4-58 聖剣ローランを求めて
この迷宮にも興味はある。だが、今は父バイルが足を踏み入れた事の無い闇の迷宮に用事は無い。今、俺達が求める闇の迷宮は父バイルが聖剣ローランを置いて来てしまった迷宮のみ。
その迷宮が六百九十一分の三でメア下界と繋がっていたとしたなら尚の事結構。実に有難い。
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コルト下界に六百九十一個存在する闇の迷宮の中で唯一の固定タイプの迷宮創造神様が命名した『名を持たざる歪みの森の迷宮』とこの迷宮。後
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「六百八十九個・・・か」
「ロイク様。最高六百八十九回最低後一回繰り返すだけで叔母様じゃなかったサンドラ様の聖剣ローランですね」
「そうなりますね」
「サラ姫さんサラ姫さん。名を持たざる歪みの森の迷宮だけ何で名めぇ―があんだぁ?」
「え?・・・分かりません」
「バイル殿はこの迷宮にも名があった方が情報を共有する上で効率が良いとお考えなのですね」
「ぅお、おう。名めぇ―はあった方が・・・あぁ―良いなぁっ!」
親父・・・、今、違うこと考えてたよな。
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所詮仮の名前である。悩むだけ時間の無駄だ。一つ目のこの迷宮には特徴そのままで『正六面体の迷宮』と仮の名を付けた。
それにしても、トゥーシェと調査したあの闇の迷宮。マーキングしておけば良かった。名付けは何時でも出来るんだけどなぁ~。
俺は後悔していた。
何故なら、あの闇の迷宮にはメア下界の存在が居たからだ。メア下界の悪魔種が居たと言う事は六百九十一分の三の可能性が非常に高い。
はぁ~、勿体ない事したなぁ~。・・・今回は忘れずにマーキングマーキングっと。
神授スキル【マテリアルクリエイト】...... ...... ≫
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あれ?
―――十ラフン後
マーキング完了っと。
描いた先から魔力陣の自然魔素が宙に飛散して魔力陣そのものが消えて行く。そんな場所が存在するだなんて思ってもみなかった。良い経験になったよ。
「これで、いつでも好きな時にこの迷宮に入れる様になりました。さっきのポイントに戻すんで合図したら①からでお願いします」
「「・・・はい・・・」」
サラさんとサンドラさんは、四十二.一九五メートル程離れた場所にあるこの部屋唯一のドアの前に膝を突きドアの隙間から外の様子を窺う父バイルに視線を残しながら、返事をした。
さっき話したばかりなんだけどなぁ~。はぁ~。
「≪『親父、いったい何をやってるのかな?』→バイル&サラ&サンドラ≫」
ここは何が起こってもおかしくない闇の迷宮の中だ。まだ一層目ではあるが大きな声を出すのは好ましくない。神授スキルへと上位進化した【レソンネ】で話し掛けた。
「あん?見りゃ―分かんだろうがぁ―」
おい。・・・レソンネで話掛けた意味が無いだろう。
父バイルは、とっても良く通る大きな声を始まりの部屋に響かせた。
「≪『見つかるだろう。レソンネで返事するか、声のヴォリュームを落としてくれ。それと、ついさっき話したはずなんだけど覚えてるよな?』→バイル&サラ&サンドラ≫」
「あ”っ?何をだよぉっ!!!」
・・・通じて無かったよぉ~。
「≪『この迷宮の調査は、聖剣ローランを回収た後で、親父が好きな時に好きなだけ一人でやって良いって言ったよな?』→バイル&サラ&サンドラ≫」
「おう。任せとけぇっ!・・・しっかしぃ―勿体ねぇなぁ―。この迷宮す・ん・げぇ―・・・ん・だ・ぞ・・・・・・やべぇっ!」
何故、急に小声に?
父バイルは、突然声のヴォリュームを落としヒソヒソモゴモゴ話始めた。
「あぁ―、これ、マジでやべぇ―奴だぁっ!」
父バイルは、六メートル程後方に飛び跳ねドアの前から離脱した。
「バイル様!?」
「バイル殿!?」
サラさんとサンドラさんは、父バイルの突然の行動に驚きながらも、剣を抜き身構えた。
あぁ~なるほどぉ~・・・、捕捉されたのか。もうレソンネで話す必要はないな。
「親父。早速やってくれたな」
「お、おう。任せとけぇっ!」
反省・・・する訳ないか。羞恥心と一緒に忘れて・・・。おっと、それよりも今はドアの向こうだな。
神眼Ⅲを意識しドアのある方を視認する。
マ・ジ・か・よ。・・・親父めぇ~。
「バイル殿、相手はいったい?」
「ロイクッ!サンドラッチ。サ・・・あぁ―サラサラで良いかっ!やべぇ―もんが来んぞぉっ!」
俺の眼には、ドアの向こう側で活発に動き回るエモーションシーコンコンブルが三匹見えていた。
マーキングが終わってて良かった。さてと撤収するか。
「サラさん。サンドラさん。ドアの向こう側にエモーションシーコンコンブルが三匹居ます。しかもとっても活きが良いみたいで活発に動き回ってます」
「攻撃が通じないあれが三匹もですか!」
「魔術が通じないあれが三匹もですか!」
「ロイク様。捕捉される前にここから脱出しましょう」
どうやらサンドラさんは俺と同じ意見の様だ。って、当然か。
「バイル様。脱出します。こちらへ」
サラさんは、父バイルに声を掛けた。
俺の周りって、優しい人が多いかも・・・。まぁ~、一個所に集まらなくても神授スキル【フリーパス】や【転位召喚・極】は発動するけどね。今回は、
「【フリーパス】で親父が見つけた二つ目の入口の前に移動します」
「「はい」」
「お、おう。あっ!!!」
大きな声を出しその場に立ち止まる父バイル。
「バイル殿?」
「バイル様?」
「親父?」
「あっ、えっとなぁっ。ホラッさっきちっとばっかし悩んでサラサラって呼んだだろうぉ―。思い出したんだよ、あっサラ姫さんだ。ってなぁっ!」
「「・・・・・・」」
・・・はぁ?
≪バッバァッン バリバリバリドドドドド
その時だった。ドアが吹き飛び、ドアの周囲の壁が崩れ落ちた。
そして、ドアと壁だったはずの場所からエモーションシーコンコンブルが侵入して来た。
三匹、列になって。高速でウニョウニョしながら。
「う、動きが・・・スムーズなモゾモゾって気味が悪いです」
「俊敏な芋虫。・・・俊敏なナマコでしたね。中身が噴き出していなくてもグロさが伝わって来る様です。ロイク様、サラが怯えています。転位を急いでください」
サラさんとサンドラさんは、顔を顰めながら俺の顔を見つめ何度も小刻みに頷いていた。
サラさんがって言うか、サンドラさん・・・。ま、いいか。
「お、お、おぉいっ!。どうすんだよ、あれぇっ!!!」
・・・しっかし毎度毎度よくもまぁ~飽きもせずにやってくれる。う~む、あっ!
「親父!」
「あん?」
「ここの調査したいんだよな?」
「ったりめぇよぉ―」
「そっか。それなら、俺達は聖剣ローランの調査に戻るけど、親父はここの調査してても良いぞ。家に帰ったら強制召喚してやるからそれまで自由に調査してて良いぞ」
「おっ、そっかぁっ、おめぇ―たまには良い事ぉ―――・・・ちょ、ちょっと待てよぉ!おめぇ―ち、ち、父親を捨てるきかぁっ!」
捨てるだなんて人聞きの悪い。寧ろ気持ちを優先してると思うのだが。
「・・・サラさん。サンドラさん。これ以上は危険です。移動します」
「おいこらぁっ!置いてってみろよぉ―、親兄弟末代まで呪ってやっからなぁっ!覚えてろよぉっ!」
親!?親って・・・・・・。本物の馬・・・あぁ~今は取り合えず、
神授スキル【フリーパス】...... ...... ≫
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父バイルが二回目の後動いてしまった事で発見した二つ目の闇の迷宮には『正六面体二十七の迷宮』と仮の名を付けた。
この迷宮もスタート地点が正六面体だった。二十七と数字を加えたのは、部屋の中心から唯一のドアまでの距離が二十七メートルだったからだ。
マーキングを施し、ランダムワープを繰り返す。
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・ 九回目
「おっ!またあったぞぉっ!」
「≪『親父が九個目の入口も見つけました』→サラ&サンドラ&バイル≫」
「≪『またですか!?』→ロイク&サンドラ&バイル≫」
父バイルは、九回連続で闇の迷宮の入口に遭遇している。
「≪『またです』→サラ&バルサ≫」
「≪『凄い引きですね。コツでもあるのでしょうか?』→ロイク&サラ&バイル≫」
「おう。任せとけぇっ!ハッハッハッハッハ」
闇の迷宮に運良く?遭遇するコツ何て無いと思いますよサンドラさん。それに親父、さっきから俺にしか聞こえてないからな。まぁ~たとえ聞こえていたとしても会話になってないし、耳障りに思われないだけましかもな。
それにしても分からない。親父はレソンネじゃないのにどうして俺の頭の中に直接話し掛ける事が出来る?
分からない。それが出来るのにどうして迷宮内では大きな声を出す。
分からない。分からない事ばかりだ。
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今俺は十六個目の闇の迷宮のスタート地点に一人で居る。
そして、ラビットウルフ百匹以上、ラットウルフ三百匹以上が、数に任せて絶え間なく体当たりして来るだけの単調な戦闘の真っ最中である。
俺の周囲をオートで展開している結界は聖属性の精霊魔法レベル九の【オート・サンミュール】。精霊魔法でありながら神獣となったエリウスの渾身の一撃をもってしても傷一つ付ける事が出来ない結界だ。
結界に体当たりし続ける魔獣達が非力過ぎるせいか魔獣達にも結界にもノーダメージが繰り返されている。
通路は全部で五つ。天井の高さは三メートル弱。空間の広さは約十五平方メートル。動きを封じて一匹ずつ狩るしかないか。
手頃な範囲攻撃を持ち合わせていない俺は諦めて単調作業を繰り返す事にした。
―――三ラフン後
ふぅ~、やっと終わった。さてと、皆を呼ぶか。
「≪『フリーパスで移動させます』→サラ&サンドラ&バイル≫」
神授スキル【フリーパス】...... ......≫
ありがとうございました。