4-52 新迷宮⑨~unknown爆発~
≪ピキッ ババババッビュッ―――
へっ!?
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爆発した。
たぶんボンバーシーコンコンブルは爆発した。
≪バッフゥ――― ベチャッ ビチャッ ブフッ ビチャッ ブピュッ ブフォッ バフッ ゴボゴッポッ ゴボォ――― ビチャッ ビュチャッ!
グロい何かを周囲に撒き散らしとても地味に非常に汚らしく破裂した。
うわぁ~汚っ!・・・しっかし危なかったなぁ~。神気スキル【時空牢獄】が間に合わなかったら、あれの直撃を受けていた。
考えただけでゾッとする。グロくて汚いだけのあれには悪意が無い。悪意が無いあれは恵みの雨と同じ存在なのだから。
・・・悪臭がする訳ではないが何となく鼻を押さえたくなってきた。
「ロイク様。終わったのでしょうか?」
「分かりません」
「爆発しましたよね?」
「爆発しましたね」
「あれは、本当にナマコなのでしょうか?」
「分かりません」
「何が起こっているのでしょうか?」
「親父曰くたぶんボンバーシーコンコンブル。たぶんナマコが爆発しました」
「また爆発するでしょうか?」
「分かりません」
「盾の装備を解除しても大丈夫でしょうか?」
「だと思います」
時空牢獄が間に合って本当に良かったと思いながら、左隣りに立つサンドラさんと話をしていると、
盾?
盾と言う言葉が気になり、仕方なく視界の片隅に何となく気に掛ける程度の視界の淵に留め置いていた間違っても凝視し続けたくはないたぶんボンバーシーコンコンブルからサンドラさんへと視線を移す。
あの一瞬で盾を構え防御姿勢に!?
サンドラさんは、一瞬の出来事だったにも関わらず、ファルダガパオから盾を取り出し防御の姿勢をとっていた。表情を見る限りまだまだかなり余裕がありそうだ。
凄いな流石はゼルフォーラの二大剣聖。剣を持ったら無敵・・・ふむ・・・・・・あっ、今は魔剣聖だから・・・・・・ふ~む、盾ねぇ~。
もしかしたら神授の盾は違うのかもしれないと考え神眼Ⅲを意識する。
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ミスリル、八パーセント使用、良品。ゼルフォーラ王国ブオミル領侯都ロイ産の普通の盾だった。
・・・剣聖、魔剣聖は盾も凄い。と言う事にしておこう。
え?
見えないはずの外套が二度程後ろに引っ張られた。
「い、今の爆発はいったいなんだったのですか?」
引っ張ったのはサラさんだった。サラさんは、俺の背後に身を隠しあれを凌ごうとした様だ。
「地響きと発光と爆発破裂といった方が正確かもしれませんがそれがほぼ同時に起こりました。状況から見てあのたぶんナマコが爆発いえ破裂。・・・炸裂したとみて間違いないでしょう。・・・サラはどう思いますか。あれは本当にナマコだと思いますか?」
「ナマコに詳しい方では無いので・・・申し訳ありません。ロイク様はあれをどうお考えなのですか?」
「さっきも言いましたがあれがナマコなのかは分かりません。神眼でも何なのか分からないんですよ」
直接的な神気スキルは干渉制限規制でエラー。推測でしかないがあれはコルト下界、メア下界、精霊界の存在ではない可能性が高い。
そしてもう一つ。ナマコに詳しい人ってそんなにいないと思う。少なくとも俺の故郷の皆は名前すら知らない聞いた事も無い可能性が高い。
「転位や召喚もエラー。神眼で分析も出来ない。・・・爆発してしまいましたが、もしかしてあれはナマコの神様か亜神様」
「サラそれは無いと思いますよ」
「どうしてですか?」
「バイル殿が、神様や亜神様に触れられと思いますか?」
「あぁ~、ロイク様ならいざ知らずバイル様には無理ですね」
「「ロイク様。あれは本当にナマコなのでしょうか?」」
分からない。って、さっきから言ってるんだけどなぁ~。
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サラさんとサンドラさんの会話をBGMにし状況を整理する。
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整理していると、
≪チャプン ブクブク グゲェッ
たたぶんボンバーシーコンコンブルから溺れながら潰されもがき苦しむ蛙の様な鳴き声が聞こえて来た。
慌てて視線をたぶんナマコへと移す。
"unknown"
解析分析不可能認識不可能を意味するunknownの文字が視界内で点滅している。
へ?・・・おっと神眼Ⅲのままだった。
慌てて意識を散らし神眼Ⅲを解除する。unknownで正体不明な何ではあるが、内側から噴き出すグロい何かは残念な事に視力が強化されてしまい鮮明に見えてしまう。見える分に於いては視認の有無は関係無い仕様になっているらしい。
≪ブピュッ
「「「・・・・・・」」」
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≪ウップ!
≪バチャッバチャッバチャッ
「「ロイク様!!!」」
慌てて身構えるサラさんとサンドラさん。
「あぁ大丈夫ですよ。時空牢獄を解除しない限りこっちには飛んできません」
「時空牢獄で拘束していたのですか?」
「はい。サンドラさん」
「拘束していたんですか?」
「はい。サラさん」
「「それを早く言ってください!!!」」
えええ?
この状況ですよ。見て分かりますよね?
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「ところでバイル様はどちらに?」
キョロキョロと周囲を見回し父バイルを探すサンドラさん。
「バイル様でしたらあち・・・あらいませんね。どちらに行かれたのでしょう」
いない?また勝手に・・・。は、ありえないよな。あの一瞬で俺が見失う距離はないな。
サラさんが指し示したさっきまで父バイルが腰掛けていた付近を見ながら思考していると、
≪グゲェッ ダジゲデグデェ ウップ
たぶんボンバーシーコンコンブルから父バイルの声が聞こえて来た。
「「「あぁ―――――」」」
・・・。
サラさんもサンドラさんも気付いたに違いない。親父は、
「この声って・・・」
あれの中に、
「バイル殿ですよね」
落ちた。
「えぇ、親父の声です」
間違いない。
・・・・・・・
・・・・
・
≪バチャッ
・
≪ダジゲデェグデェ―
・・・。
「あっ、・・・えっと、ろ、ロイク様。は、早くあれの中から・・・」
「そ、そうでした。さ、サラの言う通りです。ロイク様、早くバイル殿をあれの中から・・・」
助けますよ。助け出したいとは思っているんですが、あれからどうやってってのが問題なんですよ・・・・・・ねぇ~。
≪ブチュッ ブチュッ
・・・。
二人に動く気配はない様だ。・・・あれだし気持ちは痛い程良く分かる。
あああぁぁぁ――――あっ!・・・ハァ~。・・・・・・・・・何よりあれの中にいるであろうあれはあれでもあんなのでも間違いではないらしい俺の父親だ。
あれに近付かず触れる事無く助け出す方法があるはずだ。
≪ガジゲ ウップ!
≪ブクブクブクブク バチャッ
・・・体力的に問題はたぶん無いだろう。まだ大丈夫そうだ。たぶん、たぶん。何か方法があるはずだ。
「何をされているのですか!?」
「そうですよロイク様。安全確保警戒は叔、サンドラ様と私に任せ、早くバイル様のところへ!」
安全確保警戒って何から?
視線を合わせようとしない二人。
ですよねぇ~。俺だって本当は本当は・・・・・・。
「ええ、そのつもりです。勿論、助けます・・・よ。ただ、一つだけ問題が」
「「・・・」」
・・・。
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「叔母様!何だか静かになった様な」
「そうですねサラ。・・・叔母様では無く、サンドラですよ」
こんな状況にあっても訂正ですか!
≪ダジゲデグデェ
≪バチャバチャバチャ
「「ロイク様!」」
・・・。
「「ロイク様!!」」
動く気の無い二人とたぶんボンバーシーコンコンブルを交互に見つめながら激しく思考する。
≪ドイグゥ― ウップ
≪バチャッ バチャッ バチャッ
・
≪ダデデボビィー デンビ デンビ
ダデデボビデンビデンビ。親父の奴、何か伝えようとしてるのか?・・・ダデデボビ。・・・・・・ダメだぜんぜん分からない。
≪ビチャッ!!!バチャバチャ
「バイル殿。・・・何と素晴らしい!」
「「え?」」
「分かりませんか?あの様な状況にありながら取り乱す事も無く冷静に指示を出しているのですよ。・・・日頃の行動を見ていると、つい忘れてしまいますが、彼は本物の英雄。トミーサスの英」
「英雄に違いありませんが・・・」
冷静なのか?
≪ダデデボビィーガダダジゲデェ―
≪ザバァー バチャ
・・・。
「私の聞き間違いでなければ、だででぼいいからだじげで。で、あっていますよね叔母様。ロイク様」
「英、英雄とて万能ではないのです。そうです。剣聖だった頃の私がそうであった様に英雄もまたもがき苦しむものなのです。己の限界を理解し他人に助けを求める強さも時として大切なのです」
もがき苦しむ。・・・間違ってはいないか。
≪ドイグゥ――― デンビ デンビ ジデグデェ
≪ビチャッ!!!バチャバチャ
「!?サラ、ロイク様。お静かに」
≪ビチャァ ビチャァ
「ふむふむ」
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≪バチャ ビチャッ!!! バチャ
「なるほど」
何だ?
「サンドラさんいったい?」
「叔母様?」
「転位です。ロイク様。転位です。それとサンドラです。いったい何度言えば分かるのですか」
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―――ゼルフォーラ王国・国王王国管理地
名を持たざる歪みの森の迷宮・unknownの前
R4075年09月15日(風)20:13―――
『ビチャッ バチャ バチャ 、 ビチャァ ビチャァ 、 バチャ ビチャッ バチャ』
サンドラさん曰く、父バイルはモルスコードで「転位移動を望む求む」と伝えていたそうだ。
色々と疑問である。
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「おいっ!静かにしろって何度も合図したよなぁっ!」
神授スキル【転位召喚・極】で、たぶんボンバーシーコンコンブルの中から召喚され俺達の目の前に呼び出され事なきを得た父バイル。
「何で、何で爆発したか分かっかぁっ!」
父バイルは、非常に生臭いまま、一人で騒いでいる。
「いいかぁっ!ボンバーシーコンコンブルはなぁ―。ちょっとした衝撃で自爆しちまうデリケートな食いもん何だよぉっ!分かったかぁっ!」
自爆する食べ物?・・・ちょっとした衝撃で自爆する食べ物だぁ~。
「あのぉ~バイル様」
「何だサラサラ」
「サラサラって・・・えっと、バイル様は知っていてボンバーシーコンコンブルを叩いていたのですか?」
「あん?ちげぇ―よぉっ!ボンバーシーコンコンブルか分かんねだろうぉ―」
「えっと、どういう意味でしょうか?」
「だからよぉ―。見ただけじゃ分かんねぇ―。見て分かんねぇ―もんは叩いてみるしかねぇ―でしょうがぁ―」
「バイル殿。ちょっとした衝撃で自爆するのですよね?」
「だなぁっ!その通りだサンドラッチッ!焦ったぜぇ―いっきなしだったからなぁっ!」
「バイル殿の大きな声に反応し自爆した様にしか見えなかったのですが、バイル殿はどの様にお考えなのでしょうか?」
「あっ、やっべっ!裂けた。ってなぁっ!ガッハッハッハッハ。落ちちまったって感じだなぁっ!」
どんな感じだよ。それ・・・。
「しっかし焦ったぜぇ―。フゥ―――」
額の汗を拭う様なジェスチャーを右手で大袈裟に繰り返す父バイル。
父バイルが右手を払う度、臭いの原因が周囲に飛散し、サラさんとサンドラさんは目を顰めていた。
「親父、さっきから気になってたんだけど、右手に持ってるそれ何だ?」
「あん?・・・って、なんだこれっ!?」
ありがとうございました。