドリームではないのかぁっ?儂はドリーム、メアの王ぞ。このメアで一番偉い」
「そんな事はどうでも良いね。見たなら答えるね」
「旦那様・・・旦那様がドリームであろうがサキュバスであろうが私めに、メア王国にとっては些細な事にございます。女神フォルティーナ様と邪神竜ロザリークロード様の御言葉に誠心誠意お応えになられる事こそがメア王国にとっての大事にございます」
メア下界の闇とかって難しそうな話は、フォルティーナとメア王国の国王サザーランド・ボナ・サザーランドに任せよう。何より、メア下界と縁も縁も無い第三者の俺が口出しする様な話じゃない。静かに神茶でも飲んでようっと。
「のぉ~旦那様よ。妾の御祖父様が純血のドリームではないとするといったいぜんたい純血のドリームは何処におるのか?」
「ふむ。面白い。謎掛けであるな。我は古来より精神を探求しておってな。謎掛けは大好物だ」
「さぁ~答えるね」
「儂の父が神だと。・・・神は絶対神ナナンフェルテリーナ様のみのはず。ああああぁぁぁぁぁ―――」
「美味いのじゃぁ~。爺や、もう一杯なのじゃぁ~」
「パーラー。トゥーシェお嬢様にハチミツたっぷりのママレードコールドドリンクを」
「爺や。愛してるのじゃぁ~」
「トゥ、トゥーシェ!?あ、あ、あ愛してるだとぉ、わ、儂では無くと、と、トラヤヌスを?と、と、と、トラヤヌスそ、そ、そそこになおれぇぇぇぇぇ!!!!」
・・・う~ん。騒がしいねぇ~。
俺は、一度だけエリウスと目配せをし、神茶を注いだ俺専用の器を静かに口へと運んだ。
ありがとうございました。