4-54 新迷宮⑩+1~夕食の間①~
父バイルの要望。
たぶんボンバーシーコンコンブルを解体できる様な
「切れる剣くれぇ!」
は、
「サンドラさんの聖剣ローランを回収したら考える」
と、言う事にした。
「絶対だぞぉっ!・・・おいおめぇ―等何やってだよぉ―。茶何か飲んでねぇでぇっ!気合入れて探せぇっ!聖剣ローラン様をいったい何だと思ってやがんだ。たっくよぉ―真面目にやれ真面目にっ!」
「「「・・・・・・」」」
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親父。お前がな!!!
何か言いたげなサラさんとサンドラさんの視線が痛い。取り合えず気付いていないふりで・・・。
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―――アシュランス王国・王都スカーレット
エルドラドブランシュ宮殿・夕食の間
R4075年09月15日(風)24:28―――
破裂したunknownたぶんボンバーシーコンコンブルは、名を持たざる歪みの森の迷宮に大きめの時空牢獄を展開し放置。unknownを拘束するのが目的では無い。間違って何かが近付かない為である。
メア下界のドラゴンでジャンガヴァード・パジャ・ギャヴォググは、地下0階に大きめの時空牢獄を展開し拘束。眷属神のエリウスが気合五百パーセントで粉骨砕身中である。
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夕食の間に設置された大きな円卓の俺の席に、たぶんボンバーシーコンコンブル"unknown"の内側から父バイルが持って来た魔獣の核に似た何かもう一つの"unknown"がハンカチーフごと置かれている。
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―――十ラフン程前
闇の時間の調査の前にエルドラドブランシュ宮殿に戻った俺達は各々汗を流した後、夕食の時間には少し早いが夕食の間に集まり談笑していた。
俺達と言っても、サラさんとサンドラさんと俺の三人である。
父バイルは母さんと二人の居住エリアにいるはずだ。・・・たぶん。
・・・・・・・
・・・・
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「サンドラ様。六つの現象については分かりました。・・・そうなるとどう考えても問題は無作為の転位移動ですね?」
「先程、弟子の一人から連絡鳩が届いたのですが、転位ネットワークの普及によって最近では魔力陣を利用した移動や輸送の事を転位と呼び転位移動転位輸送の名が定着しつつあるそうです。それと同時に軍や商人達の間では歪みの森の無作為の転位移動の事をランダムワープ現象と呼び分けて使う者が増えているそうなのです」
無作為だからランダムって事か。・・・ランダムワープ。魔力陣を用いた転位移動よりも歪みの森のランダムワープの方が何かカッコ良くない?
「ランダムワープですか。なるほど。そのランダムワープが調査の際に厄介ですよね?」
「そうですね。確かに非常に厄介な現象です。ですがそれは普通ならの話です」
「普通なら?・・・サンドラ様、現象には普通では無い物もあるのですか?」
「そう言う意味ではありません。少し言葉が足りなかったようですね。今回の調査にはロイク様がいます」
「あぁ~なるほど」
サラさん。そこで納得されると何か俺としては複雑な気持ちになるんですが・・・。
≪フワッ
≪パフッ
フォルティーナとアルさんが夕食の間に現れた。
「うっ!・・・な、なんだねこの臭いは、ろ、ロイク!」
フォルティーナは夕食の間に現れるや否や鼻を摘まみ俺を睨み付けた。
臭い?あっ!もしかして、
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サンユーベルを凌駕するフォルティーナの嗅覚が、核に似たunknownの強烈な生臭さを嗅ぎ分けてしまった様だ。
核に似たunknownが見えない外套のポケットに入ったままだと見えない外套をタブレットに収納出来なかった。どうせまた後で羽織るからと衣裳部屋に脱ぎっ放しにしたのが原因かぁっ!
≪クンクン
「間違い無いね。ロイクが臭いね」
え!?俺っ?温泉で汗を流したし毎日ちゃんと洗って、
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フォルティーナは般若顔負けの形相で俺を問い詰めた。
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「タブレットに収納出来ない物がどうしてロイクと一緒にフリーパスで移動出来るね。ありえないね。これはあたしへの嫌がらせだね」
「本当にunknownなんです。本体も中身も本当にunknownなんです。そ、そんなに疑うなら自分の眼で確認してくださいよ」
「分かったねそうするね。最初から隠さずにそうするのが普通だね。まったく信じられないね。夫婦の秘密にしては生臭過ぎるね」
「フォルティーナ様。それって水臭過ぎるの間違いですよ」
「う、五月蝿いね。アル。この臭いは生臭いね。生臭いであってるね」
衣装部屋から見えない外套を回収し、夕食の間に設置された大きな円卓の俺の席に、たぶんボンバーシーコンコンブル"unknown"の内側から父バイルが持って来た魔獣の核に似た何かもう一つの"unknown"をハンカチーフごと置いた。
―――現在
「臭過ぎるね。な、何だねこれは何で持って来たね」
名を持たざる歪みの森の迷宮内つまり外。外でも強烈だった臭いの元を、見えない外套のポケットから室内に取り出したらいったいどうなるか。容易に予想が付く。
そう。ただただ只管、生臭い。
「フォルティーナ。俺言いましたよね。"unknown"だって。で、これっていったい何なんですか?」
「知らないね」
「知らないって、ちゃんと神眼で視てくださいよ」
「・・・だからだね。あたしの眼でも"unknown"だね」
「えっ?」
「えってなんだね。アル、あたしが"unknown"だとおかしいかね」
「有り得ないなと思ったものですから」
「有り得ない?何がだね」
「私の眼ならいざ知らずフォルティーナ様の眼で"unknown"なのですよね。そうなりますと、創造神様のみがその"unknown"を知っている事になりませんか?」
「・・・そうなるかもしれないね」
「フォルティーナ様とアル様の眼でもこれが何なのか分からないのですか?」
サラさんは開放された窓の前に立ちハンカチーフを口と鼻に当てながら、核に似た何かの傍に立つ、フォルティーナとアルさんと俺に話掛けて来た。
サンドラさんは自分の席に腰掛け神茶を楽しみながら俺達の話を聞いていた。
「分かるか分からないかと聞かれたらだね。分からないと答えるしかないね。この魔獣の核に似た"unknown"は何かだね」
フォルティーナは、胸を張りドヤ顔をキメていた。
胸を張って堂々と言うタイミングじゃないと思う。だがあえて触れない。触らないでおく。
長くなる。
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「あら、ロイク。今日は夕食も早いのね」
「ロイク様、サラ様、サンドラ様。お帰りなさいませ。フォルティーナ様、アル様。今日もお疲れ様でした。皆さんお早いですね」
マルアスピーとパフさんが夕食の間にやって来た。
「あら?・・・今日のメインは発酵した魚類か何かなのかしら?」
「マルアスピー様どうかなされましたか?」
「この部屋が少しだけ生臭いと思っただけよ。パフちゃんは気にしなくてもいいわ」
「はい。マルアスピー様」
この臭いが少しだし生臭い?・・・しかもパフさんはこの臭いが気にならない?
「マルアスピー様もパフさんもこの臭いが気にならないのですか?」
サラさんは奇異の目をマルアスピーとパフさんに向けていた。
「サラはまだまだ修行が足りない様ですね。騒ぎ過ぎですよ」
「ですが、叔、サンドラ様」
「ここはまだまだましな方です。ここ以上に劣悪な環境などごまんとあります」
「サンドラもアスピーもパフもどうかしてるね。おかしいね。変だね」
「フォルティーナ様。マルアスピー様は変ではありませんよ。工房ロイスピーは発酵の研究も行っていますので、耐性があるだけです」
「気絶擦れ擦れギリギリのこれを、耐性があるないで納得出来る訳ないね」
「chefアランギー様のお話では、KANBE下界という異界に存在するKANBE下界で最も臭い魚類の缶詰より数倍も悪臭を放つ乳製品をマルアスピー様は扱っているそうです」
「あれかね・・・あぁ~あれは確かに凄いね。目に入ると失明する凶器レベルの缶詰だね」
「はっ?何ですかそれ。それ食べ物なんですよね?」
「当り前だね。それ以外で缶詰にする意味があると思うかね。全く。ロイク、君は少し物を考えてからだね。あっ!だね」
「「「「「「どうしたんですか?」」」」」」
マルアスピーとパフさんとアルさんとサラさんとサンドラさんと俺の声だ。
「KANBE下界の『高山の空気缶詰』『高原の空気缶詰』『新緑の森の空気缶詰』『渓流と滝の空気缶詰』は笑ったね。缶を開けても何も入ってないね。空気の缶詰だからだね。ハッハッハッハッハ。笑ったと言えばで思い出したね。その悪臭の缶詰の汁が少しだけ飛び散った空気を嗅いだ猛獣が突然白目を向いて気絶した映像は凄かったね。神界で一時期流行した投稿型バラエティー番組だったはずだね。ハッハッハッハッハ」
「おっ!何だおめぇ等んな臭ぇ―とこで楽しそうにしてよぉ―。俺も混ぜてくれぇっ!」
「あなた。その前に」
父バイルと母さんが夕食の間にやって来た。
「おっと、そうだったぁっ!忘れるとこだったぜぇっ!これなんだけどよぉ―」
ありがとうございました。