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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
―ララコバイア編ー
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4-61 氷鏡の迷宮~第二層②~

 輪の部屋の宝箱を開け中を確認する。


 小さな宝箱の中には、鍵が一つと重量百グラムと書かれた紙が一枚。大きな宝箱の中には、金属の塊と重量九百キログラムと書かれた紙が一枚入っていた。


 神眼Ⅲで視認する。


 鍵は、永久氷で造られた空冷式の箱を開閉する時に使う永久氷で造られた永久氷の鍵で。金属の塊は、コルト下界に普通に存在するウォルフラムと言うレアメタルで比重は金に近いが硬度は金とは真逆で非常に高い金属だ。


 コルト下界に存在する物なら神授スキル【マテリアルクリエイト】で創造出来る。コルト下界に存在しない物でも一度触った事がある物なら創造出来る。


 満場一致で、永久氷の鍵をタブレットに回収した。小さい宝箱から鍵がタブレットに収納され消えると、父バイルの証言通り隣にあった大きな宝箱が音も無く消えた。


 表現としては、シューで何気に正解だった。


「なっ!言った通りだろうぉー。シューだシュー、シュー」


 父バイルは、自信満々に満面のドヤ顔をキメながら何度もシューを繰り返していた。



「この迷宮。かなりインパクト強いよな?」


「だなぁっ!」


「何で最初に教えてくれなかったんだ?」


「それ私もバイル様にお聞きしたいと思っていました」


「私もです。鏡の様に磨かれた氷の床に壁に天井。ダイヤモンドで出来た魔獣。この不思議な部屋に宝箱。印象に残る物ばかりです。それともう一つ気になっていたのですが。バイル殿は戦闘の際、聖剣と弓を持ち替え、置いて来てしまったと話していましたが、聖剣ローランでダイヤモンドラビットと戦闘になったのでしょうか?」


 サンドラさん。話が脱線してます。


「どうぉーだったっけかなぁー。ああぁぁ―――人間ってよぉー。どぉーでもいい事って直ぐ忘れちまうだろうぉー。俺も人間だって事だなぁっ!ガッハッハッハッハ」


「バイル殿・・・」

「バイル様・・・」

 親父・・・。


 静かに成り行きを見守る事しか俺には出来なかった。


 これだけインパクトのある迷宮の事も、一本しか存在しない神授の聖剣ローランの事も、直ぐに忘れてしまえる様な人に、いったい何を話したら良いのだろうか。俺には分からなかったからだ。



 入室したドアとは別のドアから退室し、一本道を三十メートル程歩くと、ドアに歌の部屋と書かれた広さ三十平方メートル程の部屋があった。


 小さな宝箱の中には氷結のランスと重量二十一キログラムと書かれた紙が、大きな宝箱の中には大弓では無く氷結のナイフと重量三キログラムと書かれた紙が入っていた。どうやら、宝箱の中身は変化する様だ。


 因みに、父バイルが大弓を見付けた時は、重量五キログラムと書かれた紙が一緒に入っていたそうだ。


「俺のナイフ折れちまっただろうぉー。解体用にこれくれぇっ!」


「バイル様。先程のロイク様の説明ですと、解体用としては不向きではないでしょうか。刃に触れた物を氷結させてしまうのですよ」


「うーむ。・・・だなっ!持ってけぇーるのは槍だ槍に決定!!!」


 サラさんとサンドラさんからも合意を貰い、氷結のランスをタブレットに収納した。


 一本道を七十メートル程歩くと、ドアに余の部屋と書かれた広さ八平方メートル程の部屋があった。


 小さな宝箱の中にはクリスタル(水晶)カテドラル(大聖堂)の写真が一枚と重量九万トンと書かれた紙が、大きな宝箱の中には魔獣除けの白無地の靴下が一足と重量六十グラムと書かれた紙が、巨大な宝箱の中には三段のお重が入っていた。


 父バイルは、三段のお重に票を入れたが、サラさんとサンドラさんと俺が票を入れたクリスタルのカテドラルの写真をタブレットに収納した。


 クリスタルのカテドラルの写真は俺の家シリーズとして整理された。


 一本道を百九十メートル程歩くと、ドアに誰の部屋と書かれた広さ二十五平方メートル程の部屋があった。


 小さな宝箱の中には古代語で書かれた魔術のスクロールが四巻と重量十六グラムと書かれた紙が、大きな宝箱の中には五十四年物のヴィンテージワインの樽五十リットルでは無く九年物のワインの樽二百リットルが入っていた。


 父バイルは、九年物のワインに票を入れたが、サラさんとサンドラさんと俺が票を入れた魔術のスクロールをタブレットに収納した。スクロールは、生活必需魔術『地の巻』『水の巻』『火の巻』『風の巻』の名で整理されていた。


 一本道を七メートル程歩くと、ドアに礼の部屋と書かれた広さ百平方メートル程の部屋があった。


 小さな宝箱の中には神々の万能薬が一本と重要九グラムと書かれた紙が、大きな宝箱の中にはエクレールアン(ヘリコプター)の写真が一枚と重量十七トンと書かれた紙が入っていた。


 エクレールアンは、ヘリコプターと言う超古代文明の遺物で空を飛行移動する輓獣が不要のコーチの様な物らしい。空飛ぶ宮殿、空飛ぶ貴婦人とも呼ばれていたらしい。満場一致でエクレールアンをタブレットに収納した。


 エクレールアンは俺が拘り抜いて創造したコーチや空飛ぶ船や空飛ぶ絨毯と同じ乗り物として整理された。


 一本道を一キロメートル程歩くと、ドアに其の部屋と書かれた広さ十八平方メートル程の部屋があった。


 小さな宝箱の中には鶏が一羽と重量二千キログラムと書かれた紙が、大きな宝箱の中には卵が十二個と重量三千六百キログラムと書かれた紙が入っていた。


 鶏は、大魔石を一日に一個産卵するらしい。


 卵は、大魔石を一日に一個産卵する鶏の卵らしい。


 満場一致、悩む事無く卵十二個をタブレットに収納した。


 一本道を八百メートル程歩くと、ドアに亜の部屋と書かれた広さ十六万平方メートル程の部屋があった。天井の高さは輪の部屋と同じ五キロメートル。


 小さな宝箱の中にはエインシェント(古代)アイスドラゴン(氷竜)のフィギュアと愚者が踊るは氷のレクイエム(鎮魂曲)と書かれた紙が、大きな宝箱の中にはサブアイスドラゴン(亜氷竜)のフィギュアと自矜し舞うは氷のワルツ(円舞曲)と書かれた紙が入っていた。


 怪し過ぎる。宝箱の蓋をそっと閉め、一本道を二百メートル程進と、ドアに然の部屋と書かれた広さ二十四平方メートル程の部屋があった。


 部屋には真っ白なテーブルクロスが敷かれた大きなダイニングテーブルが一つと背もたれの高いチェアーが九つセッティングされていた。


「机と椅子があるしよぉー、茶にすんべ茶にぃー」


 父バイルにしては実にタイミングの良い気の利いた一言だった。俺達は、この部屋でブレイクタイムを取る事にした。


「俺ってぇーワインかコーヒーが血じゃぁーん」


 んな訳あるかよ。


「なんでコーヒーが切れっと夢と希望が恋しくなんだよぉー。つぅーことでぇっ!贅沢はいわねぇー俺は紅茶なぁ」


 ・・・あぁ~、禁断症状のオープンエロスは補充済だったな。


「了解。サラさんとサンドラさんは何にしますか?」


「私は温かい神茶をお願いします」


「ロイク様。オレンジジュースはありますか?」


「ありますよ」


「それなら私はオレンジジュースが良いわ」


「了解。ご注文を繰り返します。親父は紅茶で、サンドラさんは神茶ホット、サラさんはオレンジジュースですね」


「俺のはぬるめで頼むわ」


「了解。親父はぬるめな。冷めたら好きに飲んでくれ」


「お、・・・おう」


 タブレットから紅茶のホットと神茶のホットとオレンジジュースと神茶のホットと茶請けに工房ロイスピーの人気商品ベイクドチーズタルトをテーブルの上に取り出す。



 主に父バイルが食い散らかしたテーブルの上のゴミもタブレットに収納し片付けを終え調査を再開する段になって気が付いた。


 テーブルの中央に、水で出来た鍵が出現していた。


「左の鍵って名前の鍵みたいです」


 タブレットに収納した。


 一本道を二キロメートル程走ると、ドアに器の部屋と書かれた広さ八平方メートル程の部屋があった。


 タンスの中には妖精のおしごとの白い厨房服(せんとうふく)が九着と重量三百七十グラム×九と書かれた紙が、納戸の中には五十二年物のヴィンテージワインの樽五十リットルでは無く藁に包まれた腐った黒豆一本と重量百二十キログラムと書かれた紙が入っていた。


 妖精のおしごとの服が、俺達が良く知るあの妖精のおしごとの服であるならば、ここで回収する必要は無い。腐った豆は、KANBE下界の食べ物で納豆と言う発酵食品の一種らしい。


 美容と健康に良いらしいと伝えたところ、サラさんとサンドラさんが票を入れ、タブレットに収納した。


 我が家には、『女性優位』『女性優先』『女性優越』の不可侵が存在する。


 一本道を二メートル歩くと、ドアに癒の部屋と書かれた広さ十平方メートル程の部屋があった。


 赤い宝箱の中には肉とKANBE下界のKANBE(うし)のフィレ肉二百グラムと書かれた紙が、青の宝箱の中には玄米とKANBE下界のヴェニュス(まい)二十キログラムと書かれた紙が、黄の宝箱の中には貯水タンクと神聖水二トンと書かれた紙が、金の宝箱の中には黄金色に光り輝く粉が入った瓶と漆黒の粉が入った瓶と光の粉の瓶光の粉千トンと闇の粉の瓶闇の粉千トンと書かれた紙が入っていた。


 光の粉と闇の粉はコルト下界には存在しない貴重な物らしい。そんな貴重な物を千トンずつ貰える機会はそうそうないだろう。


 二千トンをタブレットに収納した。


 一本道を五キロメートル程走ると、ドアに芽の部屋と書かれた広さ三十六平方メートルほどの部屋があった。


 小さな宝箱の中にはハーフゴッドマネーとハーフゴッドマネー一千万枚重量三千トンと書かれた紙が、大きな宝箱の中にはハーフゴッドマネーとハーフゴッドマネー十万枚重量三十トンと書かれた紙が、巨大な宝箱の中にはハーフゴッドマネー十二枚と重量三十六キログラムと書かれた紙が入っていた。


 ハーフゴッドマネーを大量に所持している俺ではあるが、貰える物は気持ち良く有難く貰う。そんな俺と皆も同じ気持ちだったようだ。満場一致で、一千万枚をタブレットに収納した。


 魅の部屋のドアは、芽の部屋の中にあった。魅の部屋と書かれたドアの先には広さ四十九平方メートル程の部屋があった。


 グランドピアノの屋根を開けたが何も無かった。グランドピアノの鍵盤蓋を開けると羊皮紙のスクロールと重量六グラムと書かれた紙が入っていた。


 六グラムらしい羊皮紙のスクロールをタブレットに収納した。スクロールは、月に一度の晩餐会の献立集『銀河より愛をこめて』の名で整理されていた。


 死の部屋のドアは、魅の部屋の中にあった。死の部屋と書かれたドアの先には広さ四平方メートル程の部屋があった。


 本棚には重そうな本が沢山並び、勉強机の引き出しの中には一冊の本が入っていた。机の上に置かれた紙には、本棚の書籍は全て失われた知識『航空工学』、机の引き出しの中の書籍は未来の知識『終焉と誕生の点』と書かれていた。


 過去の知識は自力でなんとかなるかもしれない。未来の書籍をタブレットに収納した。


 一本道を百三十一メートル歩くと、ドアに焉の部屋と書かれた広さ十八平方メートル程の部屋があった。


 部屋には真っ白なテーブルクロスが敷かれた大きなダイニングテーブルが一つと背もたれの高いチェアーが九つセッティングされていた。


「これ、さっきと同じ事をすれば、鍵が出て来る感じですかね?」


「また茶かよぉー。ようたしに行きたくなったらどーしてくれんだよぉー。チッ、しゃーねぇーなぁー・・・もう一杯っ!」


 片付けていると、火で出来た鍵が出現していた。


「右の鍵って名前の鍵みたいです」


 タブレットに収納した。



 ドアの先には、道が四本あった。


「おっ!思い出したぞぉー。ここはな左から全部行きゃーその内攻略出来んだろうって左に行ったら階段があってなぁっ!降りたらラストフロアで高級家具屋だったんだよぉー。すんげぇーだろうっ!」


 あのソファーか。


「ロイク様。バイル殿。サラ。ふと思ったのですが、十四の文章を検証するにしても、各部屋の宝箱や貴重品を回収した後では、手遅れではないでしょうか?」


 焉の部屋の状況を最後まで確認していたサンドラさんが、部屋の中から部屋の外に居る俺達に向かって衝撃的な言葉を口にした。


 何がどれだけあったのかは分かっている。だが、消えてしまった物をどうこうする事は出来ない。確定してしまった現状で文章を検証する意味はあるのだろうか?


 一応、整理してみるか。


「親父は前回の調査時に、大弓が一挺五キログラムと、ソファーが一台重量不明と、ワインの樽が一樽五十キログラムが二樽と、羊皮紙のスクロール一枚重量不明を回収した。他にも沢山宝はあったが、親父のファルダガパオは五百キログラムが収納の限界だった為、諦めた。・・・親父、重量が合わないんだが」


「華麗な弓捌きで狩った獲物だろうぉー。愛用の(ゆみ)ちゃぁーんだろぉー。それに矢筒と矢とナイフと飯と水と回復用の道具と罠だろうぉー。・・・あぁー三日分の下着と楽しい楽しいぃーキャンピングセットもだなぁっ!」


 父バイルは、指を折りながら答えた。


「一本くらい・・・私の聖剣一本くらいの余裕はありそうなのですが」


「ホラ俺ぇー剣で頑張っちゃってた訳よぉー」


 サンドラさんは、俺が貸した剣を右の腰に帯剣している。その剣に右手を添えながら、素振りを繰り返す父バイルを見つめていた。


「華麗な弓捌きで狩ったのですよね?」


「サラ姫さんよぉー。言葉の綾って知ってっかぁっ?」



 父バイルの話をまとめると、ここ氷鏡の迷宮仮の名に聖剣ローランを装備し挑んだ。ラストフロアーで家具を物色していたら魔獣に囲まれていた。聖剣では殲滅速度に限界を感じ装備を弓矢に切り替えた。聖剣を何かに立て掛けたところまでは覚えている。殲滅が完了すると魔獣の中にボスが紛れ込んでいたらしく強制排出が開始された。慌てて良いなと思っていたソファーにダイブし抱き着いた。父バイルの予想通りソファーも一緒に強制排出されていたのでファルダガパオに収納して帰還した。


「あっ、サンドラッチぃー」


「はい」


「これ、けぇーしとくわぁっ!」


 父バイルは、ファルダガパオから銀色に輝く鞘を取り出した。


 サンドラさんは、鞘を見て目を大きく見開いたがそれは一瞬だった。


「・・・・・・聖剣ローランの鞘」


「ねぇーよりはましだろぉっ!」


 父バイルは、笑顔で聖剣ローランの鞘を、サンドラさんの前に差し出す。


 サンドラさんは、静かに鞘だけを受け取った。


「えっと、十四の文章とラストフロアー。叔母様。ラストフロアーに行けばきっと聖剣ローランの手掛かりがあるはずです。・・・気を落とさずに」


「だなぁっ!」


 親父、やっぱり本物過ぎるわ・・・。親父が答えちゃダメだろう。


 十四の文章について何の話合いもしないまま、俺達は一番左側の通路を進んだ。聖剣ローランを求めて。

ありがとうございました。

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