4-55 新迷宮⑩+2~夕食の間②~
夕食の間の大きな円卓の上には、父バイルが懐から取り出した金細工のメダルが置かれている。
「メダルですか?」
「あぁ―。たぶん勲章だなぁっ!」
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「見た事の無いデザインです」
「おっ、ならこりゃ―旧教から貰ったもんだなぁっ!」
サンドラさんに父バイルを任せ、神眼Ⅲを意識しアクセサリーを確認する。
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【ネイム】ゼルフォーラ王国士爵騎士爵位勲章
①叙爵と同時に叙勲される勲章
②式典祝賀出席時着用義務
【アクセサリー】金細工のメダル
【マテリアル】十八金・ブラックオパール
短角魔牛の上皮革・金刺繍糸
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「親父。サンドラさん。それ、ゼルフォーラ王国の士爵か騎士爵を叙爵される時に叙勲される『士爵騎士爵位勲章』らしい」
「おっ!ならこりゃ―ゼルフォーラ王国から貰ったもんだなぁっ!!!間違いねぇっ!・・・う~んでもおっかしんだよなぁ―。あん時ぃ―三つか四つこんな感じのもん貰った覚えがあんだよなぁ―」
父バイルは、尻をボリボリと掻き乍ら、金細工のメダルから母さんへと視線を移した。
「あなた、私に聞いても無駄ですよ」
「メアリーの言う通りです。私達女性王族は式典や閣議への参加が厳しく制限されている為、天爵や公爵の叙爵式典等余程の事がない限り公の席に姿を見せる事はありません」
色々なルールがあるもんだなぁ~。
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士爵騎士爵位勲章の事を知らなかったのは、サラさんもサンドラさんも母さんも下級貴族の為の式典に出席した事が無かったからだった。
そして、ゼルフォーラ王国では騎士爵位を叙爵された者は例外無く騎士号を授与される。騎士号を授与された者は、騎士号の紋章を優先し着用する義務があるそうだ。この優先義務も知らない理由になっていた様だ。
因みに、俺は、最初から男爵位を叙爵された為、勲章を貰っていない。『男爵位勲章』『子爵位勲章』『伯爵位勲章』なるメダルは存在しない。沢山存在する士爵騎士爵を見分ける為に士爵騎士爵位勲章は存在する。そんな気がした。
「それで、その士爵騎士爵位勲章がどうかしたのか?」
「似てっと思わねぇかぁ―?」
「何に?」
「あっ?その生臭ぇ―何かにに決まってんだろうがぁっ!」
父バイルは、士爵騎士爵位勲章の金細工の中央に嵌め込まれたブラックオパールと魔獣の核に似た何かを交互に指差した。
「似てはいますが、メダルのはブラックオパールですよね?」
「ブラ!?・・・ブラックオパールだぁ―?」
「はい。バイル様。その宝石はオパールです」
「マジかよ・・・・・・良かったなぁっ!ロイクゥ―、サラ姫さんに感謝すんだぞぉ―」
何が良かったのか良く分からなのだが。それにサラさんに限らず常日頃から皆には感謝の気持ちでいっぱいです。それは置いといて、
「良かったって、いったい何の話をし......」
「あっ?だからよぉ―。その生臭ぇ―何かがオパールだって分かっちまった事に決まってるでしょ―がぁ―。確りしてくれよぉ―」
はぁ?何、言ってるんだ?
「......てるんだ。その核に似た何かは宝石じゃないぞ」
「はぁ―ん?」
はぁ~ん。って、何度も言ってるだろう。"unknown"だって。
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結局、父バイルのゼルフォーラ王国から貰った士爵騎士爵位勲章を、生臭い夕食の間で見ただけだった。
二十四年間生きて来て初めて見せて貰った身分証以外で父バイルの爵位を証明する物。
「ねぇロイク」
「はい、何でしょう」
「士爵は、貴族の身分では一番下なのよね?」
「ゼルフォーラ王国ではそのはずです」
「とても希少なブラックオパールを一番下の者に与える何て凄いわね」
「はいマルアスピー様。私もそう思います」
パフさんは、マルアスピーの意見にはほぼ百パーセントで同調する。
「でも、ブラックオパールには曰く付きが多いの」
「な、・・・なぁ―大精霊のアスピーさんよぉ―。この勲章って呪われてんのかぁっ!?」
「義理の御父様は大丈夫よ。ブラックオパールは十月生まれの人間種以外が所持すると不幸や厄災を齎し死に至らしめると言われているの」
父バイルの誕生日は十月十九日だ。
「あのぉ~マルアスピー様。ブラックオパールは十月生まれ以外の者は持たない方が良いのですよね?」
「その通りよサラ」
「叔母さじゃなかったサンドラ様。国に伝えた方が良いですよね?」
「そうですね。この件は私から父上に報告を上げておきましょう」
「お願いします」
「それと、サラ。早く慣れてくださいよ」
「努力致します」
「綺麗にまとまったね。さて、その生臭い魔獣の核に似た何かは何処かに捨てて来るね。もう要らないね」
捨ててどうする。捨てて・・・。
≪スゥ―
chefアランギー様が夕食の間に現れた。
「おんや。これはこれは何とも生臭いですなぁ~。はい」
「待ってたんですよ。それ何か分かりますか?」
「それと言いますと。これの事ですかな?」
「フォルティーナの神眼でも"unknown"何ですよ」
「然もありなん。創造神様より罰を与えられている最中のフォルティーナ様はコルト下界に於いて神格を持った神でしかありませんからなぁ~」
「それで、それが何か分かりますか?」
「神具の欠片の様ですぞぉ~」
「「「「「「えっ?」」」」」」
マルアスピー、パフさん、アルさん、サラさん、サンドラさん、そして俺の声が綺麗にハモった。
「アランギー。本当かね」
「ゴルゴンゾーラおっとKANBE下界の食べ物と似ているようですが少し違うようですなぁ~。どうやらゴルゴ―ンと言う真実の一つのようですぞぉ~」
このタイミングでゴルゴ―ンの真実!?
「ロイク様。白色の腕輪が進化するかもしれませんね」
「ですね。アルさん」
「良かったですね」
「ふむふむふむなぁ~るほど。ですが今は無理ですぞ。フォルティーナ様の神気に反応し本来の姿を現す仕様になっているようですからぁ~。罰の間は保留と言う事になります。はい」
「人生色々だね。過ぎてしまった事をクヨクヨと悩んでも意味が無いね。人間前を向いて適当に生きるべきだね。そ、そうだね。その生臭いゴルゴ―ンの真実の欠片はアランギー、君に預けたね。責任を持って管理するね」
「私が管理するのですか?」
「そ、そうだね。決定だね」
「構いませんが、・・・パトロン殿や奥方殿方はそれで宜しいのですかな?はい」
「今は、そのままで何も出来ないんですよね?」
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chefアランギー様は俺の質問に対し丁寧に答えてくれた。
「ところで、chefアランギー様。この"unknown"なんですが、親父が言うには、ボンバーシーコンコンブル。たぶんナマコの仲間らしいんですが、これが何か分かりますか?」
俺は、タブレットの画面に映した。たぶんナマコを見せながら質問した。
「おんや。コルト下界にも生息していたとは驚きですぞぉ~」
「おっ、何だ何だぁ―。chefゥ―はボンバーシーコンコンブル見た事あんのかぁっ!」
「これは、メア下界の魍魎域と神界の神域の境界【冥域】に生息するエモーションシーコンコンブルですぞぉ~」
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・・・・
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エモーションシーコンコンブル。
これが、"unknown"の正式名称だった。ナマコの仲間ではあったがコルト下界の仲間ではなかった。
冥域。
また一つ分からない事が増えてしまった。
「冥域は魍魎域と神域の境界に存在する『域』の一つですぞぉ~。表の世界に存在する『界』とは接点はありません。気にするだけ無駄と言う事ですぞぉ~。はい」
へぇ~。
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【名前】エモーションシーコンコンブル
【特性】感受性が豊か
①褒められると喜び軟化する。
②侮辱されると怒り硬化する。
③痛みを与えられると哀しい。
④食事は楽しい。
⑤限界に達すると爆裂する。
爆裂後は臓器一つ一つが
エモーションシーコンコンブルになる
①体長は臓器のサイズしだい。
②別名分裂。
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ありがとうございました。