4-53 新迷宮⑩~中からunknownとunknownは海産物?~
「核の様に見えます」
サンドラさんの言う様に魔獣の核に見えなくもない。でも、核には属性が無いはず。
「核だぁ―?・・・・・・あぁ―、核に見えて来たぁっ!」
「バイル様、叔母様じゃなかったサンドラ様。核は単体で活性化しません。ですがそれは、水彩絵の具の様に色が混ざり合ってはいますが発色しています」
サラさんの言う様に核は活性化しない。属性が無い核は透明に近い空色。自然の力の循環の自然魔素の影響を受けないからだ。
「ぅん・・・これは核じゃねぇ―って事だなぁっ!」
父バイルは、サンドラさんとサラさんの意見に頷いては適当に肯定と否定を繰り返している。
親父。もういい、頼むから少し黙っててくれ。
群青色と黄緑色と赤紫色と灰茶色が水面で絶妙に混ざり合った様な妙に芸術性の高い不思議な色合いの核の形に似た何か。
神眼Ⅲを意識し確認したが当然unknownだった。
「何か見た事あんだよなぁ―。何だったっけかなぁ―。あぁ―――」
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・
・
結局、何も分らなかった。
神授スキル神気スキルはエラー。当然、タブレットに収納する事は出来ず。
「魔獣の核っぽいけど核じゃねぇ―で良いんじゃねぇ―」
父バイルの物凄く適当な一言で保留になった。
最近、こんな感じで先延ばし事項ばかりだ。短期で解決出来そうな事が余りに少ない。chefアランギー様は「おんやパトロン殿よ。国を動かすとはそういう事ですぞぉ~。長期中期短期どれも寝て起きて完了とそんな簡単に済むはずがありません。概ね長い期間時間を有するのですぞぉ~。はい」と、教えてくれたが、歩みの遅さに不安を覚えてならない。
「ロイクゥ―。これ、持っててくれぇっ!」
あれの中にあったと思われる物を渡そうとする父バイル。
「それを・・・か」
「これ以外ねぇ―でしょうがぁ―」
タブレットからハンカチーフを取り出し、生臭い核に似た何かを包み込む様に受け取った。そして、見えない外套のポケットに入れた。いつもなら即タブレット行になるのだが、収納出来ないのだから仕方が無い。
「結局、あれはナマコなのですか?」
「ボンバーしたからなぁっ!ボンバーシーコンコンブルで間違いねぇ―。あれはボンバーシーコンコンブル。ナマコだなぁっ!」
父バイルは、サラさんの質問に答えると、たぶんボンバーシーコンコンブルに歩み寄った。
次は何を仕出かす気だ?
「ロイク、牢獄解除だ解除ぉっ!」
「バイル殿。何か気付いた事でもあるのですか?」
「いやぁ―」
「ブチュブチュ言ってますし、余り近付かない方が良いと思いますが・・・」
「サラ姫さんよう。おめぇ―何も分かってねぇなぁっ!」
「やはり何かに気が付かれたのですね」
「はぁっ?だから、サンドラッチィ―。人の話は最後までちゃんと聞けってぇ―」
サラさんとサンドラさんが困ってるだろうが。
「で、親父。次は何する気なんだ?」
「おめぇ―もかよ。食えっか確かめるに決まってんでしょ―がぁ―。ったくぅ―」
「「「食べる?」」」
「ナマコっつぅったら海産物でしょ―。海産物っつぅったら海の食いもんって事でしょう―。食いもんは食えっから食いもんつぅ―訳だぁっ!はい、解除だ解除ぉ―」
・
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・
・
≪カッ キ――――――ン ゥォンゥォンゥォンゥォンブゥ―――――
父バイルは、愛用の少し長めの解体用ナイフで、たぶんボンバーシーコンコンブルを解体しようとしている。
これ以上、光の時間に調査を進めても意味が無いと判断した俺達は、父バイルを自由にし、タブレットから取り出した空飛ぶ絨毯に設置されたリビングルームセットで寛ぎながら、夕食後の闇の時間の調査について話合っていた。
≪カァ―――――ン
「この森の闇の時間に起こる幾つもの現象は前大の頃より研究されているのですが、研究開始から一万年程経った今も何も分かっていなのです」
一万年?
「森の中を無作為で転位移動する以外にも他に何かが起こるのですか?」
「現在確認されている現象は全部で六つです」
転位の他に五つ?
「六つもあるのですか!?・・・私、何度もこの森を通り抜けていますが、・・・そ、そうなのですね」
「軍人や商人。闇の時間に活動する機会の多い者にとっては知らなかったでは済まさぬ死活問題。見習いの頃に必ず学ぶ事の一つです。被害報告を読む限り被害者の多くは王都やロイ以外の商人とガイドを雇わずに森に入った観光客だと言う事も分かっています」
なるほどぉ~。
「軍にも籍を持ちながら知らずにいただなんて・・・」
「サラはパレスエリアの警備隊に所属していませんでしたか?」
「はい」
≪カッ キィ―――――ン
「所属先によっては知らなくてもおかしくありません。パレスエリアの警備隊はパレスエリア内を警備する為の部隊です。王都の東を守備する部隊とは違うのですから。放棄や怠惰怠慢には当たらないと思いますよ」
「そうかもしれませんが、叔母さ・・・サンドラ様は軍に所属していませんが詳しいですよね?」
「修行の道は険しいのです」
「しゅ、修行?・・・そ、そうなのですね」
「道とはそう言う物なのです」
あれ?何か話が変わってない?
「道・・・ですか」
「そうです。・・・私が剣聖を神授される前の事です。剣の修行の為、この名を持たざる森に入りました」
修行の話?・・・現象の話は?
「私が生まれる前のお話でしょうか?」
「二十年以上前の話ですがサラはもう生まれていたと思いますよ。そう言えばサラはもう直ぐ誕生日ですね」
「はい。二十七日で二十二歳になります」
ふっ!ちゃんと誕生日プレゼントは準備しますよぉ~。・・・って、修行の話は?現象の話は?
「二十二歳。・・・本当に凄いですね。その若さでソメポールサージュを神授されたサクレセリなのですよね。サラは」
「凄いだ何て、叔母様、叔母様の方が凄いと思います。御父様ですら継承出来なかった御爺様と同じ剣聖を神授されているのですよ。しかも今は剣聖の上位職【魔剣聖】ではありませんか」
「サラ違いますよ。兄上は剣聖を神授されていませんが剣聖と同じサンセリの聖騎士を神授されています」
「えっ?御父様は神授されたJOBだったのですか!?」
神授JOBの話になってるし・・・。
≪カッ キィ―――――ン
「まさかとは思いますが、旧教の教王庁や騎士修道会が与えていた役職や名誉としての聖騎士だと思っていたとは言いませんよね?」
「・・・神授の聖騎士だったのですね」
「サラ・・・。ハァ~、まっ確かにこの件は旧教が権威の為意図的に紛らわしい言葉を用いたと考える事も出来ます。ですので勘違いしていてもしょうがいないとは思うのですが」
旧教が出て来たぞ。
「旧教が意図的にですか?」
「そうですよ。大聖堂や王宮殿を守護する上位の騎士に与えられる称号を知っていますね」
「勿論ですわ。ゼルフォーラ王国では近衛騎士団の団長、副団長、各隊の隊長が上級騎士です。旧教は神聖騎士団に所属する名誉騎士と騎士、見習い騎士以外の騎士は全員上級騎士でした」
「その上級騎士に与えられる称号が」
「聖騎士ですよね?」
「その通りです。サラは、パラディンと言う言葉を聞いた事がありますよね?」
「はい。昔話や御伽噺に登場する聖域を守る全身甲冑の騎士の事ですよね」
「本の中の話。・・・今とはなってはそうなのかもしれませんが、パラディンは三百年前頃までゼルフォーラ王国にも存在する称号だったのですよ」
へぇ~。パラディン聞いた事ないや。
「宗教が国家を正しく導く為、創造神様の御意思に従い聖域や教会に身を捧げた騎士がパラディンですよね?」
「半分正解です。旧教の騎士に限らずゼルフォーラ王国の上級騎士は、一昔前まで聖騎士では無くパラディンと呼ばれていました。パラディンを今の言葉に訳すと『聖なる騎士』『神聖なる騎士』『修道の騎士』です」
「旧教が神聖騎士団の騎士達の箔付けの為に、パラディンを廃し神授JOBの【聖騎士】と同じ聖騎士を用いた事は何となく理解出来ますが、王国がパラディンを廃ししたのは何故でしょうか?」
闇の時間の現象の話はどうなったんだろうか・・・。盛り上がってるみたいだし・・・いったいどうしたものか。
「当時と今では、旧教と王国、王族、諸侯、臣民の関係が大きく異なります。時代と共に『政教分離』『法教分離』『経教分離』『協教分離』『魔教分離』分離政策が行われ善し悪しはありますが現在に至っています」
「はい」
え、えっと・・・何とか分離政策?・・・母さんや村長から聞いた事がない。これってもしかして学問って世界の話なんじゃ。
・・・・・・・
・・・・
・
「神授JOB【聖騎士】は【聖騎士】と呼ばれていたのですが、パラディンを聖騎士と呼称する様になった頃から、聖騎士とだけ呼ばれる様になったそうなのです」
「神授JOBの呼び方を旧教が変えた!?そ、その様な事が可能なのですか?」
マジか!?・・・神授の内容を変える何て事が本当に可能なのか?
≪カッ キィ―――――ン
う~ん。・・・・・・。
「現に神授JOB【聖騎士】と騎士の称号の聖騎士は、同じ聖騎士でわありませんか」
「そうですけど・・・旧教が神授すらも利用し人々を欺いていただなんて。叔母・・・サンドラ様はいったいどのようにしてこの事を?」
「剣の修行の道です」
「道・・・・・・ですか」
「そうです」
≪カッ カツ カッキィ―――――ン
そう言えば、JOBを視認すると、狩人の人も居れば、ハンターの人も居る。射手の人も居れば、アーチャーの人も居た。農家だったりファーマーだったり。
・・・もしかしてその人の認識次第でステータスの表示に違いがでる。言葉何て所詮後掛けだろし・・・旧教はそれを利用した?
≪カッ キィ―――――ン
寝る前に、JOBを合成して二つ名前を付けて、二つのグループに分けて付与実験してみるか。何日か放置してみて表示に違いがあるかどうか確かめてみるのも面白そうだ。
≪カキィ―――――ン キーンキーン
さっきから何なんだ親父の奴。うるさいなぁ~。
「サラさん、サンドラさん。親父の奴がうるさくて申し訳ないです」
「バイル様は金属の様な音を響かせているあれを本気で食べる気なのでしょうか?」
「だと思いますよ」
「サラ。バイル殿の事はロイク様に任せておけば大丈夫です」
えっ?・・・俺に任せる!?さ、サンドラさん、何、
「何、言ってるんですか。あんなの任されても困ります」
「何を・・・バイル殿はロイク様の父上殿ではありませんか」
「確かに父親です。ですが任されても困ります」
「ロイク様。・・・・・・良いですか。私とサラは剣の修行の道。道を極めるべく話をしています」
「えっ?私、そんなつもりでは。神授JOBの【剣聖】【魔剣聖】【聖騎士】には興味はありますが、・・・修行の道にはそこまで・・・」
「何を言っているのですか。剣の道に生きる者にとって修行の道とは伴侶も同然。一生をかけ添い遂げる対象なのですよ」
「は、はぁ~・・・」
≪カッ キィ―――――ン
「サンドラさん。任すとか任される以前にですね。俺としては聞いておきたい事があるんですが」
「例えロイク様といえども道について詳しく語る事は出来ません」
「道の事じゃないです」
「この道は剣に生きる者の・・・道の話ではないのですか?剣の道に興味が無いと?・・・・・・さ、サラ聞きましたか!ロイク様は今私達の生き方を存在の意義を否定しましたよ」
「あっ、そぉ―れっ」
≪カッ キィ―――――ン
「私も、賢者なので、・・・・・・剣の道には余り興味が・・・無いのですが」
「え?」
剣の話になると面倒臭い人になるよなサンドラさんは。
「俺が聞きたいのは、この森に起こる六つの現象の事です。さっきまでその話をしてましたよね?」
「叔、・・・・・・サンドラ様。私も六つの現象について教えていただきたいと思っておりました。け、剣の道については聖剣ローランを取り戻してから、後日お茶の時間にでも機会がありましたらにしませんか?」
「それでもそうですね。この様な場所で半日もかけてする様な話ではないですね」
剣の道の修行の話ってそんなに長い話になるのか。そっちの方に生きる同類だと思われてなくて良かった。
ホッ!
サラさんもまた、小さく息を吐き、胸をなでおろしている様だった。
≪カッ キィ―――――ン ピキ カッカッカッカッ カラ―――ン カランカランカラン
「あっちゃぁ―。折れちまったかぁ―」
・
・
・
六つの現象について話をしていると、
「なぁっ!ロイクゥ―」
父バイルが話し掛けて来た。
「剣くれぇっ!」
「はっ?」
「折れちまったから剣くれぇっ!」
「自分のがあるだろう自分のが」
「折れちまったらどぉ―すんだよぉっ!」
「はぁっ?」
「はぁ?じゃないでしょ―。はぁ?じゃ。確りしてくれよぉ―。良いか。俺の解体用のナイフが折れちまった訳よぉ―」
「で?」
「矢が切れちまった時用のショートソードがあるにはあんだけどよぉ―。解体用のナイフより安もんでなぁっ!」
「それで?」
「おめぇ―。・・・・・・頭大丈夫かっ!?」
・・・こっちの話の腰を折っておいて、この会話はいったい何のつもりだ。
「・・・あぁ~親父よりはな」
「そっかぁっ!ならいんだけどよぉ―。で、大丈夫なら剣くれっ!」
「ハァ↑~?」
・
・
・
神授スキル【マテリアルクリエイト】で、絶対に折れ無い刃こぼれし無い錆び無いナイフをスチールで創り父バイルに渡した。
父バイルは嬉しそうに、たぶんボンバーシーコンコンブルのもとへと戻り、食べる為の作業を再開した。
≪カッ キィ―――――ン ゥインゥインゥイン
・
・
・
サンドラさんから、名を持たざる歪みの森の迷宮の闇の時間に起こる六つの現象について話を聞いていると、
「なぁ―、ロイクゥッ!」
・・・はぁ~。
「次は、何かな?」
「切れねぇ―」
「で?」
「切れる剣くれっ!」
「はぁ~あ?」
ある訳無いだろう。そんな剣があるなら、さっき使ってた。
「はぁ―、じゃねぇ―でしょ―がぁ―」
「あぁ親父。それ、もう良いから。良いか良く聞いて良く理解するんだぞ」
「おう、任せとけぇっ!」
「そんな剣があったら、さっき使ってたって思わないか?」
「うん、それでぇ?」
「魔術や剣で攻撃したよな?」
「おうよ」
「効果無かったよな?」
「だなぁっ!何で使わねんだよぉ―」
「・・・何を?」
「おめぇ―頭」
「バイル殿。聖剣探しが終わったら、海に普通のナマコを採りに行きましょう」
「あ”ん?何言ってんのよぉ―。あれがあんだろうがぁっ!誰が態々海くんだりまで行ってんな好きでもねぇ―もん。めんどくせぇ―だけだろうがぁっ!」
「・・・バイル様はあれを食べるおつもりなのですよね?」
「ったりめぇでしょ―。何の為に解体してると思ってんだよぉっ!ただの趣味です。とかある訳ねだろうがぁっ!」
解体用ナイフを折っただけで、一ミリメートルも解体出来てないけどな。
「バイル殿」
「何だよサンドラッチ」
「あれ食べられるのでしょうか?」
「あ”ん?・・・いってぇ―何が言いてぇ―」
「魔術や金属を弾く様な物を咀嚼し消化出来るでしょうか?」
「う―――――ん。気合とかか?」
気合。って、無理に決まってるだろうが。
「バイル殿。普通に考えてください。魔術も金属も弾いてしまうナマコなのですよ。私達の歯やカトラリーでどうにかなると思いますか?」
「何言ってんだぁ―。腹ん中に入りゃ―同じだろうがたっくよぉ―。噛み切れねぇ―もんは飲み込んじまうしかねぇでしょうがぁ―」
・・・こ、こいつが本物だったのを忘れていた。
「飲み込む?・・・あれをですか?」
「バイル様でも流石にあれを飲み込むのは無理だと思いますけど・・・」
「何言ってんだよぉ―。あれくれぇ――――――――」
やっと理解してくれた様だ。理解してくれて何よりだ。
「分かってくれたようだな」
「あぁ―ああ。あのままじゃ無理だぁっ!切れる剣くれぇ!」
「「「・・・・・・」」」
ありがとうございました。