4-41 新迷宮③~悪気を持ったドラゴン~
三人で話し合った結果、指令⑧のサブクエスト、モーヴェドラゴンの討伐を先に行う事にした。
神授スキル【タブレット】で、モーヴェドラゴンを検索すると、モーヴェドラゴンは、名を持たざる歪みの森の迷宮の北側の森の北東部。東モルングレー山脈と大樹の森との境界近くにいた。
俺達は、サンドラさんの提案を採用し、俺の神授スキル【フリーパス】でモーヴェドラゴンの風下一キロメートルの地点へと移動した。
勿論、父バイルも一緒だ。
移動した先は、汽樹林と呼ばれる大樹の森と普通の森の中間の生態系を持つ、大樹の森の侵食を受け少しずつ大樹の森化している場所だった。
大樹の森の深さには及ばないが、汽樹林もそれなりに深い。
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父バイルは、周囲の樹木より一回り大きな樹木の太い枝の上から周囲を見渡している。
「なんつぅ―か慣れ親しんだ感じがして良いなぁっ!」
本物と煙は・・・・・・。やっぱり上ったか。良い位置に良い具合で生えてるから。だと思ったよ。
サラさんとサンドラさんと俺は歩みを止め、大きな樹木の太い枝の上に立つ父バイルを見上げていた。
「木ばっかで、何もねぇ―森だなぁっ!」
慣れ親しんだ感じがして良いんじゃなかったのか?それに木ばかりで当然だろうが。ハァ~・・・。
心の中で溜息を漏らしながら、右隣に立つサラさんへと視線を動かす。
俺と目が合った瞬間小さく頷き視線だけを父バイルに動かすサラさん。
何となく気になり、左隣に立つサンドラさんの様子も確認する。
サンドラさんも俺と目が合った瞬間小さく頷き視線だけを父バイルへ向けた。
う~む。本物を、あれをどうにかしろと目配せされても俺にいったい何が出来ると?
「つまんねぇ―森だなまったくよぉ―。迷宮になったんじゃねぇ―のかよぉっ!何立ち止まっんだよぉっ!サッサと行くぞぉっ!」
斥候が木の上に居るからに決まってるだろう。
「親父。そこから下りる前に一応確認するけど、モーヴェドラゴンは見えたのか?」
「木ばっかで見える訳ねぇ―だろうがぁっ!」
だと思ったよ。
父バイルの神授スキル【遠望・改】とスキル【邪・遠望】は、重ね掛けが可能なとても優れたスキルだ。たが、見晴らしの悪い場所での探索や偵察には向いていない。
では何故、斥候を任せたのか。
それは、モーヴェドラゴンの討伐に妙に乗り気で妙にハイテンションな父バイルに押し切られ仕方なくである。
「あぁ―でも安心していいぞぉっ!この辺りにはぁ―獣一匹いねぇ―みてぇ―だからよぉっ!・・・勘だけどなっ!」
・・・勘かよ。
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八十メートル北へ進むと大樹の森。
三百メートル南へ進むと普通の森。更に南へ七百メートル進むとモーヴェドラゴンがいる場所。
父バイルを先頭に俺達四人は南下を開始した。
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討伐に妙に乗り気でハイテンションな父バイル。
邪魔をしないでくれるならそれだけで有難いのに、今は自ら進んで先頭を歩いてる。
「いたぞっ!姿を隠せっ!」
父バイルは姿勢を低くしたまま立ち止まり、後方の俺達に小さな声で指示を出した。
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神眼Ⅲを意識する。
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≪ステータス≫
【名前】Σ▼♂И⊆λ∀
【レベル】343
【種族】モーヴェドラゴン
【年齢】1493
【身分】竜魔帝国軍師団長
≪ステータス値≫
【HP】 49018653
【MP】 11677751
【STR】 122 ×1千
【DEX】 87 ×1千
【VIT】 181 ×1千
【AGI】 100 ×1千
【INT】 9411
【WIS】 4003
【MND】 90 ×1千
【LUK】 671
【悪気】 33
※基本:千単位以下切り上げ※
≪スキル≫
ブレス of ダーティ
※汚穢属性の息を吐く※
ブレス of イービルファイア
※邪炎属性の息を吐く※
ブレス of ヒーリング
※【HP】が回復する※
ローア of ブロークンハート
※ショック状態にする※
アサルト of ドラゴン
※奇襲攻撃※
噛み付き
※鋭い牙で攻撃※
薙ぎ払い
※太い尻尾で攻撃※
体当たり
※全身で攻撃※
飛行
※空を飛んで移動※
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悪気が33だと・・・。悪気はメア下界、魔界の存在が持つ力のはず。どういう事だ?......
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......闇の迷宮は691個存在し、メア下界と繋がってる迷宮は三つ。ここ名を持たざる歪みの森の迷宮は闇の時間に闇の迷宮と繋がるらしいから。......
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......偶然繋がった闇の迷宮からこの迷宮に迷い込んだのか?
「おいロイクっ!黙ってねぇ―で状況を説明しろっつぅ―の。おいっ!聞いてんのかっロイク!」
「「ロイク様!」」
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三人にモーヴェドラゴンの状態を説明した。
悪気の件を説明すると、サラさんとサンドラさんの二人は直ぐに三つの闇の迷宮に気が付いた。
それは、この迷宮が闇の時間に闇の迷宮691個と繋がるという事実。
それは、聖剣ローラン探索への期待。
悪気を持つモーヴェドラゴンの存在が、サンドラさんを鼓舞激励し、サラさんと俺に早期解決の希望を与えてくれた。
読めない名前に関しては、
「名前を知った所でやる事は同じです」
と、サンドラさん。
「ドラゴンのなめぇ―だろうぉ―。興味ねぇなっ!」
と、父バイル。
「ドラゴンにも人の様に名前があるのですね」
と、サラさん。
特に重要ではない様で、三人から一言ずつ貰い終わった。
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「サラ姫さんとサンドラッチはここなぁっ!でもって、ロイクはぁ―ここ」
父バイルは、木の棒の先端でモーヴェドラゴンを指し示す。
「おい。それだと対峙どころか、重なってるんだが」
「あのなぁ―。上だよ上。おめぇ―は浮けんだからよぉ―。ドラゴンが逃げねぇ―様に見張るのぉ―。お分かり―?」
「あのぉ~バイル様。この作戦ですと私はここで待機と言う事なのでしょうか?」
「あのなぁ―。サラ姫さんは回復屋だろぉ―。ここにいんのそんなに嫌かぁっ!」
「嫌とかそう言う話ではありません。討伐に来たのに私だけここで待機と言うのは・・・・・・私も参加したいです」
「んじゃサラ姫さんはここなぁっ!」
「あ、ありがとうございます」
父バイルは、作戦をアッサリ変更した。
「バイル様。確認したい事があります」
「おうよっ、サンドラッチ」
「変更後のこの配置は、私にタンカーをやれと言う事でしょうか?」
「あのなぁ―。サンドラッチ。たかだかドラゴン一匹にタンカーだぁっ?もっと気楽に行こうぜぇ―っ!」
「ですがこの配置では・・・」
「細けぇ―こたぁ―気にするなってぇっ!」
「予備の剣で、ドラゴン種を相手に何処までやれるか分かりません。こんな状況で、後方のサラを気に掛けながらは厳しいと判断します」
「叔母・・・サンドラ様。私のレベルは四百七十九です。あそこにいるモーヴェドラゴンよりもレベルは上です。気に掛けていただく必要は無いと思います。寧ろ後方よりフル支援致しますので存分に剣を振るってください」
「四百七十九?個体レベルが四百七十九?」
「はい」
「因みになんだがぁ―。俺は百八プラスだぁっ!」
「「「プラス?」」」
「おうよっ!任せとけぇ―」
レベルにプラスって・・・。
神眼Ⅲを意識し父バイルのステータスを確認する。
レベルにプラスって書いてるよ・・・。
「本当に百八プラスみたいです」
「「聞いた事がありません」」
「おうっ!任せとけぇっ!」
「説明によると、誤差九十二らしいです。個体レベルは百八ですが、百九から二百が本当の個体レベルになるらしいです」
「「意味が分かりませんね」」
「うん!!!任せとけぇっ!」
「レベルから見て、親父は側面或いは後方からの長距離狙撃が無難だな。たぶんだけど一撃でも攻撃を喰らったら折角ロイーナになったのにニーナに会う前にサヨナラする事になるぞ」
「何でだよっ!」
「親父は【HP】が約三千。【VIT】が約三千五百。【MND】が約二千七百。【四大属性耐性】がレベル10。【邪属性耐性】がレベル10だろう」
「おう」
「でもって、あっちは【STR】が十二万二千だ。どう思う?」
「当たらなきゃ良んだろうぉ―、簡単じゃねぇ―かよぉっ!」
「親父の【AGI】は九千九百九十九。で、あっちは【AGI】が十万。避けられると思うか?」
「良し分かったぁっ!攻撃はタンカーのサンドラッチに任せる事にするぅっ!頼んだぞ」
「個体レベル九十九。【HP】約五千六百。【VIT】約七千。【AGI】約千の私では盾を装備し臨んだところで一枚の紙切れ。タンカーとして役に立つとは思えないのですが」
「あのぉ~ロイク様。討伐が目的なのですからロイク様が倒してしまって良いと思うのですが」
「んじゃ任せたっ!」
「わ、私は感動で胸がいっぱいです。まさかロイク様の戦いをこんなにも早く見られるなんて。有難うございます。有難うございます。宜しくお願いします」
それもそっか、俺への指令な訳だし俺がやちゃって良いのか。討伐なんだよな。拘束じゃダメなのかな?
試してみよう。
「分かりました。取り合えず拘束しちゃいます」
神気スキル【時空牢獄】≫
「拘束しました」
ありがとうございました。