4-50 新迷宮⑦~井戸端会議はunknownの前で~
父バイル曰くボンバーシーコンコンブルたぶんナマコの類には、当然のことながら父バイルの攻撃は通じなかった。
創造神様からほぼ神具とお墨付きをいただいた俺の剣名前はまだ無いを使ったサンドラさんの攻撃も通じなかった。
「良いなぁ―。その剣俺にもくれぇっ!」
「親父・・・反省してないだろう?」
「あっ?意味分かんねぇ―事言うなよぉ―。何処の世界に息子から剣貰うっつぅ―時に反省しながら貰う親がいんだよぉっ!生んでくれてありがとうぉ―。うん・・・俺が産んだ訳じゃねぇ―が。いつも美味しいごはんありがとうぉ―。あぁ―・・・俺が作った訳じぇねぇ―か。育ててくれてありがとうぉ―――。これだよこれぇっ!感謝してんならくれぇっ!」
・・・ここまでくると最早質の悪い集りかなにかだな。
父バイルは、上目遣いで俺を窺っている。その姿は非常に気持ちが悪い。
「ちっ!・・・わぁ―ったよ。剣はいらねぇ―からその代わり体力を回復させる魔術でも魔法でも神法で良い。何かくれぇっ!」
上から要求出来る立場だと判断した理由を教えてくれ。何をどう考えたらそこに行き着けるのか教えてくれ。
俺の反応が薄いのを感じ取ったからだろうか。
「サラ姫さん!サンドラッチ!...... ......この薄情もんがぁっ!」
次は同情プラス非難作戦かよ。切替早過ぎるだろう。
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父バイルの作戦はかなり早い段階で徒労に終わった。
何故なら、
「バイル様。四大属性と聖属性、光属性、闇属性、無属性には回復の方法がありますが、邪属性には無いと言われているのは御存じですよね?」
「何だそれっ!?」
初めて聞いたみたいに驚くなよ。前に属性と性質について皆で勉強しただろうが・・・。講師役を務めてっくれたマリレナさんとマクドナルド卿が泣くぞ。と言うか怒るぞ。
「「え?・・・」」
「えって、何だよぉっ!」
サラさんとサンドラさんの反応が普通だと思う。親父確りしてくれ。・・・頼むからさ。
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「だから、邪属性に特化した親父は、邪獣様と同じ性質を持っていて支援特化型の聖属性で回復魔術や魔法を施されると逆にダメージを受けるんだよ」
「な、何でだよぉっ!・・・それじゃ俺はっ、これからどうすりゃいんだよぉ―。慌てて回復したら死にましたって冗談じゃねぞぉっ!」
どうするも何も、二ヶ月も前から今の状況だろうに、今更何を言ってるんだか。・・・聖属性の回復魔法で実験かぁ~。
父バイルを視界に捉え暫し善からぬ事を思考する。
流石に邪獣様達や親父で試す訳にはいかないか。ヒュームに近い反応を示す生き物っていないかな?う~ん・・・。
「ですから先程も説明しました通り、バイル殿は四大属性全ての心得と魔術と耐性と特化を所持しています」
「おう。任せとけぇっ!全部上限オールテンだ」
風属性の心得と風属性魔術の修練度が上限の親父は、草花を微かに揺らす事が出来た。
火属性の心得と火属性魔術の修練度が上限の親父は、蝋燭に火を付ける事が出来た。
邪属性特化型へと進化を遂げた結果、所持する運びと成った水属性の心得と水属性魔術の修練度が上限の親父は、掌を僅かにべた付かせる事が出来た。汗ばんでいただけではないと思う。
邪属性特化型へと進化を遂げた結果、所持する運びと成った地属性の心得と地属性魔術の修練度が上限の親父は、地面の砂を一ミリメートル以下の範囲で動かす事が出来た。
ハッキリ言って、これは修練度1の初心者の方が遥かにましな状況だ。オールテンねぇ~。
「所持する心得と耐性の修練度にもよりますが、同じ属性による回復魔術の行使は効果が大きくなります」
「へぇ―――」
「バイル様。攻撃と回復の相関関係も先日勉強したはずなのですが・・・」
「おう。任せとけぇっ!」
父バイルは、白い歯を見せながら、右手の親指を立てている。
・・・親父。サムズアップはマルアスピー村の猟師漁師仲間達にしか通じない合図じゃなかったのか?外で使うと誤解され喧嘩になる時があるとか言ってなかったか?
サラさんの表情を確認する。
どうやら前者だ。サラさんにはサムズアップの意味が通じていないみたいだ。
若干引いて見えるのは、勉強したはずの事を全く一切合切覚えていない父バイルが見せる爽やかで清々しい微笑み親指付きが怪し過ぎるからだろう。
「・・・・・・」
サラさんと目が合った。溜息を漏らした様な。・・・気のせい?
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「それでかぁっ!」
「急にどうかしましたか?」
突然大きな声を上げた父バイルにサンドラさんが話し掛けた。
「最近気付いちまった事があんだよ。さっきの話でピンと来ちまったぜぇ―」
ん?最近気付いたのか?それとも今さっき気が付いたのか?矛盾してるんですが・・・。
「最近の回復水は効き目が悪いっ!安くなったからって駄目でしょうがぁ―。そこ頑張ねぇ―でどこ頑張んのよぉ―。ハッ、ふざけやがって」
いったい何が言いたい。
「回復水の効き目がですか」
「そうだ。回復水の効き目だ」
「創生教会と薬のギルドの独占が禁止になっただろう」
「邪教の資金源になっていたので当然の結果かと」
「問題はそこじゃねんだよぉっ!安くなったのは良い大いに歓迎だぁっ!だがしかしだぁ―。どんなに安くなってもやっちゃいけねぇ―事がある。それはぁっ!」
「やってはいけない事ですか」
「そうだ。何処のどいつだふざけやがってって思ってたんだよ。五本か六本飲まねぇ―と前みてぇ―に回復しねんだよ」
「えっ?・・・回復水を一度に五本も飲むのですか?」
「・・・サンドラッチおめぇ―人の話聞いてたのか?」
サンドラさんの動きが止まる。
それ、親父にだけは言われたくないと思うぞ。
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「叔母・・・じゃなかった。サンドラ様。回復水の回復が微妙になってると言うのはどうい事なのでしょうか?」
サラさんは、ポケット型のファルダガパオから回復水HP用Eを取り出した。
「おっ!さっすがサラ姫様は違うぜぇ―、たっけぇ―の持ってんのな。それD・・・Mかぁっ!」
「これ、ロイスピーの『そよかぜプラス0』ですよ」
親父も俺も間違っていた様だ。色的にはEであってると思ったんだが、どうやら工房ロイスピーの魔力水ゼロシリーズの様だ。
「あん?」
「そよかぜプラス0です」
「・・・だからよ、その、そよかぜプラスゼロって何だって聞いてんの」
「もしかして本当に知らないのですか?工房ロイスピーの柑橘系の果実水で工房ロイスピーのお菓子ととっても合うんですよ」
「で?・・・サラ姫さんよぉ―。言っちゃぁ―何だがぁ―今俺達って体力の回復の話してんのなぁ―。お分かり?」
「えぇ。ですからその話をしています」
「はぁっ?」
親父、その顔あからさま過ぎるだろう。残念なのはサラさんじゃなくて親父の方だからな。
「そよかぜプラス0は、あくまでも商品名です。発売前のコードネームは風の魔力水ノーマル」
「おい!今、魔力水って言ったよな。それって普通に売って良いのかよぉっ!」
「これはあくまでも飲料水です。連合国家フィリー加盟国では食品衛生管理局が抜き打ちで検査する事はあるかもしれませんが、回復水シリーズの様に検閲対象ではありません。ですから、売買の規制はありません」
「それって・・・ずるくね。反則だろ反則っ!汚ねぇぞ畜生ぉ―」
「私に言われましても困るのですが」
「へぇ―――」
へぇ―――、じゃないだろう。へぇ―――、じゃ。説明してくれてるサラさんに失礼だろうが。
「サラ。プラスゼロシリーズは一律三千とマルアスピー様からお聞きしたのですが、そよかぜの効果もやはり三千を超えて来るのですか?」
サンドラさんが再び動き出した。どうやら大丈夫みたいだ。
「まだ四回しか試していませんが、三千二百から三千三百ってところでした」
「こもれびとほぼ同じ効果の様ですね」
「おい。さっきからいったい何の話してんだよぉっ!」
「「HPの回復量の話です」」
「HP回復だぁ―?・・・・・・ま、じかよ。それ体力が三千も回復すんのぉ―――?」
「「はい。本当に知らなかったのですね」」
「だな。任せとけぇっ!」
父バイルは、白い歯を見せながら、本日二度目のサムズアップをきめていた。
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たぶんナマコそっちのけで、工房ロイスピーの魔力水の話に花を咲かせる三人を、大きな石に腰掛けながら俺は眺めている。
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もう三十ラフンは経っただろう。まだ続くのだろうか?
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「はい。飲む時は必ずMRにステータスを表示させてからにしているので、回復量の数値はMRが記憶しています」
「まじか・・・・・・よ、よ、世の中・・・前からずっと思ってたんだよ。おかし過ぎんだろぉ―。世の中不公平だぁっ!・・・決めたぁっ!!!よしロイクっ!俺のセンススキルに地属性と水属性と火属性と風属性の回復魔術を張り付けてくれっ!」
どうしてそうなった。
うっかり親父を凝視してしまう。
「・・・サラさんの話聞いてたよな?」
「あぁ。大丈夫だ。俺は四大属性の心得も四大属性魔術も上限に達している。つまりだ下地は万全って事だなぁっ!要するにたぶん大丈夫って事だ」
「バイル殿。大変言い難いのですが、邪属性に特化したバイル殿には、例え回復の魔術が使える様になったとしても生半可な適性やレベルでは効果はほとんど期待出来ないかと、あの魔術ですし・・・」
あの魔術ですからねぇ~。
サラさんと目が合い頷き合う。
「あん?・・・まじでか。・・・・・・あっ!」
どうやら心当たりは有ってくれた様だ。何よりだ。
ありがとうございました。