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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
ーロイ編ー
26/1227

1-17 ブオミル侯爵領ロイと、宝石①。

作成2018年3月1日

***********************

【タイトル】 このKissは、嵐の予感。

【第1章】(仮)このKissは、真実の中。

 1-17 ブオミル侯爵領ロイと、宝石①。

***********************

――― 鉱山都市ロイの王国軍騎士団事務所オルドルロア

――― 6月2日 11:00


 俺と、マルアスピー様と、パフ・レイジィーと、アリス・パマリさんは、ブオミル侯爵領ロイの王国軍騎士団事務所(オルドルロア)の団員関係者控室にいる。


 王都中央騎士団第3師団団長ジェルマン・パマリ子爵様と第3師団遊撃隊隊長マリア・パマリさんと他の皆は、駐屯騎士団の監察官執務室で、報告書の作成をしている。


 正式名称【王国軍ブオミル侯爵領ロイ駐屯騎士団】は、ドラゴン討伐の為、3100名の団員を出陣させ、3051名の団員を失った。現時点で団員の数は105名。内訳は次の通りで、ロイ駐屯騎士団監察官1名。監察官補佐2名。憲兵隊隊長1名。憲兵隊副隊長1名。憲兵隊15名。医務官1名。事務所警備の為に残った小隊1部隊35名。帰還した団員49名。


 王都中央騎士団第3師団は、ドラゴン討伐の為、王都モルングレーより出陣。パマリ侯爵領コルトから参加したジェルマン・パマリ子爵様、マリア・パマリさん、俺が私兵と勘違いしていた6人の団員を合わせて、6724名の団員を出陣させ、6711名の団員を失った。現時点で団員の数は140名。内訳は次の通りで、団長ジェルマン・パマリ子爵。遊撃隊隊長マリア・パマリさん。帰還した団員13名。王都に残った監察官1名。監察官補佐2名。憲兵隊副隊長1名。憲兵隊10名。医務官1名。小隊2部隊110名。


 王国軍中央指令経由軍務大臣からのドラゴンの討伐命令は、沢山の戦死者を出し達成完了したと報告する事になっている。報告内容の詳細は今のところ不明だ。


 俺達が、控室に入室してから、10ラフン位経った頃だろうか、鉱山都市ロイの出入管理徴収兵(王国軍)2人がやって来た。


「ドラゴン討伐ご苦労様です。皆さんは報告の優先という事もありまして、出入管理手続きを済ませておりませんので、駐屯騎士団事務所(オルドルロア)まで、王国軍ブオミル領本部から出向して参りました」


「他の方々は、まだ報告書作成の為の会議中でしょうか?」


 王国軍の兵士と言っても、徴収兵は税務官だ。マルアスピー村の出入管理徴収兵の隊長と同じで戦える様には見えない。


「始まったばかりなので、当分出て来ないと思います」


「分かりました。それではせめて、皆さんの出入管理手続きだけでも終わらせましょう」


「カードを水晶体に翳してください」


「この魔導具は何ですか?」


「これは、最新の通行判定魔導具です」


「翳すだけで良いんですか?」


「はい。従来の方法と比べると天と地程の違いです。どうぞ」


 俺はポケットに手を入れ、【FORMカード】発動≫・・・。カードを取り出すと、水晶体に近付けた。


≪ピッ


 水晶体は、ロイヤルブルー色に発光し5回点滅した。


「えっ?・・・きっ、貴族様でしたか、大変失礼致しました」


「父が爵位を叙勲されただけで、俺は息子なだけです」


「カードの確認をさせていただきます」


「どうぞ」


 俺は、カードを徴収兵の1人に渡した。


「あれ?・・・身分カードだった思っていたのですが、これは爵位カードですね」


 うん・・・? どうもスキル発動が微妙みたいだな。


「もしかして、間違えて爵位カードを渡していましたか?」


「問題ありません。貴族様の通行手続きの際は、爵位カードか公職カードか身分カード。どのカードでも手続きが可能になっております」


「爵位カードですが、魔導具で開示可能情報を読み込んで宜しいでしょうか?」


「どうぞ」


≪ピピピッ ピピピッ ピピピッ ピツ!


「父バイル・シャレット士爵。母メアリー・シャレット。長男ロイク・シャレット(本人)。年齢24歳。王宮召集勅令対象R4075年6月10日正午・・・勅令による上りの途中でありますか?」


「はぁ~一応そうです」


「ロイク様。カードをお返し致します」


「ありがとう」


「御協力。有難うございました。お連れの方も、出入管理手続きを行いますので、カードを水晶体に翳してください」


「次は私の番で良いのかしら?」


「マルアスピー様。どうぞ・・・」


「私は、一応、王国軍に所属しているので最後で良いわ」


≪ピッ


 水晶体は、ロイヤルブルー色に発光し5回点滅した。


「念の為にカードの確認をさせていただきます」


「どうぞ」


 マルアスピー様は、カードを徴収兵に渡した。


≪ピピピッ ピピピッ ピピピッ ピツ!


「義父バイル・シャレット士爵。義母メアリー・シャレット。嫁マルアスピー・シャレット(本人)。年齢19歳」


「マルアスピー様。カードをお返し致します」


「はい」


≪ピッ


 水晶体に反応は無い。


「カードを確認させていただきます。身分カードで間違いありませんか?」


「はい」


≪ピピピッ ピピピッ ピピピッ ピツ!


「王民。パフ・レイジィー。マスター:ロイク・シャレット。年齢16歳」


「君は、ロイク様の契約奴隷か何かなのかな?」


「はい。母の病を治すための治療費を立て替えていただきました」


「まだ成人したばかりなのに、専従とは偉いね。頑張るだよ。カードを返します」


「はい。ありがとうございました」


≪ピッ


 アリス・パマリさんは慣れた手付きで手続きを進める。


 水晶体は、ロイヤルブルー色に発光し5回点滅した。


「私は、ステファン・パマリ侯爵の次男ジェルマン・パマリ子爵の娘アリス・パマリです。カードで確認しますか?」


「パマリ家の方でしたか」


「いえ、カード確認は結構です」


「確認は以上になります。ロイを出る手続きの際は、家長のロイク様が、マルアスピー様とパフさんと御自身のカードをまとめて水晶体に翳していただけますと、手続きが1回で済みます」


「分かりました」


「報告会議は始まったばかりなのですよね?」


「そうです」


「分かりました、それでは、我々は一度本部に戻り、夕方頃にまた伺う事に致します」


「それでは、失礼致します」


「失礼致します」



――― 6月2日 11:10


「ねぇ~、ロイク。村を出た時も、コルトに入った時も、ロイクの爵位カードで手続き出来ていたわよね?」


「貴族特権で優先手続きして貰っていたから、もしかしたら今みたいな確認作業は省かれていたのかも」


「ロイク様は、マルアスピー村を出た事が無いのですか?」


「両親と2回だけ村を出た事があるだけで、普段は大樹の森と村の往復だけで生活していたから」


「私達貴族は、出入管理手続きの際に、身分カードか爵位カードか公職カードを通行判定魔導具に翳すか置くかします。青い判定結果が出ますので、祖父或いは父親、結婚している場合は夫の名前爵位を伝え、自分の名前を名乗り、貴族カードを見せます。通常はこれで問題無く通る事が出来ます」


「あぁ~・・・それで、貴族だったのかと聞かれたんですね?」


「だと思います。ロイク様は、国王陛下から直々に王宮に召集されているのですよね?」


「はい」


「私は、王都に住んでいますが、王宮の中に入った事がありません・・・」


「そうなんですね」


「はい。御父様や御祖父様に何度か頼んだ事はあったのですが、機会がありませんでした」


「そうなんですね」


「はい・・・・・・」


『この子。きっと、ロイクに王宮の中へ連れて行って貰いたいのよ』


 そうなんですか?


『勘よ』


 勘ですか・・・


『そうね。フフフッ』


 それなら。


「一緒に王宮に行きますか?」


≪ガバッ


「宜しいのですか?」


「あ、はい・・・」


『ホラね!』


「鉱山都市ロイから王都モルングレー。王都に到着後は、御父様の王都別邸と御祖父様の王都別邸。そして王宮。このアリス・パマリが責任を持って皆さんを御案内致しますわ」


「あ、ありがとうございます」


 凄い気迫で・・・圧倒されそうです。


『・・・フフフッ』



――― 6月2日 12:20


≪ガチャ


「待ったせてしまって申し訳ない」


「ジェルマン・パマリ子爵様。もう報告会議は終わったんですか?」


「それが、まだ本題にすら入っていなくてね」


「御父様。御母様や他の皆さんは監察官執務室ですか?」


「まだ、会議は終わっていないからね」


「長引きそうですか?」


「亡くなった団員達の名前を、全員分報告書に記載するだけで一仕事だよ。襲撃を受けた際に何処に居て、どの様に応戦したのか、生き残った者達から証言を取り、可能な限り立派な最期だったと報告したいからね。それで、私がここに来たのは、ロイク君に回収して貰ったキャンプ地の残骸の中に残った再利用可能な物と消失した物を確認する為なんだ」


「分かりました。使えそうな物は何処に出しますか?」


「王都まで運搬する必要がある。出来れば個数だけを知りたいのだが、可能かな?」


「それなら、簡単です」


 【タブレット】発動≫


≪WELCOME ≪女の子の可愛い声≫


 可視化:対象・ジェルマン・パマリ子爵、アリス・パマリ。今回限り:設定・10倍に拡大。今回限り。王都中央騎士団第3師団&ブオミル侯爵領ロイ駐屯騎士団のキャンプ地跡から回収した物で、再利用可能な物品を表示。


≪・・・認証更新しました。・・・・・・表示します。


**********************

R4075年06月02日(地)時刻12:28


 ≪再利用可能な物品リスト≫


 【騎士団の大剣】2311本

 【騎士団の剣】974本

 【騎士団の槍】1457本

 【騎士団の斧】724本

 【騎士団の盾】4949個

 【騎士団の弓】462挺

 【騎士団の矢】3827本


 【王国軍軍旗】10本

 【王都中央騎士団第3師団団旗】216本

 【ロイ駐屯騎士団団旗】109本


 【輓獣戦車(ワゴン)】26台

 【輓獣車用荷台(コーチ)】17台

 【荷車】61台


 【飲料用・水樽】500リットル 65本

 【飲料用・酒樽】500リットル 13本


 【食料袋・非常食】3088袋

 【食料袋・肉】乾し肉1470Kg

 【食料袋・野菜】60Kg 218袋

 【食料袋・穀物】60Kg 2993袋


 【救急医療箱・通常】1752個

 【救急医療箱・上級】2046個


 【火薬樽】60Kg 101個

 【油樽】500リットル 3本


 【回収した識別可能戦死者】1206人

 【回収した戦死者身体の一部】744人分


**********************


「残った物を確認するだけで、被害の深刻さが伝わってくよ・・・キャンプ地の残骸の中に、団員の亡骸が眠っていたとは気付かなかった。王都に戻り次第確認し遺族へ引き渡そう」


「それで、これ暗記出来ますか?」


「普段の私なら可能だと思うのだが、今の私には自身が無いな」


「分かりました。ちょっと待ってください」


 【マテリアル・クリエイト】:紙を創生:版に表示中のリストをその紙に転写。出来るかな?・・・発動≫。


 俺の手元に、版と同じ内容が書かれた1枚の紙が出現した。


「上手くいったようです。宙の版と同じ内容が書かれた紙です」


「あ、ありがとう。ロイク君はそんな事も出来るのだね・・・」


「俺のスキル【タブレット】この版に材料さえ入っていれば、加工可能な物であれば作れます」


「なるほど。ロイク君が騎士団の団員達を認識していてくれていたら・・・。ありがとう。それじゃ私は会議に戻るとするよ。終わるのは昼過ぎになるだろう。折角ロイに来ているのだ、ロイの特産品を見て来ると良いよ」


「御父様。それでしたら、私達は商業区で昼食を済ませます」


「あぁ~そうすると良い。また、後で話そう」


「ジェルマン・パマリ子爵様。報告会議頑張ってください」


「そうだね・・・」



――― 鉱山都市ロイ 商業地区1

――― 6月2日 13:30

挿絵(By みてみん)


 俺達4人は、騎士団事務所を後にし、街乗り用の馬車で、下級貴族居住地区を経由し中央広場へ抜け、中央広場に馬車を停め、商業地区1丁目と2丁目の大通り沿いの宝石商を只管巡っていた。


 理由は、マルアスピー様が、目的の1つにしていた、鉱石や宝石の加工の見学が街中では無理だと分かったからだ。ロイでは居住環境に配慮した結果、街中での加工作業が数年前に禁止となり、専用の作業場が東モルングレー山脈の中腹に整備され、加工に携わる住民や職人達は移住させられた。


 そして、1丁目と2丁目の大通り沿いを巡っているのは、中央広場から鉱山入口のある支度広場へ続く道が、通称『宝石ストリート』と呼ばれ、入手不可能な宝石は1種類も無いと言われる程、宝石の取引が盛んに行われている場所だからだ。


 因みに、北門広場から鉱山出口のある出荷広場へ続く道は、通称『鉱石ストリート』。入手不可能な鉱石は1種類も無いと言われる程、鉱石の取引が盛んに行われている。



「この道って、宝石の店しか無いんですかね?」


「宝石ストリートって呼ばれる位ですから、きっとそうよ」


「アリスさんも、宝石とか気になりますか?」


「私は宝石よりも弓の方が気になります。ですが、綺麗で可愛い物は好きですよ」


「アリスさんは俺と同じ狩人(ハンター)でしたね」


「はい。上位職の射手(アーチャー)や更に上の狙撃手(ティラール)を目指しています。ロイク様は、主JOBに就いていないそうですが、inhで継承した状態のまま狩人(ハンター)を極められたのですか?」


「俺は、ついこの間まで、個体レベルが1だったから、転職(JOBを本職として設定する事)が出来なかったんだよ。レベルが上がったから転職出来る様になったんだけど、何だかんだ慌ただしく忙しくしてたから・・・」


「上位職の射手(アーチャー)に転職されるのですよね?」


「そのつもりだよ」


「それでしたら、昼食後に狩人射手協会(アローギルド)に行ってみませんか?上位職への転職は、冒険者探検家協会(アドベンチャーギルド)では出来ませんし。それに、新作の弓が発表されるらしいのです」


「新作の弓が目当てですね」


「ち、違います・・・そ、それもありますが・・・」


 スキルでJOBの操作が出来るか試したいし、JOBを知っておく必要はありそうだよね・・・


『私を、パティシエールってJOBにしてくれないかしら』


 JOBがスキルと同じ様に扱えるなら可能だと思いますよ。でも、その前にパティシエール?と言うJOBの人からJOBをコピーする必要があります。


『それがおかしいのよね・・・コルトでもロイでもステータスを覗いているのだけれど、パティシエと言うJOBの人間種は居てもパティシエールと言う人間種が見当たらないのよ。不思議だわ・・・』


 お菓子を作る仕事でしたよね?


『そうよ』


 それなら、後でケーキ屋かチョコレート屋に寄って、聞いてみませんか?


『良いわね。ありがとう。ロイク、お礼に後で良い事してあげる。フフフッ』


 ・・・・・・。ところで、宝石ですけど、結局何を買うんですか?


『そうねぇ~。何だか全て同じに見えるのよ』


 お土産に幾つか欲しいって言ってましたよね?ここまで10軒以上店を回って気に入った物は無かったって事ですか?


『う~ん』


「マルアスピー様。この灰鉄礬柘榴石デマントイドガーネットはどうですか?髪の色と同じでとても綺麗ですよ」


「うん?パフちゃん。それは、柘榴石(ガーネット)という石なの?」


「はい、柘榴石(ガーネット)です。この宝石には【真実】【忠実】【勝利】の宝石言葉があります。この宝石は柘榴石(ガーネット)と少し違って、灰鉄礬柘榴石デマントイドガーネットって言うんですが、【真実】【忠実】【勝利】の他に、【豊穣】【収穫】【実り】の宝石言葉があるそうです」


『あら、私にピッタリね。そう思うでしょう?ロイクも』


 ・・・そうですね。


「パフちゃん。宝石に詳しいのね」


「はい。ロイは母の生まれ故郷で、ロイの者は子供の頃から鉱石や宝石に囲まれて生きる石の民。子供でも石言葉や特性や性質を知っているそうです。私は、母から教わっただけで、本物を見たのは今日が初めてなんですが・・・何となく分かりました」


「鉱山都市ロイの血ね」


「アリス様。血ですか?」


「パフさん。貴方の中には、お母様の中に流れているロイの血が、流れているという事よ」


「はい・・・・・・」


 入院中の母親の事を思い出したのだろう。パフ・レイジィーは少しの間沈黙していた。


「パフさん。回復や快気、入院している人に贈ると良い石とかないですか?」


「ロイク様、お見舞いに石ですか・・・?」


「変かな?」


「い、いえ・・・そ・・・んな・・・事は・・・」


『どうしたの?』


 彼女を元気付けてあげようと思いまして・・・


『ふ~ん。フフフッ。私も元気付けて欲しいわぁ~・・・身体でぇ』


 何言ってるんですか、もう。


『でも、パフちゃんだけに、プレゼントするのはいただけないわね。それなら、妻の私やアリスって人間種にもプレゼントするべきよ』


 アリスさんは、奥さんじゃありませんから。


『あら。やっと私を妻だって認めたのね。お祝いでにプレゼントが必要そうね。フフフッ』


 ・・・分かりました。皆で選びましょう。


『選ぶだけなの?』


 プレゼントします。


『あらぁ~ありがとう。ロイク、愛してるわよ』


「パフちゃん。アリスさん。ロイクが私達に好きな石を買ってくれるそうですよ」


「え?ロイク様。マルアスピー様。私は契約奴隷で・・・給与の他にこの様に高価な物は受け取れません」


「問題無いわよ。貴方は私達の家族なのだから」


「ですが・・・」


「さぁ~、パフちゃん。パフちゃんとパフちゃんのお母さん用の石を探しましょう」


 マルアスピーとパフさんは、目の前の宝石店の中に入って行った。


「ろ、ロイク様・・・私にほ、ほ、宝石を・・・」


「えぇ~、アリスさんも好きな物を選んでください。プレゼントします」


「し、しかし・・・宝石は、外交の親善の為・・・あとは男性が大切な女性に贈る物だと御母様が・・・」


「ん?何か言いましたか?」


「あ、いや、何でもありません」


「余り気にしないで、気に入った物を選んでください」


「は、は・・・はい・・・」



――― その頃、店内では


「ま、マルアスピー様。こ、これぇ~・・・6000万NLもしますよぉ!」


「あ、この石もパフちゃんに似合いそうね」


「1億NL????」


「これは、何て石なのかしら?」


「これは、金剛石(ダイヤモンド)といって、【純潔】【純愛】【永遠の絆】や【永遠の愛】等の宝石言葉がある石で、宝石の中でもかなり高価な種類です」


「そうなのね。金剛石(ダイヤモンド)は他の石と違って透明なのね。ロイクが先日倒した金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)はグロテスクな魔獣だとばかり思っていたわ」


「うん?お嬢さん。今、金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)を倒したと言いましたか?」


「えぇ~。貴方は何方ですか?」


「これは、失礼致しました。私はこの店の店主で、ロメイン・バトンと言います」


「店主様でしたか、こちらの方は、シャレット士爵家のロイク様の奥様マルアスピー様です」


「綺麗でお若い奥様ですな。結婚ホヤホヤの新婚さんといったところですかな?」


「はい」


「奥様は、新婚旅行でロイに来ています」


「それでしたら、この金剛石(ダイヤモンド)は打って付けの品です。・・・ん?じゃなかった。お知り合いの誰かが金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)の討伐に成功されたのでしたら、是非紹介していただけませんでしょうか?」


「知り合いではなく、旦那様のロイク様が討伐されました」


「王都から討伐令が出たと聞いていませんから、まだ誰も・・・金剛石(ダイヤモンド)金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)からのみ入手出来るとても希少な石でして、商人商家協会(アフェールギルド)に登録した物以外の取引は原則禁止されています。討伐し所持しているだけでは価値がありません。ロイク士爵様を紹介していただければ、商人商家協会(アフェールギルド)を私が紹介致しますが、どうでしょうか?」


「私は構わないわよ。それに、紹介も何もロイクなら店の外で石を見てるわよ」


「な、士爵様に対し、店の外の石を見せたとあっては、先祖代々受け継ぎ守り続けて来たバトン宝石商会の恥。これは大変だぁっ!」



――― その頃、店の外では


「ロイク様。このオレンジ色の石は、私に似合っていますでしょうか?」


「俺に色のセンスが無いだけだと思いますが、アリスさんの瞳はシトロンイエロー色で、髪のゼウス色が黄色に少しだけ混ざった様な・・・騎士団の団員ですが、肌は白いですから、オレンジというか黄色の石が目立たないというか、アリさんに負けているというか・・・」


「え、あぁ~・・・」


『フフフッ』


 どうしたんですか?突然。


『何でも無いわよ。ただぁ~・・・』


「ロイク様。それでしたら」


≪ガチャ


「ロイク士爵様。本日は、鉱山都市ロイ宝石商。数ある宝石商の中からバトン宝石商会へ御越しいただきまして誠に有難うございます。奥様とお連れの方がお待ちです。店の中へどうぞお入りくださいませ」


「は、はぁ~・・・」



――― バトン宝石商会 ゲストルーム


「当店では、店の外、店の中、店の中のガラスケースの中、そして限定商品の順に扱う商品の価値をグレードが上がる様に管理しておりまして、ロイク士爵様には是非とも見ていただきたい石が御座います」


「は、はぁ~・・・どんな物でしょうか?俺達の中で石に詳しいのは・・・」


 俺は、パフ・レイジィーに視線を動かした。


「このお嬢さんがですか?」


「はい」


「失礼ですが、生まれはどちらで?」


「私は、コルトの衛星集落出身ですが、母がロイの生まれです」


「なるほど。お嬢さんは私と同じ旧民の血筋なんだね」


「旧民?・・・それは分かりませんが、石についての昔話は良く母が話てくれました」


「そうですか・・・」


「ところで、店主さん」


「ロメインとお呼びください。ロイク士爵様」


「俺の父が、士爵なだけで、俺は違うので、俺の事はロイクで構いません。ロメインさん」


「分かりました。ロイク様と呼ばせていただきます」


「店の外に並べられた石も綺麗だったし高価な物だと思うのですが、そんなに違うんですか?」


「はい。今同じ種類の石を4つ準備させています。御覧になっていただければ、ロイク様にはお分かりになっていただけると思います」



 俺達の目の前には、紅玉(ルビー)が4つ置かれている。


「お嬢さんは、何かに気付いても、見ているだけにして貰えるかな?」


「はい・・・」


「さて、ここに4つ紅玉(ルビー)があります。どの石がもっとも高価な物だと思いますか?」


「ロイク様。まず色から違いますよ」


「そうですね」


『ねぇ~ロイク。この左端の石だけ魔力の流れが強いわよね?』


 集中して見ないと気付けない程度ですが、確かに左端だけ魔力の流れに違和感がありますね。


『自然魔素を微弱にですが放出しているのかしら?』


 もう少し大きい石なら見ただけで分かるんでしょうけど・・・


「やはり、お気付きになりましたか。左端の石は魔力を帯びています」


「宝石が、核や魔晶石の様に魔力を秘めていると?」


「はい。えぇ~・・・」


「私は、騎士団見習いのアリス・パマリと言います」


「パマリ侯爵家の方でしたか。挨拶が遅れ申し訳ありませんでした」


「こちらこそ名乗らず失礼しました。この石は、魔晶石の様に魔力を秘めていると言われましたが宝石にですか?」


「そうです。旧民の私達は、魔力を帯びた宝石の事を、大地石(ソル)と呼んでいるのですが、この紅玉(ルビー)は魔力を帯びた大地紅玉(ソルルビー)です」


「ロイク様。ロイク様には何か感じるのですか?」


 アリス・パマリは半信半疑なのだろう、俺に質問してきた。


「左端の石だけ石の周りで魔力が少しだけなんだけど落ち着きなく動いてる様に見えるけど」


「目に見えているのですか?」


 俺の返答に驚き言葉を返して来たのは、ロメインさんだった。


「何となくです。もう少し大きい石なら、たぶんもっとはっきり魔力の流れが分かると思いますが」


「是非、見ていただきたい物がぁ!」


『見せたい石が、沢山ある人間種なのね』


 ハハハハ



 数分後


「この石です」


『あら、この石凄いわね』


 はい、これ、中魔晶石以上の魔力を感じますね。


『えぇ~』


「中魔晶石レベルの魔力を持った紅玉(ルビー)ですか?」


「・・・やはり・・・。この紅玉(ルビー)大地紅玉(ソルルビー)である事は分かっていたのですが、魔晶石に匹敵する魔力を帯びていますか?」


「その様ですが・・・それで、この大地紅玉(ソルルビー)がどうかしたんですか?」


「はい、先程、旧民の話を少しだけしたと思いますが、私達旧民。このロイに先祖代々暮らし鉱石や宝石と生涯を共にして来た民は、鉱山の中の岩を刳り貫いて住居を作り住んで居ました。当時の民は今とは比べ物にならない位に魔力量が高く、鉱山の中で簡単に手に入る大地石(ソル)を利用し、住居から採掘から加工まで、魔力と大地石(ソル)の力を借り行っていたそうです。ですが、今では、ロイの街がありますから、誰も鉱山に住んでいません。新たに出来たロイの街に住む者達を新民と当時は呼んでいたのですが、いつしか、私達の方が旧民と呼ばれる様になり、その旧民と呼ばれる事も今では少なくなりました」


「なるほど」


「そして、宝石の価値や意味も、時代と共に変わり、この大地石(ソル)は、見栄えの良い色合いや加工を施した普通の石と、立場が逆転した訳です。この4つの石の中では、大地石(ソル)の隣の紅玉(ルビー)が最高級品です」


「魔晶石が日常的に手に入る今の時代に、魔力を秘めているからと言って全てが当時のままの価値とは限りませんからね」


「アリス様。問題は、そこなのです。・・・試しに、この大地紅石(ソルルビー)と最高級品の紅玉(ルビー)を光に翳して覗いてみてください」


「覗くと良いのですね」


 アリスさんは、ロメインさんに言われ、石を手に持ち確認する。



「あ~・・・なるほど、大地紅石(ソルルビー)は、光が中で幾重にも反射して、濁った感じで清潔感が無いと言いますか・・・それに引き換えこちらの紅玉(ルビー)は、濁りも無く光が綺麗に通り美しいです」


「同じ加工なのですが、この違いなのです。帯びた魔力量が高ければ高い程濁り、取引が難しい石になってしまいます。本来は魔晶石の代わりとしても利用出来る訳ですから嫌煙される理由は無いのですが・・・」


「魔晶石としてではなく、着飾る為の装飾品として求めている訳ですから、嫌煙しても仕方が無いとは思います」


『ねぇ~ロイク』


 なんですか?


『ようするに、魔力を持った石から、魔力が無くなれば、この人間種は嬉しいって事なのよね?』


 魔力が無くなるだけじゃ何の解決にもなっていない気がしますが・・・濁りの原因が魔力なのか気にはなりますね。魔晶石の加工の際に役立ちそうだし。


『フフフッ』


「ねぇ。大地石(ソル)大地石(ソル)では無くなったら、その左端の石はいただいても良いかしら?」


「奥様。そんな事が出来るんでしたら、こっちの大きな大地紅石(ソルルビー)も一緒に差し上げますよ」


「あら・・・嬉しいわ。ロイク。試してみて」


『精霊魔法を扱う時の様に、自然魔素を集める感じで、その石から魔力を集めてみて』


 いいですけど・・・


 俺は、左端の大地紅石(ソルルビー)を右の掌に置き、石から魔力を吸い出そうとした。だが、大地紅玉(ソルルビー)は掌に置いた瞬間、綺麗な紅玉(ルビー)へと姿を変えてしまった。


「濁りが無くなったわ」


「ま、まさか・・・ロイク様・・・何をされたのですか?」


「掌に置いただけ」


『指でつまんで拾った時に、弱過ぎる魔力がロイクの聖属性で無効化された様ね』


 そうなんですか?・・・でも、魔晶石を触った時は、何とも無かったですよ。


『魔晶石は、魔素を取り込む物で、取り込んだ魔素を魔力として発動させて使う物でしょう?この大地石(ソル)は魔力を放出している石の様だから、ロイクに魔力を吸われた無効化されたのよ。きっと』


「俺にも分からないです。こっちの大きい大地紅玉(ソルルビー)で、同じ事を試しても良いでしょうか?」


「あ・・・差し上げると、申しましたが、製品化していただいたお礼を別の形でというのは?」


『あら、くれると言っていたのに・・・フフフッ』



 結局、約2654カラット(544g)程の大地紅玉(ソルルビー)も、触れた瞬間に普通の紅玉(ルビー)に戻ってしまい、詳しく調べる時間すら無かった。


 大地紅玉(ソルルビー)の状態では、宝石商として100万NLで取引が成立すれば納得のいくものらしい。だが、普通の紅玉(ルビー)に戻った時点で約2654カラットの紅玉(ルビー)は、数百億NLの価値になるらしく、別つの形イコール金銭を受け取る事になった。ただ、現金で渡すには大き過ぎる金額らしく、商人商家協会(アフェールギルド)が発行するMGカードに入金という形だ。


「俺、MGカード持ってませんよ」


「そうでしたか。新婚旅行中だとお聞きしましたので、てっきりお持ちだと勘違いしていました。それでしたら、カードの発行は直ぐ終わりますので商人商家協会(アフェールギルド)に一緒に行き、商品化の代金の入金手続きを済ませてしまいませんか?」


「入金はいつでも良いのですが・・・宝石を3人にプレゼントする予定が・・・」


『あら。忘れていなかったのね』


 ついさっきの話ですから。


『フフフッ』


「ロイク様。ランチの後は弓も見に・・・」


「そうですね」


「ところで、商人商家協会(アフェールギルド)で、MGカードを作る序でに、ロイク様が討伐されたという、金剛石竜子(ダイヤモンドリザード)の素材。金剛石(ダイヤモンド)を市場登録しませんか?」


「市場登録ですか」


「はい、宝石の金剛石(ダイヤモンド)だけは、商人商家協会(アフェールギルド)で存在を確認し、市場登録して適正な価格が付けられてた物だけに、取引売買の許可が与えられます。持っているだけでは、金銭価値の無いただの綺麗な石という事です」


「なるほど」


「奥様から討伐に参加されたとお聞きしましたので、もし登録がまだのようでしたら是非この機会にと思いまして、それともし宜しければですが、不要な分は商人商家協会(アフェールギルド)を通して私達宝石商にお譲り・・・バトン宝石商会に売っていただければと・・・」


「売る分には構いませんが、結構大きい魔獣でしたから、量が多いと思いますよ」


「ファルダ―ガパオに入る程度の量でしたら、当商会でも全て買い取る事は可能ですよ。ロイク様。・・・今は、ファルダ―ガパオをお持ちでは無い様ですね。宿か馬車に保管されているのですか」


「馬車は中央広場に停めてあります」


「それでしたら、馬車に寄ってから、協会地区へ行きましょう。今日は良い日ですねぇ~」


『この人間種。さっきから妙に元気よね』


 村に来る行商の人もこんな感じでしたよ。


『へぇ~』


「ロイク様。協会まで御案内致します。行きましょう。おーい、商人商家協会(アフェールギルド)まで行って来る。店番頼んだよ」


「はい。オーナー」



――― 鉱山都市 中央広場

――― 6月2日 14:50


「ロイク様の荷物はどれですか?新婚旅行ですよね?荷物が少ないようですが・・・」


「あぁ~・・・家のキャビンは王国軍ブオミル領ロイ駐屯騎士団事務所に停めてあります。これは騎士団事務所で借りた街乗り用の馬車でして」


「あぁ~もしかしてですが、荷物は、騎士団事務所(オルドルロア)という事ですか?」


『どうするの?』


 そうですね・・・


「俺の神授スキルにファルダ―ガパオに似た物がありまして、大切な物は神授スキルの方にしまってあります。商人商家協会(アフェールギルド)に着いたら取り出します」


「そうでしたか。それでしたら、協会へ急ぎましょう。いやぁ~一時はどうなる事かと思いましたが、良かったです。私は王旧民ですが、騎士団事務所(オルドルロア)や王国軍ブオミル本部は、国王専用門に隣接していますよね。あの道は許可を貰わないと入ってはいけない事になっているので、ホント良かったですよ」


「そうなんですね」


「ロイク様。国王陛下や王族の為の門や道もそうですが、領主館や貴族街や王民街には、許可を持たない貴族領民や一般人の出入りは通常禁止されているものですよ」


「え?そうなんですか?村では王民居住地を抜けないと大樹の森に入れないので、皆自由に王民居住地を歩いてましたよ」


「小さな村ではそうなのかもしれませんね」


「ロイでは、貴族領民達が生活する西地区と東地区。王民達が生活する第1地区から第12地区。商いを目的とした商業地区は1丁目から21丁目まであり、奴隷商や奴隷達が生活する為の地区が他に2つ。貴族様達が暮らす2つの地区。皆が安心して暮らせるように、細かな決まりが沢山あります。ロイク様やアリス様は貴族様ですので、この決まりを覚える必要はありまん」


「なるほど」


「さて、ここが鉱山都市ロイの協会地区(ギルドエリア)です。大通りと公園に囲まれ、創生教会に次いで環境の良い立地の地区になっています。中央広場に面した公共中央庭園よりにある大きな建物は、冒険者探検家協会(アドベンチャーギルド)です。系列の協会(ギルド)が1つの建物にまとまっています。その隣の裁判所の様な建物が商人商家協会(アフェールギルド)です。形から価格を決定する為の秤を連想すると思いますが、先代の侯爵様のお言葉では、商人として公明正大温厚篤実であれ。そんな意味からこの造りになっているそうで、先代の侯爵様の希望もあり商人商家協会(アフェールギルド)が使う事になりました。さぁ~入りましょう」


『色々な考え方があるものね』


 そうですね。



――― 鉱山都市 商人商家協会(アフェールギルド)

――― 6月2日 15:05


「あれ?協会長(ギルドマスター)。今日は協会(ギルド)には来られないと仰っていませんでしたか?」


「大切な御客様をお連れしたんだが」


「昼になりましたので、協会員はこれから昼食の時間です」


「あぁ~・・・今日は良い事が多くて、うっかりしていた。昼か・・・」


『もうお昼なのね。お腹が空いてるはずよね』


 今、15:05みたいですし、昼食の時間ですね。


「ロイク様。この辺りは昼食の時間になると、働いている者達が一斉に店に流れます。店で食事する者も居ますが、天気の良い日は、庭園や公園、広場で昼食を楽しむ者も多いのです。私の行き付けの店があるので、皆が戻った頃に行って、庭園の芝生にでも座りながら少し遅めの昼食にしませんか?」


「良いですね」


『昼食はもう少し先って事よね?』


 そうです。


『もうぉ~』


 マルアスピーは、頬を膨らませ、抗議の視線を俺に向けた。


 あれ?・・・俺は何を期待しているんだか・・・確りしろ俺・・・


『フフフッ』


協会長(ギルドマスター)。私も食事に出ますので、それでは後ほど」


「あぁ~・・・」



 5ラフン後、協会(ギルド)の中には数人の協会員と俺達だけが残された。


「まるで、王宮の官僚や職員達の様ね」


「王宮に入った事ないんですよね?」


「王宮の出入りを許可されている知り合いが言ってたのよ。『王宮は凄いのよ』って、何でも、鐘の音が鳴り響くと仕事が残っていても、手を止め持ち場を整理し、一斉に持ち場を離れるのだそうです。指示以外の事は絶対にやらない徹底ぶりも凄いそうです」


『何それ?褒めて良い事なのかしら?』


 場合によるんじゃないでしょうか?


『ふ~ん』


「持ち場を離れるって、仕事が終わりって事ですか?」


「私もそこが気になり聞いたのですが、鐘が1日に5回鳴るそうです」


『時間の概念?』


 それはないと思いますよ。時間の概念が王宮で普及しているなら、とっくに貴族達の手で貴族領に広がってますよ。


『それもそうね』


「王宮に行った時に、確かめると良いかもしれないですね」


「そ、そうですわね。王宮の中に入ると思うと今から楽しみです。緊張も凄いですが・・・」


「ロイク様は、王宮へ行かれるのですか?」


「はい」



「さて、ここが協会(ギルド)内の私の仕事部屋です。机と椅子とテーブルとソファーしかありませんが、それなり寛げるソファーなので座って少しお待ちください。MGカードの発行機を窓口から取ってきます」


「手伝いましょうか?」


「いえいえ、あの機械は協会員以外に触らせてはいけない決まりがあるんですよ・・・って、私が作った決まりなんですけどね。今、微妙に後悔しています・・・」


≪バタン


『ねぇ~ロイク』


 どうしました?


『自然の中で食事するのよね?』


 庭園って言ってましたから、人の手が加わった人工の自然ですね。


『聖域の中も、動物達や私達の手が加わった、管理庭園よ』


 そうだったんですか・・・偉大な大自然って思ってたのに・・・


『その話は、今はいいのよ』


 はぁ~・・・


『鉱山都市ロイには、しょっぱいお菓子があると聞きました。それを食べてみたいです』


 しょっぱいお菓子ですか?


『しょっぱいそうよ』


 甘いなら分かりますけど、しょっぱいお菓子・・・聞いた事がないですよ。


「パフちゃん」


「はい。マルアスピー様」


「しょっぱいお菓子の話をパティシエの人から聞きましたよね?」


「はい」


「ホラ、ロイク。あるのよ」


 嘘だとは言ってませんよ。


『あるのよ』


 分かりましたよ。


「あら、マルアスピーさんは、鉱山で働く者達の為に開発されたという、塩デザート(セルドルチェ)が食べたいのですか?」


「塩のお菓子があるんですか?」


「ロイク様。狩りの後の塩って身体に染みる感じがしませんか?」


「しますね」


「鉱山で働く者達も、力仕事の後に塩を欲するそうです。塩だけを舐め摂取する方法もありますが、重労働の後に必要なミネラルは塩分だけでありません。そこで塩デザート(セルドルチェ)です」


「どんなお菓子なんですか?」


「色々ありますよ。アイスクリーム。チョコレート。チーズを使った物。ケーキ類。クッキー類。フルーツやヨーグルト。以前、御祖父様の王都別邸でいただいたプリンは蕩ける様な滑らかな舌触り、柔らかで高級感溢れるバニラビーンズの香り、そして甘さと塩加減が絶妙で、ともて美味し物でしたよ」


「プリン?」


『プリンってどんなどんなお菓子でしょうか?』


 聞いてました?俺もアリスさんに質問したんですが・・・


『あらそうなの・・・』


「プリンは・・・私も作り方は知りません。食べるのが専門な物で・・・」


「普通、食べるの専門の人の方が多いですよね?」


「そうですよね・・・ハハハハハハ・・・・パティシエやパティシエールに聞いてみると良いかもしれませんね」


『ん?パティシエール・・・』


「アリスさん。パティシエールを私は探しています。何処に行ったら会えますか?」


「マルアスピーさんどうしたのですか?」


「あぁ~。マルアスピーはパティシエールがJOBの人を探してるんですよ。ところが、コルトでもロイでもなかなか見つからないそうで」


「探している?・・・ずっと一緒に居たと思いますが・・・」


「あぁ~探したのは、コルトの夕食会の時だけで、その後はまだ余裕が無くて探しては居ないのです」


「パマリ家の領主館に、パティシエールは居ませんからね」


「何処に行けば会えますか?」


「そうですね。珍しいですから、スィーツに詳しい御夫人や、この街の貴族にでも聞けば、1人や2人位は見つかるかもしれませんよ」


「珍しいJOB何ですか?」


「珍しいと思いますよ。女性が食べ物関係のJOBに就く事が珍しいですからね・・・」


「確かに、女性の料理人って聞いた事が無いですね。家では女性が料理する事が多いのに、考えてみると不思議ですね」


「ねぇ~ロイク。王都はこの国の中心よね。王都にならパティシエールが沢山いるのではないでしょうか?」


「そうかもしれませんね」


「でも、どうして、マルアスピーさんは、パティシエールを探しているのですか?パマリのパティシエの味は口に合いませんでしたか?」


 あれだけ食べて口に合わないなんて言ったら、あの人泣いてしまうよ・・・


「パティシエの人の様に美味しいデザートを作るにはどうしたら良いのかと質問したところ、まずは、パティシエールにならないといけないと言われたのです」


「そ、そうなんですね・・・inhが賢者様で、大樹の巫女様で、本職がパティシエールですか・・・」


「面白そうでしょう!」


「そ、そうですね・・・」



≪ガチャ


「お待たせしました。思っていた以上に重くて、難儀しました・・・」

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