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このKissは、嵐の予感。(仮)   作者: 諏訪弘
―ララコバイア編ー
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4-60 氷鏡の迷宮~第二層①~

 闇の迷宮の一つ仮名『氷鏡の迷宮』地下迷宮の第二層へと移動した。


「そうそう思い出して来たぜぇ―。三本道があんだろう、これ右と左はでっけぇー円になってるみてぇ―で繋がっててよぉ―。正解は何と真ん中の道だぁっ!」


 左右が繋がってるなら、凡そそうなるだろうな。


 父バイルへと視線を動かす。


 ファルダガパオに右腕を突っ込み何かを取り出そうとしている。


「んでよ、これがこの先のピアノの中で見つけた奴だなぁっ!」


 ピアノ?・・・スクロール?


「バイル様。それは、魔術のスクロールでしょうか?」


「おっ、何だぁ―サラ姫さん欲しいのかっ!欲しいんならやんぞ」


 父バイルは、スクロールをサラさんに手渡した。


「あ、えっ。・・・宜しいのですか?」


「宜しいも何も意味分かんねぇ―もん持ってても意味ねぇ―し良いんじゃねぇ―」


「は、はぁ~・・・ありがとうございます」


「で、何て書いてあんだよぉっ!早く教えてくれよぉーサラサラぁ―」


 父バイルは、内股で腰をクネクネ動かしながら、サラさんに近付き上目遣いで訴えた。


 ・・・キモ。


 サラさんは、スクロールを開き内容を確認する。


「・・・古代語かしら?叔、サンドラ様分かりますか?」


 サンドラさんは、サラさんの左隣りへ移動すると、スクロールを覗き込んだ。


「古代語ですね」


 古代語か。そうなると読める人は今のコルト下界にはいないって事か。


「あん?だからぁっ!」


「私達には読めません」


「バイル殿。これを解読出来る者はいないと思われます」


「な、何でだよぉっ!」


「古代語だからです」


 そろそろ、俺の出番だな。


「タブレットに収納すれば自動で解読処理されるはずだけど」


「ダメだぁっ!おめぇ―にはくれてやらん」


 どうしてそうなる。・・・ダメだ。親父の思考にどうしても着いて行けない。


「欲しけりゃ俺が死んだ後相談すんだなぁっ!」


 神授で時間の理に干渉されましたよね。死ぬの数千年は先ですよね?あぁ~頭がぁ~・・・。


「俺は当分死なねぇーけどなっ!!!はぁーん!!!」



・・・・・・・


・・・・



「ロイク様。ロイク様と私の共有スペースに収納した場合、タブレットはどの様に反応しますか?」


 あぁ~・・・訳の分からない親父の言葉で腐りかけた脳が癒されるぅ~。サラさん、ありがとう。


「ロイク様?」


 お、おっと。えっとタブレットの収納と分析の話だったな。


「聞こえてます聞こえてます。えっとですね、管理と整理はオートなんで、収納したらどんな物でも必ずオートで分析されるはずです」


「あ―――ぁっ!!!き、きったねぇ―ぞサラサラぁっ!ダメだダメ絶対ダメだぁっ!」


「寿命が有るのかすら分からないあれの死を待ってたら日がくれちゃいます。早速お願いします」


「はい」



 タブレットの画面には箇条書きで十四個の文章が並んでいた。


 なんだこれ?


「MRアイズに表示させます」


「「はい」」

「おう」


 父バイルは、サラさんとサンドラさんの声を掻き消すかの様に大きな声で元気良く返事した。


 ・・・うん。深く考えたら負けだ。


 ()の部屋、小なる宝の箱には夢、大なる宝の箱には無理。


 ()の部屋、小なる宝の箱は重、大なる宝の箱は軽。


 ()の部屋、小なる宝の箱は大、大なる宝の箱は小、巨なる宝の箱は食。


 ()の部屋、小なる宝の箱は小、大なる宝の箱は大。


 ()の部屋、小なる宝の箱は進、大なる宝の箱は滞。


 ()の部屋、小なる宝の箱には鳥、大なる宝の箱には卵。


 ()の部屋、小なる宝の箱には大なる絶望、大なる宝の箱には小なる絶望。


 ()の部屋、机に並ぶは一日の始まりの糧。


 ()の部屋、箪笥は軽、納戸は重。


 ()の部屋、赤の宝の箱は二百、青の宝の箱は二十、黄の宝の箱は二、金の宝の箱は二千。


 ()の部屋、小なる宝の箱には蓋然性、大なる宝の箱には必然性、巨なる宝の箱には確実性。


 ()の部屋、グランドピアノの屋根を開け、羊皮紙のスクロールは導く、グランドピアノの鍵盤蓋を開け、羊皮紙のスクロールは持成す。


 ()の部屋、本棚は失われた過去、勉強机の引き出しはまだ見ぬ未来。


 ()の部屋、机に並ぶは一日の終わりの糧。



 十四個の箇条書きについて話をしながら、真ん中の道を進む。六百メートル程歩くとドアに輪の部屋と書かれた広さ十五平方メートル程の部屋があった。


「天井が見えません」


「やっぱりそうだぁっ!サンドラッチから借りた聖剣はこの迷宮の中にあるっ!ある方に百ネールだぁっ!」


 親父は放っておくとして、・・・ホント高いな。


 天井を見上げ神眼Ⅲを意識する。


「サラさん、この部屋の天井ですが五キロメートル以上も先にあるみたいです」


「五キロメートルですか・・・迷宮に常識は通用しないのですね」


「なぁロイクゥ―。ちょっち暗くしてくれぇっ!反射して眩しぃー」


「ロイク様。私達は地下に居るはずです。これはいったいどういう事なのでしょうか?」


 サンドラさんは、長い望遠鏡を使い天井を見上げている。


 光が乱反射してて、望遠鏡で天井を確認するのは無理かな。


「普段から望遠鏡を持って歩いてるんですか?」


「なぁロイクゥ―。お目目がチカチカするよぉー。ちょっち暗くしてくれってばよぉー」


「剣の修行に望遠鏡は欠かせません」


「・・・そうなんですね」


 へぇ~。深く考えるのは止めておこう。


「なぁロイクゥ―。頼むよぉー。ちょっち暗くしてくれよぉー」


 ・・・何なんだよさっきからもううるさいな。


 自然魔素(まりょく)を抑え空間全体を照らす光の量を減らす。


「・・・これで良いか?」


 これで、静かになってくれたら有難いんだが、


「おう。でだ、どうすんだよぉっ!スクロールに書いてあった通り宝箱は二つだぁっ!」


 無理そうだ。


「小さい方は夢、大きい方は無理。これどう言う意味だと思いますか?」


 サラさんは、胸の前で腕を組みながら、箇条書にされた文章の意味を思考している。


 おっ、


 ・・・凝視。


 違う違う。ばれる前に宝箱へ視線をぉ~、


「ロイク様。ロイク様も真面目に考えてください」


 お~っふ。


「す、すみません。つい出来心で目が・・・、ハハハハ」


「何をやっているのですかサラ、ロイク様。遊んでる暇はありませんよ。ちゃんと考えてください」


 サンドラさんもまた胸の前で腕を組み、浪漫をって事は無い。サンドラさんは軽装ではあるが鎧を装備している。


「そうだぞぉーロイクゥーサラサラァー。サンドラッチもそうだが俺のこたぁーどーでも良い。そのまま続けてくれていいぞぉー。うん」


 父バイルは、サラさんの夢と希望を堂々とガン見していた。


 母さんに言ってやる。


「オーゥイェーイ。良いよ良いよぉー。・・・、うーん良いねぇー。カァーたまんねぇなこんちくしょーっ!!!・・・。良いよ良いよぉー実に良いねぇー」


 父バイルは、ニヤニヤと鼻の下を伸ばし、音の鳴らない口笛を吹きながら、父バイル曰く漢の浪漫をガン見している。


「バ、バイル様。視線がいやらしいのですが」


「あぁー、お構いなく、見てるだけなんでぇー」


『おいロイク』


 頭の中に父バイルの声が響く。


『親父!これ、レソンネでも念話でも無いよな。いったい』


『んなこたぁーどうでも良い。おめぇーのせいで気付かれちまったじゃねぇーかよまったく』


『何にだよ』


『もっとちゃんと暗くしろよぉー』


 さっきまでの明るさの半分位だぞ。十二分に暗くなったと思うんだけど・・・。それよりも、


『だから、何に気付かれたんだよ』


『これだからおめぇーは青いヒヨコって言われんだよぉー』


 青いヒヨコ?・・・言われた覚え無いんだが。


『しゃーねぇーなぁー!!!父親としてロイクおめぇーに狩人としての正しいあり方ってもんを教えてやる。良く見ろぉっ!神眼が有んだ俺よか見えんだろぉー』


『言ってる意味が分かんないんだけど』


『サラ姫さんの足元とサンドラッチの足元に決まってんでしょうがぁー。さり気なくださり気なく良いなぁっ!』


 足元?


 視線だけを、サラさんの足元へ動かす。


 ブッ・・・。


『まだまだお子ちゃまだよなっ!ピンクだぜピンクありだけどなぁっ!』


 ・・・こ、こいつ。この迷宮に入ってからサラさんとサンドラさんの足元を妙に見てるなと思ってたが、覗いてたのか。


『この部屋に入ったら反射の間隔が短けぇーのかまぁー理由は知んねぇーけど眩しくてよぉー。サンドラッチの純白のパンティーが見難いのなのってなぁっ!』


 ・・・そう言えば、「下心のねぇーオープンエロスは存在しねぇー。愛は下心の果てにある」とかってドヤ顔で言い切って、母さんに何処かへ連れて行かれてたな。もう一度母さんに、


『良いかこの事は一人前の狩人同士墓まで持ってく覚悟でさり気なく克堂々とチラ見するんだぞ、分かったかぁっ!』


 俺は何も言わずに、自然魔素(まりょく)を解放し、光度を元の状態に戻した。


「お、おいこらぁっ!邪魔すんな馬鹿野郎ぉー何してくれてんだよぉー」


 ・・・男なら少し位スケベな方が良いと思う。大切な事だとは思う。だが今じゃない。親父が見て良い訳が無い。絶対にこれはアウトだ。


「・・・母さん」


 小さな声で呟いた。


「で、何かなロイク君」


 切替はやっ!


「ロイク様。急に明るくなった様なのですが、バイル様はもう宜しいのですか?」


「えぇ、親父のやつならもう十分楽」

「あああぁぁぁ―――思い出したぁっー!!!その、・・・その宝箱の中身は金属だったぞぉー」


 何故に棒読み。わざとらし過ぎるだろう。


「バイル殿。そんなに大きな声を出さなくても聞こえます」


「お、おう。・・・い、今、おめぇー達はあそこにある宝箱の中身が知りてぇはずだ。そして俺はそれを知っているぅっ!」


「宝箱の中も気になりますが、箇条書きになった文章の方が気に」

「そ、そうそうそうその通りだぁっ!サラ姫さんも気になるよなぁー、うん!なぁっなぁっ!!!」


 父バイルは、サラさんの言葉を遮り、無理やり言葉を続ける。


 何がやりたいんだ。親父のやつ・・・。


「うーん。・・・・・・」


 何だ。次は唸り出したぞ。


「バイル殿?」

「バイル様?」


 視線を二人の足元へと交互に動かす。父バイル。


 ・・・親父。



 突然。


「この迷宮の宝箱の中身は嵩張るもんばっかでよぉー」


 父バイルは、しみじみと語り始めた。誰も聞いていない事を。


「この前、回収したもんを見せてやろうぉー」


 父バイルは、ファルダガパオから大弓と高そうなソファーと五十リットルの樽を二つ取り出した。


「無理矢理連れて来られたもんだからよぉー。入れっ放しだった訳よぉー。結果オーライで良かった良かったぁっ!!」


 出来る事なら連れて来たくなかったけどな。


「箇条書きの文章を読む限り、宝箱や価値の高い物が沢山ありそうなのですが、回収したのはそれだけなのですか?」


「おう。任せとけぇっ!サンドラッチ」


 父バイルは、ドヤ顔でサムズアップをキメていた。


「「「・・・」」」


 ダメだ。話が進まない。


 サラさんと視線を交わし、頷き合い。サンドラさんと視線を交わし、頷き合い。



 沈黙が十カウン()だけ続く。


「・・・はぁー。分ぁーったよぉっ!俺の負けだ負けぇっ!負けで良いぃー」


 父バイルは、短い沈黙に我慢出来なかった様だ。再び語り始めた。


「この迷宮の宝箱なぁー、中身を取り出しちまうと他の宝箱が消えるみてでよぉー」


「消える?」


「ああ。俺ってでかいのが好きだろうぉー」


 は?・・・消える話はどうなった?


「だからでっけー方開けた訳よぉー。売れそうな金属の塊が入ってたんだけどなぁっ!おもてぇーわでけぇーわ入んねぇーわってなぁっ!男っつぅーもの諦めが肝心だろうぉー、んで、諦めて先に進んだってこったぁーガッハッハッハッハ」


 要するに、大きな宝箱の中に金属の塊が入ってて、その金属は大きくて重くてファルダガパオに入らなかった。諦めて攻略を再開した。って、事だよな。


「それで、宝箱が消えたって言うのは」


「だから言ったでしょー。気分が諦めモード一直線だったからよぉー。スコーンって感じだぁっ!次の部屋のでっけー方にこの大弓が入ってたから手に取った訳だぁー。そしたらちっちぇー方の宝箱が消えったって訳よぉー」


 要するに、輪の部屋の小さい宝箱については忘れてしまってスルーした。歌の部屋の小さな宝箱ついては大きい宝箱の中に大弓が入っていたからそれを回収したところ消えてしまい調べる事が出来なかった。って、事か。


「宝箱がどんな感じで消えたのか覚えてたら教えて欲しんだけど」


「シューって感じだなぁっ!本棚もピアノもシューって感じで消えたぞぉー。堅苦しぃー本とか読む気ねぇーし、本棚から適当に取った本は捨てちまったけどなぁっ!ガッハッハッハッハ」


 シューって感じか・・・どんな感じなのか想像出来ないんだが。


 サラさんとサンドラさんは何も言わずに静かに父バイルの話を聞いていた。反応出来ずにいるだけかもしれない。


「本よかこっちの方が人生楽しめるってなぁっ!」


 父バイルはファルダガパオから取り出した高そうなソファーに腰掛け、ワインの樽に両脚を乗せ、もう一つのワインの樽を左手でバンバンと叩いて見せた。


「ガッハッハッハ。ソファーは座れんだろうぉー。まぁー床でも良いんだが。樽はこっちが五十二年物すげぇーだろうぉー。飲んだことねぇーから分かんねぇーけどなぁっ!んでもってこっちが五十四年物のワインだぁーすんげぇーだろうぉー。たぶんぜってぇーうめぇーっ!!!カァ―――。チッ、これは持ってけぇーるしかあるめぇー」


 ガハガハ笑い、五十二年物の樽をバンバン叩き、五十四年物の樽をゴンゴン蹴り、楽しそうなところ悪いんだが。


「親父、寛いでるところ悪いんだけど、ファルダガパオに収納したら調査を再開するぞ」


「宝箱が消えると言う話だったのですよね?」


 サラさんの頭上には疑問符が幾つも浮いているようだ。


「一応、そうですね。結局、良く分かりませんでしたが」


「バイル殿は弓の英雄です大弓を回収したのは分かります。ですが、ソファーやワインは町でも手に入ります。嵩張る物ばかり回収している様に思えるのですが何故でしょうか?」


「あ”っ?サンドラッチ。話聞いてなかったのかぁーダメでしょーがぁー。ハァー・・・・・・ぅん、サラ姫さんサラ姫さん」


「はい」


「サンドラッチのこたぁー任せたぁっ!」


「は、はぁ~」


「にしてもおめぇー等さっきから大弓とソファーと樽の話ばっかしてっけどよぉー。さっきサラ姫さんにやったスクロールも俺が回収したもんでしょー、感謝が足りぃーん。何かして貰った時は何つぅーか知ってかぁっ!あん!あーっ!」


 役に立ちそうな物が沢山あっただろうに。



・・・・・・・


・・・・



「ロイク様。スクロールに書かれた箇条書きなのですが、部屋を全て確認してから考えた方が良いかもしれません」


「私もサラの意見に賛成です。大小重い軽いの意味は分かりますが、それ以外の意味が分かりません。調査を進めてから検討するべきでしょう」


 ザ、冒険って感じで何だか楽しくなって来たぞ。


「おめぇー等なぁー。いったい何しにここに来たか覚えてんのかぁー。良いかぁっ!一に聖剣ローラン様、二に聖剣ローラン様、三も四も五も六も聖剣ローラン様だ分かったかぁー。付き合ってるこっちの身にもなってくれよぉー、キビキビチャキチャキ動けっ!働けぇ!それと、もし聖剣ローラン様が見つかたら俺の一人勝ちだからな覚えておくようにぃっ!!!」


 父バイルの話を無視し、サラさんとサンドラさんと俺は話を続けた。



「おい。聞いてんのかぁっ!」


「「「・・・勿論」」」

ありがとうございました。

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